がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合〜   目次   Novel   Illust   HOME

がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合〜

第∞話:ぷっぺぽぱぷー!

 そう、これはまだラヴェルが旅に出るほんのちょっと前のお話……。

「どーどー、ふぁーどー……違うなぁ……」
 森と湖の国、シレジア。
 その美しい景色も夜の闇の向こうなので、窓からうかがい知ることはできない。
 シレジア城の歌人の間。
 音響がいいように全て木材で作られたその広間で、ラヴェルは壁際のいすに腰掛けて竪 琴をはじいていた。
 はっきり言って彼がうまいのは歌だけ、竪琴の演奏はちょっと……ヘタ。
 しかも……その彼に曲を作れとは!
 広間には芸術の国らしく、宮廷詩人や楽士、国内外から招かれた吟遊詩人達が大勢集ま っていた。
 今日は歌合わせの会、お題の詩に最も似合う曲を作った者に栄誉が与えられるのだ。
 高名な彼等に紛れ込んでいるラヴェルには、居心地が悪くて仕方がない。
 一生懸命にメロディーを考えるラヴェルだが、他人の楽器の音が一々気になってしまい、 なかなか集中できないでいる。
「うーん……別の所にいこうっと」
 気が散るのでラヴェルは自分の寝室にあてがわれた部屋に戻った。ベッドに腰掛けて弦 をはじく。
「レミレソラーミー……」
 今一つしっくりこない。

 今宵星降る夜、木々の眠る森の奥で、妖精は歌い、踊る……

 こんな出だしで始まる詩に、メロディーと簡単な伴奏を今夜中に作るのだ。
「ドレファー……うーん、シドソーの方がいいかな……うーん、うーん……」
 爪弾く竪琴の音は今一つ透明感にかけている……完全に練習不足だ。
「あーあ、そもそも僕は歌うほうが得意なんだよなぁ……」
 出るのはアイデアではなくて溜め息ばかり。
 それでも、この歌会に引きずりだされた以上、何も作らない訳にはいかない。何せ、全 員が一曲ずつ発表させられるのだから。
「こよい〜レミソーほしふるよ〜ラシシラシー……うーん……」
 やがて窓の外、木々の影の東に輝いていた月が、梢の西へ移動している。
「レミソラシーシラシードシソラシラファーラミレミシー……」
 何とか曲らしきフレーズが浮かび上がる。
 浮かび上がった。
「よし、これでいこうっと」
 浮かんだそのフレーズを忘れないうちにメモしておこうとラヴェルは羽ペンを取り、紙 の隅っこに走り書きをし……ようとしたその瞬間。

 ぱっぽぷぺぽー!!

「ぎゃんっ!?」
 部屋の扉が開くのと同時、凄まじい音量で、凄まじく下手なトランペットの音が耳を つん裂いた。
 ぼとっとペンを取り落として戸口を見ると、この城の王子で楽士でもあるクレイルが立 っていた。
「やあラヴェル、いつもフルートじゃつまんないから、新しくトランペットなんか手に 入れてみたんだけど」
「は……はあ……?」
 金ぴかの……真鍮にメッキをした安物のトランペットを、クレイルはまた得意そうに 口にあてる。

 ぷっぺぱぽぺー!

「………………」
 楽士なだけあって、クレイルはフルートだろうがホルンだろうが、リュートだろうが竪 琴だろうが何でもござれなのだが……いかんせん運動不足で腹筋不足、口元でただ目茶苦茶 にふいているラッパの音は、非常にうるさい。
 しかも音程を無視しているのでハチャメチャ。
「ところでラヴェル」
「は、はい?」
 気を取り直してペンを拾い上げたラヴェルに、クレイルはいつものニコニコ目で問い掛 けてきた。
「今晩用の曲はできた? できた? 聞かせてよん」
「………………」
 思わず。
 ラヴェルは沈黙した。沈黙せざるをえなかった。
 その言葉に頭の中が真っ白になる。
 なぜなら、せっかく浮かび上がったメロディー……そう、まだメモしていなかったそれは、 クレイルのラッパの音とともに頭の中からいずこかへとブっ飛んでしまっていたからで あった……。

‐完‐

  目次   Novel   HOME         (C) Copy Right Ren.Inori 2001-2006 All Right Reserved.