(戻る)<ウイルス学>Update 2024.10.08
1798年 牛痘の接種によって天然痘を予防する方法が確立された
1885年 病原体を弱毒化する方法を工夫して狂犬病ワクチンがつくられた 1892年 濾過性病原体としてウイルスが発見された 1898年 世界で最初に発見されたウイルスは「タバコモザイクウイルス」です 1915年 バクテリアに感染するウイルス(バクテリオファージ)が発見された 1935年 タバコモザイクウイルスの結晶化に成功 1938年 電子顕微鏡を用いてタバコモザイクウイルスの可視化に成功 1989年 家畜の口蹄疫が濾過性であることを発見(動物ウイルスの最初の発見) 2003年 ミミウイルス(巨大ウイルス)が発見された
ロベルト・コッホがまとめた、感染症の病原体を特定する際の指針
1.ある一定の病気には一定の微生物が見出されること 2.その微生物を分離できること 3.分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること 4.そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること ウイルス発見の歴史:病原体→濾過性病原体→ウイルス 2024年、今回見つかった "ウイロイドのようなもの" は、ウイロイドと比べてかなり大きい ウイロイドに類似した存在が、植物以外に感染したことを示している初の事例です 約3万種類の環状RNA群に、 ①ウイルスにしては小さく、ウイロイドにしては大きいゲノムサイズ、 ②古代エジプトの巨大な尖塔を彷彿とさせる、棒状で(ウイロイドと比べて)大きな外見、 ③ウイロイドとは異なる新しいタンパク質を構築するための設計図(コード)を持つ、 という共通の特徴を見出しました 発見した環状RNA群は、ウイロイドや小さいサイズのウイルスとは全く別の存在」と考え、 「オベリスク(Obelisk;尖塔)」と名付けました 「オベリスク」は既知のタンパク質に似ていないタンパク質を生成することができます ③の新しいタンパク質をコードする領域はオベリスクRNAの約半分を占めているため、 作り出されるタンパク質を「オブリン (Oblin)」と命名しました オブリンは、オベリスクの複製を担う重要なタンパク質と示唆されると言います
この研究論文はまだプレプリントの状態なので、正式な査読を受けておらず、内容が妥当か未検証です
(注)感染症法上の1類~5類該当のウイルスは上記以外にもありますが、省略しています
ウイルスは、DNAとRNAのどちらか一方しか持っていない
DNAウイルスは安定した構造のため、変異スピードが遅い RNAウイルスは不安定な構造のため、変異スピードが速い(突然変異が起こりやすく進化が速い) RNAは一般に一本鎖であることもあってDNAよりも不安定な物質です また、DNAポリメラーゼに備わっている校正機能がRNAポリメラーゼにはないため、 変異が起こったときに復元も困難です そのため、RNAウイルスのほうがDNAウイルスよりも変異頻度が高い インフルエンザウイルスは常にこの変異が起こっており、人の1000倍の確率で起こっている といわれています (通常は小規模の変異が、数十年に一度、大規模な変異を起こすことがあります) (+)鎖:一本鎖RNAがmRNAと同じ塩基配列であり、 宿主細胞の蛋白質合成機能を利用してウイルス蛋白質を合成 (-)鎖:一本鎖RNAがmRNAと相補的な塩基配列であり、ウイルス が持ち込んだRNA合成酵素でまずmRNAを合成したのち、 宿主細胞の蛋白質合成機能を利用してウイルス蛋白質を合成
エンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)としては、
インフルエンザウイル、コロナウイルス、日本脳炎ウィルス、ヘルペスウイルス、 風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス(おたふく風邪)、エイズウイルス、 エボラウィルス(エボラ出血熱)、B型、C型肝炎ウイルス、デングウイルス(デング熱)、 黄熱ウイルス、天然痘ウイルス、など エンベロープを持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)としては、 ロタウイルス、アデノウイルス(咽頭結膜炎)、A型、E型肝炎ウイルス、 ポリオウイルス(小児麻痺)、コクサッキーウイルス(手足口病)、ノロウイルス、など エンベロープを持たないウイルスは裸のウイルスあるいは「ヌクレオカプシド」と 呼ばれる カプシド(キャプシド)と核酸を合わせたものを「ヌクレオカプシド」と呼びます