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<DNA,タンパク質,ATP,生殖,ウイルス>


Update 2024.04.28
次へ前へTOP 13.DNARNA DNA・RNA、DNAの複製、セントラルドグマ

TOPDNA・RNATOP
DNA:遺伝情報は、DNAの塩基配列の中に保存されている
RNA:遺伝情報から、RNAを介してタンパク質が作られる
DNA又はRNA(核酸)塩基五炭糖役割
DNAは丈夫で壊れにくいA,T,G,C二本鎖デオキシリボース(C+H)遺伝情報を長期間保存
するために使われる
RNAはもろく壊れやすいA,U,G,C一本鎖リボース(C+OH)遺伝情報を一時的に利用
するために使われる
リボースは炭素数5の単糖類で、このような糖類のことを、五炭糖といいます
「デ」は取り去ること、「オキシ」は酸素のこと、「デオキシ」で酸素を取り去るという意味です
リボース:化学式C5H10O5、デオキシリボース:化学式C5H10O4
ヌクレオチド=リン酸+五炭糖+塩基
ヌクレオシド=五炭糖+塩基
塩基:プリン塩基   … アデニン(A)、グアニン(G)
   ピリミジン塩基 … チミン(T)、シトシン(C)、ウラシル(U)
ヌクレオチドの略称(例:ATP)
   (d)+A,T,G,C,U  +MP,DP,TP
      ヌクレオシドの名称+リン酸の数  
   デオキシリボヌクレオシドの場合はdを前置 

   ──┬─┬─┬─┬──ヌクレオチド鎖
DNA  C A G T        ┐ 
     ||| || ||| || ├→水素結合 ├→相補的結合
     G T C A        ┘
   ──┴─┴─┴─┴──ヌクレオチド鎖

2本のヌクレオチド鎖は、塩基同士で結合しており、塩基は結合できる相手が決まっています
AとT、GとCが対になって必ず結合します(これを、相補的結合といいます)
塩基同士は水素結合を形成しています
AとTの結合と、GとCの結合は、形成する水素結合の数が異なります
AとTは2か所で、GとCは3か所で水素結合を形成します

DNAは全ての遺伝情報、全てのタンパク質の設計図が書いてある、とても長くて大きな物質です
なので、コンパクトに折りたたまれて細胞核の中に収納されています
あるタンパク質を合成するときには、そのために必要な遺伝子DNA配列だけをコピーしたRNAが、
核の外へ持ち出されます(RNAはDNAの部分コピー) … DNAもRNAも核酸という物質

DNAは、細胞分裂時以外(間期)には糸状の状態で細胞核内に分散していますが、
一定の周期で起こる細胞分裂時(分裂期)に棒状の構造へと変化して「染色体」の形になります
ヒトの細胞一つに含まれているDNAの長さは約2m、これが46本の染色体に分かれています
DNAの長い二重らせんがどのように折り畳まれて染色体になるのかはまだ明らかでない

エピゲノム(ゲノムの後天的修飾)による遺伝子制御
役割が違う細胞ができる仕組み
全ての細胞のDNA配列は同じ→ 働く遺伝子の組み合わせにより異なる役割の細胞になる

     遺伝子 A B C D E      
       D ON OFF ON OFF ON → 神経細胞に
       N OFF ON ON ON OFF → 血液細胞に
       A OFF OFF OFF ON OFF → 筋肉細胞に

遺伝子が発現するONの状態と、発現が抑制されるOFFの状態があります
DNAやヒストンタンパク質に分子△が付いたり離れたりして遺伝子のスイッチが切り替わる

            ON   OFF   ON   OFF 
          △   △   △   △   △
            ▼  △△△  ▼  △△△ 
     ヒストン ○ ↓ ○○○○○ ↓ ○○○○○
     DNA   ̄~~~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           ゆるむ     ゆるむ     
     ON :活性 DNAの巻き付きが緩み、遺伝子を働かせる転写装置▼がくっつく
     OFF:抑制 DNAがヒストン○にきつく巻き付いて、転写装置がくっつけず遺伝子は働けない

ゲノム :遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉で、
     DNAのすべての遺伝情報のことです
遺伝子 :DNA上の「一つのタンパク質の設計図」に相当する部分を「遺伝子」とよんでいます
     DNA=……遺伝子遺伝子間領域遺伝子遺伝子間領域……
     ヒトの場合、約30億塩基対からなるDNAに約2万~3万種類の遺伝子がコードされています
遺伝情報:タンパク質の設計図発現制御の情報
     遺伝子は遺伝情報の担体(遺伝因子)のひとつです
タンパク質の設計図:生物は、タンパク質の他に、炭水化物、脂肪など、たくさんの物質からできて
     いますが、これらの物質は、素材からタンパク質(酵素)によって合成されるので、本質的には、
     炭水化物、脂肪などの合成に係わるタンパク質をつくる設計図があればよいこととなります
発現制御の情報:どのタンパク質を、いつ、どこで、どれだけ作るかという情報
タンパク質:私たちのカラダを構成している、10万種類にも及ぶタンパク質は、わずか20種類のアミノ酸
     のさまざまな組み合わせでつくられています
     タンパク質とは、アミノ酸がペプチド結合によって、ひも状に連なったものが、それぞれの
     タンパク質に特有の立体構造に折り畳まれたものです
     タンパク質が、特定の立体構造に折り畳まれることをタンパク質のフォールディングといいます
アミノ酸:エネルギー産生栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)のひとつであるタンパク質を構成する、
     20種類の有機化合物のことで、ひとつでも欠けるとタンパク質を合成することができません
     20種類のアミノ酸のうち、人や動物が体内で作ることのできない9種類を必須アミノ酸、
     体内で糖質や脂質から作り出すことのできる11種類を非必須アミノ酸と呼んでいます
ペプチド結合
     アミノ酸のカルボキシル基-COOHと別のアミノ酸のアミノ基NH2(-NHH)が反応して結合し
     (-CONH-)、同時に1分子の水H2O(HHO)がとれます(脱水縮合,C-N共有結合)
     タンパク質はこのペプチド結合によりアミノ酸が何百個もつながったものです

DNAは二本鎖を形成して化学的に安定
RNAは複雑な形状を持ち化学的に不安定
     RNAは一般に一本鎖であるのでDNAよりも不安定な物質です
     tRNAは三つ葉のクローバ形と呼ばれる二次構造をとり、
     さらに折り畳まれて逆さL字形(Г)の三次構造をとっています
       CCA末端          
        ||   ┌―CCA末端  
       ○ ○  |      
        ○   |アンチコドン
      アンチコドン        
      CCA末端:アミノ酸を結合する部分
      アンチコドン:コドンを認識する

TOPDNAの複製TOP
DNAは「半保存的複製」とよばれる方法で複製します
DNAの複製で新しく作られた二本鎖DNAのうちの片方は、複製前のDNAがそのままの状態で
「保存」されており、もう片方の鎖だけが新しいものなので、「半保存的複製」と呼ばれます

DNAの複製はいつもおこっているわけではない
細胞が分裂をしてその数を増やしていく時でも無秩序に増えていくのではなく、
そのタイミングは厳密に制御されている
DNAの複製がおこる時期をS期といい、
実際に染色体が現れて有糸分裂(紡錘体によって染色体分配)がおこる時期をM期という
M期とS期の間にあるギャップ期間をG1期、S期とM期の間をG2期という
細胞が数を増やしていく時にくり返す、このような周期を、細胞周期という
M期以外の、G1、S、G2を「間期」と呼ぶことがある

細胞周期: (6~8時間)       (3~4時間)  
      S期(DNA複製期)──→G2期(分裂準備期)
          ↑           │    
          │  24時間周期    │    
          │           ↓    
  分化←G1期(DNA複製準備期)←─M期(分裂期)  
 細胞死← (6~12時間)       (1時間)    
          ↓
     G0期(静止期)細胞周期の外へ

     肝臓の細胞などはG0期でも、必要があると細胞周期に戻ることができる
     神経細胞のように細胞周期に戻れない細胞もある
     分裂した細胞は、さらに分化(器官形成)して、生体に必要な機能を担う
     分裂した細胞に不具合が生じた場合は、アポトーシス(制御された細胞死)を起こして消滅する

細胞の分化
   なぜ一つの受精卵から、270種類もの異なる細胞が生まれるのでしょう
   実は細胞が増殖して人体を作っていくためには、分裂を繰り返すだけでなく、
   それぞれが機能を持つように変化しなければなりません
   これを「分化」と言います
   「分化」によって様々な種類の細胞がつくられ、それぞれが大切な役割を果たしているのです
   どの細胞がどの細胞に「分化」するか、それらは複雑なメカニズムにより制御されています

細胞の代謝
   また、細胞にも寿命があります
   たとえば、胃腸の表面を覆う消化管上皮細胞は24時間で死んでしまいます
   死んでしまった分の細胞は、また新たに分裂して生まれた細胞によって補われます
   このように、死んでしまった細胞と新しく生まれた細胞が入れ替わっていくことを「代謝」と言います
   「代謝」によって、体全体としての健康が維持されているのです

DNA上の複製がおこる時期をS期といいヒトのゲノムDNAは長い
短いS期で、全体をどうやって複製するのか? ⇒ 複製開始点がたくさんある
このような複製単位をレプリコンと呼ぶ

     複製開始点  複製開始点  複製開始点  
       ▼      ▼      ▼    
   ___/ ̄\____/ ̄\____/ ̄\___
      ←─→    ←─→    ←─→   
    ̄ ̄ ̄\_/ ̄ ̄ ̄ ̄\_/ ̄ ̄ ̄ ̄\_/ ̄ ̄ ̄
    └─────┘└─────┘└─────┘ 
     レプリコン  レプリコン  レプリコン  

複製がおこるときは、この複数の複製開始点から両方向に向かって複製がおこる
DNAがほどける部分を「複製フォーク」といいます
複製フォークの移動と同一方向に重合が進むDNA鎖をリーディング鎖(先行鎖)と言います
複製フォークの移動と逆方向に重合が進むDNA鎖をラギング鎖(遅延鎖)と言います

                     ←複製開始点→                      
                        ▼                         
          鋳型鎖 5'┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬3' 鋳型鎖           
              /                  \               
             / 3' ̄ ̄ ̄← ̄ ̄ ̄5' 5' ̄ ̄ ̄← ̄ ̄ ̄3'\              
            /   リーディング鎖    ラギング鎖   \             
   ┬┬┬┬┬┬┬┬・                        ・┬┬┬┬┬┬┬┬┬   
DNA       ←複製フォークの移動方向    複製フォークの移動方向→        DNA
   ┴┴┴┴┴┴┴┴・                        ・┴┴┴┴┴┴┴┴┴   
            \    ラギング鎖    リーディング鎖  /             
             \ 3'___→___5' 5'___→___3'/              
              \                  /               
          鋳型鎖 3'┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴5' 鋳型鎖           
                        ▲                         
                     ←複製開始点→                      

そして、DNA複製の過程は2本の鎖(リーディング鎖とラギング鎖)で大きく異なります
DNAの複製は「DNAポリメラーゼⅢ」と呼ばれるタンパク質によって行われます
DNAポリメラーゼは「プライマー」と呼ばれる小さいRNAの断片を基準にヌクレオチドを
正しい順番で並べる役割があります
ここで重要なのが、このDNAポリメラーゼは5'末端から3'末端の方向にしか複製が進められない
という 特徴を持っているということです
この特徴がDNA複製の方法に差異を生んでいるのです
<DNA複製の要約>
DNAポリメラーゼの反応にはプライマーが必要
RNAポリメラーゼがRNAプライマーを合成し、
その先にDNAポリメラーゼがDNAを複製していく
DNAリガーゼが岡崎断片の隙間を結合させる ← ラギング鎖の場合
DNAの複製機構は真核生物ではまだ未解決な部分が多い
<連続的複製>
リーディング鎖はプライマーを設置した後、下記4つの段階のように単純に作っていくことができます
複製の1つ目の段階を見ていきます
まず最初に、ヘリカーゼという酵素によって2本鎖DNAが1本鎖DNAに切断されました
図1は、ヘリカーゼによって切断された1本鎖DNAです
図1
     ┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬
     ┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴
             ↓
DNA 3'┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴5'

複製の2つ目の段階を見ていきます
まず、1本鎖DNAにRNAプライマーが結合します
図2では1本鎖DNAの左端に、RNAプライマーが結合しています
RNAプライマーは、非常に短いRNAの断片です
1本鎖DNAにRNAプライマーが結合すると、そこへDNAポリメラーゼという酵素が結合します
DNAポリメラーゼが、実際にDNAを複製していく酵素です
RNAプライマーは、DNAポリメラーゼを1本鎖DNAに結合させるための足場のような役割を
しているのです
図2
 RNAプライマー
     ┬┬┬○→DNAポリメラーゼ
DNA 3'┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴5' 鋳型

複製の3つ目の段階を見ていきます
DNAポリメラーゼはDNA鎖を 3'側から5'側へ移動しながらDNAを複製します
図3ではDNAポリメラーゼが右方向に移動しています
鋳型のDNA鎖と新しいDNA鎖では、向きが逆になっているのです
DNAポリメラーゼは、1本鎖DNAの配列を読み取りながら移動し、1本鎖DNAに対して
相補的なヌクレオチド鎖を作っていくのです
図3
      5' 新しくできたDNA鎖 3'
     ┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬   相補的なヌクレオチド鎖
DNA 3'┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴5' 鋳型

複製の最後、4つ目の段階
DNAポリメラーゼにより、1本鎖DNAのすべての領域が複製されました
しかし、複製が始まった場所にはRNAプライマーが結合していました
最後に、DNAからRNAプライマーが外れて、その部分がDNAに置換されることになります
図4
     /
    5'┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬3'
DNA 3'┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴5'

このようにして、DNAの複製は完了します
<不連続的複製>
ラギング鎖は複製フォークの進行方向とは逆向きに作っていくため、
リーディング鎖のような方法をとるとプライマーと複製フォークの間にスペースができてしまいます
そこで、多くのプライマーを用意しDNA鎖の断片を作るという方法がとられます
こうすることで、一連の複製自体は右向きに進行させることができます
この時の短いDNA鎖のことを「岡崎フラグメント(岡崎断片)」といいます
ヘリカーゼで分離された鋳型鎖(一本鎖DNA)は結合タンパク質で補強され、安定な状態になる
一本鎖にほどかれたDNAには、もつれてしまうのを防ぐために一本鎖DNA結合タンパクが結合しています
●国立遺伝学研究所などが支持する仮説?
プライマーゼにより、まず、プライマーが5'→3'方向に合成される
       ←         
    ────── 複製開始点
     プライマー       
プライマーから少し離れたラギング鎖上に、プライマーゼが新たなプライマーを作ります
(複製フォークの移動距離-合成距離<少し離れたラギング鎖上?)
       ←              ←      
    ──────        ──────    
     プライマー          新たなプライマー 
この新たなプライマーを足がかりにして、DNAを重合するためにDNAポリメラーゼが結合します
プライマー同士の間を埋めるように、DNAポリメラーゼが5'->3'方向へDNAを重合していきます
こうしてできたDNAの断片を”岡崎フラグメント”と言います
       ←      ①       ←      
    ────── ┬┬┬┬┬┬ ──────    
     プライマー  3'    5'  新たなプライマー 

       ←      ①       ←              ←      
    ────── ┬┬┬┬┬┬ ──────        ──────    
     プライマー  3'    5'  プライマー         新たなプライマー 

       ←      ①       ←      ②       ←      
    ────── ┬┬┬┬┬┬ ────── ┬┬┬┬┬┬ ──────    
     プライマー  3'    5'  プライマー  3'    5'  プライマー    
              ↑             ↑
              └──────┬──────┘
                 岡崎フラグメント
最終的には、幾つかの酵素によって、RNAプライマーが取り除かれ、
DNAへ置き換えられ、岡崎フラグメント同士が連結されることで切れ目のないDNAとなります
●東京医科歯科大学などが支持する仮説?
プライマーゼにより、まず、プライマーが5'→3'方向に合成される
       ←         
    ────── 複製開始点
     プライマー       
このプライマーに続いて、DNAポリメラーゼⅢにより、新生鎖が5'→3'方向に合成され始める
しかし、先に複製開始点となったプライマーの部位までしか伸長できない
複製フォークの進行に逆らって、5'→3'方向に鎖を伸長させることになるため、
新生鎖の伸長は途中で中断され、短いDNA鎖が不連続に合成されることになる
(複製フォークの移動距離-合成距離<許容スペース長?)
       ←      ①  
    ────── ┬┬┬┬┬┬
     プライマー  3'    5'
そこで、DNAポリメラーゼがまず①をつくり、プライマーの部位まで合成されると複製開始点へ戻って
②を合成し、また戻って③を合成するというようにDNAフラグメントを合成していきます
       ←      ①      ←      ②   合成方向は左向き(←)に進行
    ────── ┬┬┬┬┬┬ ────── ┬┬┬┬┬┬ 複製開始点
     プライマー  3'    5'  プライマー  3'    5'
              ↑             ↑
              └──────┬──────┘
                 岡崎フラグメント
DNA複製の仕上げをします
まず、「DNAポリメラーゼⅠ」でプライマーを除去しDNAに置き換えます
しかしこれだけでは DNAとDNAの間にはまだ隙間があります
この隙間を「DNAリガーゼ」でつなぎ合わせます
       ①   →   ②   →   ③   →   ④   複製方向は右向き(→)に進行
    ┬┬┬┬┬┬ ┬┬┬┬┬┬ ┬┬┬┬┬┬ ┬┬┬┬┬┬
    3'    5' 3'    5' 3'    5' 3'    5'
これでDNAの複製は完了です

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セントラルドグマ:DNAが遺伝情報を保存、RNAを仲介として、タンパク質を発現する流れ
┌────細胞核内────┐┌──リボソーム内──┐
   複製   転写    翻訳     
DNA─→DNA─→mRNA─→タンパク質:ポリペプチド
                ポリペプチド=20種類のアミノ酸が様々な順番で並んだもの

複製親の遺伝子を子に伝えるために親と同じDNAをもう1セットコピーして2倍にしておきます
   DNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)は1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的な
   塩基配列を持つDNA鎖を合成する酵素
   DNAの二重らせんを解いて、それぞれの鎖を鋳型として相補的なヌクレオチドを取り込む
   最初の二本鎖と同じ二本鎖が2セット生まれることになる
       一本鎖DNA鋳型+相補的なヌクレオチド → 二本鎖DNA
   DNAが複製されるときには、
   まずこの2本の鎖がファスナーを開けるようにほどけます
   分かれた2本のそれぞれのDNAの鎖(一本鎖DNA)には、ヌクレオチドが結合していきます
   ヌクレオチドが結合することで、一本鎖DNAが再び二本鎖DNAになり、
   2つが分かれて2本の二本鎖DNAができます
       二本鎖DNAx1 → 一本鎖DNA×2 → 二本鎖DNAx2
                      ・─┬─┬─┬─┬──
                     /  C A G T ←鋳型
                    /   G T C A ←相補的なヌクレオチド
       ──┬─┬─┬─┬─┬─・  ・─┴─┴─┴─┴──
   DNA   G T C G A   /
         C A G C T   \
       ──┴─┴─┴─┴─┴─・  ・─┬─┬─┬─┬──
                    \   C A G T ←相補的なヌクレオチド
                     \  G T C A ←鋳型
                      ・─┴─┴─┴─┴──

転写細胞核内でDNAの塩基配列がRNAの塩基配列へと写し取られる
   RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)という酵素が触媒になる化学反応
   DNA二本鎖がほどけて一方の鎖(鋳型鎖)の塩基に対応した形でRNAの塩基が作られる
   その結果DNAの塩基配列(他方の非鋳型鎖)とRNAの塩基配列はTがUになる以外は同じ
   あるタンパク質を合成するときには、そのために必要な遺伝子DNA配列だけをコピーした
   RNAが、核の外へ持ち出されます(RNAはDNAの部分コピー
       ──┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬── 
   DNA   C A G C T G T C A T T T   非鋳型鎖
         G T C G A C A G T A A A   鋳型鎖
       ──┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴── 
                    ↓ 転写           
       ──┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬── 
   mRNA  C A G C U G U C A U U U   
   転写によってつくられたRNAはmRNAという形になって細胞核から出て細胞質のリボソーム
   (タンパク質合成工場)内に移動
   リボソームはRNAとタンパク質が複合体を成す特殊な構造をしており、
   その構成RNAがリボソームRNA(rRNA)と呼ばれます

スプライシングRNAからイントロンを除去し、エキソンを繋ぎ合わせてmRNAの形にする過程
      転写           Splicing   翻訳     
   DNA─→RNA─→mRNA前駆体─→mRNA─→タンパク質
   DNA    Exon1Intron1Exon2Intron2Exon3 
             ↓転写
   Pre-mRNA Exon1Intron1Exon2Intron2Exon3 
             ↓Splicing
   mRNA   Exon1Exon2Exon3 
   真核生物のDNAでは、Exonと呼ばれるmRNA情報をコードした配列が、
   一見無意味なIntron配列によって分断されています
   RNAは転写によってDNAから生成した後に、
   不要なIntron部分を切り外してmRNAとなるのです

翻訳RNAの塩基配列がアミノ酸配列へと置き換えられる(=タンパク質の合成:アミノ酸の結合)
   トランスファーRNA(tRNA)は、翻訳時にリボソームまでアミノ酸を運びます
   tRNA:mRNAの塩基配列に対応したアミノ酸を運ぶ、rRNA:タンパク質合成に関わる
   mRNAのコドン(3連塩基)と相補的なアンチコドンと、コドンに適合するアミノ酸の両方を
   もつことにより、tRNAは通訳としての機能を果たす(tRNAと適合するアミノ酸の結合)
   遺伝暗号表:翻訳の際の規則(3個の塩基配列から1種類のアミノ酸を同定する)
       ──┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬── 
   mRNA  C A G C U G U C A U U U   コドン   ┐
         │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │         ├相補的
   tRNA┬ G U C G A C A G U A A A   アンチコドン┘
       │ └─┼─┘ └─┼─┘ └─┼─┘ └─┼─┘   
       │   ↓     ↓     ↓     ↓ 翻訳  
       └   Gln  -  Leu  -  Ser  -  Phe     コドン適合アミノ酸
         グルタミン  ロイシン  セリン フェニールアラニン
         アミノ酸が結合してタンパク質が合成される    
   rRNAは触媒作用を持ち、翻訳時にアミノ酸が一つずつ結合していく際のペプチド結合の形成
   に関わることが知られています

折り畳みタンパク質が、特定の立体構造に折り畳まれる
   タンパク質が、特定の立体構造に折り畳まれることをタンパク質のフォールディングといいます
   タンパク質は折り畳まれた状態になって初めて、機能を発揮することができます

<タンパク質合成の要約>
   核内にあるDNAの二重らせんの必要部分がほどける     ─┐
   これを鋳型としてDNAのネガ像のRNA鎖が合成され、    ├─転写
   これがmRNAとなって核から細胞質にあるリボソームに入る ─┘
   このコピー(=mRNA)をもとに、            ─┐
   アミノ酸をリボソームまで運搬してきたtRNAの塩基と    ├─翻訳
   mRNAの塩基が結合してタンパク質を合成する       ─┘

<RNA>
リボースをもつヌクレオチドからなる一本鎖、機能により3種類に分類
・mRNA(メッセンジャーRNA)タンパク質に翻訳されうる塩基配列情報
・tRNA(トランスファーRNA)アミノ酸を合成中のポリペプチド鎖に移転させる
・rRNA(リボソームRNA)  リボソームを構成するRNA

TOP遺伝暗号表またはRNAコドン表TOP
1st2nd3rd
UCAG
UUUUフェニルアラニン
(Phe)
UCUセリン
(Ser)
UAUチロシン
(Tyr)
UGUシステイン
(Cys)
U
UUCUCCUACUGCC
UUAロイシン
(Leu)
UCAUAA終止UGA終止A
UUGUCGUAGUGGトリプトファン(Trp)G
CCUUロイシン
(Leu)
CCUプロリン
(Pro)
CAUヒスチジン
(His)
CGUアルギニン
(Arg)
U
CUCCCCCACCGCC
CUACCACAAグルタミン
(Gln)
CGAA
CUGCCGCAGCGGG
AAUUイソロイシン
(Ile)
ACUトレオニン
(Thr)
AAUアスパラギン
(Asn)
AGUセリン
(Ser)
U
AUCACCAACAGCC
AUAACAAAAリシン
(Lys)
AGAアルギニン
(Arg)
A
AUGメチオニン(Met)ACGAAGAGGG
GGUUバリン
(Val)
GCUアラニン
(Ala)
GAUアスパラギン酸
(Asp)
GGUグリシン
(Gly)
U
GUCGCCGACGGCC
GUAGCAGAAグルタミン酸
(Glu)
GGAA
GUGGCGGAGGGGG
標準遺伝暗号表
   大部分の生物種のゲノムに当てはまる対応表ですが、
   生物種によっては上表の普遍暗号に従わないコドン(3連塩基)を持つ場合もあります
   コドンはDNA塩基として表示する場合もありますが、
   ここでは通例にしたがってRNA塩基として表示してます(Tの代わりにU)
   AUGコドンはタンパク質合成開始のために重要な役割を果たす「開始コドン」を兼ねている
   コドンは64種類あり(4×4×4)、20種類のアミノ酸と対応させるには十分な数があります
   実際には、61種類のコドンが20種類のいずれかのアミノ酸に対応し、
   3種類のコドン(UAA,UAG,UGA)はどのアミノ酸にも対応していません
   アミノ酸に対応しない3種類のコドンは「終止コドン」と呼ばれ、
   句点やピリオドとしての役割を持っています
    … これらのコドンが遺伝子中に出現したら、
      そこでその遺伝子の作るべきタンパク質の合成を終了すると言う目印として
脊索動物ミトコンドリア遺伝暗号表
   AUAコドン、UGAコドン、AGAコドン、AGGコドンが標準遺伝暗号表と異なる
   また、AGAコドンとAGGコドンは、
   頭索動物(ナメクジウオ類)、尾索動物(ホヤ類)、脊椎動物の間でも異なる

