夏のモノローグ



 その週末はいつもどおり日が高く上る頃まで惰眠を貪るつもりでいたんだが、マカがなにやら慌しく出かける用意をしていて、出て行く音で目を覚ました。どれだけ慌てていたのか乱暴にドアを閉める音をうるせぇなあと半分寝ぼけた頭で聞いて、寝なおそうかどうしようか迷った挙句自分の寝汗の感触が気持ち悪くて結局起きる事を決めた。首の辺りが冷たくなるほど汗を吸ったシャツを脱ぎ捨て、大欠伸をしながらカレンダーを見る。まだうまく回転しない頭であぁ今日はキッドの日か、とぼんやり考えて、はてなんで今日はキッドの日なんだろうと一人首を捻りもう一度カレンダーを見直した。
 8月8日……ああ。
 いやいやいや、確かに「8」はキッドのとても、非常に、大好きな数字だが、だからといって。
 そんな数字の並び一つで、自分が常にあいつのことを気にかけているって事が判明してしまうわけだ。すげーな、無意識レベルで侵食されてるよ、俺。最近なんか普通に街を歩いてても、お、あのビル左右対称だ、なんて考えてしまうあたり、あのシンメトリーバカに影響受けすぎだとは思う。
 でもそれを教えてやったらとても喜ぶであろう恋人の、シンメトリーを前にした時のキラキラした瞳とか、やたら幼く見える屈託のない笑顔なんかは容易に想像できて、そしてそれは俺に納得のいかない諸々の事項を許させてしまうだけの威力があるから困りものだ。
 相当ネジが緩んでんなという自覚はある、原因はきっとこの暑さのせい……だけじゃねーよな、やっぱり。
 これはもう元凶に責任をとってもらうしかねぇなと手早く身支度を整えるとバイクのキーを指に引っ掛け、くるくると回しながらエントランスへ向かう。今日は後ろにキッドを乗せて、シンメトリースポットを巡るデートと洒落込むことに決めた。まぁシンメトリーは正直どうでもいいんだが、なにしろ今日はキッドの日、だからな。
 出がけにちらりと時計を確認する。残念ながら08:08:08は少し前に過ぎ去ってしまっていたが、この時間ならキッドの奴はまだ死刑台邸にいるはずだ。キッチリカッチリ予定も立てずにいきなり来るんじゃない、ってまたぶつぶつ文句を言うんだろうなあと、予測して俺は苦笑に似た笑みを漏らした。






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