エンベロープを借り受けるウイルス D型肝炎ウイルスは単独で感染することはなく、 必ずB型肝炎ウイルスと一緒に感染することです B型肝炎ウイルスがいないところにはD型肝炎ウイルスもいません D型肝炎ウイルス粒子にはエンベロープという呼ばれる「殻」があります しかし、ウイルスはこの殻の遺伝情報を持っていません 実はD型肝炎ウイルスの殻は、B型肝炎ウイルスの殻を拝借したものです B型肝炎ウイルスが感染した細胞では殻が合成されており、 D型肝炎ウイルスはちゃっかりとこの殻だけ利用しているのです いわば、B型肝炎ウイルスに寄生していると言えます エンベロープを借り受けるD型肝炎ウイルス エンベロープを貸し出すB型肝炎ウイルス
RNA(リボ核酸)からDNA(デオキシリボ核酸)を合成することを逆転写という
DNA←─RNA 逆転写 レトロウイルスは逆転写酵素を働かせて自分のRNAからDNAをつくり、 これを宿主細胞のDNAの中に無理やり押し込む
宿主細胞 レトロウイルス
内在性レトロウイルス:レトロトランスポゾンの一種一本鎖RNAプラス鎖 ↓逆転写 二本鎖DNA ↓宿主細胞のDNAに組み込む
┌──────────────────────────┐
│宿主DNA+内在性レトロウイルス(DNA)+宿主DNA│ │ (=プロウイルス) │ │核 │ └──────────────────────────┘ ウイルス遺伝子に長い年月をかけて欠損や変異が蓄積することで本来の機能が 消失したと考えられている古代のレトロウイルス レトロトランスポゾン:DNA→RNA→DNAと転写逆転写を繰り返してゲノム中で 転移・増殖する
レトロトランスポゾン
┌────┬────┬──────────────┐ 染色体DNA│ │////////│ │ └────┴────┴──────────────┘ ↓転写 ┌────┐ RNA│////////│───────┐ └────┘ 逆転写 │ レトロトランスポゾン ↓ ┌────┬────┬────┬────┬────┐ 染色体DNA│ │////////│ │////////│ │ └────┴────┴────┴────┴────┘ レトロトランスポゾン 10-9m 10-8m 10-7m 10-6m 10-5m 10-4m 10-3m
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1nm 10nm 100nm 1μm 10μm 100μm 1mm
↑ 10分の1 ↑ 10分の1 ↑ 10分の1 ↑ 10分の1 ↑ 10分の1 ↑ 10分の1 ↑
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ウイルス 細菌 真菌 ヒト細胞
1nm:10億分の1m ノロウイルス<インフルエンザウイルス 電子顕微鏡で見える ≧0.2nm 1μm:100万分の1m 巨大ウイルス<細菌<ヒトの細胞<ダニ 光学顕微鏡で見える ≧0.2μm 1mm:1000分の1m ほこり<米粒 肉眼で見える≧0.1~0.2mm
カプシド :核酸を保護・調節する蛋白、多くは20面体 エンベロープ :ウイルスの一部はカプシドの外に細胞膜・核膜様の構造をもつ スパイク :ウイルスの一部は表面に突起、それが細胞への結合 ヌクレオカプシド:遺伝子の核酸と核酸を包むタンパク質(カプシド)の総称 ビリオン :細胞外におけるウイルスの状態であり、完全な粒子構造を持ち、 感染性を有するウイルス粒子のことをいう ウイルス粒子 :ウイルスは細胞外では粒子構造を取る (カプシドの形態による分類)
生物の生化学反応やウイルスなどの病原体感染は膨大な数や膨大な回数にささえられているようです
細胞内で遺伝子が複製され、タンパク質が合成されていく生化学反応も水分子の熱運動による偶然の 結果です 水分子に押された遺伝子と酵素が何度も偶然にぶつかっり、くっついた瞬間に生化学反応が起こって います ウイルスが宿主にたどりつけるかは運任せ 口から飛び出した何千万~何億と言うウイルスのうち人の体内に達するのはごくわずか ウイルスが生きているうちにたまたま取り付いた細胞が、自分が感染できる細胞かどうかは 偶然まかせです(インフルエンザウイルスは気道上皮細胞) さらなる偶然を経て細胞に吸着 ウイルスの鍵(スパイク)が細胞膜の特定のタンパク質の鍵穴に合致しないと吸着できません ウイルスは水分子の熱運動(ブラウン運動)に押されて非常に細かく振動しながら何回も トライして、カチッと一瞬くっついた瞬間に吸着が成立します