次へ前へTOP 14.タンパク質  細胞小器官、タンパク質の一生、タンパク質の分類
TOP

細胞小器官

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タンパク質の住む世界 細胞
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アミノ酸を作る5種類の原子:炭素、水素、酸素、窒素、硫黄
タンパク質を作る20種類のアミノ酸
数えきれない種類のタンパク質
   20種類のアミノ酸を10個組み合わせる場合でも20を10回
   掛け合わせて2010=10兆通りのタンパク質を作る
   ことが可能になる
ヒトは約37兆2千億個の細胞からできている ← 60兆個改め
   細胞はおよそ270種類ある      ← 200種類改め
DNAを持たず細胞分裂もしない細胞
   哺乳類の赤血球や血小板
生体の階層構造
   器官    心臓、肝臓、腎臓、根、茎、葉、花
   組織    上皮組織、神経組織、支持組織(骨,結合組織(線維))、筋組織
   細胞    血液細胞、神経細胞、筋肉細胞、生殖細胞
   オルガネラ 小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア
   分子    タンパク質、核酸、脂質、ATP
生命圏の階層構造
   分子─細胞小器官─細胞─組織─器官─器官系─個体─個体群─生物群集─生態系─地球
細胞構造の分類
                    ┌─小胞体
      ┌─核           ├─ゴルジ体
      │             ├─リボソーム
   細胞─┤     ┌─オルガネラ─┼─ペルオキシソーム
      │     │(細胞小器官)├─ミトコンドリア
      └─細胞質─┤       └─葉緑体(植物の場合)
            │                   
            └─サイトゾル 、その他(細胞骨格、リボソーム、顆粒)
             (細胞質ゾル)
30億ゲノムサイズ(塩基数)から得られるタンパク質の種類はおよそ2~3万種類(遺伝子数)
   実際にはRNA編集しておよそ5~7万種類と推定されている
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細胞小器官〔organelles〕の機能
   細胞質には、種々の機能を営むミトコンドリア、リボソーム、小胞体、
   ゴルジ装置、リソソーム、中心体などの細胞小器官が含まれている

ミトコンドリア〔mitochondria〕
   細胞が生命活動を営むために必要なエネルギーは、
   ATP(アデノシン三リン酸)を分解するときに得られる
   ミトコンドリアは、エネルギー源合成の場、
   すなわち発電所に相当する小器官ともよばれ、
   エネルギー源であるATPを合成する細胞小器官である
   エネルギー源であるATPの多くは、
   ミトコンドリア内膜の電子伝達系で合成されています
   ミトコンドリアは、肝臓、筋肉、神経のような
   エネルギー代謝の盛んな細胞ほど発達している

リボソーム〔ribosome〕
   リボソームは、RNAの一種であるリボソームRNA(rRNA)
   とタンパク質からできている
   核からの指令を運んできたメッセンジャーRNA(mRNA)のメッセージに基づいて、
   必要なタンパク質を合成するので、
   リボソームは細胞内のタンパク質合成の場ともいわれる
   リボソームは、小粒で黒く丸い小体で、小胞体膜に付着している場合と、
   細胞質中を自由に浮遊している場合がある
   リボソームが付着した小胞体を粗面小胞体とよぶ

小胞体〔endoplasmic reticulum:ER〕
   小胞体は、細胞工場、物質の輸送、貯蔵の場である
   小胞体には粗面小胞体と滑面小胞体の2つのタイプがある

粗面小胞体〔rough ER〕
   膜表面にリボソームが付着しざらざらに見えるため、粗面小胞体とよばれる
   粗面小胞体で合成されたタンパク質は、粗面小胞体内腔へ輸送され、
   ゴルジ装置を経由して細胞膜に運ばれたり、分泌されたりする
   また、脂質成分をつくる役割も果たしており、
   細胞膜を構成する脂質もここでつくられる

滑面小胞体〔smooth ER〕
   膜表面にリボソームが付着していないため滑らかに見えるので、滑面小胞体とよばれる
   滑面小胞体は、細胞の機能により働きが異なるが、タンパク合成にはかかわらず、
   コレステロールの合成や分解、脂質代謝、薬物の解毒、
   カルシウムの貯蔵などの機能を担っている

ゴルジ装置〔Golgi apparatus〕(ゴルジ体)
   粗面小胞体から輸送小胞の形で、
   ゴルジ装置に送り込まれたタンパク質に多糖類や脂質を加え、
   リポタンパクや糖タンパクの合成を行うなどして目的とするタンパク質の形に修飾し、
   荷造りし送り出す(分泌する)
   そこで、梱包発送の場とよばれる

リソソーム〔lysosome〕( ライソゾーム )
   リソソームの中には種々の強力な加水分解酵素が含まれ、
   細胞内に進入した異物や細胞内の代謝物や不要物を消化処理する
   そこで、異物・不要物処理の場とよばれる

中心体〔centrosome〕
   中心体は2個の中心小体からできており、細胞分裂の際、紡錘糸を形成し、
   染色体の移動に関与しています

ペルオキシソーム〔peroxisome〕
   ペルオキシソームは、単一の膜構造を有するオルガネラであり、
   過酸化物の生成分解、脂質成分の代謝に関わっています

葉緑体〔Chloroplast〕
   葉緑体とは、藻類や植物の細胞小器官で、光合成を行う半自律的な器官です
   植物の葉を緑色にしている色素である「葉緑素(クロロフィル)」を含めた
   多種類の化合物が光合成を行う細胞小器官として組織化されたものが「葉緑体」です

液胞〔vacuole〕の機能と多様な液胞輸送経路
   エンドサイトーシス経路で運ばれてきた細胞外や細胞膜上の物質や、
   小胞体で合成されたタンパク質の一部は、液胞に運ばれます
   植物の液胞は
      ①様々な物質の貯蔵
      ➁不要になった物質の分解
      ➂空間充填
      などの多様なはたらきをもっています
   植物の液胞は、細胞外や細胞膜上の物質を細胞内に取り込むエンドサイトーシス経路や、
      小胞体からスタートする物質の輸送経路の終着点の1つで、
      動物のリソソームに対応する細胞小器官と考えられています
   植物の液胞は、動物のリソソームと同様に細胞内で不要になった物質の分解を担っています
      その一方で、植物の液胞は様々な物質を貯蔵する役割ももっています
      更に、液胞の形態は一定ではなく、細胞内外の環境に対応して常に変化しています
      例えば、植物の表皮に存在し植物体の内外で空気の交換をおこなうための
      気孔が開閉するためには、液胞の膨張と収縮が必要です
      又、植物の液胞は細胞を大きく成長させるための空間充填のはたらきも担っています

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細胞小器官の名前機能
核(nucleus)遺伝子貯蔵所
 ・核膜(nuclear envelope) ・核質を細胞質基質から分ける
 ・染色質(chromatin) ・染色体が脱凝集した無定形の構造
 ・核小体(nucleolus) ・リボソーム形成に必要な原料を供給
小胞体(endoplasmic reticulum)細胞内に発達した膜系で
 ・粗面小胞体(rough ER) ・細胞外へ分泌されるタンパクの合成
 ・滑面小胞体(smooth ER) ・ステロイド合成など
リボソーム(ribosome)遺伝情報をもとにタンパク質合成
ゴルジ装置(Golgi apparatus)細胞外へ分泌されるタンパク質をパックする
ミトコンドリア(mitochondoria)エネルギー源であるATP産生
細胞骨格(cytoskelton)細胞の形を整え、細胞の運動を司る
中心体(centriole)細胞分裂時に紡錘体となる
リソソーム(lysosome)等細胞内での消化
細胞膜(cell membrane)細胞と外界との境界面

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タンパク質の一生

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タンパク質の誕生 遺伝情報を読み解く
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セントラルドグマ
      複製   転写   翻訳    折り畳み(3次構造)
   DNA─→DNA─→RNA─→タンパク質─→タンパク質固有の立体構造
   遺伝暗号表:翻訳の際の規則
クロマチンによる凝縮
   染色体のDNAは何段階も凝縮される
       幅
      2nm  DNA二重らせん
     11nm  ビーズ状のクロマチン ヒストンタンパク質、ヌクレオソーム
     30nm  クロマチン構造 ヌクレオソームが密に並んだクロマチン繊維
    300nm  ループ構造   畳まれてループ状になったクロマチン繊維
    700nm  染色体の凝縮
   1400nm  中期染色体
   ヒストン8量体にDNAが巻き付いたものをヌクレオソームと言う(DNAの複合体)
   ヒストンとDNAの複合体をクロマチンと言う
細胞全体としては1秒間に数万個ものタンパク質が作られている
   活発な細胞では1秒間に数万個のタンパク質を作り、
   1個の細胞の中には80億個程のタンパク質が働いています
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タンパク質の成長 細胞内の名脇役、分子シャペロン
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分子シャペロン
   タンパク質を正しい過程に従って折り畳まれるのを誘導するタンパク質です
   折り畳み過程中そのタンパク質を保護し、他のタンパク質が結合したり折り畳み過程を
   邪魔したりしないようにしている
   タンパク質に生涯寄り添い介助するタンパク質
タンパク質の4つの階層
   1次構造 アミノ酸配列 ポリペプチド
   2次構造 特徴的な規則構造 αヘリックス(らせん状)、βシート(シート状)
   3次構造 タンパク質固有の立体構造 構造の多様性が機能の多様性に対応
   4次構造 複数のタンパク質の会合状態 サブユニットの会合 リボソームなど
   ドメイン タンパク質の機能的まとまり部分
フォールディング
   タンパク質は生体内で合成された直後はアミノ酸が連なっただけの無定形の状態ですが、
   機能を発現するために、「タンパク質固有の立体構造」を短時間に自発的に形成する
   この過程が、タンパク質のフォールディング(折り畳み)過程です
   疎水性アミノ酸は分子の内部に折り畳まれる
   フォールディング前:1本のひも構造
   フォールディング後:立体構造を持つ
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タンパク質の輸送 細胞内物流システム
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タンパク質の輸送経路
   宛先の書き方 葉書方式:タンパク質のアミノ酸配列に宛先が書き込まれている
          手紙・小包方式:封筒または袋の役割として小胞が使われる
          小胞膜に荷札、オルガネラ膜に表札、輸送して合致すると膜融合
   核輸送   核への輸送
         核膜孔は大きい孔なのでフォールディング後でも通れる
   膜透過   サイトゾルから小胞体への輸送
         オルガネラは膜で囲まれているので、膜を直接通過する必要がある
         膜には細い孔がありフォールディング前にこの孔を通過する
         サイトゾルからミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソームへの輸送
   小胞輸送  小胞体とゴルジ体への双方向輸送
         輸送のためのインフラとして、網の目のように張り巡らされたレールと
         その上を走り回るモータータンパク質が存在して小胞輸送を担っている
         小胞の中に入る大きさであれば、構造を持ったまま包んでしまうことができる
   エクソサイトーシス   細胞内から細胞外への輸送
         細胞外放出:化学伝達物質やホルモンなどの物質を運び出す手段
         開口分泌で細胞内(小胞体→細胞膜)から細胞外へ放出する現象
   エンドサイトーシス   細胞外から細胞内への輸送
         細胞内取込:栄養分子の取込、食細胞の食作用、ウイルスや細菌の侵入
         開口吸収で細胞外から細胞内(細胞膜→小胞体)へ取り込む現象
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タンパク質の輪廻転生 生命維持のための死
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タンパク質の寿命
   タンパク質の原料になるアミノ酸はタンパク質を分解することによって作られる
   1個のタンパク質を作るのには少なくとも数十秒かかる
   寿命で入れ替わるのはタンパク質に限らず細胞も日々生まれ変わる
   T細胞や神経細胞は「記憶」を持っており、再生には向かない
   細胞周期に必要なタンパク質の分解
   体内のタンパク質は「分解」と「合成」というターン・オーバー(新陳代謝)により
   常に入れ替わっています
   ターンオーバーのスピードはタンパク質の種類で異なり、肝臓は約2週間、赤血球は120日、
   筋肉は約180日でその半分が入れ替わります(この期間を半減期といいます)
アミノ酸のリサイクルシステム
             ┌───────┐
   食事から摂取する―→|アミノ酸プール|―→排泄(70g)
         (70g)  └───────┘   尿中窒素(60g)
              合成|↑分解     便   (10g)
             (180g)↓|(180g)    皮膚など  
             ┌───────┐
             | 体タンパク質 |
             | (約7~10kg) |
             └───────┘
オートファジー
   細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つです
   細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや
   栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した
   病原微生物を排除したりすることで生体の恒常性維持に関与している(細胞内の掃除役)
ネクローシス
   事故死、細胞の壊死、制御されない細胞死
アポトーシス
   細胞の自殺、制御された細胞死
短期飢餓時の代謝の変化
   飢餓当初は、肝臓や筋肉中に蓄えている糖質(グリコーゲン)を分解した
   グルコースをエネルギー源として使用します
      肝臓→グリコーゲン→グルコース→(解糖系)→ATP
   しかし貯蔵量は少なく、絶食すれば十数時間で枯渇してしまいます
   そうすると生体は筋肉を中心とした体タンパクを分解して生じたアミノ酸を
   次のエネルギー源にしようとします
   筋肉の分解によって生まれたアミノ酸(アラニン)が肝臓に運ばれ、
   糖新生によりグルコースに変換されエネルギー源として使われます
      筋肉→アミノ酸→(糖新生)→グルコース→(解糖系)→ATP
長期飢餓時の代謝の変化
   飢餓が長期におよぶ場合は、体タンパク、臓器機能の維持のため、
   体タンパクの分解は抑えられます
   脂肪組織が分解されてできた、脂肪酸とケトン体がエネルギー源として使用されます
        ┌→脂肪酸→(β酸化)─────────┐
   脂肪組織─┤                   ├─アセチルCoA→TCA回路→ATP
        └→グリセロール→(解糖系)→ピルビン酸┘   ↓↑
                               ケトン体 
侵襲時の代謝の変化
   災害などの侵襲(生体を傷つけること)時には、生命維持が優先され、
   すべてのエネルギー代謝が増進します
   肝臓からはグルコースが、筋肉からはアミノ酸が、脂肪組織からは脂肪酸が、
   エネルギー源として利用されます
   飢餓時との大きな違いは、飢餓時には体タンパクの維持のため「代謝が低下」するのに対し、
   侵襲時は侵襲の大きさに応じて「代謝が増進」することです
糖新生:乳酸やアミノ酸などの糖質以外の物質を原料に糖質(グルコース)を作り出す反応です
    ピルビン酸からグルコースを合成する反応を糖新生という
    アミノ酸やグリセロールからグルコースを合成する反応も糖新生という
解糖系:グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解し、グルコースに含まれる
    高い結合エネルギーを生物が使いやすい形に変換していくための代謝過程です
    グルコース(ブドウ糖)をピルビン酸または乳酸まで分解してATPを産生する
    解糖系でグルコースから得られたピルビン酸は、TCA回路に入ってATPに変換される
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タンパク質の品質管理 その破綻としての病態
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細胞内の4段階の品質管理
   生産ラインのストップ 翻訳ストップ
   再生    分子シャペロンによる再生
   廃棄処分  タンパク質の分解
   工場閉鎖  自殺の指令(アポトーシス)
品質管理の破綻としての病態
   血友病 遺伝性の血液凝固障害
   フォールディング異常病(代表例)
      白内障       水晶体タンパク質に異常が生じ、水晶体が濁ることが原因
      アルツハイマー病  アミロイドβタンパク質の蓄積による神経細胞死
      ハンチントン病   ハンチンチンというタンパク質の異常が原因
      パーキンソン病   中脳の黒質のドパミン産生細胞が減少する
      筋萎縮性側索硬化症(ALS)脳の神経に異常が起こって発症し、筋肉が衰えていく
      プリオン病(BSE)フォールディング異常が原因

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タンパク質の分類

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タンパク質の分類 機能、特徴
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  約20種類のL-α-アミノ酸からなるポリペプチドを主体とする高分子化合物の総称
  α-アミノ酸は約20種類あるため、結合数や配列順序でタンパク質の種類は膨大になる
  タンパク質の種類は1次構造(アミノ酸の配列順序のこと)で決まる
  生命活動の主役とも言えるタンパク質は、ヒトの体内だけで10万種以上、
  自然界全体では実に約100億種も存在するとされており、
  それぞれが決まった固有の働き(機能)を持って生命活動を支えています
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分子の形状(立体構造)での分類
  球状タンパク質と
  繊維状タンパク質とに分類される
球状タンパク質
  ポリペプチド鎖が折りたたまれ球状になったタンパク質
  構造的特徴 構造が球状
  三次元的に折り畳まっている
  シャペロニンのように球状が集まって筒のような構造を形成していることもある
  親水基を外側、疎水基を内側に向けてポリペプチド鎖が球状をなすタンパク質
  血中に多く含まれるアルブミン
  唾液中に存在するアミラーゼ
  機能  酵素、伝達、抗体、貯蔵、輸送
      何かと結合すること(複合タンパク質)で機能を有することが多い
  特徴  水に溶けるものが多く、細胞や血液中で生命活動を維持する役割を持つ
  [例外?]細胞膜で働くタンパク質は脂質二重層の疎水性と合うように
      表面の疎水性が高い
繊維状タンパク質
  複数のポリペプチド鎖が絡み合い束になっているタンパク質
  構造的特徴 構造が繊維状
  らせん構造が多い
  球状タンパク質に比べると直線的(二次元的)
  球状タンパク質に比べると固い
  機能  生体構造の形成:コラーゲン、ケラチン(爪、髪、皮膚)など
      運動に関与する:アクチン、ミオシン(筋肉)など
  特徴  強くて水に溶けにくいので毛髪や皮膚などの生体組織を形成する
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タンパク質の「生体における機能」は多種多様であり、たとえば次のようなものがある
酵素タンパク質
  代謝などの化学反応を起こさせる触媒である酵素
  細胞内で情報を伝達する多くの役目も担う
  消化酵素(アミラーゼ、ペプシン、トリプシン等)、乳酸脱水素酵素
  種々の代謝を行う酵素類
酵素阻害剤
  酵素作用を阻害
  マクログロブリン、トリプシンインヒビター
構造タンパク質
  生体構造を形成するタンパク質
  コラーゲン、膜タンパク質、ウィルス殻タンパク質、ケラチンなど
  細胞外マトリクス(コラーゲンなど)、細胞骨格(アクチンなど)
輸送タンパク質
  何かを運ぶ機能を持つ種類で、酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンや
  血液中に存在し脂質を運ぶアルブミン、
  コレステロールを運ぶアポリポタンパク質など
貯蔵タンパク質
  栄養の貯蔵に関与するタンパク質であり、卵白中のオボアルブミンや
  細胞中で鉄イオンを貯蔵するフェリチンやヘモシデリンなど
  グリシニン、カゼイン、アルブミンなど
収縮タンパク質
  運動に関与するタンパク質
  筋肉を構成する筋原繊維のアクチン、ミオシン(筋肉)など
  細胞骨格など
  細長いフィラメントを構成し、互いが滑りあう事で筋肉の収縮や弛緩を起こす
毒タンパク質
  細胞毒
  蛇毒タンパク質、リシン
防御タンパク質
  免疫機能に関与する種類であり、抗体・補体(抗体の働きを補完)とも言われる
  免役グロブリン、フィブリノーゲン(血液凝固)など
  B細胞によって作られるグロブリンがこれに当たる
調節タンパク質
  細胞間情報伝達
  DNAのエンハンサーと結合して遺伝発現を調整するタンパク質や、
  細胞内でカルシウムを使って他のタンパク質の働きを調整するカルモジュリンなど
  インスリン、グルカゴン、成長ホルモン等
エネルギー源
  タンパク質1gあたり4kcalのエネルギー
情報タンパク質
  細胞内情報伝達、レセプターの構成成分
  ホルモン受容体、LDLレセプター、インスリンレセプターなど
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組成の上から、
  アミノ酸だけからなる単純タンパク質と、
  核酸・リン酸・脂質・糖・金属などを含む複合タンパク質と、
  単純タンパク質と複合タンパク質が作用して二次的に生成された誘導タンパク質に、
  分けられる
●単純タンパク質
  アミノ酸のみからなるタンパク質
  アミノ酸のみで構成
分類コメント
アルブミン血清アルブミン、卵アルブミン、乳アルブミンなど
グロブリン血清グロブリン、卵グロブリン、ミオシン(筋肉グロブリン)など
グルテリン小麦のグルテリン、米のオリゼニンなど
プロラミンとうもろこしのゼイン(ツェイン)、小麦のグリアジンなど
硬タンパク質つめや毛のケラチン、骨の結合組織の コラーゲン、エラスチン、
絹糸やクモ糸のフィブロインなど
●複合タンパク質
  単純たんぱく質と他の物質が結合したもの
  アミノ酸の他に糖類やリン酸、核酸、色素などを含むタンパク質
  アミノ酸とその他(金属・糖・リン酸・核酸・脂質)で構成
分類コメント
糖タンパク質粘質多糖類とタンパク質が結合した物質で、粘膜や 分泌液、
卵白などに含まれる
ムチン(唾液)、グリコホリン、免役グロブリン、
オボムコイドなど
リポタンパク質脂質と結合した複合タンパク質
生物体に広く存在し、生体膜を構成するものは不溶性
血液中のものは水溶性でコレステロールなどの脂質の運搬を行う
分子密度から低比重リポタンパク質(LDL)
高比重血清リポタンパク質(HDL)、卵黄のリポビテリンなど
リンタンパク質リン酸とタンパク質が結合した物質で、乳汁のカゼイン、
卵黄のビテリンなど
色素タンパク質色素(ヘムなど)を含むタンパク質
シトクローム、ヘモグロビン、ミオグロビン
金属タンパク質金属イオンを含むタンパク質
トランスフェリン、フェリチン、メタロプロテアーゼ
核タンパク質核酸が結合 染色体、リボソーム、ヒストン、プロタミン
●誘導タンパク質
  単純タンパク質と複合タンパク質が作用して二次的に生成されたもので、
  コラーゲンの変性したゼラチンなどです
  タンパク質が熱、酸、アルカリ、酵素、アルコールなどによって、変化したもの
分類コメント
ゼラチンコラーゲンを長時間煮出した物(熱変性生成物)
プロテエオースタンパク質を部分的に加水分解したもの
ペプトンタンパク質を加水分解したもの
ペプチドペプトンにより更に分解が進んだ2~10数個のアミノ酸の結合物

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三大栄養素

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三大栄養素 炭水化物・脂質・タンパク質 … タンパク質の分類は前述
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                                ┌─────┐
                      ┌→炭水化物───→|エネルギー|
                      |         |(熱・力)|
              ┌→三大栄養素─┼→脂質────┬→|のもとに |
              |       |       | |なる   |
              |       └→タンパク質─┤ └─────┘
              |               | ┌─────┐
      ┌→五大栄養素─┤               └→|体を作る・|
      |       |               ┌→|傷を治す |
      |       |               | └─────┘
      |       ├→ミネラル──────────┤ ┌─────┐
六大栄養素─┤       |               └→|身体の調子|
      |       └→ビタミン───────────→|を整える |
      |                         └─────┘
      |                         ┌───────┐
      └→食物繊維───────────────────→|有害物質の排出|
                                |腸内環境の改善|
                                └───────┘

糖の大きさによる分類
糖の性質や物性を予測するのに最も役立つのが大きさ(分子量)による分類です
まず糖には単糖類から少糖類、多糖類まで様々な大きさの糖が存在します
単糖類
   一番小さな糖の単位です
   ブドウ糖や果糖などがあります
二糖類
   単糖が2個結合した糖です
   砂糖やマルトース、トレハロースなどがあります
少糖類
   単糖が3個以上10個未満程度結合した糖です
   オリゴ糖などがあります
多糖類
   10個以上の単糖が結合した糖で、単糖の結合数は数千個におよぶこともあります
   コーンスターチなどのでん粉が代表的な多糖類です
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由来原料による分類
同じ原料からでも製造工程を変えることにより、多くの種類の糖を作ることができます
                由来原料とそこからできる糖質
               ・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・
               :              でん粉糖              :
               :                               :
               :                  ┌→異性化→ 異性化糖  :
               :┌─────────→  ブドウ糖  ┤            :
               :|                 └→還元─→ソルビトール :
               :|                              :
               :├─→結晶化────→ マルトース ─→還元─→ マルトール  :
               :|                              :
               :├─→転移・結晶化─→ トレハロース              :
トウモロコシ─→ でん粉 ─分解─┤                              :
キャッサバ等         :├─────────→   水飴   ─→還元─→ 還元水飴  :
               :|                              :
               :├─────────→ 各種オリゴ糖              :
               :|                              :
               :└─────────→各種デキストリン            :
               :                               :
               ・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・

             ┌─→転移─→パラチノース─→還元─→パラチニット
サトウダイコン→ 砂糖 ─┤                        
サトウキビ        └─→分解─→  転化糖              
                                    
