の手紙にルールはない



 ソウル=イーターはモテる。
 らしい。
 意外に。

 あくまで伝聞の域を出なかったその事実は、わたしにとっちゃどーでもいいって言えばどーでもいい情報ではある。
 意外に、というのはあくまでわたし個人の感想であり、一般的には『そこそこイケてる』容姿らしいんだけど。だってあの面食いのお姉ちゃんが、『見た目はまぁ、悪くはないよな』なんて好みのタイプじゃあない男に対する最大級の賛辞を口にするぐらいなんだからさ?

 それでもわたしからしてみりゃ、あんなネクラなカッコつけのどこがいいんだろ、なんてことを思ってしまうわけで、それは好む好まざるに関わらずソウルについて知る機会が多くなったせいであり、軽く反発を覚える程度には奴に対しての関心があり、つまるところそれだけソウルとわたしとの距離が近くなっているという証拠のようなものなのかもしれない。
 別にソウルがモテようがモテまいが、わたしには何の関係もない(ってか興味がない)んだけど、『わたしたち』には決して無関係ではない以上、やっぱり多少気になってしまうのはしょーがないのだ。


「落ちたぞ色男」
 ロッカーを開けた拍子にひらりと宙を舞った封筒を、拾って声を掛けると振り向いたソウルは露骨に顔を顰めた。それが掛けられた言葉に対してなのか、わたしの手にある物体に対してなのかは知らないが、やっぱりこいつ可愛くない、と改めて思う。
 なにかムカついたので急遽予定変更、一度は差し出した手紙を引っ込めてソウルに背を向け、このラブレターの仔細を確認してやろうというわたしの試みは残念ながら不発に終わった。
 くるりと裏返した封筒には差出人はおろかよく見ると宛名も書かれちゃいない。ホントにこいつ宛てなのか、コレ。
「ななしのゴンベーだ」
「……見えるとこには書かねぇだろ、普通」
「へー。そーゆーもんなの?」
 よく知ってんだねェとわざとらしく良い笑顔を向けると、対照的にソウルはますます苦い顔になる。
 ここは追撃すべき場面なんだろう。絶対そうだ、うん。
「さっすが。貰い慣れてんだァ。この、女泣かせー」
 見えない刺で突っついてやったら、「違げーよ」と煩そうに言って、ソウルはガシガシと頭を掻いた。
「ただのパートナー申込レターだっつの」
「……へ〜。でもこれなんかハートマークで封とか今時ありえおわ危ねーなコラ」
 ひらひらと翳した手紙は想定外な俊敏さでひったくられた。
 武器のくせにいい動きしてやがんなチクショウ、ちょっと侮ってたぞ。
 握りしめたそのラブレターを乱暴にポケットに突っ込んで「余計な事言うなよ」とジト目で睨む。誰になんて敢えて聞かなくても、思い当たる人物は一人しかいない。
 こないだ調理実習があった日に、プレゼント攻撃にあっていた場面に出くわしたから、キッド君に見たまんまを報告してやったんだけど。
 それを未だに根に持っているみたいなのだ。やだやだ、これだからネクラは。
 しっかしほんとに傑作だった、あの時のソウルの取り乱しようは!対するキッド君の冷淡としか言いようのない反応との温度差が、そりゃもうハンパなくてさ!
 きししと思い出し笑いをするわたしに、言っても無駄だと悟ったのか、ソウルは疲れたように嘆息する。
「あれ。帰んの?」
「……お前の良心を信じてるよ、俺は」
 やや猫背気味に背を丸めて去っていくその後ろ姿に再三思う。
 あいつの一体どこがそんなにいいのか、ねェ?
「趣味悪ぃんじゃないのー」
「……何の話だ?」
 入れ替わりで教室に戻ってきたキッド君が、訳が分からないと言った顔でわたしを見る。
 一連のやり取りをチクってやるべきなのかどうなのかと考えて、「なーんでも」と結局笑ってごまかした。
 別にそんな事でチクチク痛むような軟弱な良心は持ってない。どうせならもっとクリティカルな場面に出くわした時に、まとめて請求してやればいいやと思いなおしただけだ。
 そう思うとなんだか急にその時が来るのが楽しみになってきた。
 今度フォーティーツーのチョコミントでも奢らせよう、そうしよう。
 一瞬だけ釈然としない顔をしたキッド君が、帰るぞ、と言う声に明るく応えてその左手にガバっと飛びつく。キッド君はちょっとだけ迷惑そうな顔をして、繋ぐならリズも連れてこんかシンメトリーにならんだろうが、といつもの口癖をひととおり並べたあと、やれやれと少し呆れたように笑った。