垂直伝播 … 母子感染(経胎盤、経母乳、経産道感染など)、世代を超えたウイルス伝播、
親から子へと同じ種の中で伝わる 水平伝播 … 経口感染、飛沫感染、接触感染、媒介物感染など、同世代、同一集団内での ウイルス伝播 他の生物種へ遺伝子が移動する:あるウイルスからある生物へ遺伝子が移動 他の生物から遺伝子を取り込む:ある生物からあるウイルスへ遺伝子が移動 ウイルスは種をまたぐ「遺伝子の運び屋(ベクター)」 ~~~~ 親
↓垂直伝播 ~~~~ 子
| 垂直伝播| ┌─────────~~~~~ ↓ ↓ 水平伝播 ほかの生物の遺伝子 ~~~~
人への感染と増殖の方法(一般的なDNAウイルスの増殖様式)
ウイルスは単独では増殖できないので、人の細胞の中に侵入し増殖する(他者を使った自己増殖) 宿主細胞にとりつく ①吸着→➁侵入→➂脱殻→④合成→⑤成熟→⑥放出 子ウイルスが飛び出す └─┬─┘ 細胞の機能(セントラルドグマ)を使う ★セントラルドグマの詳細はこちら→セントラルドグマ ①細胞のレセプターに吸着:ウイルスの受容体(レセプター)を持つ細胞にのみ吸着できる ↓ウイルス表面のスパイクが宿主の細胞表面の受容体(レセプター)に結合し細胞に吸着 ➁細胞内に侵入(ウイルスはそれぞれ侵入できる細胞が決まっている) ↓細胞に食べられる(細胞内に取り込む)ことでウイルスが細胞内に侵入します ↓エンベロープを持つウイルスは、宿主細胞膜と融合することで細胞へ侵入します ↓あるいは融合せずにエンベロープごと細胞膜に覆われて侵入します ➂脱殻:エンベロープとカプシドが取り除かれる ↓タンパク質の殻を壊し遺伝子を細胞質内に放出 ④ウイルスの核酸が細胞の核に入り、ウイルスの姿が見えなくなる(暗黒期) ↓放出された遺伝子を元に細胞の機能を使って核酸を複製しタンパク質を合成 ⑤宿主細胞の核内で複製された核酸と合成されたタンパク質から子ウイルスを組立 ↓一度に数が増える(細胞1個当たり10万個のウイルス):ウイルスの成熟 ⑥成熟したウイルスがたまると、細胞膜を壊して細胞外へ放出 エンベロープウイルスは細胞を壊さずにカプシドを細胞膜で包み込む出芽 バクテリオファージの場合は細胞を溶かすので溶菌という バクテリオファージは細菌に吸着すると侵入・脱殻を一気に行う … 硬い細胞壁を突き抜けて自分のDNAを注射するように注入する
[①吸着] ウイルスが受容体と結合
---------------------------------------------------------------------------------------↓ 細胞膜がウイルスを包み込むようにして陥没して袋を形成 ↓ [➁侵入] 被覆小胞として取り込まれたウイルスは細胞内部に運ばれる │ (エンドサイトーシス) [➂脱殻] 被覆小胞が破れ、↓ カプシドが破れてRNAが放出される │ ┌─────┴─────┐ ↓ ↓ [④合成] リボソームで複製されたRNA リボソームで合成 │ │ │ ┌─────┴──────┐ │ ↓ ↓ │ カプシドタンパク質 スパイクタンパク質 │ │ ↓ └──┬──┘ 小胞体 ↓ ↓ [⑤組立] カプシド内にRNA収納 ゴルジ体 │ ↓ │ 細胞膜 │ │ └───────┬───────┘ ↓ [⑥出芽] スパイクのついた細胞膜がカプシドを包み込んで出芽する DNAウイルス(DNAしか持たないウイルス) 増殖の際に一度RNAに変換してからタンパク質を作る 細胞のDNA合成に関わる酵素を利用しゲノムを複製するので、 ボックスウイルスのような自分自身のDNA合成酵素を持つもの以外は、核の中で増殖する RNAウイルス(RNAしか持たないウイルス) RNAが遺伝子の役目を兼務しつつタンパク質をつくり増殖する RNA合成酵素はウイルスRNAを鋳型として細胞質で作られ、且つ、機能する 従って、RNAウイルスは原則として細胞質で増殖する RNAウイルスとは、ゲノム複製や遺伝子発現に際してDNAが関与しないウイルスを意味 するものでレトロウイルスは含まない ミトコンドリアに感染するミトウイルス たった1つの遺伝子しか持たないプラス鎖1本鎖RNAウイルス (コードするタンパク質は1種類) カプシドを持たない裸の核酸なので他の細胞に感染せず、宿主細胞の分裂に合わせて拡がる 主に菌類のミトコンドリアに感染するが、中には植物のミトコンドリアに感染するものもいる ウイルス以外の生物ではない病原体 ウイロイド(RNAしか持たない、ウイルスより小さい病原体) 裸の核酸(短い環状の一本鎖RNA)のみで構成される病原体で、植物にしか感染しない 裸の核酸=カプシドを持たない裸の核酸 プリオン(異常プリオン)は、感染性のタンパク質で遺伝子を持っていません ヒツジのスクレイピー、ウシの狂牛病、ヒトではクロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる タンパク質は、特定の形に折り畳まれています この折り畳まれた状態になって初めて、機能を発揮することができます タンパク質が正常に機能するには、 数珠つなぎになったアミノ酸が正しく折り畳まれなければなりません この折り畳みをフォールディングといいます 異常プリオンは、折り畳みがうまくいかずにミスフォールドしたものです 正常なタンパク質が変形して(異常な形に折り畳まれ)、異常なプリオンになります