牛乳─────→ 乳糖 ────────→還元────────→ラクチトール
                                   
木材─────→キシラン───→分解─→ キシロース ─→還元─→キシリトール

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関与成分※許可を受けた表示内容
オリゴ糖お腹の調子を整える
キシリトールむし歯の原因にならない
マルチトール歯の健康保持、むし歯になりにくい
パラチノースむし歯の原因にならない
L-アラビノース砂糖の消化・吸収を穏やかにする
血糖値が気になる方の生活改善
※消費者庁特定保健用食品許可(承認)品目一覧より抜粋
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糖類糖質炭水化物
単糖類二糖類
吸収まで
数分
吸収まで
10分~1時間
吸収まで
3~4時間
吸収まで
5~6時間
グルコースショ糖
(砂糖など)
デンプン
(米、麦、穀類など)
糖質
フルクトースラクトース
(牛乳など)
グリコーゲン
(動物性食品)
食物繊維
(セルロース、キチンなど)
ガラクトーストレハロース
(サツマイモなど)
糖アルコール
(キシリトールなど)
マルトース
(水飴など)
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炭水化物糖質糖類単糖類ぶどう糖、果糖、ガラクトースなど
二糖類ショ糖(いわゆる砂糖)、乳糖、麦芽糖など
少糖類オリゴ糖
多糖類でんぷん、デキストリンなど
糖アルコールキシリトール、ソルビトール
その他アスパルテーム、アセスルファムK、 ステビアなど
食物繊維セルロース、ヘミセルロース、 ペクチンなど
「糖類」と「糖質」の違い
「糖質」とは、炭水化物から食物繊維を除いたものと定められています
「糖類」とは、糖質のうち砂糖やブドウ糖などの単糖類・二糖類の総称です
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糖質の種類
分類種類構造模式図所在
単糖類グルコース(ブドウ糖)G動植物に広く含まれ、自然界にも多い
フルクトース(果糖)F果物や花の蜜に多い
ガラクトースGaグルコースと結合してラクトースとして存在
二糖類スクロース(ショ糖)G+F砂糖のこと
ラクトース(乳糖)G+Ga母乳や牛乳に含まれる
マルトース(麦芽糖)G+G麦芽から作られる水飴に多く含まれる
少糖類オリゴ糖G+G+G+‥人工甘味料に多く含まれる
多糖類デンプンG+G+G+G‥
多糖の結合体
穀類、いも類、豆類に多く含まれる
グリコーゲン動物の肝臓や筋肉に含まれる
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脂質とは、水に溶けない成分の総称で、脂肪酸はその中の成分の一つです
脂質単純脂質(中性脂肪など)
複合脂質(リン脂質、リボたんぱく質など)
誘導脂質(コレステロール、脂肪酸、ステロイドなど)
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    ┌→飽和脂肪酸(SFA)
    |  乳製品、肉などの
    |  動物性脂肪や
    |  ココナッツオイルなど
脂肪酸─┤
    |            ┌→一価不飽和脂肪酸(MUFA)──→ω-9系脂肪酸
    |            |                 オレイン酸など
    |            |
    └→不飽和脂肪酸(UFA)-─┤
       魚や動物の脂など  |              ┌→ω-6系脂肪酸リノール酸
                 |              |  アラキドン酸、
                 └→多価不飽和脂肪酸(PUFA)─┤  r-リノレイン酸など
                                |
                                |
                                └→ω-3系脂肪酸
                                   αリノレン酸、
                                   EPA,DHA,IPA
人体内で合成できる :飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸
人体内で合成できない:多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)
常温で固体:飽和脂肪酸
常温で液体:不飽和脂肪酸
飽和脂肪酸 :炭素同士の二重結合がない脂肪酸をいいます
       炭素の結合の手4本が各1本毎に他と単一でつながり、
       飽和状態にある安定した脂肪酸です(単結合)
不飽和脂肪酸:炭素同士の二重結合がある脂肪酸をいいます
炭素同士の二重結合がない          炭素同士の二重結合  炭素同士の三重結合  
 |    H    |    H H    |   H H    |         
 ↓    |    ↓    | |    ↓   | |    ↓         
メタン:H-C-H エタン:H-C-C-H エチレン:C=C アセチレン:H-C≡C-H
      |         | |        | |              
      H         H H        H H              
---------------------------------------------------------------------------------------
≪必須ミネラル:16種類≫
多量ミネラル ●歯や骨をつくる
●電解質として
 浸透圧を調整する
●神経や筋肉の
 機能を調整する
カルシウム,リン,カリウム,硫黄,
塩素,ナトリウム,マグネシウムの7種類
微量ミネラル ●体内でさまざまな
 役割を担う有機化
 合物を構成する
●酵素やホルモンの
 作用に関与する
鉄,亜鉛,銅,マンガン,ヨウ素,セレン,
モリブデン,コバルト,クロムの9種類
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13種類のビタミンの種類と働き
水溶性ビタミン 水に溶けやすく、油脂には溶けにくい性質を持つ
ビタミンB群(B1,B2,B6,B12,
ナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオチン)
とビタミンCの9種類
血液などの体液に溶け込んでいて、
余分なものは尿として排泄されるので、
食べ物から毎食一定量をとる必要があります
脂溶性ビタミン 水に溶けにくく、油脂に溶ける性質を持つ
ビタミンD,A,K,E(覚え方は「だけ」)の4種類
水溶性と違って、肝臓に蓄積されるため、
とり過ぎると頭痛や吐き気などの過剰症を
起こすものもあります
ビタミン様物質 イノシトール
CoQ-10
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食物繊維には大きく分けて水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と
水に溶けにくい「不溶性食物繊維」があります
一つの食材に水溶性・不溶性のどちらも含まれていることがほとんどです
寒天に含まれる食物繊維の多くは、水溶性食物繊維といわれています
水溶性食物繊維 水溶性ペクチン,グルコマンナン,グアーガム,
アルギン酸,βグルカン,イヌリン,フコダイン,
マルチトール,コンドロイチン,寒天
不溶性食物繊維 セルロース,ヘミセルロース,リグニン,
寒天,不溶性ペクチン,キチン,キトサン
次へ前へTOP 15.ATP光合成 ATP、光合成と呼吸、C3植物・C4植物
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ATP

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細胞内でのエネルギー通貨
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   私達は、一日に2000キロカロリーほどのエネルギーを食事から摂取しています
   食べ物から取り入れたエネルギーは、体内で形を変えて、生命活動を維持します
   細胞内でのエネルギー通貨といわれるのが、ATP(アデノシン三リン酸)です
   食物のエネルギーは、ATPを合成するために消費されて、一旦ATPに蓄えられます
   ATPは、筋肉の収縮から脳の神経細胞の活動、タンパク質の合成といった、
   体内でエネルギーを必要とする現象すべてで必要です
   生体内での、物質の合成や運動など、生命活動で利用されるすべてのエネルギーは
   ATPから取り出されたものが使われるため、ATPは「エネルギーの通貨」とよばれる
   生物におけるエネルギー貯蔵や供給および運搬などを仲介する重要な物質です

               筋肉の収縮
                 ↑
              エネルギー放出(ATP加水分解)
      ATP+P1+P2+P3   →    ADP+P1+P2
      [塩基+糖]+PPP     ←    [塩基+糖]+PP
              エネルギー吸収(ATP合成)
                 ↑
         解糖系や有酸素系からのエネルギー供給

      ATP加水分解:ATP+H2O ⇒ ADP+H3PO4+エネルギー
                  水      リン酸
      ATP合成  :ADP+H3PO4+エネルギー ⇒ ATP+H2O
                 リン酸            水
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ATP(アデノシン三リン酸)
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ATPはエネルギー源
   ATPとは、エネルギーの受け渡しの仲立ちをしている化学物質のこと
   ミトコンドリアで作られるエネルギーを電気的に蓄えた物質で、
   細胞内の全ての活動に必要なエネルギー源です
   ヒトは、食物を食べて栄養素を、また呼吸で酸素を体に取り入れている
   これらは最終的には細胞内のミトコンドリアに運ばれ、栄養素(糖質と脂質)と酸素
   反応して二酸化炭素と水に分解される
      C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O
   この時にアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギー源が作られる
   ATPはアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸に分解される時、エネルギーを生む
   ATPは貯蔵することができないので、必要に応じて絶えず作られていて、
   1日に作られる量はその人の体重に相当すると言われている
高エネルギーリン酸結合
   ATPは塩基であるアデニンと糖の一種であるリボース(五炭糖の一種)が結合した
   アデノシン(ヌクレオシドの1つ)に3個のリン酸が結合した化合物である
   このリン酸どうしの結合を「高エネルギーリン酸結合」という
   高エネルギーリン酸結合:リン酸とリン酸の結合部分にエネルギーを蓄える(+P1+P2+P3)
   この結合が切れ、リン酸が1個取れてADP(アデノシン二リン酸)になるときや
   リン酸が2個取れてAMP(アデノシン一リン酸)になるときに、
   多量の「エネルギーが放出される」される
      ATP+P1+P2+P3 → ADP+P1+P2 → AMP+P1
   また、逆にADPがATPになるときには、「エネルギーが吸収される
   この逆向きの反応ではエネルギーを蓄えることができる
      ATP+P1+P2+P3 ← ADP+P1+P2 ← AMP+P1
ATPを分解する
   エネルギーはどうやって体を動かしているでしょう? 
      筋肉を収縮させる→筋肉を動かす→体を動かす
   筋肉の収縮に使用されるエネルギーはATPの分解により得られます
   エネルギーが必要になったときは、「ATP分解酵素」の働きによって、
   ATPからリン酸基がはずされて分解されていきます
   リン酸基がはずれるたびに筋肉を収縮させるのです
   ATPから一つのリン酸基がはずれるとADPという物質になります
   全てのATPがADPに分解されてしまうと、もう運動を続けることは
   できなくなるので、ATPは常に合成され続けています
ATPを再合成する
   成人男子が1日分のエネルギーとして摂取した2000キロカロリーのうち、
   半分の1000キロカロリーがATPの合成に消費されます
   これは重さに換算すると、およそ50kgにもなり、体重分ほどの量のATPを毎日合成して
   いることになります
   この合成には、「ATP合成酵素」という酵素が働いています
   この合成酵素は、世界最小の回転モーターで、回転しながらADPとリン酸から
   再びATPを合成しているのです
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プリン体
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   「尿酸」は「プリン体」から生成される老廃物の一種で、尿中から排出されます
   プリン体は食事から摂取されるものが2~3割で、体内で作られるものが7~8割です
   体内での「プリン体」は「細胞の新陳代謝」と「エネルギー代謝」によって作られます
細胞の新陳代謝
   古い細胞は新陳代謝によって新しい細胞に変わっていきます
   このとき古い細胞の中にある遺伝子(核酸)の構成成分が「プリン体」であるため、
   新陳代謝が進むと古い細胞の核酸から「プリン体」が放出され体内の「プリン体」が
   増えます
エネルギー代謝
   「プリン体」はエネルギー代謝のときに使われるATPの構成成分です
   エネルギー代謝によりATPは分解されてADPになります
   通常のエネルギー代謝ではATPは一旦使われても再合成されるので、
   「プリン体」が放出されることはありません
   しかし、激しい運動などで、必要とされるATPが多くなった時に、
   再合成が間に合わず余ったADPは、更に分解されて「プリン体」が
   生じることになります

           分解     更に分解     
      ATP  →  ADP  →  プリン体  …→  尿酸
       ▲   ←   ▲        ▲  
       再合成が間に合わない          

プリン体の最終代謝産物は尿酸
   プリン体のほとんどは、核酸として存在しています
   核酸は腸管でヌクレオチドに分解され、さらにヌクレオチドはヌクレオシド、
   プリン塩基(プリン体)へと分解されます
   この核酸は貯蔵されない物質で、必要なときに必要な分だけ作られ、
   不要になるとすぐに分解されます
   ピリミジン塩基は、最終的に水と二酸化炭素とアンモニアになるのですが、
   プリン塩基(AとG)は尿酸にまでしか代謝されません
   体内でたくさんの細胞が壊れる時、たくさんの細胞を外から取り込んだ時
   には、核酸の分解が進むので尿酸値が上昇します
   尿酸は、プリン体の最終代謝産物で、ヒトの体内ではそれ以上分解できません
   血中の溶解度が7.0mg/dLしかないため、この濃度を超えてしまうと結晶化してしまい、
   その場所に炎症を引き起こす元となります
   夜間寝ている時に結晶化して炎症を引き起こすことが多く、
   激しい痛みで目を覚ます「痛風発作」につながります
   尿中に増加して尿路結石、腎障害の原因となることもあります

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筋肉を動かす3つのエネルギー供給系
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ATP-CP系(瞬発系、クレアチンリン酸、持続時間:8秒)ATP-PCr系
   ATPはごく僅かな量しか筋肉中に貯蔵されていない
   そのため大きな力を生み出すと筋肉中のATPは瞬く間に涸渇してしまう
   そこで、ATPの消費が激しい器官においてはATPを再合成する機構が備わっている
   ATP-CP系は、筋肉中のクレアチンがリン酸と結合して、クレアチンリン酸となり、
   クレアチンリン酸をクレアチンとリン酸に分解して、ADPにリン酸を与えることで
   ATPを再合成するという働きを担っている
   しかしながら、クレアチンリン酸の貯蔵量も限られています
      貯蔵:筋肉中のクレアチン+リン酸→クレアチンリン酸
      分解:クレアチンリン酸→クレアチン+リン酸        … ①
      再合成:ADP+リン酸→ATP              … ②
      クレアチンリン酸+ADP→クレアチン+ATP       … ①+②
解糖系(乳酸系)(筋持久系、グリコーゲン、持続時間:30秒~60秒)
   筋内に貯蔵されている糖質(炭水化物)、グリコ―ゲンはピルビン酸に分解される
   ピルビン酸はミトコンドリアで代謝されるが、急激にグリコーゲンが分解される場合、
   エネルギー需要が急激に高まった状態では、ピルビン酸は一時、嫌気的に乳酸へと
   還元される(ミトコンドリアで処理が追い付かないと乳酸に変換)
   グリコーゲンがピルビン酸へと分解され、そして乳酸へと還元される一連の反応経路を
   解糖系と呼び、この時に発生するエネルギーがATPの産生に用いられる
有酸素系(持久系、糖質・脂質、持続時間:長時間)
   有酸素性エネルギー代謝は、主にミトコンドリア内で行われます
グルコースや脂肪酸や
   多くのアミノ酸は、アセチルCoAにまで代謝され、クエン酸回路に入ります
   その後このクエン酸から呼吸鎖に入り、そこで大量のATPが産生されます
   この過程は酸素を必要とするため有酸素性エネルギー代謝と呼ばれます
   先に挙げた2つのエネルギー供給系と異なり瞬間的なエネルギー供給には不向きである
   しかしながらエネルギーの供給量は大きいため、有酸素系のATP産生によって長時間
   の運動が可能となる
運動時には運動強度や運動時間により、
   無酸素性エネルギー代謝(解糖系)と有酸素性エネルギー代謝(有酸素系)が、
   シーソーの関係でエネルギー源を供給しています
   無酸素性エネルギー代謝では、グルコースが主なエネルギー源として利用され、
   有酸素性エネルギー代謝では、脂肪酸が主なエネルギー源として利用されます
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ミトコンドリアでATPを作る時、酸素を使う
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   ミトコンドリアは、有機物を燃焼(酸素を使う代謝)してATPを生成します
   ミトコンドリアは、ATPを作り出すとき、副産物として生体にとっては害となる
   活性酸素を数%生み出す
   活性酸素は、ミトコンドリア、核、遺伝子、細胞膜などに触れると
   それらを「酸化」させ、本来の機能を阻害する
   ヒトの体には活性酸素を消去する抗酸化物質が準備されているが、
   活性酸素と抗酸化物質とのバランスが崩れ、過剰に活性酸素が作られるとき、
   細胞はダメージを受け、これがガン、動脈硬化、老化などを招く
   病気・老化・ガンの予防のためには体内の抗酸化物質を増やすことが必要である
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ATPの構造とその貯蔵方法
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   ATPは非常に不安定な物質ですが、ADPは安定な物質です
   ATPは非常に不安定な物質であるため、筋肉中でクレアチンリン酸として貯蔵します
   では、どのようにしてATPをクレアチンリン酸として貯蔵するかというと、
   クレアチンキナーゼという酵素によって、ATPのリン酸と筋肉中に存在する
   クレアチンをくっつけて、クレアチンリン酸(エネルギー貯蔵物質)として貯蔵します
   そして、筋肉においてATPが不足し、ATPが必要になった場合、
   クレアチンリン酸からリン酸をはずしてADPにくっつけてATPを合成します
         ┌───-貯蔵-────┐ ┌──-合成-──┐
         クレアチンリン酸+ADP⇔クレアチン+ATP
      貯蔵:ATPのリン酸+筋肉中のクレアチン→クレアチンリン酸
              ↓            (リン酸の貯蔵)
         ATP-リン酸→ADP
      合成:クレアチンリン酸-リン酸→クレアチン
         (リン酸の放出)  ↓
              ADP+リン酸→ATP
   ちなみに不要になったクレアチンは、クレアチニンとなって尿中へ排泄されます
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光合成と呼吸

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光合成と呼吸
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   光合成とは、植物などが光のエネルギーを使い、有機物を作ることです
   植物などが行う「酸素発生型光合成」は、「水を分解して酸素を発生」し、
   「二酸化炭素を有機物に固定」します
   光合成の化学反応過程は、光のエネルギーを化学エネルギーに変換する「光化学系」と、
   光化学系で作られた化学エネルギーにより二酸化炭素を固定する「カルビン回路」とに
   わけられます
   光化学系では光のエネルギーを利用して、水を分解して酸素を放出します
   その際に作り出される「ATP」と「NADPH」がカルビン回路へ受け渡され、
   二酸化炭素が固定され、有機物がカルビン回路で合成されます
   NADPH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、光合成で用いられる化合物
   ┌────────────────────────────┐
   │        水          二酸化炭素      │
   │        ↓            ↓        │
   │    ┌──────┐  ATP  ┌──────┐    │
   │  光→│ 光化学系 │  →  │カルビン回路│    │
   │    │ (C4回路) │ NADPH │ (C3回路) │    │
   │    │ (明反応) │  →  │ (暗反応) │    │
   │    └──────┘     └──────┘    │
   │        ↓            ↓        │
   │       酸素          有機物       │
   └────────────────────────────┘
   明反応:NADPHとATPを合成する過程、光エネルギーを使った光化学反応
       光化学系Ⅰ光化学系Ⅱ:植物は葉緑素を用いて2段階で光の吸収を効率的に行う
       各光化学系は光の波長が異なる
   暗反応:明反応で作ったNADPHとATPを用い、水とCO2から糖を合成する過程
光合成システム      ┌→光化学系I
       ┌→明反応─┤      
   光合成─┤     └→光化学系Ⅱ
       └→暗反応
植物細胞の中には、
   光合成によって光のエネルギーを化学エネルギーに変換して有機物を合成する葉緑体
   存在します
   ┌───────────────────────────────────┐
   │          ┌───┐        ┌────┐      │
   │  光のエネルギー→│光合成│→化学エネルギー│ 葉緑体 │→有機物  │
   │          └───┘        └────┘      │
   └───────────────────────────────────┘
   光合成の電子伝達系により、光エネルギーをATPやNADPHといった化学エネルギーに変換します
   次いで、葉緑体で、その化学エネルギーをもとに二酸化炭素を固定し、有機化合物を合成します
   植物の還元反応:太陽光線→水から水素を奪う+二酸化炭素→酸素+炭水化物  葉緑体の機能
      6H2O + 6CO2 → 6O2 + C6H12O6   :還元反応
動植物細胞の中には、
   呼吸によって有機物が蓄えた化学エネルギーをATPとして取り出すミトコンドリア
   存在します
   ┌──────────────────────────────────┐
   │      ┌───┐         ┌───────┐     │
   │  有機物→│ 呼吸 │→化学エネルギー→│ミトコンドリア│→ATP   │
   │      └───┘         └───────┘     │
   └──────────────────────────────────┘
   ミトコンドリアで行われている呼吸では、酸素を用いて、有機物を二酸化炭素と水に分解します
   その過程で、生命活動に必要なエネルギーをATPとして取り出しています
   動物の酸化反応:炭水化物+水素を奪う酸素を吸う→二酸化炭素+水  ミトコンドリアの機能
      C6H12O6 + 6O2 → 6CO2 + 6H2O   :酸化反応
昼間の植物は呼吸と光合成の両方を行っていますが、光合成の方が活発です
   そのため、昼間の植物は全体として、
   二酸化炭素を取り込んで、酸素をはき出しているように見えます
これに対して、夜間の植物は光合成を行っていません
   つまり、動物と同じように、
   植物も酸素を取り込んで、二酸化炭素をはき出しているのです
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C3植物・C4植物

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C3植物とC4植物
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C3植物とC4植物の違いは光合成能力にあります
   C3植物は1種類の葉緑体(光合成を行うもの)しか持たないのに対し、
   C4植物はC3植物が持つ葉緑体の他に、CO2濃度を高める働きをする葉緑体を持っています
   そのため、C4植物はC3植物の何倍ものCO2濃度を保つことができ、
   効率よく光合成を行うことができるため、より早い成長が可能となるのです
   それぞれの名前の由来は、葉緑体の中で初期に生産される物質に含まれる
   炭素の数からきています
   C3植物は炭素数3、C4植物は炭素数4の物質であることから、こう呼ばれる
   植物の大部分はC3植物です
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C3植物
   大気中のCO2を直接カルビン回路にとり込むことによって光合成を行なう植物
   CO2がカルビン回路に取り込まれてC3化合物(3炭素)が最初にできる
   ここで働く酵素(Rubisco)の効率が、低CO2や高温環境下では悪化する
   (光呼吸)という欠点がある
   陸上植物の大半がC3植物です
   イネ、ムギ、ダイズなど
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C4植物
   大気中のCO2をまずC4光合成回路にとり込み、
   続いてカルビン回路で再固定する植物
   CO2を取り込み、C4化合物(4炭素)をつくる専用の回路を葉肉細胞に持つ
   エネルギーを消費するが、C3植物の欠点を解消できる
   カルビン回路は維管束鞘細胞で主に働く
   サトウキビ、トウモロコシなど
   葉緑体1:葉肉細胞の働き:CO2濃縮、C4回路、光化学系(チラコイド反応)
   葉緑体2:維管束鞘細胞の働き:有機物を合成、C3回路
  ※葉緑体1はC4植物のみが持ち、C4回路からC3回路にCO2を送り込む
   C4回路:回路の途中でCO2を放出します
       放出されたCO2は、C3回路に固定され直す仕組みになっています
       こうした植物の葉では、C4回路の働く細胞(葉肉細胞)と
       C3回路の働く細胞(維管束鞘細胞)に分かれていることが特徴的です
   C3回路:カルビン回路をC3回路と呼ぶ
   葉緑体1                 葉緑体2              
  ┌─────────────────┐  ┌─────────────────┐
  │葉肉細胞     ピルビン酸   │  │維管束 グルコース←┐      │
  │   PEP C3←────C3     │  │鞘細胞  ┌────┴┐     │
  │     │     ↑     │  │     ↓     │     │
  │     │(C4回路)│     │  │   RuBP C5(C3回路)C3 GAP   │
  │   CO2→┤(明反応)│…………………………………→│(暗反応)↑     │
  │     ↓     │   CO2 │CO2 │有機物  ↓     │     │
  │     C4────→C4   濃縮 │  │を合成  ●─→C3─┬┘     │
  │   オキサロ酢酸 リンゴ酸    │  │    ルビスコ PGA └→H2O    │
  └─────────────────┘  └─────────────────┘
   C4回路:ハッチ=スラック回路 (明反応) C3回路:カルビン・ベンソン回路(暗反応)
   ピルビン酸:オキソプロパン酸 (C3H4O3) RuBP:リプロース二リン酸   (C5H12O11P2)
   PEP :ホスホエノールピルビン酸(C3H5O6P) PGA :ホスホグリセリン酸   (C3H7O7P)
   オキサロ酢酸:オキソブタン二酸(C4H4O5) GAP :グリセルアルデヒドリン酸(C3H7O6P)
   リンゴ酸:オキシコハク酸   (C4H6O5)
   ※1:C4回路:ハッチ=スラック回路=C4-ジカルボン酸回路
   ※2:C3回路:カルビン・ベンソン回路=還元的ペントース・リン酸回路
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CAM植物
   CAMは crassulacean acid metabolism の略
   夜は気孔を開き、昼は気孔を閉じて水の蒸散を防ぐ
   砂漠などの水分が乏しい環境において、水分ストレスを緩和するために発達した
   夜のうちにCO2を取り込み、昼にそれをもとにして光合成を行います
   乾燥に強い
   パイナップル、サボテン、ベンケイソウなど
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光合成

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光合成とは(光エネルギー+水→炭水化物)
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光合成とは、
   光エネルギーを化学エネルギーに変換して生体に必要な有機物質を作り出す反応過程をいう
      葉緑体をもつ一部の真核生物(植物、植物プランクトン、藻類)や、
      原核生物であるシアノバクテリアが行う例がよく知られている
      これらの光合成生物は、光から得たエネルギーを使って、
      二酸化炭素からグルコースのような炭水化物を合成する
      この合成過程は炭素固定と呼ばれ、
      生命の体を構成するさまざまな生体物質を生み出すために必須である
      また、生物圏における物質循環に重要な役割を果たしている
   光合成は、
      狭義では光エネルギーを利用した炭素固定反応のみを指すが、
      広義では光エネルギーを利用した代謝反応全般を指す

