05 * * * 後ろ手にソウルの部屋の扉を閉める。手にした銀盆に、残った水滴を払うよう一度大きく振ったあと、キッドはふうっと長い息を吐く。廊下の窓から差し込む陽は明るい。何も無ければ外出日和な休暇一日目ではあったが、どうやら今日は屋敷に篭もって過ごすことになりそうだった。 ソウルのあの様子では、朝食は満足に食べられまい。自業自得だ、とは思っても、苦しむ様を見ると多少、哀れには思った。 「…………ついでだ。俺も丁度飲みたいと、思っただけで」 コーヒーぐらいは淹れてやろうか。そんな事を考えながら、キッチンへと向かう。 (しかし、……あれでは、駄目だった、か) 今更ながらに早まる鼓動を沈めるよう、シャツの胸のあたりを掴み、深呼吸を繰り返す。 朝からキスを迫るような、フランクな愛情表現は、どうにも出来そうになかったから。思いつく限り自然な方法で、交わした筈の温もりは、けれどどうやらソウルを困惑させただけだった、ようだ。 「……はあ」 そのことに、少しの落胆がある。溜息ばかりが口をついて出た。どうしろというんだ、とも思う。 自分は一体、ソウルに何を与えてやれるのか。答えはきっと、彼が持っているのに、手が届かないことがもどかしい。 (――……あの時、) 確かに何かを、そう、あれはまるで、魂までをも求めるような目だった。ふと立ち止まり、そっと首筋に手をやる。昨日の内出血の跡はもう残ってはいないが、昨日のソウルを思い出すと、何故だか胸が締め付けられ、キッドの頬は赤らんだ。 「ふ、……二日酔いには、何が効くのだろう、かな……」 なんとはなしに胸を覆う、背徳的な気分を振り払うよう、一人ごちたキッドの脳裡を、過ぎった面影は、昨夜浮かれた鏡通信を寄越してきた赤毛だ。 あれだけへべれけになっていたのだから、スピリットも今頃、同じ症状で苦しんでいる頃かもしれない。書庫で治療法を調べてもいいが、この手の話は経験者に問うのが一番ではないだろうか。 ついでに、軽く釘を刺しておかねばなるまい、とも思う。 (あまり俺のもので遊ぶな、と) ――――そして当のスピリットから、『二日酔いはxxxすれば早く治る』などと余計な知識を吹き込まれたキッドが、ソウルの神経をさらにすり減らすことになるのは、また別の話。 |