主な免疫細胞:ヘルパーT細胞、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞、B細胞、キラーT細胞、
好中球ヘルパーT細胞:B細胞やキラーT細胞に攻撃の指令を出す、免疫システムの司令塔 マクロファージ:異物を取り込み消化する(体内の掃除役)、T細胞に異物の情報を伝える NK細胞 :ウイルスに感染した細胞を見つけ出し破壊する 樹状細胞 :異物を取り込み、その情報をT細胞に伝える抗原提示細胞であり、 食作用も持つ B細胞 :ウイルスや細菌を無毒化する抗体をつくり放出する 一部は将来に備えて作った抗体を記憶する キラーT細胞 :ウイルスに感染した細胞を攻撃し破壊する 好中球 :細菌やウイルスを取り込み酵素や活製酸素で破壊する細胞 (好酸球 :寄生虫など大型の異物を酵素などで攻撃する) 食細胞:マクロファージ、樹状細胞、好中球 … 細菌など異物を食べる ウイルスは小さすぎて侵入してしまう 抗原提示細胞:マクロファージ、樹状細胞 潜伏期間が長いウイルスに感染すると免疫機能が落ちてしまい、免疫システムに必要な細胞が減少 していく
第一段階の免疫システム
NK細胞はウイルスに感染した細胞を見つけ出し破壊する 感染細胞からはインターフェロンが分泌される インターフェロンが未感染の細胞に届くと未感染細胞でRNA分解酵素などが活性化される 活性化されたRNA分解酵素はウイルスが細胞内に侵入してRNAを放出したときに それを分解する働きを持つ 遺伝情報であるRNAが分解されてしまえばカプシドやスパイクのタンパク質が 作り出せないのでウイルスは増殖できない 第二段階の免疫システム 樹状細胞がヘルパーT細胞(リンパ球)に侵入してきたウイルスの情報を提示する ウイルスの情報を得たヘルパーT細胞はB細胞をプラズマ細胞と言う細胞に変化させる そしてこのプラズマ細胞がそのウイルスに結びつく抗体を産生する 抗体は免疫グロブリンとよばれるタンパク質からなりY字形をしている Y字の先端部分はそのウイルスの形に合わせたそのウイルス専用に作られる そのためウイルス表面と受容体が鍵と鍵穴の関係で結合したように ウイルス表面と抗体の先端部分が結合する 表面に抗体が結合したウイルスは受容体に結合できなくなったり、 細胞膜と融合できなくなったりするため細胞内で増殖不可能となる しかしすでに感染してしまった細胞には抗体はあまりはたらかない このような感染細胞は活性化されたキラーT細胞により破壊される このキラーT細胞を活性化するのも樹状細胞だが、活性化には ヘルパーT細胞も重要な役割を果たす NK細胞とインターフェロンによる第一段階の免疫は「非特異的免疫(自然免疫)」、 抗体とキラーT細胞による第二段階の免疫は「特異的免疫(獲得免疫)」と呼ばれる 自然免疫で活躍する免疫細胞:NK細胞、マクロファージ、樹状細胞、好中球 獲得免疫で活躍する免疫細胞:ヘルパーT細胞、B細胞、キラーT細胞 自然免疫の役割は、侵入した異物を迅速に認識して貪食し、 さらに感染した細胞を破壊して排除することです マクロファージ、樹状細胞、好中球といった貪食細胞は、 細菌などの細胞外の抗原を取り込んで処理します 一方、がん細胞やウイルス感染細胞などは、その細胞自体を破壊する、 あるいは増殖を抑えることが必要です この機能は細胞傷害性のNK細胞などが担当しています 自然免疫のもう1つの重要な役割が、獲得免疫への橋渡しです この役割の主役となるのは、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞です 獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、 同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除できる仕組みです 自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は長く、数日かかります ここで活躍している免疫担当細胞は、主にT細胞やB細胞といったリンパ球です