   光エネルギーを利用する生物は一般に光栄養生物と呼ばれ、
   光エネルギーを利用して二酸化炭素を固定する光独立栄養生物と、
   光からエネルギーは得るものの、
      炭素源として二酸化炭素ではなく有機化合物を用いる光従属栄養生物に分かれる
      狭義では光独立栄養生物のみを光合成生物とするのに対して、
      広義では光栄養生物と光合成生物は同義となる
         ┌→光独立栄養生物
   光栄養生物─┤        
         └→光従属栄養生物
   多くの光合成生物は炭素固定に還元的ペントース・リン酸回路(カルビン回路)を用いるが、
   それ以外の回路も存在する
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光合成の種類 酸素(酸素発生型、酸素非発生型)、色素(クロロフィル型、レティナル型)
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光合成は、反応過程で酸素分子を発生するか否かで、
   酸素発生型および酸素非発生型の大きく2種類に分けられる
   酸素発生型および酸素非発生型の光合成システムは互いに一部相同で進化的に関連しており、
   現在の地球上で支配的なのは、植物やシアノバクテリアが行う酸素発生型光合成である
       ┌→酸素発生型 
   光合成─┤       
       └→酸素非発生型
   酸素発生型の光合成の普及に伴い、
   本来酸素のほとんど存在しなかった地球上に酸素分子が高濃度で蓄積するようになり、
   現在の地球環境が形作られた
   光合成を利用した炭素固定によって1年間に地球上で固定される二酸化炭素は約1014kg、
   貯蔵されるエネルギーは約1018kJと見積もられている
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また、使用される光合成色素の種類によっても、
   クロロフィル型およびレティナル型が知られている
   クロロフィルおよびレティナルに基づく光合成はまったく異なる起源と仕組みをもつ
      光合成という場合、ほとんどはクロロフィルを用いたシステムを指し、
      レティナルを用いたシステムは含まれない場合が多い
   これは酸素発生の有無に関係なく、
   クロロフィルを用いた光合成が広く炭素固定に利用されるのに対し、
   レティナルを用いた光合成で炭素固定に用いられている例が一切知られていないためである
            ┌→クロロフィル型
   光合成色素の種類─┤        
            └→レティナル型 
   レティナルはロドプシンと呼ばれるタンパク質に内包されており、
   光検知など代謝エネルギーの獲得以外の用途でも使われる(光受容体)
   ※1:クロロフィル=葉緑素
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光合成の分類(光化学系I、光化学系Ⅱ)
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   広義の光合成は真核生物、細菌、古細菌すべてに分布している
   狭義では真核生物および細菌に限定される
   クロロフィルを用いる光合成生物のうち、光合成真核生物以外は光合成細菌と総称される
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クロロフィル型光合成における光化学反応には2つの機構(Photosystem; PS)が知られており、
   それぞれ光化学系I(PSI)および光化学系Ⅱ(PSⅡ)と呼ばれる
      酸素発生型光合成ではPSIとPSⅡが連結して用いられるのに対し、
      酸素非発生型光合成ではどちらか一方しか使用されない
              ┌→光化学系I(PSI)
   クロロフィル型光合成─┤          
              └→光化学系Ⅱ(PSⅡ)
   酸素発生型光合成は全ての生物にわたって反応中心、電子伝達系などの類似性が高い
      唯一、集光色素のみがかなり異なっており、クロロフィルではクロロフィルaのみ、
      アンテナ色素であるカロテノイドではβ-カロテンのみが共通している
   酸素非発生型の光合成細菌はクロロフィルの代わりに、
      構造的に類似したバクテリオクロロフィルを用いる
      酸素非発生型の光合成細菌は多くが嫌気性であるため、
      今日の地球においては限られた生態系でのみ見られる

   すべての酸素発生型の光合成生物は、還元的ペントース・リン酸回路により炭素を固定する
   一方、酸素非発生型の光合成生物は、
      還元的ペントース・リン酸回路の他に還元的クエン酸回路(緑色硫黄細菌)
      および3-ヒドロキシプロピオン酸二重サイクル(一部の緑色非硫黄細菌)を用いる
   ※1:還元的ペントース・リン酸回路=カルビン回路
   ※2:還元的クエン酸回路=還元的TCA回路
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レティナル型光合成は、クロロフィルを用いる光合成とは全く異なる機構で動いており、
   別個に誕生し進化したと考えられている
   レティナルを含有するロドプシンは光合成以外にも、
      イオン・ポンプや光受容体など複数の機能を有しており、
      その元来の機能は光合成ではなかった可能性がある
   ロドプシンのアミノ酸配列の相同性から、複数のカテゴリーが存在する
      このうち、プロトン・ポンプとして機能するものは、
      古細菌、細菌、真核生物すべてのドメインに分布している
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各光合成の収支式は以下の通りである
   一般式
      CO2+2H2D(電子供与体)→ (CH2O)n(炭水化物)+H2O+2D(酸化を受けた電子供与体)
   酸素発生型光合成
      6CO2+12H2O→C6H12O6+6H2O+6O2
   緑色硫黄細菌
      6CO2+12H2S→C6H12O6+6H2O+12S
   紅色非硫黄細菌
      6CO2+12CH3CHOHCH3(イソプロパノール)→ C6H12O6+6H2O+6CH3COCH3(アセトン)

酸素発生型光合成は緑色植物の光合成経路である
   緑色植物の光合成経路は他の酸素発生型光合成生物のものと共通であると考えられている
   酸素発生型光合成経路の最大の特徴は
   「水分子を電子供与体として用いることができる」という点である
   水は、酸化還元電位の高い酸素原子と、それの低い水素原子の結合した安定な物質である
   この水の光分解によって、酸素分子が副産物として生成する
酸素非発生型の光合成では水を電子供与体として用いることがないため、酸素も発生しない

光合成は、光化学反応と炭素固定回路の2つの段階に大別される
   炭素固定自体は光を必要としないため、
      光化学反応を明反応
      炭素固定を暗反応と呼んで区別する場合がある
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植物細胞中の葉緑体
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緑色植物において、光合成が行われるのは細胞小器官の一つである葉緑体である
   葉緑体は細胞内に1個から1000個ほど存在し、大きさも形も様々だが、
   平均的な形状は、長さ約5μmの回転楕円体状である
   葉緑体は、全透性の外膜と半透性の内膜の2枚の膜で囲まれている
   内膜の内部のことをストロマと呼ぶ
   ストロマには酵素、DNA、リボソーム、そして膜で囲まれたチラコイドがある

チラコイド膜の内部はチラコイドルーメンと呼ぶ
   チラコイドは積み重なってグラナを構成し、グラナ同士は所々でチラコイドラメラ
      (またはストロマチラコイド=ストロマラメラ)で繋がっている
   ストロマラメラは、葉緑体内部のストロマと接触しているチラコイド膜の領域を指します
   グラナを形成していない単層のチラコイドで、ストロマチラコイドとも呼ばれます
   葉緑体の中のグラナの数は、10箇所から100箇所程度である
   チラコイド膜は、葉緑体の内膜が陥入して作られる
   チラコイド膜の組成は特殊で、リン脂質は1割しかない
   チラコイド膜で最多の構成成分は、
   全体の8割を占める糖脂質(ガラクトシルジアシルグリセロールと
   ジガラクトシルジアシルグリセロール)である
   そして残りの1割は、スルホリピド(6-スルホキノボシルジアシルグリセロール)
   とキノボース(6-デオキシグルコース)である
   チラコイド膜の脂質は高度に不飽和であるため、流動性が大きい

葉緑体は光の強弱に反応して細胞内を移動でき、
   強光下では光を避け、弱光下では光を捕集するように配置を変える
   光の強さを検知しているのは、青色光受容体(フォトトロピン)である
   なお、葉緑体の運動には、アクチンと言うタンパク質が関与する
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チラコイド膜では、クロロフィル(光合成色素)が光エネルギーを使って水を分解し、
   プロトン(H+)と酸素分子(O2)と、そして電子(e-)を作る
   この際にできた電子によって、NADP+(酸化型)から、NADPH(還元型)が作られる
   さらに、チラコイド膜内外のプロトン濃度勾配を利用して、
   ATP合成酵素によってアデノシン三リン酸 (ATP) が作られる
   以上が光化学反応(明反応)である
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次にチラコイド膜の外側にあるストロマで、
   光化学反応で作られたNADPHとATPを使って二酸化炭素を固定・還元して糖が作られる
   この一連の反応は酵素反応(暗反応)である
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   このように光エネルギーを使って水を酸化し、二酸化炭素を還元して、
      スクロース(ショ糖)を生成する反応が、葉緑体の中で完結する
   なお、こうして生成したスクロースは、デンプンの形にして貯蔵する植物が多いものの、
      例えば、サトウキビなどのようにスクロースのまま貯蔵する植物や、
      スクロースを分解してグルコースやフルクトースの形で貯蔵する場合もある

葉緑体を持たない光合成細菌の場合、細胞膜か細胞膜が陥入してできたクロマトフォアで
   光化学反応が行われる
      シアノバクテリア以外の光合成細菌は光化学系を1つしか持っておらず、
      電子は光化学系内を循環する(循環的光リン酸化)か、
      非循環的に酸素やNADP+に電子伝達される(非循環的光リン酸化)
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葉緑体の構造
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光合成は葉緑体で行われます(葉緑体は光合成を行う最小単位です)
   ここでは、葉緑体の形態を主に紹介しましょう
   通常、断面図が描かれることが多いため、葉緑体は棒状だと思われがちですが、
   高等植物の場合、葉緑体は扁平であることが多いようです
     葉緑体──┬─二重膜─┬─外膜(全透性) 
   (細胞小器官)|     ├─膜間腔     
          |     └─内膜(半透性) 
          ├─ストロマ(房水)      
          ├─グラナ(チラコイドの集積体)
          ├─ラメラ(チラコイドの集合体)
          ├─チラコイド膜(葉緑素を含む)
          └─ルーメン(チラコイド内腔) 
葉緑体の構造
   膜間腔   内膜  ストロマ(内膜の内側)               
    :    :    :                        
   ┌:────:────:───────────────────────┐
外膜→│:    ↓    :                       │
   │↓┌────────:─────────────────────┐ │
   │ │        :                     │ │
   │ │        ↓   ┌───┐  ┌───┐      │ │
   │ │            │   │  │   │      │ │
   │ │            ├───┤  ├───┤┌───┐ │ │
   │ │            │   │  │   ││   │ │ │
   │ │ ┌───┐      ├───┤  └───┘├───┤ │ │
   │ │ │   │      │   │     \\│   │ │ │
   │ │ ├───┤──────├───┤      \├───┤ │ │
   │ │ │   │──────│   │       │   │ │ │
   │ │ ├───┤      ├───┤┌───┐  ├───┤ │ │
   │ │ │   │………………│   ││   │  │   │ │ │
   │ │ └───┘:┌───┐:└───┘├───┤  ├───┤ │ │
   │ │   \\ :│   │:  \\ │   │  │   │ │ │
   │ │    \\:├───┤:   \\├───┤ /├───┤ │ │
   │ │     \:│   │:    \│   │//│━━━│ │ │
   │ │       :├───┤:      ├───┤/↑└─↑─┘ │ │
   │ │      :│   │:     │   │ :  :   │ │
   │ │      :└───┘:     └───┘ :  :   │ │
   │ │      ………………       ↑   :  :   │ │
   │ │        ↑          :   :  :   │ │
   │ └────────:──────────:───:──:───┘ │
   │          :          :   :  :     │
   └──────────:──────────:───:──:─────┘
              :          :   :  :      
             グラナ      チラコイド ラメラ ルーメン(チラコイドの中)
          (チラコイド集積体)       (グラナ間)            
葉緑体は包膜で包まれています
   包膜は二重の生体膜からなります
   外膜 :透過性の良い外部境界膜
   膜間腔:ぴったりくっついているため二重に見えるわけではないようです
   内膜 :透過性の低い内部境界膜
   包膜上には様々なイオンなどのトランスポータがあります

葉緑体内部にはチラコイド膜と呼ばれる膜構造があります
   チラコイド膜は袋状に閉じていて、内部と外部はそれぞれ隔離されています
   チラコイド膜の外側をストロマ、内側をルーメンと呼んでいます
      ストロマにはカルビンサイクルがあります
      ルーメン(チラコイド内腔)とは、チラコイド膜で囲まれた内側の部分です
      光化学系Ⅱの水分解反応やプラストシアニンによる電子伝達の場となります

チラコイド膜は層状に重なったグラナとよばれる構造を作ります
   チラコイドが10~100個積み重なりグラナという構造をとっています
   このグラナ構造は座布団が積み重なっているように見えますが、
   座布団と違って、一つのグラナのチラコイド膜はつながっています
   グラナの積み重なりの維持にはマグネシウムイオンが必要で、
   チラコイド膜をマグネシウムイオンがないバッファに入れてやるとグラナは解消されます
   グラナ部分のチラコイド膜をグラナチラコイド
   それ以外の部分のチラコイド膜をストロマチラコイドと言います
   グラナを形成していない単層のチラコイドをストロマチラコイドと言う

ラメラとは、葉緑体にある長く延びたチラコイドの集合体です
   グラナ間はストロマラメラで連結されています
   ラメラは、ポリガラクツロン酸(D-ガラクツロン酸)と炭水化物の混合物で構成されています

チラコイド膜には4つの大きなタンパク質複合体が存在します(光化学系I・Ⅱ・シトクロムb/f・ATPase)
   これらの複合体の膜状の分布は均一ではありません
   光化学系Ⅱのほとんどは、グラナ中のチラコイド膜とチラコイド膜が接している部分に分布します
   光化学系Ⅱの一部・光化学系I・ATPaseはストロマと接している側にのみ分布します
   シトクロムb/f複合体のみはどちらの領域にも分布しています
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光化学反応(明反応)
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   光化学反応とは光エネルギーを化学エネルギーに変換する系である
      狭義には光エネルギーが関与する光化学系Ⅱ(PSⅡ)および光化学系I(PSI)
          反応を指すが、
      広義には光化学反応に関わる電子伝達系の全体の反応を指す
   光化学反応は、光化学系Ⅱ(PSⅡ)、シトクロムb6f、光化学系I(PSI)
      の3種のタンパク質複合体で構成され、これらは全てチラコイド膜に存在する
      PSⅡとシトクロムb6fの間はプラストキノン(PQ)、
      シトクロムb6fとPSIとの間はプラストシアニン(PC)で結ばれている
   PSⅡに光(hν)が当たることによってH2OからNADP+に電子が流れ、
      プロトンがチラコイドルーメンに取り込まれる
   また、酸素発生複合体(OEC)によって水が分解されて酸素が発生する際にも、
      プロトンがチラコイドルーメンに生成する
   チラコイドルーメンとストロマの間にできたプロトンの濃度勾配の浸透圧エネルギーによって、
      ATP合成酵素がATPを合成する
      ATP合成酵素は1秒間に17回転し、
      ADPと遊離したリン酸からATPを合成しているのである

   光化学反応の収支式は以下の通りである
      12H2O +12NADP+→6O2 +12NADPH +12H+(in)
      72H+(in) +24ADP +24Pi→72H+(out) +24ATP
   生成したNADPHおよびATPは、ストロマにて行なわれるカルビン回路で使用される
      なお、生じるATP数は理論的な数であり、
      実際にはプロトンの漏れがチラコイド膜外に発生していると見られ、
      24ATPを生じているとは考え難い
      事実、カルビン回路に使用されるATP数は、光化学反応で生じるATP数よりも少ない
   ※1:プロトン(水素原子)=陽子
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Z機構
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   電子伝達系での電子のエネルギー勾配を示すZ機構
   植物では光化学反応は葉緑体のチラコイド膜で起こり、光エネルギーを使って
   ATPとNADPHを合成する
   狭議の光化学反応は、非循環的電子伝達系循環的電子伝達系の2つの過程に分けられる
            ┌→非循環的電子伝達系
   狭議の光化学反応─┤          
            └→循環的電子伝達系 
非循環的電子伝達系では、プロトンは光化学系Ⅱ内のアンテナ複合体に
   光が捕獲されることによって獲得される
   光化学系Ⅱの光化学系反応中心(RC)にあるクロロフィル分子がアンテナ色素から
   充分な励起エネルギーを得られると、
   電子は電子受容体分子(フェオフィチン)に運ばれる
      この電子の動きを光誘起電荷分離と呼ぶ
      この電子は電子伝達系を移動するが、これをエネルギー勾配で表したのがZ機構である
   ATP合成酵素はエネルギー勾配を使って光リン酸化によってATPを合成するが、
      NADPHはZ機構の酸化還元反応によって合成される

   電子が光化学系Iに入ると、再び光によって励起される
      そして再びエネルギーを落としながら電子受容体に伝えられる
      電子受容体によって作られたエネルギーは、
      チラコイドルーメンにプロトンを輸送するのに使われている
      電子はカルビン回路で使われるNADPを還元するために使われる

循環的電子伝達系は非循環的電子伝達系に類似しているが、
   これはATPの生成のみを行いNADPを還元しない、という点が違う
   電子は光化学系Iで光励起されて電子受容体に移されると、再び光化学系Iに戻ってくる
   ゆえに循環的電子伝達系と呼ばれるのである
   ※1:Z機構=Zスキーム
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還元的ペントース・リン酸回路(暗反応)
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カルビン回路
   還元的ペントース・リン酸回路は、CO2の固定・還元を行なう代表的な炭酸固定反応である
   NADPHとATPを使って、CO2から炭素数3つの化合物である、
      グリセルアルデヒド3-リン酸を合成する過程である
      カルビン回路の産物として得られたグリセルアルデヒド3-リン酸は、
      葉緑体内でスクロースに変換され蓄積する

   還元的ペントース・リン酸回路は複数の酵素と中間代謝物からなる複雑な回路であり、
      リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RubisCO)を初発酵素とし、
      炭素数5の化合物リブロース1,5-ビスリン酸と二酸化炭素から、
      炭素数3の化合物3-ホスホグリセリン酸2分子を生成する二酸化炭素の固定反応から始まる
      3-ホスホグリセリン酸は還元され、グリセルアルデヒド3-リン酸を生成する
      二酸化炭素の固定反応を継続するためには、
      産物として生じたグリセルアルデヒド3-リン酸から、
      RubisCOの基質であるリブロース1,5-ビスリン酸を再生産しなければならない
      このため、5分子のグリセルアルデヒド3-リン酸(炭素数3の化合物)が、
      3分子のリブロース1,5-ビスリン酸(炭素数5の化合物)へ転換される
   これら一連の「二酸化炭素の固定・還元・基質の再生産」の過程が
   還元的ペントース・リン酸回路を構成する
      したがって、カルビン回路が3回転した結果、3分子の二酸化炭素が固定され、
      1分子のグリセルアルデヒド3-リン酸を生成する
      この過程で、光化学反応によって作ったNADPHおよびATPが消費される

   収支式で示すと以下の通りである
      3CO2+5H2O+6NADPH+9ATP→グリセルアルデヒド3-リン酸+6NADP++9ADP+8Pi
   光化学反応を含めて光合成の収支式は、以下のようにまとめられる
      6CO2+12H2O→(CH2O)6+6H2O+6O2
   この式は好気呼吸の収支式の逆反応であり、
   炭素消費および固定の収支が極めて巨大な生態系視野でもうまく行くことが理解できる
   ※1:還元的ペントース・リン酸回路=カルビン回路
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光合成の起源
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   酸素発生型光合成では2つの光化学系PSIとPSⅡが連結して用いられるのに対し、
   酸素非発生型光合成ではどちらか一方しか使用されない
      そのため一般には、PSIおよびPSⅡを用いる酸素非発生型の光合成が
      それぞれ別個に誕生し、後に融合して酸素発生型の光合成が進化したと仮定する場合が多い
      しかし、各光化学系をもつ光合成細菌の起源は現在も不明であり、
      光合成の起源および進化の順序についてはっきりしたことはわかっていない

   酸素発生型光合成はシアノバクテリアが生み出したと現在のところ考えられており、
      このシアノバクテリアの活動によって地球の大気の組成は大きく変化したとされる
      特に約24億年前に起こったとされる地球上の酸素濃度の増加は大酸化イベントと呼ばれる

   さらに、シアノバクテリアは初期の真核生物との細胞内共生により、
      葉緑体として真核生物に取り込まれたと推定されている
      葉緑体によって酸素発生型の光合成能力が真核生物に受け継がれ、
      様々な植物プランクトン、藻類、陸上植物の誕生につながっていった
      葉緑体の成立過程については、例えばハテナが注目されている
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光合成
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光合成とは
   植物が光のエネルギーを利用して二酸化炭素CO2と水H2Oから有機化合物を合成する過程をいう
      CO2+2H2O─→(CH2O)+O2+H2O
   その反応は炭酸固定の代表的な例で、
   より一般的には、光のエネルギーを利用してCO2を還元する過程をいう
      ファン・ニールvan Nielは
      CO2+2H2A─→(CH2O)+2A+H2O
      を光合成の一般式として提唱している(1929)
   光合成細菌(緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌などの硫黄細菌、紅色無硫黄細菌)は、
      水素供与体として水ではなくH2S、H2S2O3、H2、有機化合物などを用いる
      反応は
      CO2+2H2S─→(CH2O)+2S+H2O、
      CO2+2H2─→(CH2O)+H2O
      この場合はO2の発生はない
   細菌型光合成を基礎として進化の結果、地球上に豊富に存在する水を水素供与体とする
   緑色植物型の光合成が約10億年前に出現し、地球上にO2の出現をもたらした
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緑色植物の光合成
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   緑色植物の光合成
     (1)初期光化学反応、
     (2)O2発生反応、
     (3)電子伝達反応、
     (4)光リン酸化反応、
     (5)CO2固定反応
     から成り立っている
     (1)~(4)が古典的には明反応(light reaction)と呼ばれていた系で、
     葉緑体の「チラコイド膜」に局在し、(5)は「ストロマ」に局在する
         光化学系(明反応)        カルビン回路(暗反応)
   自然界には多くの光合成色素(同化色素)が存在するが、
   その組成は光合成生物の系統、類縁によって定まっている
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クロロフィル(葉緑素)
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   光合成は同化色素が光エネルギーを吸収することによって始まる
   光量子によって励起された色素分子は、そのエネルギーを最終的に反応中心と呼ばれる
   特別なクロロフィルa(葉緑素)または(バクテリオクロロフィルa)分子に伝達し、
   そこで光化学反応が行われる
   これらの同化色素分子は、集合して機能的な単位体を作っていると考えられている
   クロロフィル約300分子に対し、反応中心のクロロフィル分子が1個あると推定されており、
   このような1組を光合成単位という

   光合成単位としては、
      主としてクロロフィルaに吸収される光によって反応が行われる
         光化学系I(PSI)に属するものと、
      主として補助色素に吸収される光によって反応が行われる
         光化学系Ⅱ(PSⅡ)に属するものとの2種がある
      PSⅠおよびPSⅡの反応中心のクロロフィルaは、光により酸化されるとき、
      吸光度減少の起こる波長の値を付して、それぞれP700P680と呼ばれる
      クロロフィルはタンパク質と結合し、
      クロロフィル-タンパク質複合体として存在し、これが一定の様式で集合し、
      それぞれPSI、PSⅡの光合成単位を構成している

緑色植物ではP700またはP680を結合したクロロフィル-タンパク質複合体、
反応中心をもたずクロロフィルaとbを1:1に含む集光性クロロフィルa/b-タンパク質複合体
      がよく知られている
      PSⅡの反応中心が励起されると、最初の電子受容体Qを還元し、
      他方、水を酸化して電子を受けとるとともにO2を発生する
      Qの電子は電子伝達系を経てP700へ渡される
      P700も光を受けると酸化され、
      電子はA1を経て最終的にNADPに渡される
   この反応経路の模式図はZのような形をしているのでZスキームと呼ばれる

   1957年エマーソンは、クロロフィルaの赤色域の吸収極大より長波長側の光(700nm)
      しか与えないと、緑色植物や藻類の光合成の量子収量が低下する(赤色低下)が、
      ここへより短波長の光(緑色植物なら650nm、紅藻なら575nm)を同時に与えると、
      光合成速度は両者を単独で与えたときの和より大きくなることを見いだした
      (エマーソン効果)
      光合成細菌ではこの現象はみられない
   エマーソンの発見がきっかけとなって、光合成の初期過程には二つの光化学系が
      あるという、現在のZスキームに至る研究が発展した
      光合成単位はZスキームの他の成分とともに、
      一定の配列でチラコイド膜に組み込まれていると考えられている
ただし、PSⅡの分布には偏りがあり、チラコイド膜同士が重なっている部分にあるといわれている
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光合成の全反応
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   発生するO2は水に由来するので、反応機構を考慮に入れた場合には
   光合成の全反応は
      6CO2+12H2O→C6H12O6+6O2+6H2O
   またNADP還元までの部分反応は
      12NADP⁺+12H2O→12NADPH+12H⁺+6O2と書く
   O2発生機構としては、2分子の水の酸化が4段階を経て行われ、
   これにマンガンMnが関与していることが知られている

Zスキームの電子伝達と共役してADP(アデノシン二リン酸)とオルトリン酸から
   ATP(アデノシン三リン酸)が合成される(光リン酸化という)
   Zスキームに沿った一方向的な電子伝達と共役するものを非循環的光リン酸化
      循環的電子伝達経路(クロロフィルから出た電子が電子伝達系の途中から
      再びクロロフィルへ返ってくる)と共役するものを循環的光リン酸化という
   前者では反応産物の比 O2:ATP:NADPHは1:2:2である
   循環・非循環両形式の比率の調節機構があるものと考えられている
   光リン酸化には、チラコイド膜の外表面(ストロマ側)に結合したCF1と、
   チラコイド膜内に結合したCF0と呼ばれるタンパク質が関与する
   電子伝達の結果生成したATPとNADPHは炭酸固定系の反応に用いられる

   RuBPC(リブロース-1、5-二リン酸カルボキシラーゼ)、
   NADP-グリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、
   リブロース-5-リン酸キナーゼなど、
   炭酸固定系の主要な酵素の活性は光によって制御される

