New Year's Day


 夜空を彩る幾重もの光の輪と、遅れて聞こえてくる低い炸裂音。新たな年を迎えた事を祝う花火を遠く窓越しに眺め、ソウルはつけっぱなしになっていたTVを消した。
 新年を祝い合う歓声と高らかな歌声。街中が浮かれ騒ぐ音は、ここに居ても聞こえてくる。きっといま広場は大変な騒ぎになっているに違いない。人ごみを好まない恋人を、誘わなかったのは正解だったのだろう。
(……と思いたいんだけど)
 はたしてどっちが良かったんだか、などと考えながらソウルは肩に寄り掛かる恋人を軽く揺り起こした。
「おい……キッド。年明けたぞ」
「………………」
「キッド」
 再度呼びかけてみても、返事はない。
 ああ、やっぱり無理だったかと、半ば予想していた事態にソウルは小さく溜息をつく。くたりと肩に体重を預けたまま、安らかな寝息を立てるキッドの身体を抱え上げると、そっとベッドへと運んだ。

 今年は運良くニューイヤーズ・イブを二人で過ごせることになったから、年明けの瞬間は熱い抱擁と情熱的なキスでもって迎えよう、なんてことを思っていたりしたのだが。
 タイムズスクエアでのカウントダウンが中継される頃には、既にキッドの意識は半分以上夢の中だった。
 ソウルにとっては夜更かしとさえ言えないような時間だったが、十時には就寝することを習慣づけているキッドにしては、これでも頑張った方なのかもしれない。
「……子供かっつーの」
 ぼやきながら、シーツに横たえた恋人の前髪を一房、指先で掬う。指の間からさらさらと流れ落ちる感覚をしばらく楽しんでいると、不意に添えていた指をきゅっと掴まれた。
「キッド?」
「……………………、」
 薄く開いた瞼から、覗く金色は焦点を定められず揺らめき、そしてゆっくりと閉じられる。
 どうやら再び眠りの淵へと落ちたようだ。
 掴んだ指は離さぬまま。
 年明けの瞬間を二人だけで迎えようと、伝えた時のキッドの嬉しそうな顔を思い出す。……もしかしたら、『何故起こしてくれなかったんだ』と後で拗ねるのかもしれないけれど。
「……ホント、子供みてぇ」
 掌から伝わる高い体温と、恋人の稚い寝顔に、ソウルの口元が笑みの形に緩む。
 無垢な額に軽く口付け、その夢の中まで届くよう、祈りを込めて囁いた。


“I wish you a happy new year.”