現在、最も広く受け入れられている「生物の定義」は、 ①外界と膜で仕切られている、 ②代謝(生物の生存と機能に不可欠な一連の化学反応)を行う、 ③自分の複製を作る(自己複製する)、の3つです すべての生物は細胞でできている そして、すべての細胞は細胞膜で包まれている 代謝や複製のためには、膜で仕切られた内部が理想的な環境なのです
微生物─┬→原核生物──→細菌(単細胞)(真正細菌)
│ └→真核生物─┬→真菌(単細胞、多細胞)(狭義の菌類) │ └→原虫(単細胞)(原生動物)
大きな集団で移動する動物 :カモなどの水鳥 (集団内の感染拡大+渡り鳥として世界中に分布)
大きな集団で過密状態にいる動物:コウモリ (ウイルスの貯蔵庫、ウイルスと宿主は共生体) 密集した状態で飼育する動物:養鶏場のニワトリ(高病原性鳥インフルエンザ、渡り鳥から感染)
ウイルスは「本来の宿主」のなかでは、比較的おとなしいものなのです
感染しても病気にならず、ウイルスと共存共栄しているのが本来の宿主 本来の宿主とは違う宿主にウイルスが取り付くと爆発的に増殖して宿主が死んで しまう(新しい宿主が新しいウイルスとの適応能力がない) ウイルスは自己の複製を目的にして宿主に入り込みますが、その病原性があまり に激烈であれば、宿主が死んで、結局自分も死滅し、コピーを次世代につなげる ことができなくなってしまいます 一般に、ウイルスは宿主を殺さないで、感染を維持する方向に弱毒化する 宿主と共生体のそれぞれが自身の子孫をなるべく多く残すように振る舞う [共生体⇔病原体]:流動的 宿主は子孫を増やしたい →せめぎあい← ウイルスは子孫を増やしたい
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ウイルスがもつ病原体としての側面 インフルエンザウイルス:潜伏期間(1~2日)が短い、増殖が非常に速い インフルエンザウィルスが1個、体に侵入すると鼻や喉の粘膜から約10分で体の細胞 に入り、8時間後には100個、16時間後には1万個、24時間後には100万個に、 体内で増殖します ウィルスの数が数千万個に増えると症状が出るとされます(32時間後には1億個!) ヒト免疫不全ウイルス:潜伏期間(約10年)が長い HIVは、免疫システムの細胞(ヘルパーT細胞やマクロファージ)に感染すると、 そのままひっそりと隠れ、感染してもしばらくは発症しません ヘルパーT細胞は免疫システムの司令塔ですが、それが壊されてしまいます 潜伏中のHIVは少しずつ免疫システムの主要な細胞の数を減らしていき、 免疫不全状態になるとエイズを発症します 水痘ウイルス:HIVよりも潜伏期間が長く数十年後免疫力低下時帯状疱疹を発症する インフルエンザウイルスによるパンデミック 1918年 スペイン風邪:H1N1型のA型インフルエンザウイルス感染症 1957年 アジア風邪 :H2N2型のA型インフルエンザウイルス感染症 1968年 香港風邪 :H3N2型のA型インフルエンザウイルス感染症 ウイルスの殺し方 次亜塩素酸ナトリウム:カプシドタンパク質を変性させてしまう 石鹸/消毒用アルコール:エンベロープウイルスは膜が脂質のため壊れる 熱による殺菌 :圧力をかけ水蒸気を充満させ120℃で20分加熱すると壊れる 殺菌灯の強い紫外線 :遺伝子を損傷させウイルスを殺す 風邪はウイルスが原因なので抗生物質は効かない ウイルスの生存時間 凸凹な表面 < 平滑な表面 平滑な表面は共用物に多いこと、 また、洗浄や拭き取りが容易であることです つまり、ウイルスが長生きでも洗い落としたり拭き取ってしまえば良いのです インフルエンザウイルスの生存率は 温度が低いほどウイルスの生存率が高い 湿度が低いほどウイルスの生存率が高い ウイルスは一般に低温・乾燥を好む なのでインフルエンザは冬に流行しやすい 新興・再興感染症(エマージング・ウイルス) 新興感染症(WHOの定義) この20~30年の間に新しく認知され局地的あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる 感染症 再興感染症(WHOの定義) かつて存在した感染症で公衆衛生上ほとんど問題とならないようになっていたが、 近年再び増加してきたもの、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症 産業動物(家畜)のウイルス感染症 口蹄疫ウイルス、豚熱ウイルス、鳥インフルエンザウイルス 人獣共通感染症 