Summer Days



 和モノが似合いそうだなと思ったのは、椿と同じ、髪の黒と肌の白のコントラストがニホン的だというところから来ているのかもしれない。思ったままにそう言うと、言われた当人は「和菓子は嫌いじゃないがな」と答えになっているんだかなっていないんだか判らないような事を言って、目の前に置かれている椿お手製のオハギをフォークで器用に四等分にして口に運ぶ。……嫌いじゃないってか、寧ろ好きなくせに何を言ってんだか。
 そうは思いつつも少しばかり頬を緩ませてゆっくりと咀嚼する様が何かこう、愛らしい、って言えばいいのかね。そんな風に緩んで見せるのは、願わくば俺の前だけでいてほしいもんだけど。
 俺の分も食えばとキッドの方へ皿を押しやれば、
「いいのか?」
 上目使いに見上げた目に浮かべた喜色は隠しきれない。基本的に彼は人と自分とを偽ることが苦手だ。
 いいとも悪いとも言う前にもうその手は皿を引き寄せているくせに、何を言ってんだか、と再度胸中で呟く。見ているこちらまで少し緩みそうになる頬を意識的に引き上げて、細かい汗をかき始めたグラスの麦茶を一息に空けた。

 キモノとか似合うんじゃねーのと先ほどの話の続きを振った俺に、ふむ、とキッドは軽く首を捻る。
「着物、か。……今の時期なら、浴衣だな」
 言って、リズの愛読しているファッション誌を差し出した。時々思い出したように訪れるニホンブームの一角として、ユカタの特集が組まれている。というか、ステイツに属していながら独立国家の様相を呈している、ここデスシティの文化は基本多国籍っつーか無国籍で、かつニホン贔屓なきらいがある。なにせ通貨からして「円」だしな。言っちゃあなんだが変なトコロだ。

「ふーん」
 ぱらぱらと適当にめくれば色とりどりに紙面を飾るのは艶やかなデザインのキモノ、いや浴衣か。
「これとか、いんじゃね?」
 どれ、と首を伸ばし、開かれたページを覗き込んだキッドが眉を寄せる。
「それは女物だろうが」
 女性誌だからあたりまえなのだが、掲載されているのは概ね女物だ。紙面の端に申し訳程度に載っている男物はどれも渋い色使いの似たりよったりなデザインで、COOLではあるが積極的に着てほしいというほどのものはない。せめてもうちょいバリエーションがあればいいんだが。
 鑑賞する分にはやっぱ女物のほうが華やかで、断然目に楽しいな、うん。
「まあ浴衣も風情があって悪くない、が」
 微妙に言葉を濁したのにはどんなワケがあるのかと思いきや、和服は衿の合わせがシンメトリーにならないから気に入らないのだとか。……いつものことだ。
「でも、……いいよな、浴衣」
「……お前がそんなに民族衣装に興味があるとは、知らなかったが?」
「ん? いや、脱がせやすそうで……痛っ、」
「戯けが」
 小突かれた頭を抑えて恨めしげに見上げれば、視線の先にはキッドの不機嫌に顰められた眉と、僅かに赤く染まった頬。
 赤、……赤、か。
「この、金魚の柄とかさ……」
 良いんじゃねえかな可愛いらしくて、と広げたページを軽く指で叩く。グラスに残った氷がカランと涼しげな音を立てたのと同時に、「まだ言うか」とキッドの呆れたような苦笑が降ってきた。