制御機構は2種に大別される
   すなわち、光があたり光化学系が働いた結果起こる、
      (1)チラコイドへのH⁺の取込み、チラコイドからのマグネシウムイオンMg2⁺の放出、
         葉緑体へのカルシウムイオンCa2⁺の取込みによるストロマのイオン環境の変化、
      (2)チラコイドの電子伝達系の還元により酵素活性調節に関与する物質の還元、
   によって制御される
   ※1:Zスキーム=Z機構
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光合成速度
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   光合成によるCO2固定速度を光合成速度と呼ぶが、
   一般にその測定は単位時間当りのCO2の吸収量またはO2の発生量によってなされる
   このような測定値は植物が呼吸によって生じたCO2、消費したO2を差し引いたものであるから、
   〈純(あるいは見かけ上の)光合成速度〉と呼んで〈真の光合成速度〉から区別する
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   光合成速度を左右する最も大きな環境要因は「」で、
      光の強さと光合成速度の間には双曲線的な関係がみられる
      まず、光の量が増加して、真の光合成速度が呼吸速度に等しくなると、
      純光合成速度が0になる
      このときの光の強さを〈光補償点〉と呼ぶ
   光の増加とともに光合成速度は速くなるが、ある程度以上光が強くなると、
   光合成速度は飽和状態に達し、
   もはやその速度は光の量とは無関係になる
      このときの光の強さを〈光飽和点〉、
      光合成速度を〈飽和光合成速度〉と呼ぶ
   〈光補償点〉〈光飽和点〉〈飽和光合成速度〉は、植物の種によってきまっているが、
   一般に陽樹のほうが陰樹よりすべての値が高いのがふつうである
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   光合成速度を左右するもう一つの大きな要因は大気中の「CO2濃度」で、
      とくに光飽和に達して以後の光合成速度増加にとって重要である
      CO2濃度も光と同じように光合成速度との間に双曲線的な関係をもち、
      〈CO2補償点〉つまり純光合成速度が0になるCO2濃度が存在する
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C4回路
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   光合成の炭酸固定系にはカルビン回路とC4ジカルボン酸回路(C4回路)の2種類がある
             ┌→カルビン回路(C3回路)   
   光合成の炭酸固定系─┤               
             └→C4ジカルボン酸回路(C4回路)
   前者をもつ植物(C3植物)はRuBPCによってCO2固定を行う

   C4回路をもつ植物(C4植物)では、まず「葉肉細胞」でHCO3⁻を基質として
      ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)でCO2を固定し、
      オキサロ酢酸を生成し、これからリンゴ酸またはアスパラギン酸を生じ、
      これが「維管束鞘(いかんそくしよう)細胞」へ送られたのち、
      そこでこれらの化合物からCO2を放出し、これをカルビン回路で再固定する
      この反応経路のうち、カルビン回路より前の過程を(狭義のC4回路)という
      (広義のC4回路)はカルビン回路に対して、
      効率のよいCO2供給系(狭義のC4回路)が付け加えられたものである
   C4植物は維管束鞘細胞に多数の葉緑体をもつ
      C4植物は、葉肉細胞で作られたCO2固定産物から維管束鞘細胞でCO2を放出させる
      反応の種類によって三つのタイプ、すなわち
         (1)NADP-マリックエンザイム型、
         (2)NAD-マリックエンザイム型、
         (3)PEPC-ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ型に分類される

C4植物としては、イネ科、カヤツリグサ科などに属するもののほか、
   双子葉植物を含む20科1100種が知られており、熱帯原産のものが多い
   CO2補償点がきわめて低く(5ppm以下)、強光、高温、低CO2濃度中での光合成速度は
   C3植物より高い

CAM植物
   ベンケイソウ科の植物では、
   夜間に気孔が開いてCO2を吸収し、これがリンゴ酸として蓄えられ、
   昼間は気孔が閉じてリンゴ酸が減少し、デンプンを形成する
   という日変化を示すことが古くから知られており、
      この代謝形式は、ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)と呼ばれていた
   C4植物の研究の進展の結果、
      C4植物では葉肉細胞と維管束鞘細胞との協調で2種のCO2固定反応が
      空間的に分けて行われているのに対し、
   CAM植物ではこの2種の反応が夜と昼というように時間的に分けて行われる、
      すなわち
      夜間PEPCによるCO2固定が行われ、
      昼間はこのCO2がカルビン回路で再固定されることが明らかにされた
   CAM植物は乾燥に対する適応として特異的な代謝系をもつに至ったものと考えられる
   現在、ベンケイソウ科のほかサボテン科、アナナス科などの112属300種余り
   (多肉のものが多い)がCAM植物として知られている
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光呼吸
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光呼吸とは植物が光照射下において通常の呼吸(酸化的リン酸化)と異なる方法で酸素 (O2) を
   消費し、二酸化炭素 (CO2) を生成することである
   光のもとでカルビン回路に由来するグリコール酸が、
   グリコール酸経路により酸化分解される過程を光呼吸という
   RuBPCはオキシゲナーゼ活性もそなえており
   (リブロース-1、5-二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼRuBisCOと呼ばれる)、
   ホスホグリコール酸を生じる
   これが呼吸基質となりマイクロボディ(パーオキシソーム)とミトコンドリアの関与によって、
   酸化される
   光呼吸は、過剰の還元力を消費することに役だっているのではないかとも考えられているが、
   生理学的意味はまだ完全には明らかではない
      C3植物では、強光、高温、高O2濃度、低CO2濃度という条件で、
      光呼吸は増大し見かけの光合成は低下するが、
      C4植物ではCO2の回収が速いためこのような低下はみられない
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ミトコンドリア

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細胞内に存在する細胞小器官ミトコンドリア
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ミトコンドリアは、
   ほとんど全ての真核生物の細胞の中に存在する、細胞小器官の1つである
   ヤヌスグリーンによって青緑色に染色される
   ATPの生成やアポトーシス(細胞死)において重要な働きを担っている
   ミトコンドリアは、細胞内に存在する細胞小器官であり、
   1細胞あたり100個から2000個程度含まれます
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その構造としては、外膜と内膜の二重の生体膜によって囲まれ、
   内部が膜間腔とマトリクスという空間に分けられています
   マトリクス内には、ミトコンドリアDNAが存在しています
   このミトコンドリアDNAは、わずかではありますが、
   ミトコンドリアにおけるエネルギー生成に重要な遺伝情報を持っています
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一方、機能としては細胞内におけるエネルギー(ATP)生成の役割や、
   アポトーシス(細胞死)に役割を担っています
   また、運動を行う際に生体は筋肉を収縮させるための多くのエネルギーを必要とします
   このエネルギーの大部分が、
   ミトコンドリアによる有酸素性エネルギー代謝により作り出されます
      継続的な運動は、骨格筋や心筋におけるミトコンドリアの適応をもたらし、
      更なるエネルギー供給や疲労耐性を可能とします
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ミトコンドリアでは、高エネルギーの電子と酸素分子を利用して、ATPを合成する
   すなわち、ミトコンドリアは真核生物における好気呼吸の場である
   また、真核生物の細胞が有する核とは別に、
   ミトコンドリア独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)を内部に有し、
   ある程度ながら自立的にミトコンドリアは細胞内で分裂して、増殖する
   このmtDNAは、ミトコンドリア内部だけに限らず、
   真核生物の細胞全体の生命現象にも関与する

ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞には
   特に多くのミトコンドリアが存在し、細胞質の約40パーセントを占めている
   全身の平均では、1細胞中に300個から400個のミトコンドリアが存在し、
   全身で体重の約1割を占めていると概算されている
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ミトコンドリアの構造
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   ミトコンドリア─┬─二重膜─┬─外膜 
   (細胞小器官) |     ├─膜間腔
           |     └─内膜──クリステ(平板状)
           └─マトリクス   
ミトコンドリアの構造
   膜間腔  内膜         mtDNA マトリクス(内膜に囲まれた内側)
    :   :          :    :         
   ┌:───:──────────:────:────────┐
外膜→│:   ↓          :    :        │
   │↓ ┌────┐ ┌─┐ ┌─↓───┐:┌────┐  │
   │ ・│    │ │ │ │┏━ ━┓│:│  ・ │  │
   │  │┏━━┓│ │ │ │┃┌─┐┃│↓│・┌┐・│  │
   │  │┃  ┃│ │ │ │┃│↑│┃│ │・││・│  │
   │  │┃┌┐┃│ │・│ │┃│:│┃│ │・││ │  │
   │  │┃││┃│ │・│ │┃│:│┃│ │ ││ │  │
   │ ・│┃││ │ │ │ │┃│:│┃│ │ ││ │  │
   │ ・│ ││ │ │ │ │┃│:│┃│ │ ││ │  │
   │ ↑│ ││ └─┘ └─┘┃│:│ └─┘ ││ │  │
   │ :└─┘│・    ┗━━┛│:│・・  ・│└─┘  │
   │ :   └─────────┘:└─────┘     │
   │ :              :            │
   └─:──────────────:────────────┘
     :              :             
   リボソーム           クリステ            
   ミトコンドリアの直径は0.5μm程度であるが、
      その形状は、生物種や細胞の置かれている条件によって多様である
      球形、円筒形、紐状、網目状など様々な形状のミトコンドリアが存在し、
      長さが10μmに達する物も珍しくない
   1細胞あたりの数は、1つに維持されている細胞もあるが、
   多い場合では数千個のミトコンドリアが絶えず分裂と融合を繰り返している場合もある

   ミトコンドリアは外膜と呼ばれる脂質膜に囲まれており、
   その内側に、もう1枚、内膜と呼ばれる脂質膜を有する
   内膜に囲まれた内側をマトリクス、内膜と外膜に挟まれた空間を膜間腔と呼ぶ
      なお、内膜はマトリクスに向かって陥入した、クリステ(櫛)と呼ばれる
      特徴的な構造を取っている
   ミトコンドリアは照射された光を強く屈折するため、
      生きた細胞を位相差顕微鏡で観察すると、ミトコンドリアが明瞭に確認できる
      生きた細胞を観察すると、ミトコンドリアが細胞内で、伸縮したり、屈曲したりと、
      動いている姿も確認できる

外膜
   真核生物の細胞膜と同様に、ミトコンドリアの外膜の組成も、
      タンパク質とリン脂質の重量比が約1:1である
      外膜の進化的起源は真核生物の細胞内膜系だと考えられ、
      現在でも小胞体膜と物理的に関係しており、
      カルシウムシグナルの伝達や脂質の交換を行っている
   外膜にはポリンと総称される膜タンパク質が大量に存在し、分子量5000以下の分子が、
      外膜を通過できるようなチャネルを形成している
      これより大きなタンパク質は自由に出入できず、
      タンパク質のペプチド配列中に、特別な移行シグナルが付与されている場合にのみ、
      細胞質からミトコンドリア内へと取り込まれる

膜間腔
   膜間腔は、ミトコンドリアの外膜と内膜に挟まれた空間である
   外膜がポリンによって低分子を自由に透過させる性質を実現しているため、通常の状態に
   おいて、膜間腔のイオンや糖などの組成の多くは、ほとんど細胞質と同等である
   例外は、内膜の直近のプロトンの濃度のように、限られる

   その一方で、膜間腔におけるタンパク質の組成は、細胞質と大きく異なっており、
   外膜が破壊されて膜間腔に存在するタンパク質(シトクロムcなど)が細胞質へと漏れ出すと、
   細胞のアポトーシスが引き起こされる

内膜
   内膜はマトリクスと膜間腔とを隔てており、
   ミトコンドリアの機能的アイデンティティを担っている
   酸化的リン酸化に関わる呼吸鎖複合体などの酵素群が、内膜には規則的に配列している
   外膜とは対照的に、基本的に内膜は不透性であり、
      何らかの物質を内膜を横断して輸送するためには、
      それぞれの物質に対して特異的な輸送体が必要である
   呼吸鎖複合体は内膜を挟んで、マトリクスからプロトンを膜間腔へと汲み出して、
      膜間腔の側のプロトンの濃度を高め、濃度勾配が形成される
      この濃度勾配が、物質輸送やATP合成に関与している
   また、マトリクスへのタンパク質輸送装置や
   ミトコンドリアの分裂・融合に関わるタンパク質群などが存在し、
   ミトコンドリアを構成する全タンパク質のおよそ2割(150以上)が含まれている
   タンパク質とリン脂質の重量比は3:1ほどである

   内膜の進化的起源は共生細菌の細胞膜を由来としており、
      内膜に特徴的なリン脂質カルジオリピンの存在がその証左と考えられている
   一般的に内膜は内側へ向かって陥入し、クリステと呼ばれる構造を形成している
      これによって内膜の表面積の増大、ひいてはATP合成能の増大に寄与している
   外膜と内膜の表面積の比は細胞のATP需要と相関しており、肝臓では5倍ほど、
      骨格筋ではさらに大きな値である

クリステ
   クリステの形状は生物によって様々であり、平板状、管状、団扇状、などが知られている
      多細胞動物や陸上植物ではミトコンドリアの長軸に直交する平板状をしており、
      日本では、教科書などを通じて広く知られている形状である
      しかし、これはむしろ特殊な形状であり、真核生物全体を見渡すと、
      管状のクリステが一般的である
   さらに、同一個体であっても、組織によってクリステの形状が異なる場合がある
      例えば、ヒトの多くの細胞のミトコンドリアのクリステは平板状だが、
      副腎皮質や精巣や卵巣でステロイドホルモン類を分泌する細胞が有する
      ミトコンドリアのクリステは、管状や小胞状であったりする
   他にも、ラットでも、このような組織によって、
      ミトコンドリアのクリステの形状が異なっていることが確認された
   さらには、哺乳類のステロイドホルモン分泌細胞以外でも、平板状だけでなく、
      管状や小胞状のクリステも有するミトコンドリアが観察される場合もある
      これらのように例外も数多い

マトリクス
   内膜に囲まれた内側がマトリクスであり、TCA回路(別名:クエン酸回路)
      β酸化など、ミトコンドリアの代謝機能に関わる酵素群が数多く存在している
      ここにはmtDNAが含まれており、ミトコンドリア独自の遺伝情報が保持されている
      その遺伝子発現を担うために、リボソーム、tRNA、転写因子や翻訳因子なども
      存在している
      ミトコンドリア全タンパク質の6割から7割が存在しており、
      非常にタンパク質濃度の高い区画である
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ミトコンドリアの主要な機能
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   ミトコンドリアの主要な機能は、解糖系TCAサイクルなどで生成した産物を利用して、
   電子伝達系に高エネルギーの電子を送り込み、
   それを酸素に押し付けながら作り出したプロトンの濃度勾配で、
   ATP合成酵素を駆動して、ADPを酸化的リン酸化によってATPに変換する機能である
   もちろん、ミトコンドリアが関与しない解糖系のようなATP産生系も存在するものの、
   真核生物の細胞の活動に必要なATPの多くは、
   直接、あるいは間接的にミトコンドリアからATPの形で供給される
   さらにミトコンドリアで行われるTCAサイクル自体でも実質上はATPと等価なGTPも
   産生されるなどするため、比喩的に「真核細胞のエネルギーを作り出す場」などと
   説明される場合もある

   ただし、ATPやGTPの合成以外にもミトコンドリアは多様な機能を有している
      例えば、ステロイドやヘムの合成などを含む様々な代謝、
      カルシウムや鉄の細胞内濃度の調節、
      細胞周期やアポトーシスの調節などにも大きく関わっているとされる

   しかし、これらの機能を全てのミトコンドリアが担っている訳ではなく、
      機能によっては、特定の細胞でのみ動いている
   こうした様々な機能には多数の遺伝子が関わっており、
      それらに関わる遺伝子の変異が発生した細胞が自然免疫で排除されないと、
      ミトコンドリアの機能低下を招き、ミトコンドリア病を引き起こす場合がある

ATP産生
   ATP産生はミトコンドリアの主たる機能であって、
   これに関わる多くのタンパク質が内膜やマトリクスに存在している
   細胞質では解糖系が行われ、主にグルコースを代謝して、わずかなATPを合成しながら、
   ピルビン酸とNADHに分解する
   ここで、もし酸素が充分に存在しない場合には、解糖系の産物は嫌気呼吸により代謝される
   しかしミトコンドリアで酸素を用いて、これらを酸化する好気呼吸を行えば、
   嫌気呼吸と比べて効率良くATPを得られる

   嫌気性分解では1分子のグルコースから2分子のATPしか得られなかったのに対して、
   ミトコンドリアによる好気性分解によって、1分子のグルコースから約38分子のATPが合成できる
   また、ミトコンドリアでは、ピルビン酸だけでなく、脂肪酸も利用できる
      ミトコンドリアで脂肪酸はβ酸化が行われる
      ピルビン酸がアセチルCoAに変換されて、TCAサイクルに入るように、
      β酸化によって、脂肪酸は炭素鎖が2つずつ切り離されて
      アセチルCoAが生成され、同じようにTCAサイクルに入るからである

   なお、植物のミトコンドリアは、酸素が無くとも、亜硝酸を利用してある程度のATP産生が
      可能である
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細胞質での解糖系と、ピルビン酸の脱炭酸と、TCAサイクル
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細胞質での解糖系
   地球上の全ての生物で解糖系は、その反応が細胞質基質で起こる
      これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前から存在してきた、
      最も原始的な代謝系であることを反映しているのだろうと考えられている
      真核生物では、解糖系で得られた物質(ピルビン酸NADH)を、
      TCAサイクルや電子伝達系の反応を行うミトコンドリアへ輸送し、好気呼吸を行う
      細胞質の解糖系で生成されたピルビン酸は、ピルビン酸共輸送体(ピルビン酸/H+)により
         細胞質からミトコンドリアへ輸送される
      同じく細胞質で生成されたNADHはリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルにより
         ミトコンドリアへ実質的に輸送される
   ただし、グリセロリン酸シャトルで輸送される場合もあり、
      この場合にNADHは、ミトコンドリアのTCAサイクルで発生するFADH2相当に、
      ミトコンドリアでのATPの産生量は目減りする
   なお、ADPは、ATP/ADPトランスポーターにより細胞質からミトコンドリアへ輸送される
   また、H2O、O2、CO2、NH3は、そのままミトコンドリア内膜を通過できる

ピルビン酸の脱炭酸
   アセチルCoAは、好気性細胞呼吸の第2段階目である、
      ピルビン酸がピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体により脱炭酸して生成する
      この酵素反応はミトコンドリアのマトリクスで起こる
      ここで生成したアセチルCoAは、TCAサイクルに投入される

TCAサイクル
   解糖系で生じたピルビン酸は内膜を能動輸送によって透過し、
   マトリクスで酸化され補酵素Aと結合し、二酸化炭素、アセチルCoA、NADHを生じる
   アセチルCoAは、TCAサイクルへ入る基質である
   TCAサイクルの反応に関わる酵素群は、
   ほとんどがミトコンドリアのマトリクスに存在している

   しかし、コハク酸デヒドロゲナーゼだけは例外で、内膜の内側に付着しており、
      これが電子伝達系の複合体Ⅱに当たる
   TCAサイクルで、コハク酸からフマル酸に変換する際の酸化還元反応では、
   電子伝達系の複合体Iを動かすほどのエネルギーが無く、複合体Ⅱが動かされる
   その後は、いずれも電子伝達系の複合体Ⅲへとエネルギーが伝達され、ATP産生に寄与する
   なお、TCAサイクルはアセチルCoAを酸化して二酸化炭素を生じ、
      その過程で3分子のNADHと1分子FADH2、1分子のGTPを生成する
   なお、二酸化炭素はミトコンドリア外へ拡散して排出される
   TCAサイクルでは、サイクルの1回転ごとに、全ての中間体(例えば、クエン酸、イソクエン酸、
      α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸およびオキサロ酢酸)が再生される
      したがって、ミトコンドリアにこれらの中間体のいずれかを追加して加えると、
      追加された量がTCAサイクル内に保持され、中間体の1つが他方に変換されて順次増加する

   よって、それらの中間体のいずれか1つをTCAサイクルに加えれば、
      補充反応(アナプレロティック反応)効果を示す
   逆に、中間体のいずれかの除去すれば、
      消費反応(カタプレロティック反応)効果を示す
   これらの補充反応及び消費反応は、TCAサイクルの回転で、
      アセチルCoAと結合してクエン酸を形成するために利用可能な、
      オキサロ酢酸の量を増加または減少させる
      この回転量が、ミトコンドリアによるATP製造量と、
      細胞へのATPの提供量の増減を左右する
   要するに、ミトコンドリア内に存在するTCAサイクルの各種中間体の量が、
      TCAサイクルの反応速度を調節し、ATPの合成量も調節することを意味する

電子伝達系
   NADHやFADH2が有する還元力は、内膜にある電子伝達系で数段階を経て、最終的に酸素に渡される
   要するに、電子を、電気陰性度の高い酸素に押し付ける形である
   なお、NADHは、マトリクスでのTCAサイクルやβ酸化だけでなく、細胞質の解糖系でも生ずる
      細胞質で生じたNADHの還元力は、マロン酸-アスパラギン酸対向輸送系や、
      リン酸グリセロールシャトル系を通じて電子伝達系に供給される
      内膜の電子伝達系には、
      NADH脱水素酵素、シトクロームc還元酵素、シトクロームc酸化酵素が存在しており、
      プロトン(H+)を膜間腔へ汲み出す
      この過程は非常に効率的だが、不充分な反応により活性酸素種を生じ得る
      これがいわゆる「酸化ストレス」の形態の1つであり、
      ミトコンドリアの機能低下や老化に関与していると考えられている
   グルコーストランスポーターであるGLUT1を介して、デヒドロアスコルビン酸が
      ミトコンドリアに輸送され、その後アスコルビン酸に還元され、
      活性酸素によるフリーラジカルの大部分が生成される場所であるミトコンドリアに
      蓄積される
   アスコルビン酸は、ミトコンドリアの脂質膜とmtDNAを、活性酸素による酸化から保護する

   電子伝達系で、複合体I複合体Ⅲ複合体Ⅳは、電子が伝達された際に、
      ミトコンドリアのマトリクスから膜間腔へとプロトンを汲み出す
      このようにしてプロトンが膜間腔へ汲み出された結果、
      ミトコンドリアの内膜の隔てて、プロトン濃度の差(電気化学的勾配)が生じる
      汲み出されたプロトンは、ATP合成酵素を通じてマトリクスへ戻ることができ、
      この際に、電気化学的勾配のポテンシャルを使って、ADPと無機リン酸(Pi)を、
      ATPへと変換する
      生成されたATPは、ATP/ADPトランスポーターによって、
      ミトコンドリアから細胞質へ輸送され、細胞の活動エネルギー源として利用される
      この原理を化学浸透説と呼び、これをピーター・ミッチェルが最初に唱えた功績によって、
      1978年にノーベル化学賞を受賞した
      また、ATP合成酵素の反応機構を明らかにした
      ポール・ボイヤーとジョン・E・ウォーカーには、1997年にノーベル化学賞が授与された
   なお、このミトコンドリアのマトリクスで行われる脂肪酸のβ酸化によって、
      1分子のアセチルCoAを生成する反応の際に、1分子のATPを消費するものの、
      FADH2とNADHと1分子ずつ生成する
      このFADH2とNADHは、電子伝達系に使用され、より多くのATPを産生できる
   さらに、ミトコンドリアのマトリクスで生成されたアセチルCoAは、
      同じくマトリクスで行われているTCAサイクルに投入され、
      さらに、GTPやATPを産生できる

アセトアルデヒドの酸化
   ミトコンドリアにはアルデヒドデヒドロゲナーゼも発現している
      飲酒などによってエタノールを体内に摂取すると、
      肝臓などで発現しているアルコールデヒドロゲナーゼなどの作用によって代謝され、
      アセトアルデヒドが生成する
      このアセトアルデヒドを、ミトコンドリアはアルデヒドデヒドロゲナーゼで代謝して、
      酢酸に変換できる
   このミトコンドリアでのアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が遺伝的に低いヒトが、
      東洋人などの一部に見られ、そのようなヒトはアセトアルデヒドの毒性が強く出やすい
   なお、酢酸とは、炭素鎖2つの脂肪酸である
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筋肉とミトコンドリア
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   速筋線維はミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが比較的多いので白く見える
   解糖系でATPを産生し、その結果として蓄積したピルビン酸は、
      乳酸デヒドロゲナーゼで乳酸へと変換されやすい
   このような嫌気的な糖分解によるATP産生であれば、わざわざ外部から酸素を取り込む必要もなく、
      速くATPを作り出せる
   このこともあり、乳酸性閾値よりも高い運動強度では、速筋線維が多く使われるようになる
   しかしながら、この方法では長時間の運動は続けられないという欠点がある

   これに対して、遅筋線維や心筋は、ミオグロビンが多いので赤く見え、
      酸素を利用しやすい環境を備えている
      赤色の筋肉では、乳酸を作るよりは、
      解糖系の産物であるピルビン酸をミトコンドリアのTCAサイクルへ、
      解糖系で生成したNADHもミトコンドリアに渡され、ATPを合成して、
      運動のために使っている
      この方式であれば、乳酸などが蓄積しないので、
      運動強度が低い場合は遅筋線維が主として働いている
   なお、速筋線維で発生した乳酸は、血液を介して肝臓に運ばれ、コリ回路でATPを消費して
      グルコースの再生に使われることは、よく知られている
   これ以外に、乳酸デヒドロゲナーゼは、乳酸をピルビン酸に戻す逆反応も触媒できる