Bウイルス病、Q熱、アニサキス症、ウエストナイル熱、エキノコックス症 黄熱、オウム病、回帰熱、カンピロバクター感染症、狂犬病 クリプトスポリジウム症、クリミア・コンゴ出血熱、腎症候性出血熱 ダニ媒介性脳炎、ツツガ虫病、トキソプラズマ症、鳥インフルエンザ ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群(HPS) ヒストプラスマ症、ブタ連鎖球菌感染症、ブルセラ症、ペスト マールブルグ病、幼虫移行症、ライム病、ラッサ熱 リステリア・モノサイトゲネス感染症、レプトスピラ症 動物由来感染症 狂犬病(犬・猫・コウモリ)、パスツレラ症(犬)、イヌブルセラ症(犬)、 カプノサイトファーガ感染症(犬・猫)、Q熱(猫)、パスツレラ症(猫)、 猫ひっかき病(猫)、トキソプラズマ症(猫)、 コリネバクテリウム・ウルセランス感染症(猫) 腸管出血性大腸菌感染症(牛・山羊・羊等) オウム病(鳥)、カンピロバクター症(鳥) 鼠咬症(げっ歯類)、レプトスピラ症(げっ歯類) サルモネラ症(爬虫類) 節足動物媒介感染症 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)(マダニ)、日本紅斑熱(マダニ) マラリア(蚊)、ジカウイルス感染症(蚊)、ウエストナイル熱(蚊) デング熱(蚊)、チクングニア熱(蚊)、ジカウイルス感染症(蚊)、日本脳炎(蚊) 黄熱(蚊) コウモリ由来感染症 狂犬病、エボラ出血熱、ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症 SARS、MERS、COVID-19 --------------------------------------------------------------------------------------- ウイルスがもつ共生体としての側面 胎盤をつくる遺伝子の元はウイルスの遺伝子だった (レトロウイルスのエンベロープ用遺伝子) シンシチン遺伝子に進化してシンシチウム細胞のある胎盤ができた シンシチウム細胞:胎盤の胎児側の表面を覆う細胞 母体の血液と胎児の血液が混じり合わないようにしている 母体の免疫による攻撃を胎児が受けないようにしている 栄養などの物質交換や酸素と二酸化炭素のガス交換の場 ヒトゲノム全体の半分以上はウイルス由来と考えられる塩基配列だった 私たちの祖先がレトロウイルスに感染した証拠、ウイルス由来の塩基配列のこと でレトロトランスポゾンと呼ばれています レトロウイルスが有胎盤類の祖先に感染 ウイルスも生物進化の源泉 すべての生物がウイルスと共生 良いウイルスとの共存が生命を豊かにしてきた ウイルスの利用法 ウイルスを薬に変えるワクチン :生ワクチン(弱毒化したウイルスを使う) 不活化ワクチン(殺したウイルスを使う) 殺菌効果抜群のウイルス入り食品 :ウイルスを食品添加物として使う バクテリオファージを使うと加熱せずに殺菌できる ウイルスが遺伝子を運ぶ遺伝子治療:ウイルスが細胞に感染して遺伝子を送り込む仕組み を利用 ウイルスは「遺伝子の運び屋(ベクター)」
地球上にはいろんなウイルスが存在しており、
その分類は1966年に発足した国際ウイルス分類委員会(ICTV)が行っています 現在、ICTVがウイルスの仲間として認めているものの中には、 これまでの教科書的な説明の枠をはみ出て、RNAだけでカプシドを持たないウイルスや 細菌と同程度のサイズを持つウイルス(巨大ウイルス)などが加えられています
カプシドのないウイルス種は植物や真菌でよく見つかります
カプシドレスのウイルスの多くは、一度宿主の細胞に入ったら基本的に外に出ることがなく、 そのためカプシドを持つ必要がないのでは、と考えられています(ミトウイルスなど) 細胞外に出ることのないウイルスには、カプシドもエンベロープも持たないものもいるようです カプシドを持たないウイルスであるヤドカリウイルス 自分ではカプシドを作ることができず、ほかからちゃっかり拝借するウイルスです カプシドを借り受けるヤドカリウイルス(YkV1) カプシドを貸し出すヤドヌシウイルス (YnV1) ヤドカリウイルスは、増殖や感染するためにヤドヌシウイルスを利用している ヤドカリウイルスは一本鎖(+)鎖RNAウイルスで、動物に感染するウイルスに近縁 ヤドヌシウイルスは二本鎖RNAウイルスで、菌類に感染するウイルスに近縁 ヤドカリウイルスとヤドヌシウイルスは、ともに植物に生えるカビに寄生するウイルスです 白紋羽病菌(しろもんば)というカビ(糸状菌)に感染して植物を病気にしてしまう ヤドカリウイルスはヤドヌシウイルスの殻がなければ増えることはできませんが、 ヤドヌシウイルスは単独でも増えることができます ヤドカリウイルスがいるとヤドヌシウイルスの増殖効率が高まることが分かっています 互いに利益がある相利共生の関係といえます
