人間の精神生活は、もっとも深いところでは「愛」
と「正義」、という二つの原理によって規定されて
いると言えよう。そしてこの二つの原理の要求を同
時にみたすことがわれわれにとってつねに可能であ
るとは限らない。むしろこの願いの実現はほとんど
人間の力を超えたことではないか、というのが凡人
の実感だろう。
ひとはみな社会的「規範」に従いつつ、それぞれ
の個性と力量に応じた「価値」の実現を目指して生
きる。またそれ以外に生きようのない存在である。
規範 正義 律法的人格..
規範意識の体系化によって
測られる各人の道徳的な成熟。
価値 愛 価値的人格..
愛という最高の精神活動に
よって高められる人間の価値。
しかも規範への服従と、個性的な価値の実現とは、
幸福な予定調和の関係にあるとは限らない。むしろ
そのあいだの緊張と葛藤を意識し、観察する機会が
多いのではなかろうか。
黒田亘「行為と規範」より
中村三郎
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