   遅筋線維や心筋では、
      外部から取り込んだ乳酸を、ピルビン酸に戻して、
      ミトコンドリアのTCAサイクルに投入することも行っている
   いずれにしても、主に速筋線維で蓄積しやすい乳酸の代謝には、細胞膜を通過して
   他の細胞へと乳酸が輸送される必要がある
   この乳酸の輸送は、乳酸だけでなくピルビン酸などの輸送にも関わるため、
   モノカルボン酸の輸送担体(Monocarboxylate Transporter(MCT))と呼ばれている

熱産生
   ある条件下では、膜間腔のプロトンはATP合成に関与せずに、
      促進拡散によってマトリクスに戻る場合がある
   これは「プロトンのリーク」とか「ミトコンドリアの脱共役」と呼ばれ、
   これによって蓄積されていた電気化学ポテンシャルは熱として解放される
   サーモジェニンなどの一群のプロトンチャネル(脱共役タンパク質)が媒介しており、
      筋肉の震えを伴わない熱産生に関わっている
   サーモジェニンは、
   若齢や冬眠中の哺乳類に見られる褐色脂肪組織のミトコンドリアに多く存在している
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カスパーゼカスケードとアポトーシス
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   細胞に発生したDNA損傷などのストレスは、
   アポトーシス誘導分子p53やアポトーシスを調節する
   Bcl-2ファミリータンパク質を介して、ミトコンドリアの膜電位を変化させ、
   外膜の電位依存性陰イオンチャネルが閉鎖される
   なお、ミトコンドリアの外膜の電位依存性陰イオンチャネルが閉鎖されると、
      ミトコンドリアの機能は低下する
   さらに、ミトコンドリアの膜電位の変化は、
      ミトコンドリアからのシトクロムcの漏出も発生させ、
      アポトーシスへとつながる
      シトクロムcは、細胞質に存在するApaf-1やカスパーゼ-9と結合して、
      アポトソーム(apoptosome)と呼ばれる集合体を形成する
   これによって活性化されたカスパーゼ-9が、下流のエフェクターを活性化する
   この後は、DNAが切断されて、細胞は自殺する
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カルシウム貯蔵
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   細胞内のカルシウム濃度は様々な機構によって厳密に制御されており、
      細胞中の情報伝達に重要な役割を果たしている
   細胞内のカルシウム濃度の上昇により、セカンドメッセンジャー系が起動されたり、
      筋肉の収縮が起きたりと、様々な反応が起きる
   細胞内におけるカルシウムの貯蔵場所としては小胞体が最も顕著だが、
      カルシウムの貯蔵に関して、小胞体とミトコンドリアは協調している
      というのも、ミトコンドリアは一過的なカルシウム貯蔵能を有し、
      細胞におけるカルシウム濃度の恒常性に貢献しているのである
   ミトコンドリアは迅速にカルシウムを取り込むことが可能で、
      カルシウムは内膜のカルシウム輸送体により、マトリクスへと取り込まれる
      これの動作は、ミトコンドリアの膜電位に依存している
      こうして取り込んだカルシウムを、ミトコンドリアが後々放出することで、
      カルシウム濃度の緩衝作用を果たしている
   なお、カルシウムの放出は、ナトリウム・カルシウム対向輸送、
   もしくは、カルシウム依存性カルシウム放出系によって行われる
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ミトコンドリアゲノム
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   ミトコンドリア中には、細胞核とは別に、独自のDNAが存在しており、
   これをミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ぶ
      mtDNAは、細胞核とは異なる独自の遺伝情報を持っている
      DNA分子の大きさや形状、コードされている遺伝子の数や種類などは、
      生物種によって大きく異なる
      ただ、通常はGC含量が低く(20-40%)、基本的なmtDNAは、
      塩基対が数十kb程度のDNAである
   mtDNAには、電子伝達系に関わるタンパク質、リボソームRNAやtRNAなど、
      数十種類の遺伝子がコードされている
   ヒトを含む脊椎動物のmtDNAは、真核生物の中ではかなり特殊な性質を多く持っており、
      研究はよく進んでいるものの、安易な一般化は慎まなければならない
   なお、mtDNAと、それに基づいて合成される産物の一部は、ミトコンドリアだけではなく、
      細胞表面にも所在し、mtDNAに突然変異が発生している場合には、
      自然免疫系が特異的に細胞ごと破壊して排除する
   mtDNAに突然変異が発生した場合には、ミトコンドリア病を発症する可能性もある

mtDNAの塩基対数と形状
   最も小さなmtDNAを持つ生物はアピコンプレックス門の原虫で、
      大きさわずか6kbの線状ゲノムである
      電子伝達系に関わる3つのタンパク質遺伝子と、
      断片化されたリボソームRNA遺伝子群のみが存在している
   逆に最も大きなmtDNAは、マスクメロンの持つ2400kbという巨大なゲノムである
      ただし遺伝子数は比較的多いものの、それでも100弱に過ぎず、
      大量の反復配列やグループ2イントロンなどの非遺伝子領域が大部分を占める
   ヒトを含む多細胞動物のmtDNAはいずれも比較的似通っており、
      長さ16 kb前後の単一の環状DNAで構成されている
   遺伝子は37あり、その内訳は、呼吸鎖複合体とATP合成酵素のサブユニットが13、
      tRNAが22、rRNAが2である
   遺伝子地図などでは、mtDNAが環状に表現される事例が多い
   しかし物理的に環状のmtDNAを持つ生物はごく一部に限られ、
      多くの生物では環状の基本構造からトイレットペーパーを引き出すかのように
      連続的に複製されており、その結果mtDNAの大部分は、基本単位が何度も繰り返す
      線状反復構造を有している
      また少数派ではあるものの、常に線状のmtDNAを持つ生物も存在している
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ミトコンドリア遺伝子
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   ミトコンドリアゲノムはαプロテオバクテリアから受け継がれており、
      その遺伝子発現は細菌と共通した特徴を持っており、
      真核生物の細胞核のDNAとは異なる
      例えば、複数の遺伝子がまとめて転写され、
      それが遺伝子ごとに切断されポリアデニル化されて成熟mRNAとなる点や、
      翻訳の開始にフォルミル化メチオニンが利用される点、
      細胞核に存在するようなスプライソソーム型のイントロンが存在しない点、
      などが挙げられる

   さらに、ミトコンドリアの遺伝暗号表は、
      細胞核や一般の原核生物で利用されている普遍暗号表と比べて、
      若干の差が見られる
      顕著な例として、細胞核では終止コドンであるはずのUGAが、
      ミトコンドリアではトリプトファンをコードしている場合が多いことが挙げられるものの、
      例外も多く、生物種によって少しずつ異なる暗号表を用いているのが実態である
      またミトコンドリアでは、しばしばRNA編集が行われる
      例えば高等植物のミトコンドリアでは、DNA配列上のCGGがmRNAの場合は、
      UGGと編集されてトリプトファンをコードするという例が知られている
      ただ、重要な点として、ミトコンドリアの機能に関わる全ての遺伝子が、
      mtDNAに存在しているわけではないが挙げられる
      ミトコンドリアが持つmtDNA上にコードされているミトコンドリアゲノムは、
      細菌のゲノムと比べると、遺伝子数が極端に減少している

   一方で、ミトコンドリアが必要とする大多数の遺伝子は、細胞核の側にコードされており、
      細胞質の側で転写された情報に基づいて生合成された遺伝子産物が、
      ミトコンドリアへと輸送される
      これは進化の過程で、遺伝子が細胞核へ移動したからだと考えられている
      こうした現象は、比較的よく起きた出来事だと考えられ、
      マイトソームなどのように全てのDNAを完全に失ったようなミトコンドリアも存在している

   一方で、原生生物のレクリノモナスは、
      他の生物では細胞核から輸送されているようなタンパク質の遺伝子が、
      mtDNA上に存在しており、比較的原始的なミトコンドリアゲノムを未だに保持していると
      考えられている

   ミトコンドリアには、呼吸機能に関与する疎水性のタンパク質が存在し、
   疎水性であるために輸送が難しく、これらをミトコンドリアの内部で作らざるを得ないために、
   ミトコンドリアに遺伝子が残っている理由の1つと考えられている

異数性
   1つのミトコンドリアには、2-10コピーのDNA分子が存在する
   その全てが完全に同じ情報を持つわけではなく、複数の異質のDNA分子を含んでいると
   確認されている
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ミトコンドリアの起源
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   ミトコンドリアは、リケッチアに近い好気性細菌のαプロテオバクテリアが、
      真核細胞に入り込んだ結果として獲得されたと考えられている
      リン・マーギュリスの細胞内共生説では単に好気性バクテリアが起源とされていたが、
      その後すぐの1970年代にはすでにミトコンドリアの起源が現在でいう
      αプロテオバクテリアだという意見が出た
      脱窒細菌のParacoccus denitrificansや、暗所好気条件で培養した紅色光合成細菌の
      Rhodobacter sphaeroidesは、呼吸鎖の構成や阻害剤への応答がミトコンドリアと類似しており、
      特に、シトクロムcがミトコンドリアと互換性を持つ点が注目された
      細胞核DNAにコードされているシトクロムcだけでなく、
      mtDNAにコードされているリボソームRNAの配列を使った系統解析でも
      αプロテオバクテリア起源であると示され、1980年代にはミトコンドリアの
      αプロテオバクテリア起源は受け入れられるようになった

      ただし、初期の解析では高等植物ミトコンドリアのリボソームRNAの配列が、
      他のミトコンドリアの配列と比べて進化的距離が非常に小さかったため、
      ミトコンドリアの起源は単独ではなく、
      高等植物のミトコンドリアは新たに獲得された物だという意見もあった
      しかし、こうした意見は現在では否定され、
      真核生物のミトコンドリアの起源は単一であるとされている

      もっとも、αプロテオバクテリアは非常に多様な細菌を含む分類群であり、
      その中でどのような細菌がミトコンドリアの起源なのかについては、長く議論が続いている
      初期には前述の通り脱窒細菌や光合成細菌が起源だと考えられていたが、
      シャペロニンHsp60(GroEL)を用いた系統解析によりリケッチアが最も近縁であると
      示されてからは、これが有力説となった

   リケッチアは、細胞内寄生生物である点、
      TCAサイクルを持ち好気呼吸ができるのに対して解糖系を持たない点、
      細胞膜にADP/ATP輸送体を持っている点、ゲノムが小さくAT含量が高い点など、
      ミトコンドリアと共通した特徴が複数見られる
   1998年に発疹チフスを引き起こすリケッチアの1種であるRickettsia prowazekⅡのゲノムが
   解読され、祖先的とされるReclinomonas americanaのミトコンドリアゲノムと共通している
   遺伝子や、配置順が保存された遺伝子群などが見出され解析された
   その多くはミトコンドリアがリケッチアに近縁であるという仮説を支持する結果であったが、
      ADP/ATP輸送体については、予想に反して起源を異にしていると示された
   20世紀末から21世紀初頭にかけて、世界中の海洋には自由生活性で浮遊性の細菌ペラジバクター
   (暫定的にCandidatus Pelagibacter ubiqueと命名されている)が存在していることが
   明らかとなった
   ペラジバクターはリケッチア目の中で、最も祖先的な位置から派生したと考えられる生物であり、
   ミトコンドリアの起源を、ペラジバクターとその他一般的なリケッチアとの間に求められる
   なお、アメーバに似た原生生物であるペロミクサや微胞子虫など、
      原生生物の中はミトコンドリアを持っていないものもいる

生物の系統との関係
   ミトコンドリアの特徴は、動物、植物、菌類にほぼ共通であるが、
      それ以外の原生動物では、若干異なった形状の物がある
   特にクリステの形については、明らかに異なった形状のミトコンドリアが見られる
      ヒトなどの一般のミトコンドリアでは、内膜がひだのように折れ曲がり、
      クリステは平坦な板のような形をしている
      しかし、粘菌類の場合、クリステは内膜から内部へと放射状に入り込む管の形で、
      管の表面にATP合成酵素の手段が並んでいる
      また、内部の中央にDNAを含んだ塊があって、ミトコンドリア核と呼ばれる
      このような、管状のクリステを持つミトコンドリアは、繊毛虫やアピコンプレックス類、
      アメーバ類、クロララクニオン藻類などの原生生物にも見られる
      また、ミドリムシ類とトリパノソーマでは、クリステは団扇型である
      これらのミトコンドリアは、細長くて枝分かれをして、細胞内に広がっている
      トリパノソーマでは、鞭毛の基部にキネトプラストと呼ばれる袋状の構造が知られており、
      その中の顆粒にはDNAが含まれているが、これはミトコンドリアの一部である
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活動エネルギーを生み出すミトコンドリア
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   人間の体は、37兆個とも60兆個ともいわれる膨大な数の細胞でできています
   では、これらの細胞は、どこから活動のエネルギーを得ていると思いますか?
      細胞を動かすエンジンの役割を果たすのが、ミトコンドリアです
      ミトコンドリアは、1つの細胞の中に1つしかない場合もありますが、
      多い場合は数千個含まれており、細胞の活動エネルギーとなるアデノシン3リン酸
      (ATP)を合成します
      細胞の活動に必要なエネルギーの90%以上はミトコンドリアで生産され、
      それぞれの細胞に供給されています
   ミトコンドリアがしっかりと働いてくれることで、それぞれの細胞が元気よく役目を果たし、
   生命が維持されるのです

ミトコンドリアが生み出すエネルギーで免疫システムも機能する
   ミトコンドリアは、免疫機能にも大きな役割を果たしています
   ウイルスや細菌などの異物が体内に入ってくると、防御機能を持った細胞が複雑に関係しながら
   病原体を撃退し、体外へ排出しようとします
   このような体の反応を「免疫」といい、免疫反応を担う細胞を「免疫細胞」といいます
      体内に入ってきた異物を即座に攻撃する顆粒球やナチュラルキラー細胞、
      一度入ってきた異物を記憶して、2回目以降に効果的に攻撃するB細胞やT細胞などがあります
   免疫細胞も、他の細胞と同じように、
   ミトコンドリアが生産するATPをエネルギーとして働くため、
   ミトコンドリアが十分に機能することによって、
   免疫細胞にエネルギーが供給され、免疫力が維持されます

ミトコンドリアはエネルギーを作り出すだけでなく、
   ATPを作り出すとき、副産物として活性酸素も一緒に作り出します
      活性酸素は、体を酸化させてさびつかせる物質で、増えすぎるとがんや心臓病、脳卒中などの
      生活習慣病に深く関わると考えられています
      しかし、ミトコンドリアには、ビタミンEや還元型コエンザイムQ10(CoQ10)などの
      抗酸化物質が存在しているため、
      活性酸素がもたらす害を軽減する働きが備わっています
      さらにミトコンドリアは、この活性酸素を、
      病原体を駆除する際にうまく活用するしくみも持っており、免疫機能にも貢献しています
   そして、ミトコンドリアは、免疫反応全体のバランスを取る「司令塔」のような役割も担っています
      ウイルスや細菌に感染したことで細胞が傷ついた際には、他の細胞に影響を与えないうちに
      アポトーシス(個体をより良い状態に保つために、不要な細胞を死なせて除去すること)
      させたり、免疫細胞が暴走する「サイトカインストーム」を抑えたりします
   免疫老化を防ぐカギは、ミトコンドリアの活性化
   免疫力は、体力などと同じように、加齢に伴って低下します
   加齢を避けることはできませんが、
   免疫老化を少しでも防ぎ、免疫細胞の働きを元気に保つためには、
   免疫細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアを活性化する必要があります
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ATPエネルギー
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   ミトコンドリアがエネルギーを生み出すために最も重要な成分が還元型CoQ10です
      ATPエネルギーを作り出す過程で必要不可欠な栄養素(補酵素)で、
      ミトコンドリアが細胞を動かすエンジンだとすれば、
      還元型CoQ10はエンジンの動きを円滑にするエンジンオイルのような関係です
   そのほか、細胞内には「長寿遺伝子」と呼ばれ、
      寿命に関連すると考えられている遺伝子がありますが、
      還元型CoQ10はこれを活性化し、ミトコンドリアを元気にするという報告があります
      また、白血球のミトコンドリアの量を増加させる働きなども報告されています
      ミトコンドリアが働くために欠かせない還元型CoQ10ですが、
      年齢を重ねるとともに体内の還元型CoQ10量は減少するため、
      中高年になるほど、持続的に補うことが大切になります
   還元型CoQ10は、加齢だけでなく、
      脂質異常症の薬として使われるスタチンや、病気などによっても減少することが
      分かっていますので、不足が心配で補給を検討したい場合は、
      医師に相談してみるとよいでしょう
   免疫は、いざというときに慌てて備えようとしても、すぐに強化できるものではありません
   普段から免疫のシステムが働きやすい環境を整えておくことが重要です
   ミトコンドリアを活性化し、免疫年齢のアンチエイジングを図りましょう

次へ前へTOP 16.生物の増え方 生殖とは、減数分裂、無性生殖、遺伝の法則
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生殖とは

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生殖とは
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有性生殖
両性生殖
・有性生殖は雌雄2個体がかかわり、子を残す生殖方法です
 有性生殖では卵(卵細胞)と精子(精細胞)が合わさって、核の合体が行われます
 これを受精といいます
 卵(卵細胞)や精子(精細胞)のように、
 子を残すためにつくられる特殊な細胞のことを生殖細胞といいます
無性生殖 ・無性生殖は雌雄にもとづかない生殖方法のことで、子は親の体の一部からできます
 1個体のみで子をつくることができます
 無性生殖には、様々な方法があります
生殖の方法 ・生物を生殖の方法を規準にして、次の1~3のグループに分けることができます
 1 有性生殖のみ行う生物        大部分の動物
 2 無性生殖のみ行う生物        大部分の微生物
 3 有性生殖と無性生殖の両方を行う生物 大部分の植物
・多くの種子植物は花を形成し有性生殖でふえるとともに、
 イモやランナーなどによる無性生殖も行います
・ヒドラやゾウリムシのように動物や微生物でも
 有性生殖と無性生殖の両方を行うものもいます
植物の有性生殖  1つの花の中におしべとめしべがある
   両性花
 1つの個体の中に雄花と雌花がつく
   単性花
 雄花のみをつける雄株と、雌花のみをつける雌株とがある
   単性花
動物の有性生殖  1 雌の体内にある卵巣で卵がつくられる
   雄の体内にある精巣で精子がつくられる
 2 精子が泳いで卵に到達する
 3 精子が卵の中に入り、精子の核と卵の核が合体する
   これを受精という
 精子と受精した卵を受精卵という
 動物の発生の過程:受精卵~成体:体細胞分裂
          受精卵→胚→幼生→成体
単為生殖
単性生殖
 一部の動物では、雌がつくった卵が精子と受精することなく単独で発生を開始して
    成体となることがあり、これを単為生殖(単為発生)といいます
    単為生殖は1個体でなかまをふやせる点では無性生殖的ですが、
    雌がつくった卵から発生が開始するので、
    特殊な有性生殖と見なすことができます
    単為生殖を行う多くの動物は、卵と精子の受精による有性生殖も行います
 実はいろいろある単為生殖
    自家生殖(オートミクシス)
       メスでは分裂したうちの1つしか卵子にならない
       余ったほうの小さな細胞3つは極体と呼ばれる
       極体は通常、受精に関与しないが、
       極体と卵子が融合して子ができることがある
    無融合生殖(アポミクシス)
       減数分裂を経ずに、母親の染色体を2本もつ子ができる
       ケースもある
       この方式による単為生殖は、植物で多く見られる

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有性生殖と無性生殖の比較
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有性生殖無性生殖
増殖の効率能率が悪い ×
・雄と雌が出会わないと子をつくれない
・卵(卵細胞)や精子(精細胞)などの
 生殖細胞をつくる必要がある<
能率がよい ○
・1個体で子をつくれる
・体の一部が分離して子ができるので、
 わざわざ生殖細胞をつくる必要がない
遺伝子の構成新個体の遺伝子は、
 両親のものを半分ずつ受けつぐので、
 いろいろな組み合わせができる
 親や兄弟と同じではない
新個体の遺伝子は親とまったく同じ
形質新個体の形質はさまざま
 親や兄弟とすべての形質が
 同じになるわけではない
新個体の形質は親とまったく同じ
様々な環境に
対する適応力
適応力が大きい ○
・個体により少しずつ形質が違うので、
 様々な環境に適応していくことができる
適応力が小さい ×
・すべての個体の形質がまったく同じなので、
 生育環境が変化すると全滅するおそれがある
                       ↓補足
・暑さに強いもの、寒さに強いもの、乾燥に強いもの‥‥さまざまな形質を持った個体が混ざっていれば
 多様な環境に適応していく可能性が広がります
・また、たとえ生育環境が変化しても、その環境に適した形質を持つ一部の個体が生き残り、
 子をつくることによって全滅せずにすみます
・有性生殖と無性生殖どちらも有利な面と不利な面があります
 どちらがすぐれているとはいえません
・有性生殖と無性生殖の両方を行う生物は、両方を行うことによって、それぞれの生殖方法の不利な面を
 解消しているとも考えられます

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卵と精子の役割
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動物の有性生殖では卵と精子の受精が起きます
  ヒトの卵は動物の卵としてはかなり小さめですが、それでも直径が0.14mmあります
  一方、精子はべん毛(水中を泳ぐための尾)を含めても0.06mmしかありません
  ヒトの卵と精子のそれぞれの役割を考えてみよう

有性生殖によって、効率よく数多くの子を残すためには、
次の2つのことが必要になります
  1 確実に育つように、生殖細胞に栄養分を多くためる
  2 子をふやすために、なるべく多くの生殖細胞をつくる

  1を達成するには、生殖細胞をなるべく大きくする必要があります
    大きい生殖細胞は数多くつくることができません
  2を達成するには、生殖細胞をなるべく小さくする必要があります
    小さい生殖細胞は栄養分を多量にたくわえることができません

  この相反する目的をともに達成するため、
    卵と精子による受精が行われていると考えられています
    1のために大きなが、2のために小さな精子がつくられているのです
精子
・精子に比べるとつくられる数は、
 はるかに少ない
・つくられる数は、
 非常に多い
・べん毛を持たず、
 運動できない
・べん毛を持ち、
 小さく身軽なので、高い運動力を持つ
 泳いで卵に到達する
・受精後に確実に発生を進ませるために
 栄養分を多量に蓄えているので大きい
・非常に小さく、細胞質の大部分を失っている
 栄養分はほとんど持っていない

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減数分裂

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染色体と遺伝子
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・遺伝は、細胞の核内にある染色体に含まれている遺伝子が、親から子に伝わることによっておこるのです
   この遺伝子はDNAと呼ばれる物質でできています
   DNAは、細胞分裂時以外(間期)には糸状の状態で細胞核内に分散していますが、
   一定の周期で起こる細胞分裂時(分裂期)に棒状の構造へと変化して「染色体」の形になります
   染色体の数は生物の種によって決まっています
   例えば ヒトの場合、46本

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減数分裂と染色体数
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・有性生殖では、卵(卵細胞)と精子(精細胞)という2個の細胞の合体によって
   できた受精卵から子ができてきます
   では、どうして「受精」によって子の染色体数が2倍になってしまわないのでしょうか?
┌─────┐ ┌────┐
│  雌  │→│未受精卵├─┐
└─────┘ └────┘ │
 (めしべ)   (卵細胞)  │ ┌───┐ ┌─┐
              受精├→│受精卵│→│子│
               │ └───┘ └─┘
┌─────┐ ┌────┐ │
│  雄  │→│ 精子 ├─┘
└─────┘ └────┘
 (おしべ)   (精細胞) ( )は植物の場合
   有性生殖で「受精」が起きるとき、子の染色体数が親の2倍になってしまわない理由は、
   有性生殖において卵や精子ができるときには、普通の細胞(体細胞)が行う「体細胞分裂」とは異なり、
   染色体数が半分になる特別な細胞分裂が起きているのです
   この細胞分裂を「減数分裂」といいます
   例えば、ヒトの場合、体細胞の染色体数が46本なので、「減数分裂」によってつくられた卵と精子には、
   その半分の23本の染色体が含まれています
   有性生殖では「減数分裂」によって染色体数が半分になった卵と精子が「受精」すると、
   再び染色体数は親(体細胞)と同じ元の数に戻るのです
             未受精卵   
           ┌───────┐
  母親の細胞  ┌→│染色体数=23本│
┌───────┐│ └───────┘
│染色体数=46本├┤   未受精卵   
└───────┘│ ┌───────┐
         └→│染色体数=23本├─┐
           └───────┘ │    受精卵
                     │ ┌───────┐
         減数分裂       受精├→│染色体数=46本│
               精子     │ └───────┘
           ┌───────┐ │
  父親の細胞  ┌→│染色体数=23本├─┘
┌───────┐│ └───────┘
│染色体数=46本├┤     精子    
└───────┘│ ┌───────┐
         └→│染色体数=23本│
           └───────┘
・これに対して、無性生殖では親の体の一部から子ができるので「減数分裂」や「受精」は起きません
   子の染色体数はもちろん親と同じです (胞子生殖をのぞく)
             子の細胞   
           ┌───────┐
   親の細胞   ┌→│染色体数=X本│
┌───────┐│ └───────┘
│染色体数=X本├┤   子の細胞   
└───────┘│ ┌───────┐
         └→│染色体数=X本│
           └───────┘
       (体細胞分裂で細胞が2個になる)

