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アシンメトリー■■
じっとしていろ、といわれて首筋に手を伸ばされたから、何かを期待しそうになったのもつかの間、ジャケットの襟を掴んでビシっと正された。
キッチリカッチリせんか、といういつもの口癖に、ああいつも通りのキッドだなと安心したような落胆したような。それでも身なりを気にかけてくれる事は、一応恋人としては嬉しく思わないでもない。
「もう少しシンメトリーにならないものか、」とかなんとかブツブツ言いながら、今度は頭のカチューシャの位置を直しにかかる。
前髪を真ん中で分けてみたりと好き勝手やっているのには閉口するが、後でブラシを入れれば戻るのだから、しばらく好きにさせておくことにした。
少し首を伸ばせばキスできそうな近い距離。多分怒るだろうからやらないが、一方的に遊ばれているのも割に合わない。クセっ毛だな、と髪を梳くように撫でるキッドの指先が頬を掠める。離れる前に捕らえて唇を寄せ、強く吸ってやると、びくりとして手を引っ込めた。
白い右手の甲に、うっすらと残った薄紅色の跡。彼が抗議の言葉を口にする前に、先回りして言ってやる。「片方だけじゃ、アシンメトリーだよな?」
数秒の逡巡の後、不本意極まりない顔で差し出された左の手。俺は笑いを堪えながら恭しくその手を取り、わざと優しく唇を落とした。
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