巨大ウイルス:ミミウイルス、トーキョーウイルス、マルセイユウイルス、パンドラウイルス、
ピソウイルス、モリウイルス、メガウイルス、テュパンウイルス、など アミノアシルtRNA合成酵素(この酵素をつくるための設計図が翻訳用遺伝子) tRNAと適合するアミノ酸を結合させるアミノアシルtRNAの生成反応を触媒する酵素 通常の生物では翻訳に使われるアミノ酸は20種類あり、対応するアミノアシルtRNA合成 酵素も20種類必要になる (どんなに複雑なウイルスでも翻訳用遺伝子を持つウイルスはいないはずだった) ミミウイルス:4種類、メガウイルス:7種類、クロスニューウイルス:19種類、 テュパンウイルス:20種類の翻訳用遺伝子をもつ! 巨大ウイルスは第4のドメインか?:ウイルスなのに細菌の2倍のゲノム数 ミミウイルスは118万塩基対のゲノムサイズで遺伝子の数も1000個以上の遺伝子を保持 パンドラウイルスがもつ2500超の遺伝子のうち、93%が自然界に存在する既知の遺伝子と つながりがない 巨大ウイルスの祖先は、ヒトも含めたすべての生物の共通祖先である可能性があります 巨大ウイルスの祖先:DNAレプリコン(巨大ウイルスの原型)
プラスミド(DNA) タンパク質の元
脂質二重膜→細胞膜+ | タンパク質の殻(カプシド)←┘ ↓ DNAレプリコンの誕生 (ほぼウイルス状態) ↓ 進化して脂質二重膜を獲得 (融合・分裂を繰り返す) | | ┌──────┤ └───┐ | | | | ┌──┴─┐ | ↓ ↓ ↓ ↓ 細菌 古細菌 真核生物 巨大ウイルス (細胞壁)(細胞膜) (細胞膜) (脂質二重膜) (カプシド) カプシド─→細胞壁
ヨハネの福音書 第12章24節(地に落ちた麦)
「一粒の麦地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん、もし死なば多くの実を結ぶべし」 という聖書の一節 解釈1:種が割れて芽が出て大きく成長して、やがて多くの実を結ぶこと 解釈2:自分の命をも人のために捧げるとき、多くの実りが生まれること 聖者や信仰の厚い人はそうであろう けれど、ウイルスは細胞に食べられることで増殖する ドストエフスキーの最後の未完の大作、「カラマーゾフの兄弟」の見返しには、 この有名な聖句(ヨハネの福音書 第12章24節)が記されています
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感染症とは? --------------------------------------------------------------------------------------- 感染症とは? ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入して増殖し、発熱や下痢、咳等の症状がでること をいいます 感染症には、インフルエンザのように人から人にうつる感染症のほかに、破傷風や日本脳炎 のように人から人にはうつらず、傷口から、あるいは動物や昆虫から、感染する感染症も 含まれています 感染して発病する場合もあれば、ほとんど症状がでずに終わってしまう場合もあります また、一度症状がでるとなかなか治りにくく、時には死に至るような感染症もあります 感染経路 感染症によって、病原体の体内への侵入方法が異なります 大きく2つに分類すると、人からうつる感染症と、人以外からうつる感染症があります 人からうつる感染症には、「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」「経口感染」の4つの 経路があり、感染症を予防するためにはそれぞれにおいて感染経路を断ち切るための対策 が必要になります 感染症の種類によっては複数の感染経路をとるものがあります 空気感染 空気中を長時間・長距離ただよう病原体をふくむ軽くて、小さな粒子 その粒子を含む空気を吸い込む なお、空気感染するものは、飛沫感染も起こりえます ◇空気感染する主な病原体 ・細 菌:結核菌、百日咳菌 ・ウイルス:麻しんウイルス、風しんウイルス、インフルエンザウイルス、 水痘・帯状疱疹ウイルス、流行性耳下腺炎など ※結核菌は飛沫感染も起こり得ます。