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減数分裂と遺伝子
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・有性生殖では「減数分裂」によって卵(卵細胞)と精子(精細胞)がつくられます
   その結果、卵には母親が持つ遺伝子の半分が、精子には父親が持つ遺伝子の半分が
   含まれていることになります
   卵と精子が「受精」すると、両親の遺伝子を半分ずつ持つ受精卵ができ、
   「受精」を通して両親の遺伝子が子に受けつがれていきます
   どのような生物でも形質には多くの種類があります
   個体の特徴は様々な形質の組み合わせで決まります
   有性生殖の場合、父親から受けついだ遺伝子と母親から受けついだ遺伝子の組み合わせが
   様々になるため、同じ親から生まれた子でも異なる様々な形質を持つことになります
            未受精卵  
          ┌─────┐
  母親の細胞  ┌→│  ●  │
┌──────┐│ └─────┘
│  ●●  ├┤   未受精卵  
└──────┘│ ┌─────┐
        └→│  ●  ├─┐
          └─────┘ │    受精卵   
                  │ ┌──────┐
        減数分裂     受精├→│  ●○  │
             精子    │ └──────┘
          ┌─────┐ │
  父親の細胞  ┌→│  ○  ├─┘
┌──────┐│ └─────┘
│  ○○  ├┤    精子   
└──────┘│ ┌─────┐
        └→│  ○  │
          └─────┘
(注)染色体数は2としてある ●や○は遺伝子を示す
・これに対して、無性生殖では親の体の一部から子ができるので「減数分裂」も「受精」も起きません
   子は親とまったく同じ遺伝子を受けつぐことになります
   したがって、親と子の形質はまったく同じになります
            子の細胞  
          ┌──────┐
  親の細胞   ┌→│  ◎◎  │
┌──────┐│ └──────┘
│  ◎◎  ├┤   子の細胞  
└──────┘│ ┌──────┐
        └→│  ◎◎  │
          └──────┘
(注)染色体数は2としてある ◎は遺伝子を示す

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体細胞分裂と減数分裂
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・体細胞分裂と減数分裂の違いのまとめ
体細胞分裂減数分裂
行われる時期体細胞がふえるとき生殖細胞が形成されるとき
行われる場所 動物 体全体
植物 根や茎の先端等限られた場所で
   活発に行われ、それ以外の場所は
   ほとんど分裂しない
動物 雌 卵巣
   雄 精巣
植物 めしべ(胚珠の中)
   おしべ(やくの中)
1細胞中の染色体の数変わらない半分になる
1細胞中の遺伝子の数変わらない半分になる
分裂後の細胞の数2個4個

・減数分裂後の細胞の数
   精子:減数分裂が行われると細胞は4個できます
      動物の精子や植物の花粉は4個ずつセットでつくられます
   卵子:動物の卵や植物の卵細胞がつくられる過程でも、減数分裂によって細胞は4個できますが、
      3個が退化するため、最終的には1個になります

   精子のでき方  第一分裂  第二分裂  染色体数が半減した精子が4つできる
            等分裂   等分裂  同じ大きさの細胞に分裂する

   卵子のでき方  第一分裂  第二分裂  染色体数が半減した卵子が4つできるが、
           不等分裂  不等分裂  1つの卵に集中させる(大1個、小3個)

・減数分裂の特徴(体細胞分裂との4つの違いに注目)
   ①減数分裂は生殖細胞を形成するときに行われる
   ②複製された2本の相同染色体(形と大きさが等しい染色体が2本含まれている)どうしが
    第一分裂前期に対合し、二価染色体(相同染色体が対合してくっついている)を形成する
   ➂連続して2回の分裂が起き、その結果4つの子細胞ができる
   ④染色体数が半減する
・減数分裂時に起こる遺伝的組換えは相同染色体の対合時に起こります
   一方の染色分体のDNA鎖が切断酵素により切られ、もう一方の染色分体の相同な配列に入り込み
   そこでDNA鎖の乗り換え(繋ぎ換え)を起こして染色体の一部が入れ替わります
   この組換えにより、同一染色体に乗っている遺伝子の組み合わせが変化し、
   より多くの種類の配偶子を作り出すことが可能になります
   その結果として子孫の遺伝的な多様性を増す働きがあります
  1.まずDNAが複製されて染色体が倍加し2本の姉妹染色分体となり
  2.さらにこれらが対合して4本の二価染色分体となります
  3.この時に一方の染色分体に切断が起こり、その切断片がもう一方の染色分体の相同配列に入り込み
   遺伝的組換えを起こし、染色分体が乗り換わります
  4.このようにして新しい組み合わせの染色体を持つ配偶子(bとc)が作られます
        ┌─────┐
   母由来の─┼→ ←┼ 父由来の
        │   │
  染色体1本 │   │ 染色体1本
        │   │
        │   │
        └─────┘
            ↓DNAの複製
        ┌──────┐
        │ ■■ ■■ │1.「間期」でDNAが複製された状態
        │ ■■ ■■
        │ ■■ ■■ │ 相同染色体は細胞の中で離れている
        │ ■■ ■■
        │ ■■ ■■
        └──────┘
            ↓
        ┌──────┐
        │ ■■■■ │2.相同染色体が対合し
        │ ■■■■ │
        │ ■■■■ │ 二価染色体を形成
        │ ■■■■ │
        │ ■■■■ │
        └──────┘
            ↓遺伝的組換え
        ┌──────┐
        │ ■■■■ │3.相同染色体間に乗り換えが起こり、
        │ ■■■■ │
        │←■■■■→│ 染色体の一部が交換され、
        │ ■■■■ │
        │  │ 遺伝的組換えが行われる
        └──────┘
        /      \ 
       /  分裂1回目  \
   ┌────┐      ┌────┐
   │ ■■ │      │ ■■ │
   │ ■■ │      │ ■■ │
   │←■■→│      │←■■→│
   │ ■■ │      │ ■■ │
   │  │      │  │
   └────┘      └────┘
   /    \      /    \
  / 分裂2回目 \    / 分裂2回目 \
┌───┐ ┌───┐ ┌───┐ ┌───┐
│  │ │  │ │  │ │  │4.(bとc)は新しい組み合わせの
│  │ │  │ │  │ │  │
│  │ │  │ │  │ │  │ 染色体を持つ配偶子(精子や卵子)
│  │ │  │ │  │ │  │
│  │ │  │ │  │ │  │
└───┘ └───┘ └───┘ └───┘
  a     b     c     d

 ①この染色体で
   ┌┐
   ↓↓
  ■■■■
  ■■■■
  ■■■■
  ■■■■
  ■■■■
    ↓
   
   
   
   
     ←─➁この位置で切断し
   ←┐
    X  ├➂染色体を交換する
   ←┘
    ↓
  
  
  
  
  
   ↑↑
   └┘
 ④染色体の乗換え

組換えはいうまでもなく乗換えがその原因である
乗換え:2本の相同染色体が同一個所で切断され、
    異なった染色体がつなぎ合わされるという物理的な現象が乗換えである
組換え:配偶子の持つ特定の染色体上の遺伝子の組み合わせが両親から受け継いだ
    2本の染色体のいずれとも異なるという遺伝学的な現象が組換えである

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無性生殖

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様々な無性生殖
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分裂体がほぼ2等分されて仲間を増やす方法
              アメーバ、イソギンチャク、プラナリア
出芽体に生じた膨らみが分離して仲間を増やす方法
              酵母菌、ヒドラ、サンゴ、ホヤ
栄養生殖植物が種子によらず栄養器官から仲間を増やす方法
              イモ、むかご、ランナー、地下茎、不定芽、さし木
胞子生殖生殖細胞(胞子)をまいて仲間を増やす方法
              シダ植物・コケ植物・菌類・藻類
     コケ植物やシダ植物は胞子生殖も行いますが、通常の有性生殖も行います

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胞子による生殖
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胞子で増える生物は主に4種類
   胞子を形成する生物は、主にシダ植物・コケ植物・菌類・藻類の4種類です
   それぞれの特徴と繁殖方法を見ていきましょう
   胞子受精卵:シダ植物、藻類
   受精卵胞子:コケ植物
シダ植物 シダは、胞子でふえる維管束植物です
葉の裏の胞子のう→胞子→胞子が発芽→前葉体に成長→卵細胞・精子→受精卵→成体
コケ植物 コケもシダとともに、胞子植物に数えられ、シダとの違いは、維管束を持たない点です
雌株の卵細胞と雄株の精子が受精→受精卵→受精卵が育つ→胞子のう→胞子→胞子が発芽→成体
菌類 カビやキノコなどの菌類も、胞子でふえる生物です(キノコの傘の裏の胞子と地中の菌糸)
胞子→胞子が発芽→菌糸→菌糸体→菌糸があつまる→子実体(幼菌)→成菌
藻類 藻類とは光合成を行う生物からコケ植物・シダ植物・種子植物を除いた生物を総称する言葉です
ワカメの根元にある胞子のう(単子嚢)─→胞子(遊走子)→胞子が発芽→受精→受精卵→幼芽→成体

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遺伝の法則

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顕性(優劣)の法則
   対立形質間には顕性(優性)・潜性(劣性)の関係があり、ヘテロな組み合わせ(A,a)では、
   顕性(優性)な形質が表現型となる
分離の法則
   ヘテロの個体どうしをかけ合わせると、次世代では形質の分離が起こり、
   潜性(劣性)な形質も表現されてくる(a,a)
独立の法則
   2つ以上の形質に関する遺伝様式について、もしそれらの形質を決定する
   因子間に染色体上の連鎖がなければ、
   それらの形質は互いに独立に組み合わされた結果として表現される
      P世代     AA─┬─aa
                 │
               ┌─┴─┐
      F1世代     Aa─┬─Aa     顕性の法則 表現型(A)
                 │
             ┌──┬-┴-┬──┐
      F2世代   AA Aa Aa aa   分離の法則 表現型(A:a)=3:1

      P世代     AABB─┬─aabb
                 │
      F1世代        AaBb
                 │
F2世代   
独立の法則
F1ABAbaBab
ABAABBAABbAaBBAaBb
AbAABbAAbbAaBbAabb
aBAaBBAaBbaaBBaaBb
abAaBbAabbaaBbaabb
    表現型(AABB,AaBB,AABb,AaBb):(AAbb,Aabb):(aaBB,aaBb):(aabb)
       =AB:Ab:aB:ab=9:3:3:1
      P世代     AA    aa
              /\減数分裂/\
             A  A  a  a
             1  2  3  4
              \  受精   /
      F1世代     Aa    Aa    顕性の法則 表現型(A)
              13    24
              /\減数分裂/\
             A  a  A  a
             ①  ➁  ➂  ④
                 受精
      F2世代   AA Aa Aa aa   分離の法則 表現型(A:a)=3:1
            ①➂ ①④ ➂➁ ➁④

次へ前へTOP 17.ウイルスとは ウイルスの種類、ウイルスの増殖、ウイルスと細菌
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ウイルスとは

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ウイルスは、他生物の細胞を利用して自己を複製させる、極微小な感染性の構造体で、
タンパク質の殻とその内部に入っている核酸からなる
自力で増えることができず、動植物の細胞を借りて子孫を増やす最小単位のもの
ウイルスは1930年代に電子顕微鏡が用いられるようになったことで観察が可能になり、
その存在が知られるようになった

TOPウイルス発見の歴史TOP
1798年 牛痘の接種によって天然痘を予防する方法が確立された
1885年 病原体を弱毒化する方法を工夫して狂犬病ワクチンがつくられた
1892年 濾過性病原体としてウイルスが発見された
1898年 世界で最初に発見されたウイルスは「タバコモザイクウイルス」です
1915年 バクテリアに感染するウイルス(バクテリオファージ)が発見された
1935年 タバコモザイクウイルスの結晶化に成功
1938年 電子顕微鏡を用いてタバコモザイクウイルスの可視化に成功
1989年 家畜の口蹄疫が濾過性であることを発見(動物ウイルスの最初の発見)
2003年 ミミウイルス(巨大ウイルス)が発見された

ロベルト・コッホがまとめた、感染症の病原体を特定する際の指針
1.ある一定の病気には一定の微生物が見出されること
2.その微生物を分離できること
3.分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4.そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること

ウイルス発見の歴史:病原体→濾過性病原体→ウイルス

TOPオベリスク発見に関する論文TOP

 2024年、今回見つかった "ウイロイドのようなもの" は、ウイロイドと比べてかなり大きい
 ウイロイドに類似した存在が、植物以外に感染したことを示している初の事例です

 約3万種類の環状RNA群に、
 ①ウイルスにしては小さく、ウイロイドにしては大きいゲノムサイズ、
 ②古代エジプトの巨大な尖塔を彷彿とさせる、棒状で(ウイロイドと比べて)大きな外見、
 ③ウイロイドとは異なる新しいタンパク質を構築するための設計図(コード)を持つ、
 という共通の特徴を見出しました

 発見した環状RNA群は、ウイロイドや小さいサイズのウイルスとは全く別の存在」と考え、
 「オベリスク(Obelisk;尖塔)」と名付けました
 「オベリスク」は既知のタンパク質に似ていないタンパク質を生成することができます
 ③の新しいタンパク質をコードする領域はオベリスクRNAの約半分を占めているため、
 作り出されるタンパク質を「オブリン (Oblin)」と命名しました
 オブリンは、オベリスクの複製を担う重要なタンパク質と示唆されると言います

この研究論文はまだプレプリントの状態なので、正式な査読を受けておらず、内容が妥当か未検証です

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ウイルスの種類

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種類ゲノム・核酸科/ウイルス例感染症
DNAウイルス二本鎖DNA
dsDNA
ヘルペスウイルス口唇ヘルペス
性器ヘルペス
水痘、帯状疱疹
アデノウイルス咽頭結膜炎
ポックスウイルス天然痘
一本鎖DNA
ssDNA
バクテリオファージ多くが細菌に感染する
RNAウイルス二本鎖RNA
dsRNA
ロタウイルスA〜E型乳幼児に感染して下痢症状
一本鎖(+)鎖RNA
ss(+)RNA
SARS‐CoV‐1SARS(コロナ)
SARS‐CoV‐2COVID-19(新型コロナ)
風疹ウイルス風疹
コクサッキーウイルス手足口病
ポリオウイルス小児麻痺
A型肝炎ウイルスA型肝炎
デングウイルスデング熱
黄熱ウイルス黄熱
C型肝炎ウイルスC型肝炎
日本脳炎ウィルス日本脳炎
E型肝炎ウイルスE型肝炎
ノロウイルス感染性胃腸炎
一本鎖(-)鎖RNA
ss(-)RNA
麻疹ウイルス麻疹
狂⽝病ウイルス狂犬病
エボラウイルスエボラ出血熱
A〜D型インフルエンザウイルスインフルエンザ
ムンプスウイルスおたふく風邪
逆転写ウイルス一本鎖(+)鎖RNA(RT)
ss(+)RNA(RT)
レトロウイルスHIV(AIDS)
二本鎖DNA(RT)
dsDNA(RT)
B型肝炎ウイルスB型肝炎
カリモウイルスカリフラワーモザイク
(注)感染症法上の1類~5類該当のウイルスは上記以外にもありますが、省略しています
ウイルスは、DNAとRNAのどちらか一方しか持っていない
DNAウイルスは安定した構造のため、変異スピードが遅い
RNAウイルスは不安定な構造のため、変異スピードが速い(突然変異が起こりやすく進化が速い)
   RNAは一般に一本鎖であることもあってDNAよりも不安定な物質です
   また、DNAポリメラーゼに備わっている校正機能がRNAポリメラーゼにはないため、
   変異が起こったときに復元も困難です
   そのため、RNAウイルスのほうがDNAウイルスよりも変異頻度が高い
   インフルエンザウイルスは常にこの変異が起こっており、人の1000倍の確率で起こっている
   といわれています(通常は小規模の変異が、数十年に一度、大規模な変異を起こすことがあります)
   (+)鎖:一本鎖RNAがmRNAと同じ塩基配列であり、
       宿主細胞の蛋白質合成機能を利用してウイルス蛋白質を合成
   (-)鎖:一本鎖RNAがmRNAと相補的な塩基配列であり、ウイルス
       が持ち込んだRNA合成酵素でまずmRNAを合成したのち、
       宿主細胞の蛋白質合成機能を利用してウイルス蛋白質を合成

TOPウイルスの7つの分類TOP
二本鎖DNAウイルス:このウイルスは、感染すると多くの場合細胞の核に移行し、
    宿主の複製機構を使って増殖します
    宿主のRNAポリメラーゼを使ってmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生します
    dsDNA→mRNA
一本鎖DNAウイルス:自らのゲノムであるDNAを鋳型に二本鎖DNAを作った後に、
    ウイルスの複製を開始します
    ssDNA→dsDNA→mRNA
二本鎖RNAウイルス:プラス鎖のRNAがmRNAとなりウイルス蛋白質を作ります
    自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼを用いて粒子内で複製を行います
    dsRNA→ss(±)RNA、ss(+)RNA=mRNA
一本鎖RNAウイルスプラス鎖:ゲノム本体そのものがmRNAとして働き、
    ウイルス蛋白質を作り出します
    細胞質内で自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼで複製します
    ss(+)RNA=mRNA
一本鎖RNAウイルスマイナス鎖:まず本体であるゲノムRNAを鋳型にmRNAを作り、
    このmRNAからウイルス蛋白質を作ります、多くの場合、細胞質で複製を行います
    ss(-)RNA→ss(+)RNA=mRNA
一本鎖RNAウイルスプラス鎖逆転写:本体であるプラス鎖RNAを逆転写し、二本鎖DNAを作り、
    宿主のゲノムに組み込まれます
    ゲノムに組み込まれたDNAからmRNAを作り、ウイルス蛋白質を産生します
    ss(+)RNA-RT→dsDNA→mRNA
二本鎖DNAウイルス逆転写:二本鎖DNAではあるが、いったんRNAを作り、
    そのRNAを逆転写することでDNAを作って自らを複製していきます
    RNA-RT→ss(-)DNA→dsDNA-RT→dsDNA→mRNA
(RT):逆転写酵素をもつ(転写:DNA→RNA、逆転写:DNA←RNA)

TOPエンベロープTOP
エンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)としては、
   インフルエンザウイル、コロナウイルス、日本脳炎ウィルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、
   麻疹ウイルス、ムンプスウイルス(おたふく風邪)、エイズウイルス、エボラウィルス(エボラ出血熱)、
   B型、C型肝炎ウイルス、デングウイルス(デング熱)、黄熱ウイルス、天然痘ウイルス、など
エンベロープを持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)としては、
   ロタウイルス、アデノウイルス(咽頭結膜炎)、A型、E型肝炎ウイルス、ポリオウイルス(小児麻痺)、
   コクサッキーウイルス(手足口病)、ノロウイルス、など
   エンベロープを持たないウイルスは裸のウイルスあるいは「ヌクレオカプシド」と呼ばれる
   カプシド(キャプシド)と核酸を合わせたものを「ヌクレオカプシド」と呼びます
エンベロープを借り受けるウイルス
   D型肝炎ウイルスは単独で感染することはなく、必ずB型肝炎ウイルスと一緒に感染することです
   B型肝炎ウイルスがいないところにはD型肝炎ウイルスもいません
   D型肝炎ウイルス粒子にはエンベロープという呼ばれる「殻」があります
   しかし、ウイルスはこの殻の遺伝情報を持っていません
   実はD型肝炎ウイルスの殻は、B型肝炎ウイルスの殻を拝借したものです
   B型肝炎ウイルスが感染した細胞では殻が合成されており、
   D型肝炎ウイルスはちゃっかりとこの殻だけ利用しているのです
   いわば、B型肝炎ウイルスに寄生していると言えます
         エンベロープを借り受けるD型肝炎ウイルス
         エンベロープを貸し出すB型肝炎ウイルス

TOP逆転写TOP
RNA(リボ核酸)からDNA(デオキシリボ核酸)を合成することを逆転写という
    DNA←─RNA
       逆転写  
   レトロウイルスは逆転写酵素を働かせて自分のRNAからDNAをつくり、
   これを宿主細胞のDNAの中に無理やり押し込む
 宿主細胞      レトロウイルス
           一本鎖RNAプラス鎖
             ↓逆転写
           二本鎖DNA
             ↓宿主細胞のDNAに組み込む
┌──────────────────────────┐
宿主DNA内在性レトロウイルス(DNA)宿主DNA
│        (=プロウイルス)         │
│核                         │
└──────────────────────────┘
内在性レトロウイルス:レトロトランスポゾンの一種
           ウイルス遺伝子に長い年月をかけて欠損や変異が蓄積することで本来の機能が
           消失したと考えられている古代のレトロウイルス
レトロトランスポゾン:DNA→RNA→DNAと転写逆転写を繰り返してゲノム中で転移・増殖する
             レトロトランスポゾン
          ┌────┬────┬──────────────┐
    染色体DNA│    │////////│              │
          └────┴────┴──────────────┘
                 ↓転写 
               ┌────┐
            RNA│////////│───────┐
               └────┘  逆転写  │
             レトロトランスポゾン     ↓
          ┌────┬────┬────┬────┬────┐
    染色体DNA│    │////////│    │////////│    │
          └────┴────┴────┴────┴────┘
                       レトロトランスポゾン   

TOPウイルスの大きさTOP
10-9m     10-8m     10-7m     10-6m     10-5m     10-4m     10-3m 
─┼────────┼────────┼────────┼────────┼────────┼────────┼─
 1nm     10nm     100nm     1μm      10μm     100μm     1mm
 ↑  10分の1  ↑  10分の1  ↑  10分の1  ↑  10分の1  ↑  10分の1  ↑  10分の1  ↑  
─┼────────┼────────┼────────┼────────┼────────┼────────┼─
             ウイルス           細菌   真菌  ヒト細胞                   
 1pm:1兆分の1m   素粒子<原子<分子          小さすぎて見えない
 1nm:10億分の1m  ノロウイルス<インフルエンザウイルス 電子顕微鏡で見える ≧0.2nm
 1μm:100万分の1m 巨大ウイルス<細菌<ヒトの細胞<ダニ 光学顕微鏡で見える ≧0.2μm
 1mm:1000分の1m ほこり<米粒             肉眼で見える≧0.1~0.2mm

TOPウィルスの基本構造TOP
遺伝子の核酸(DNA/RNA)を中心にして、その周囲が蛋白の殻(カプシド)で包まれている
     カプソメア(カプソマー)というサブユニットが集合してカプシドを形成する
     カプソメアのさまざまな配置による形状は、1)正20面体、2)らせん状、3)複合体
正20面体:核酸+カプシド=ヌクレオカプシド
      外観が正20面体のカプシドの断面は正6角形

                ○      ┐
               ○  ○    │
             ○     ○   │
            ○        ○ │
            ○        ○ │
      カプソメア→○   核酸   ○ ├─ヌクレオカプシド
            ○        ○ │
            ○        ○ │
             ○     ○   │
               ○  ○    │
                ○      ┘
らせん状:核酸はらせん構造をもつ管状の蛋白カプシドによって取り囲まれている
     カプシドのタンパク質が、らせん状に積み重なっている
             ┌─────┐
             ├─────┤
             ├─────┤
             ├─────┤
             ├─────┤←中の核酸もらせん状になっている
             ├─────┤
             ├─────┤
             ├─────┤
             └─────┘
             ┌糖蛋白の突起(スパイク)で被われるものもある
ウィルスの種類によっては─┤
カプシドの外側にさらに、 └脂質と糖蛋白から成るエンベロープ(脂質二重膜)が存在する
              さらに、エンベロープの表面が、糖蛋白の突起(スパイク)で被わ
              れるものもある
ミミウイルス(巨大ウイルス)の場合、DNAコアを囲む脂質二重膜、三層のカプシドと表面繊維
核酸      :DNA/RNA、一本鎖/二本鎖、環状/線状、分節状
カプシド    :核酸を保護・調節する蛋白、多くは20面体
エンベロープ  :ウイルスの一部はカプシドの外に細胞膜・核膜様の構造をもつ
スパイク    :ウイルスの一部は表面に突起、それが細胞への結合
ヌクレオカプシド:遺伝子の核酸と核酸を包むタンパク質(カプシド)の総称
ビリオン    :細胞外におけるウイルスの状態であり、完全な粒子構造を持ち、
         感染性を有するウイルス粒子のことをいう
ウイルス粒子  :ウイルスは細胞外では粒子構造を取る

TOPウイルス粒子の代表的な形状TOP
(カプシドの形態による分類)
裸の正20面体カプシド         :正20面体ウイルス :アデノウイルス       
エンベロープを被った正20面体カプシド :球状ウイルス   :コロナウイルス       
エンベロープを被ったらせん型カプシド :卵形ウイルス   :インフルエンザウイルス   
裸のらせん型カプシド(管状/桿状)  :ひも状ウイルス  :エボラウイルス       
                    棒状ウイルス   :タバコモザイクウイルス   
バクテリオファージ:細菌に感染して細菌を破壊するウイルス                
          正20面体のカプシドを頭部とした月着陸船のような形(足は6本)    
ポックスウイルス科:明瞭なカプシドをもたず、                      
          核酸の周りをいくつかの外膜coatがとりまいて複雑な構造をしている   
外観が正20面体のカプシドの断面は正6角形、正20面体の1面は正3角形           

TOPウイルスの起源(3つの仮説)TOP
独立起源説細胞とは無関係にウイルスができた
   細胞または生物が出現する前の時代の面影をとどめたもの
   核酸(DNA又はRNA)がカプシドを獲得してウイルスになった
細胞起源説細胞の一部がウイルスへ
   細胞から逃亡した遺伝因子(DNA又はRNAが独立)
   細菌がもっていた自己複製因子(環状の小さなDNAであるプラスミド)が飛び出して
   ウイルスになった、植物細胞で散見されるウイロイドというRNAも自己複製が可能です
細胞退化説細胞からウイルスへ
   細菌のような、ウイルスより大きな病原微生物が退化した子孫
   タンパク質をつくるリボソームまで捨ててどんどんミニマリスト化した