他の病原体は、飛沫感染と接触感染も起こり得ます エアロゾル感染 感染している人のそば、また、換気の悪い空間をただよう病原体をふくむ軽くて、 小さな粒子 その粒子を含むエアロゾルを吸い込む 飛沫感染 会話、せきやくしゃみをした時にでる水分をふくむ、重くて、大きい微粒子 数メートル先まで飛び、目・鼻・口にくっつく なお、飛沫感染するものは、接触感染も起こりえます ◇飛沫感染する主な病原体 ・細 菌:A群溶血性レンサ球菌、百日咳菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマなど ・ウイルス:インフルエンザウイルス、アデノウイルス、風しんウイルス、 ムンプスウイルスなど 接触感染 便や吐物、飛沫にふくまれる病原体でよごれているもの よごれた手で、顔のねんまく(目・鼻・口)にさわる よごれた手で、食事をする なお、接触感染するものは、経口感染も起こりえます ◇接触感染する主な病原体 ・ウイルス:感染性胃腸炎(ロタウイルス)、感染性胃腸炎(ノロウイルス) など 経口感染 ウイルスや細菌に汚染された食べ物を、生または十分に加熱しないで食べた場合や、 感染した人が調理中に手指等を介して食品や水を汚染し、その汚染食品を食べたり 飲んだりした場合に感染します ◇経口する主な病原体 ・ウイルス:感染性胃腸炎(ロタウイルス)、感染性胃腸炎(ノロウイルス) など 虫や動物から感染することもあります ※「病原体」は、人の体内に入りこむと悪さをする微生物(びせいぶつ)のこと
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感染症の種類 ---------------------------------------------------------------------------------------
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--------------------------------------------------------------------------------------- 人の体に住む細菌 微生物は、私たちの身の回りだけでなく体内にもたくさん存在しています そのほとんどが細菌で、常在細菌(常在菌)といいます 体の中は適度な温度と湿度と栄養があるため、常在細菌にとって、住みごこちのよい環境なのです 皮膚、口や鼻の中、消化管や泌尿器など、外部と接するところに住みついています 特に、腸内には、乳酸桿菌、ビフィズス菌、大腸菌、腸球菌、ウェルシュ菌など約400~500種類、 約100兆個もの腸内細菌がすみついていて、腸内の内容物を分解したり、ビタミンを産生したり、 免疫にも関与しているといわれています このように、常在細菌は人の体に対して害を与えることなく、 病原体の侵入を防ぐなど有利に働きながら、うまく人と共存しています しかし、人の免疫機能が低下して抵抗力が弱った場合には、 通常では無害の常在細菌が感染症を引き起こすことがあり、日和見感染といいます 善玉菌:私たちの体に有益な善玉菌の代表といえば、乳酸菌とビフィズス菌など 悪玉菌:私たちの体に害を与える悪玉菌はウェルシュ菌、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌など 細菌叢:自然界に形成された微生物集団(くさむら) 細菌叢は顕微鏡で観察したときに色鮮やかなお花畑に見えたことから「フローラ」とも呼ばれます また微生物(マイクローブ)の集合体(オーム)という意味で「マイクロバイオーム」とも言われます
2020年2月1日現在
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけは、これまで、 2020年2月1日から「指定感染症」としていましたが、 2021年2月13日から「新型インフルエンザ等感染症」に変更され、 2022年5月8日から「五類感染症」になりました エムポックス(2023.2サル痘より名称変更)
アルベール・カミュ「ペスト」 → オランの町のロックダウン
志賀直哉「流行感冒」 → 世界的な流行となったスペイン風邪を題材とした作品
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ウイルス学 18.~19.のまとめ+α ---------------------------------------------------------------------------------------
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