TOPウイルスの人への感染に至るまでTOP
生物の生化学反応やウイルスなどの病原体感染は膨大な数や膨大な回数にささえられているようです
細胞内で遺伝子が複製され、タンパク質が合成されていく生化学反応も水分子の熱運動による偶然の結果です
水分子に押された遺伝子と酵素が何度も偶然にぶつかっり、くっついた瞬間に生化学反応が起こっています
ウイルスが宿主にたどりつけるかは運任せ
   口から飛び出した何千万~何億と言うウイルスのうち人の体内に達するのはごくわずか
   ウイルスが生きているうちにたまたま取り付いた細胞が、自分が感染できる細胞かどうかは
   偶然まかせです(インフルエンザウイルスは気道上皮細胞)
さらなる偶然を経て細胞に吸着
   ウイルスの鍵(スパイク)が細胞膜の特定のタンパク質の鍵穴に合致しないと吸着できません
   ウイルスは水分子の熱運動(ブラウン運動)に押されて非常に細かく振動しながら何回もトライして、
   カチッと一瞬くっついた瞬間に吸着が成立します

TOPウイルスの伝播経路TOP
垂直伝播 … 母子感染(経胎盤、経母乳、経産道感染など)、世代を超えたウイルス伝播、
       親から子へと同じ種の中で伝わる
水平伝播 … 経口感染、飛沫感染、接触感染、媒介物感染など、同世代、同一集団内でのウイルス伝播
       他の生物種へ遺伝子が移動する:あるウイルスからある生物へ遺伝子が移動
       他の生物から遺伝子を取り込む:ある生物からあるウイルスへ遺伝子が移動
       ウイルスは種をまたぐ「遺伝子の運び屋(ベクター)」
~~~~  親

          ↓垂直伝播
~~~~  子

         |
     垂直伝播| ┌─────────~~~~~
         ↓ ↓ 水平伝播  ほかの生物の遺伝子
~~~~   

TOPウイルスの増殖TOP
人への感染と増殖の方法(一般的なDNAウイルスの増殖様式)
ウイルスは単独では増殖できないので、人の細胞の中に侵入し増殖する(他者を使った自己増殖)
宿主細胞にとりつく ①吸着→➁侵入→➂脱殻→④合成→⑤成熟→⑥放出 子ウイルスが飛び出す
                     └─┬─┘
                    細胞の機能(セントラルドグマ)を使う

 ①細胞のレセプターに吸着:ウイルスの受容体(レセプター)を持つ細胞にのみ吸着できる 
   ↓ウイルス表面のスパイクが宿主の細胞表面の受容体(レセプター)に結合し細胞に吸着   
 ➁細胞内に侵入(ウイルスはそれぞれ侵入できる細胞が決まっている) 
   ↓細胞に食べられる(細胞内に取り込む)ことでウイルスが細胞内に侵入します  
   ↓エンベロープを持つウイルスは、宿主細胞膜と融合することで細胞へ侵入します 
   ↓あるいは融合せずにエンベロープごと細胞膜に覆われて侵入します       
 ➂脱殻:エンベロープとカプシドが取り除かれる     
   ↓タンパク質の殻を壊し遺伝子を細胞質内に放出                
 ④ウイルスの核酸が細胞の核に入り、ウイルスの姿が見えなくなる(暗黒期)     
   ↓放出された遺伝子を元に細胞の機能を使って核酸を複製しタンパク質を合成 
 ⑤宿主細胞の核内で複製された核酸と合成されたタンパク質から子ウイルスを組立 
   ↓一度に数が増える(細胞1個当たり10万個のウイルス):ウイルスの成熟 
 ⑥成熟したウイルスがたまると、細胞膜を壊して細胞外へ放出  
    エンベロープウイルスは細胞を壊さずにカプシドを細胞膜で包み込む出芽 
    バクテリオファージの場合は細胞を溶かすので溶菌という 
 バクテリオファージは細菌に吸着すると侵入・脱殻を一気に行う           
  … 硬い細胞壁を突き抜けて自分のDNAを注射するように注入する        


[①吸着]         ウイルスが受容体と結合
                  ↓
       細胞膜がウイルスを包み込むようにして陥没して袋を形成
                  ↓
[➁侵入]  被覆小胞として取り込まれたウイルスは細胞内部に運ばれる
                  │   (エンドサイトーシス)
[➂脱殻]      被覆小胞が破れ、↓
          カプシドが破れてRNAが放出される
                  │
            ┌─────┴─────┐
            ↓           ↓
[④合成]  リボソームで複製されたRNA リボソームで合成
            │           │
            │     ┌─────┴──────┐
            │     ↓            ↓
            │ カプシドタンパク質    スパイクタンパク質
            │     │            ↓
            └──┬──┘           小胞体
               ↓               ↓
[⑤組立]      カプシド内にRNA収納         ゴルジ体
               │               ↓
               │              細胞膜
               │               │
               └───────┬───────┘
                       ↓
[⑥出芽]       スパイクのついた細胞膜がカプシドを包み込んで出芽する

DNAウイルス(DNAしか持たないウイルス)
   増殖の際に一度RNAに変換してからタンパク質を作る
   細胞のDNA合成に関わる酵素を利用しゲノムを複製するので、
   ボックスウイルスのような自分自身のDNA合成酵素を持つもの以外は、核の中で増殖する
RNAウイルス(RNAしか持たないウイルス)
   RNAが遺伝子の役目を兼務しつつタンパク質をつくり増殖する
   RNA合成酵素はウイルスRNAを鋳型として細胞質で作られ、且つ、機能する
   従って、RNAウイルスは原則として細胞質で増殖する
   RNAウイルスとは、ゲノム複製や遺伝子発現に際してDNAが関与しないウイルスを意味する
   ものでレトロウイルスは含まない
ミトコンドリアに感染するミトウイルス
   たった1つの遺伝子しか持たないプラス鎖1本鎖RNAウイルス(コードするタンパク質は1種類)
   カプシドを持たない裸の核酸なので他の細胞に感染せず、宿主細胞の分裂に合わせて拡がる
   主に菌類のミトコンドリアに感染するが、中には植物のミトコンドリアに感染するものもいる
ウイルス以外の生物ではない病原体
ウイロイド(RNAしか持たない、ウイルスより小さい病原体)
   裸の核酸(短い環状の一本鎖RNA)のみで構成される病原体で、植物にしか感染しない
   裸の核酸=カプシドを持たない裸の核酸
プリオン(異常プリオン)は、感染性のタンパク質で遺伝子を持っていません
   ヒツジのスクレイピー、ウシの狂牛病、ヒトではクロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる
   タンパク質は、特定の形に折り畳まれています
   この折り畳まれた状態になって初めて、機能を発揮することができます
   タンパク質が正常に機能するには、
   数珠つなぎになったアミノ酸が正しく折り畳まれなければなりません
   この折り畳みをフォールディングといいます
   異常プリオンは、折り畳みがうまくいかずにミスフォールドしたものです
   正常なタンパク質が変形して(異常な形に折り畳まれ)、異常なプリオンになります

TOPウイルスの増殖を食い止める免疫TOP
主な免疫細胞:ヘルパーT細胞、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞、B細胞、キラーT細胞、好中球
   ヘルパーT細胞:B細胞やキラーT細胞に攻撃の指令を出す、免疫システムの司令塔
   マクロファージ:異物を取り込み消化する(体内の掃除役)、T細胞に異物の情報を伝える
   NK細胞   :ウイルスに感染した細胞を見つけ出し破壊する
   樹状細胞   :異物を取り込み、その情報をT細胞に伝える抗原提示細胞であり、食作用も持つ
   B細胞    :ウイルスや細菌を無毒化する抗体をつくり放出する
           一部は将来に備えて作った抗体を記憶する
   キラーT細胞 :ウイルスに感染した細胞を攻撃し破壊する
   好中球    :細菌やウイルスを取り込み酵素や活製酸素で破壊する細胞
  (好酸球    :寄生虫など大型の異物を酵素などで攻撃する)
食細胞:マクロファージ、樹状細胞、好中球 … 細菌など異物を食べる
           ウイルスは小さすぎて侵入してしまう
抗原提示細胞:マクロファージ、樹状細胞
潜伏期間が長いウイルスに感染すると免疫機能が落ちてしまい、免疫システムに必要な細胞が減少していく

第一段階の免疫システム
   NK細胞はウイルスに感染した細胞を見つけ出し破壊する
   感染細胞からはインターフェロンが分泌される
   インターフェロンが未感染の細胞に届くと未感染細胞でRNA分解酵素などが活性化される
   活性化されたRNA分解酵素はウイルスが細胞内に侵入してRNAを放出したときに
   それを分解する働きを持つ
   遺伝情報であるRNAが分解されてしまえばカプシドやスパイクのタンパク質が
   作り出せないのでウイルスは増殖できない

第二段階の免疫システム
   樹状細胞がヘルパーT細胞(リンパ球)に侵入してきたウイルスの情報を提示する
   ウイルスの情報を得たヘルパーT細胞はB細胞をプラズマ細胞と言う細胞に変化させる
   そしてこのプラズマ細胞がそのウイルスに結びつく抗体を産生する
   抗体は免疫グロブリンとよばれるタンパク質からなりY字形をしている
   Y字の先端部分はそのウイルスの形に合わせたそのウイルス専用に作られる
   そのためウイルス表面と受容体が鍵と鍵穴の関係で結合したように
   ウイルス表面と抗体の先端部分が結合する
   表面に抗体が結合したウイルスは受容体に結合できなくなったり、
   細胞膜と融合できなくなったりするため細胞内で増殖不可能となる
   しかしすでに感染してしまった細胞には抗体はあまりはたらかない
   このような感染細胞は活性化されたキラーT細胞により破壊される
   このキラーT細胞を活性化するのも樹状細胞だが、活性化には
   ヘルパーT細胞も重要な役割を果たす

NK細胞とインターフェロンによる第一段階の免疫は「非特異的免疫(自然免疫)」、
抗体とキラーT細胞による第二段階の免疫は「特異的免疫(獲得免疫)」と呼ばれる
   自然免疫で活躍する免疫細胞:NK細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球
   獲得免疫で活躍する免疫細胞:ヘルパーT細胞、B細胞、キラーT細胞
自然免疫の役割は、侵入した異物を迅速に認識して貪食し、
   さらに感染した細胞を破壊して排除することです
   マクロファージ、樹状細胞、好中球といった貪食細胞は、
   細菌などの細胞外の抗原を取り込んで処理します
   一方、がん細胞やウイルス感染細胞などは、その細胞自体を破壊する、
   あるいは増殖を抑えることが必要です
   この機能は細胞傷害性のNK細胞などが担当しています
   自然免疫のもう1つの重要な役割が、獲得免疫への橋渡しです
   この役割の主役となるのは、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞です
獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、
   同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除できる仕組みです
   自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は長く、数日かかります
   ここで活躍している免疫担当細胞は、主にT細胞やB細胞といったリンパ球です

TOPウイルスと細菌TOP
微生物細胞を持つ代謝を行う自己複製できる
ウイルス細胞を持たない代謝を行わない自力で複製できない

現在、最も広く受け入れられている「生物の定義」は、
①外界と膜で仕切られている、
②代謝(生物の生存と機能に不可欠な一連の化学反応)を行う、
③自分の複製を作る(自己複製する)、の3つです
すべての生物は細胞でできている
そして、すべての細胞は細胞膜で包まれている
代謝や複製のためには、膜で仕切られた内部が理想的な環境なのです

微生物─┬→原核生物──→細菌(単細胞)(真正細菌)
    │
    └→真核生物─┬→真菌(単細胞、多細胞)(狭義の菌類)
           │
           └→原虫(単細胞)(原生動物)

TOPウイルスと宿主の関係TOP
大きな集団で移動する動物   :カモなどの水鳥 (集団内の感染拡大+渡り鳥として世界中に分布)
大きな集団で過密状態にいる動物:コウモリ    (ウイルスの貯蔵庫、ウイルスと宿主は共生体)
密集した状態で飼育する動物  :養鶏場のニワトリ(高病原性鳥インフルエンザ、渡り鳥から感染)

ウイルスは「本来の宿主」のなかでは、比較的おとなしいものなのです
感染しても病気にならず、ウイルスと共存共栄しているのが本来の宿主
本来の宿主とは違う宿主にウイルスが取り付くと爆発的に増殖して宿主が
死んでしまう(新しい宿主が新しいウイルスとの適応能力がない)
ウイルスは自己の複製を目的にして宿主に入り込みますが、その病原性が
あまりに激烈であれば、宿主が死んで、結局自分も死滅しコピーを次世代
につなげることができなくなってしまいます
一般に、ウイルスは宿主を殺さないで、感染を維持する方向に弱毒化する
宿主と共生体のそれぞれが自身の子孫をなるべく多く残すように振る舞う
          [共生体⇔病原体]:流動的
宿主は子孫を増やしたい →せめぎあい← ウイルスは子孫を増やしたい

TOPウイルスと人間TOP
ウイルスがもつ病原体としての側面
   インフルエンザウイルス:潜伏期間(1~2日)が短い、増殖が非常に速い
      インフルエンザウィルスが1個、体に侵入すると鼻や喉の粘膜から約10分で体の細胞に入り、
      8時間後には100個、16時間後には1万個、24時間後には100万個に体内で増殖します
      ウィルスの数が数千万個に増えると症状が出るとされます(32時間後には1億個!)
   ヒト免疫不全ウイルス :潜伏期間(約10年)が長い
      HIVは、免疫システムの細胞(ヘルパーT細胞やマクロファージ)に感染すると、
      そのままひっそりと隠れ、感染してもしばらくは発症しません
      ヘルパーT細胞は免疫システムの司令塔ですが、それが壊されてしまいます
      潜伏中のHIVは少しずつ免疫システムの主要な細胞の数を減らしていき、
      免疫不全状態になるとエイズを発症します
   水痘ウイルス     :HIVよりも潜伏期間が長く数十年後免疫力低下時帯状疱疹を発症する
   インフルエンザウイルスによるパンデミック
      1918年 スペイン風邪 :H1N1型のA型インフルエンザウイルス感染症
      1957年 アジア風邪  :H2N2型のA型インフルエンザウイルス感染症
      1968年 香港風邪   :H3N2型のA型インフルエンザウイルス感染症
   ウイルスの殺し方
      次亜塩素酸ナトリウム :カプシドタンパク質を変性させてしまう
      石鹸/消毒用アルコール:エンベロープウイルスは膜が脂質のため壊れる
      熱による殺菌     :圧力をかけ水蒸気を充満させ120℃で20分加熱すると壊れる
      殺菌灯の強い紫外線  :遺伝子を損傷させウイルスを殺す
      風邪はウイルスが原因なので抗生物質は効かない
      ウイルスの生存時間
         凸凹な表面 < 平滑な表面
         平滑な表面は共用物に多いこと、
         また、洗浄や拭き取りが容易であることです
         つまり、ウイルスが長生きでも洗い落としたり拭き取ってしまえば良いのです
      インフルエンザウイルスの生存率は
         温度が低いほどウイルスの生存率が高い
         湿度が低いほどウイルスの生存率が高い
         ウイルスは一般に低温・乾燥を好む
         なのでインフルエンザは冬に流行しやすい
   新興・再興感染症(エマージング・ウイルス)
   新興感染症(WHOの定義)
      この20~30年の間に新しく認知され局地的あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる感染症
   再興感染症(WHOの定義)
      かつて存在した感染症で公衆衛生上ほとんど問題とならないようになっていたが、
      近年再び増加してきたもの、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症
   産業動物(家畜)のウイルス感染症
      口蹄疫ウイルス、豚熱ウイルス、鳥インフルエンザウイルス
   人獣共通感染症
      Bウイルス病、Q熱、アニサキス症、ウエストナイル熱、エキノコックス症
      黄熱、オウム病、回帰熱、カンピロバクター感染症、狂犬病
      クリプトスポリジウム症、クリミア・コンゴ出血熱、腎症候性出血熱
      ダニ媒介性脳炎、ツツガ虫病、トキソプラズマ症、鳥インフルエンザ
      ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群(HPS)
      ヒストプラスマ症、ブタ連鎖球菌感染症、ブルセラ症、ペスト
      マールブルグ病、幼虫移行症、ライム病、ラッサ熱
      リステリア・モノサイトゲネス感染症、レプトスピラ症
   動物由来感染症
      狂犬病(犬・猫・コウモリ)、パスツレラ症(犬)、イヌブルセラ症(犬)、
      カプノサイトファーガ感染症(犬・猫)、Q熱(猫)、パスツレラ症(猫)、猫ひっかき病(猫)、
      トキソプラズマ症(猫)、コリネバクテリウム・ウルセランス感染症(猫)
      腸管出血性大腸菌感染症(牛・山羊・羊等)
      オウム病(鳥)、カンピロバクター症(鳥)
      鼠咬症(げっ歯類)、レプトスピラ症(げっ歯類)
      サルモネラ症(爬虫類)
   節足動物媒介感染症
      重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(マダニ)、日本紅斑熱(マダニ)
      マラリア(蚊)、ジカウイルス感染症(蚊)、ウエストナイル熱(蚊)
      デング熱(蚊)、チクングニア熱(蚊)、ジカウイルス感染症(蚊)、日本脳炎(蚊)
      黄熱(蚊)
   コウモリ由来感染症
      狂犬病、エボラ出血熱、ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症
      SARS、MERS、COVID-19

ウイルスがもつ共生体としての側面
   胎盤をつくる遺伝子の元はウイルスの遺伝子だった(レトロウイルスのエンベロープ用遺伝子)
      シンシチン遺伝子に進化してシンシチウム細胞のある胎盤ができた
      シンシチウム細胞:胎盤の胎児側の表面を覆う細胞
               母体の血液と胎児の血液が混じり合わないようにしている
               母体の免疫による攻撃を胎児が受けないようにしている
               栄養などの物質交換や酸素と二酸化炭素のガス交換の場
   ヒトゲノム全体の半分以上はウイルス由来と考えられる塩基配列だった
      私たちの祖先がレトロウイルスに感染した証拠、ウイルス由来の塩基配列のこと
      でレトロトランスポゾンと呼ばれています
      レトロウイルスが有胎盤類の祖先に感染
   ウイルスも生物進化の源泉
      すべての生物がウイルスと共生
      良いウイルスとの共存が生命を豊かにしてきた
ウイルスの利用法
   ウイルスを薬に変えるワクチン  :生ワクチン(弱毒化したウイルスを使う)
                    不活化ワクチン(殺したウイルスを使う)
   殺菌効果抜群のウイルス入り食品 :ウイルスを食品添加物として使う
                    バクテリオファージを使うと加熱せずに殺菌できる
   ウイルスが遺伝子を運ぶ遺伝子治療:ウイルスが細胞に感染して遺伝子を送り込む仕組みを利用
                    ウイルスは「遺伝子の運び屋(ベクター)」

TOP新たに追加されたウイルスの分類TOP
地球上にはいろんなウイルスが存在しており、
その分類は1966年に発足した国際ウイルス分類委員会(ICTV)が行っています
現在、ICTVがウイルスの仲間として認めているものの中には、
これまでの教科書的な説明の枠をはみ出て、RNAだけでカプシドを持たないウイルス
細菌と同程度のサイズを持つウイルス(巨大ウイルス)などが加えられています

TOPカプシドを持たないウイルスTOP
カプシドのないウイルス種は植物や真菌でよく見つかります
カプシドレスのウイルスの多くは、一度宿主の細胞に入ったら基本的に外に出ることがなく、
そのためカプシドを持つ必要がないのでは、と考えられています(ミトウイルスなど)
細胞外に出ることのないウイルスには、カプシドもエンベロープも持たないものもいるようです

カプシドを持たないウイルスであるヤドカリウイルス
   自分ではカプシドを作ることができず、ほかからちゃっかり拝借するウイルスです
         カプシドを借り受けるヤドカリウイルス(YkV1)
         カプシドを貸し出すヤドヌシウイルス (YnV1)
   ヤドカリウイルスは、増殖や感染するためにヤドヌシウイルスを利用している
   ヤドカリウイルスは一本鎖(+)鎖RNAウイルスで、動物に感染するウイルスに近縁
   ヤドヌシウイルスは二本鎖RNAウイルスで、菌類に感染するウイルスに近縁

ヤドカリウイルスとヤドヌシウイルスは、ともに植物に生えるカビに寄生するウイルスです
   白紋羽病菌(しろもんば)というカビ(糸状菌)に感染して植物を病気にしてしまう

ヤドカリウイルスはヤドヌシウイルスの殻がなければ増えることはできませんが、
ヤドヌシウイルスは単独でも増えることができます
ヤドカリウイルスがいるとヤドヌシウイルスの増殖効率が高まることが分かっています
互いに利益がある相利共生の関係といえます

TOP巨大ウイルスの発見TOP
巨大ウイルス:ミミウイルス、トーキョーウイルス、マルセイユウイルス、パンドラウイルス、
   ピソウイルス、モリウイルス、メガウイルス、テュパンウイルス、など
アミノアシルtRNA合成酵素(この酵素をつくるための設計図が翻訳用遺伝子)
   tRNAと適合するアミノ酸を結合させるアミノアシルtRNAの生成反応を触媒する酵素
   通常の生物では翻訳に使われるアミノ酸は20種類あり、対応するアミノアシルtRNA合成酵素も
   20種類必要になる(どんなに複雑なウイルスでも翻訳用遺伝子を持つウイルスはいないはずだった)
   ミミウイルス:4種類、メガウイルス:7種類、クロスニューウイルス:19種類、
   テュパンウイルス:20種類の翻訳用遺伝子をもつ!
巨大ウイルスは第4のドメインか?:ウイルスなのに細菌の2倍のゲノム数
   ミミウイルスは118万塩基対のゲノムサイズで遺伝子の数も1000個以上の遺伝子を保持
パンドラウイルスがもつ2500超の遺伝子のうち、93%が自然界に存在する既知の遺伝子とつながりがない

巨大ウイルスの祖先は、ヒトも含めたすべての生物の共通祖先である可能性があります
巨大ウイルスの祖先:DNAレプリコン(巨大ウイルスの原型)
      プラスミド(DNA) タンパク質の元
          +         |   
      タンパク質の殻(カプシド)←┘   
          ↓             
      DNAレプリコンの誕生       
       (ほぼウイルス状態)        
          ↓             
      進化して脂質二重膜を獲得      
      (融合・分裂を繰り返す)      
          |   |         
   ┌──────┤   └───┐     
   |      |       |     
   |   ┌──┴─┐     |     
   ↓   ↓    ↓     ↓     
  細菌  古細菌  真核生物  巨大ウイルス  
 (細胞壁)(細胞膜) (細胞膜)  (脂質二重膜)  
                (カプシド)   
     脂質二重膜→細胞膜
     カプシド─→細胞壁


TOPウイルスと聖書TOP
ヨハネの福音書 第12章24節(地に落ちた麦)
「一粒の麦地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、もし死なば多くの実を結ぶべし」
という聖書の一節
自分の命をも人のために捧げるとき、多くの実りが生まれること
聖者や信仰の厚い人はそうであろう
けれど、ウイルスは細胞に食べられることで増殖する

ドストエフスキーの最後の未完の大作、「カラマーゾフの兄弟」の見返しには、
この有名な聖句(ヨハネの福音書 第12章24節)が記されています

TOP感染症と文学TOP
アルベール・カミュ「ペスト」 → オランの町のロックダウン
志賀直哉「流行感冒」 → 世界的な流行となったスペイン風邪を題材とした作品

日臨技 感染見舞金制度

対象となる感染症名一覧


1.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に定める
1類~5類の感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症
分類 感染症名
1類感染症 【法】エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、
南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
2類感染症 【法】急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群
(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるもの
に限る)、
中東呼吸器症候群
(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスである
ものに限る)、
鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)
3類感染症 【法】コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、
パラチフス
4類感染症 【法】E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、
鳥インフルエンザ
(鳥インフルエンザ(H5N1及びH7N9)を除く)、
ボツリヌス症、マラリア、野兎病
【政令】ウエストナイル熱、エキノコックス症、オウム病、
オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林病、コクシジオイデス症、
サル痘、ジカウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群
(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る)、
腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、チクングニア熱、
つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、ニパウイルス感染症、
日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、
鼻疽、ブルセラ症、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、
発しんチフス、ライム病、リッサウイルス感染症、リフトバレー熱、
類鼻疽、レジオネラ症、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱
5類感染症 【法】インフルエンザ
(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、
ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)、
クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、
性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
【省令】アメーバ赤痢、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症、
急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く)、
感染性胃腸炎、急性出血性結膜炎、急性脳炎
(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、
日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)、
クラミジア肺炎(オウム病を除く)、クロイツフェルト・ヤコブ病、
劇症型溶血性レンサ球菌感染症、細菌性髄膜炎
(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された
場合を除く)、ジアルジア症、侵襲性インフルエンザ菌感染症、
侵襲性髄膜炎菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、水痘、
性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、
先天性風しん症候群、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、
播種性クリプトコックス症、破傷風、
バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、
バンコマイシン耐性腸球菌感染症、
百日咳、風しん、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、
ヘルパンギーナ、マイコプラズマ肺炎、無菌性髄膜炎、
薬剤耐性アシネトバクター感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症、
流行性角結膜炎、流行性耳下腺炎、淋菌感染症
新型インフ
ルエンザ等
感染症
該当なし
指定感染症新型コロナウイルス感染症
(病原体がベータコロナウイルス属コロナウイルスであるものに限る)
新感染症該当なし
2.一般社団法人日本臨床衛生検査技師会が給付の対象とする感染症
疥癬、成人T細胞白血病、ウイルス性心外膜炎、伝染性単核球症、溶連菌感染による合併症
2020年2月1日現在
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけは、これまで、
2020年2月1日から「指定感染症」としていましたが、
2021年2月13日から「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」に変更され、
2022年5月8日から「5類感染症」になりました

HP作成者:

中村三郎

,船橋市咲が丘