競馬用語
一杯に追ふ=その馬の全能力一ぱいに追ふと云ふ意味であるが、「あの馬はあれで一ぱ
いだ」と云へばゴールに入る時に精一ぱい馬を追つて、最早余力がないといふ意味である。
ハロン=(Fwrlong)の意味で、一ハロンは約二百米である。よく十三で駈けたとか、十
四で駈けたなどと云ふのは、平均一ハロンを十三秒、十四秒で駈けたと云ふことである。
発馬係=(スターター)レースにとつては重要な役目で、名の示す通り発馬を扱ふ人であ
る、今では一般に発馬係りとは云はずに、スターターと呼んでゐるが、フアンにとつても
又重要な係りのわけである。
はみにかゝる=駈歩にも用ひられてゐるが、一般にはみにかゝつたとか、はみにかゝら
ないと言ふ言葉は速歩に用られてゐる。馬の口にしつかりはみが嵌れば、馬は騎手の手綱
捌きで走るのであつて、はみが浮いてゐる場合はともすれば、首を振つて馬は能力を発揮
することができないのである。
はつてゐる=「今日はあの馬ははつてゐる」とか「はつてゐない」とか云ふ言葉である
が、馬の一種の興奮状態を言ふのである。
はなを切る=スタートしてすぐ先頭に立つことであつて、「三番の馬がはなを切つてゐ
る」と云へば三番の馬が先頭に立つてゐると云ふ意味である。又この場合逃てゐるとも云
ふのである。
ばてる=最初追ひ過ぎて一見好調子で駈けてゐた馬が急に脚力が衰へて速力を失つた時
とか、先頭に二頭並んで競合つてゐた場合双方疲れて急に速力を失つた状態を「ばてた」
と云ふのである。
はぐる=速歩馬がレース中に歩調を乱して、駈歩の状態になることで「キヤンターをし
た」とか「バカをつく」など同意味である。
バツク・ストレツヂ=観覧席と反対側の向正面の直線コースのことである。
裂蹄=競走馬の蹄の裂ける疾患である。縦裂横裂の二種あるが、普通前蹄の内後壁に縦
裂に起るものである。
逃げる=スタートして他の馬を稍々放して先頭になつて走つてゐることで、「逃げ切っ
た」と云へばそのまゝ、他の馬の追撃をさけて一着にゴールに入つたことを云ふのである。
ホーム・ストレツヂ=観覧席正面の直線コースのことである。
本命=馬券的に一レースの出走馬の中で第一人気の馬や、誰れが見ても当然勝つと思ふ
馬をさして一般に本命と云つている。又「××新聞はAの馬を本命にしてゐるが△△新聞
はBの馬を本命にしてゐる」などと云ふのはその新聞によつて勝馬予想の一位にあげられ
てゐる馬のことを云ふのである。
特配=二百円の大穴の出た時、売上げより適中者に二百円づゝの払戻をして残つた金額
を適中しなかつた投票者に票割にして払戻す特別配当であつて、略称して特配と云つてゐ
る。
登録=馬をレースに出すには、一定の金額を出して、その馬の名前、性別、年齢、賞金
稼高、会員名、持主等を明記して、期日までに倶楽部に出馬申込をする、これが登録であ
つて、一競走一頭について普通登録料は五円で、登録された馬は番組へ出る。これを普通
登録または、一般登録と云つてゐる。特殊ハンデキヤツプとか、東京優駿競走とか、ステー
クスとか云ふ特別条件のレースに於ては、それぞれ規定に従つて所定の金額を倶楽部に期
日までに収める。この金が登録附加賞であつて、本賞金以外に一、二、三着馬に分け与へ
られるのである。又、優勝レースには勝馬は必ず登録させることになつてゐるが、これは
登録料は取らない。一種の義務登録とも云ふべきものである。しかし勝馬を優勝レースに
出走させない場合は一定の退場料を倶楽部に徴収されるものである。
特徴=これは各馬を識別する標徴となるもので、白斑、烙印、額刺毛、毛色、瘢痕、斑
毛等でその馬の特徴を云ふのである。白斑のうち額にあつて小さなものを小星と云ひ、特
に小さく白斑とまでなつてゐないものは額刺毛と呼んでゐる。鼻の白斑は鼻白、星が額か
ら下方に延びてゐるものは流星、唇にあるのは唇白で、上唇、下唇の別によつて上唇白、
下唇白と云つている。
脚の白斑はその数と、前後肢とによつて、前右一白とか前左二白とか前後三白右後一白
とか呼び、その白斑の形によつて小白、半白とか云つてゐる。烙印は例へば下総牧場産馬
はSと云ふ符号を新冠牧場ではN、抽籤馬では東京倶楽部のT、中山倶楽部ではN等の烙
印を押してその部位と形状等の特徴が明記されてゐる。
調教師=調教とは馬が競走によく走るやうに、練習をさせることで、その仕事に当つて
ゐるのが調教師である。わが国では騎手と調教師とが同一人の場合が多いが、外国では厳
然と区別されてゐて、騎手は競走に出るのが専門で調教師は馬の管理、飼育、調教が専門
となつてゐる。
血統=馬はその父と母の血統によつて、殆んど能力が先天的に決つてゐる。優秀な馬の
血統からは必ず優良馬が生れてくる。
英国あたりでは血統を正しくする為に競走馬の血統は総てわかるやうにスタンド・ブツ
クと云ふものが出来てゐて三百年も前からの馬の血統をそれに登記してあるので、現在一
頭の馬がをれば、その馬の何十代までの祖先までがわかるやうになつてゐる。これは現在
日本の競走馬でも同じである。
地乗り=速歩レースの時に、馬が馬場に出てから一周位軽く馬を走らせて、レースに対
する脚ならしのことである。
調教馬名表=競馬倶楽部で一般登録を締切ると、全部の登録馬を新抽、古抽、呼馬、障
碍馬、速歩馬に区別して、ゼツケン番号を色分けに、イロハ順に番号を定めて、小冊に纏
めたものである。つまり番号と色とによつて、何んの馬であるか明示されるやうになつて
ゐる。
純血=とは読んで字の如く、遠き祖先から他の馬種の血液を混せず同一馬種を以て累代
純粋蕃殖させてきたものゝ謂ひで、アラブ、サラブレツド、その他外国より輸入せられた
アングロアラブ、ギドラン、トロツター等、何れも純血種と云はねばならないのであるが、
競走馬に就ては「何と云つてもあれは純血だから」と云ふやうな場合は、純血とはサラブ
レツド種のみに向つて云はれるのが普通になつてゐる。倶楽部の番組に載つてゐる血統欄
に、父母の馬名にサラと冠してある馬は純血のわけである。
情報=騎手や厩舎の人が、今日は何々の馬が勝てるとか、何々の馬が飼葉の食が悪いと
か云ふ知らせを情報と云つてゐる。
追ひ切り=各競馬会開催前に特に本馬場を開いて調教させてゐるが、最後の本馬場調教
のことを追ひ切りと云つてゐる。
押へる=ラスト・スパートにそなへて、最初の馬の速力を騎手が手綱を締めて、速力を
制禦することで「しめてゐる」とか「引つぱつてゐる」などと同意語である。
枠順=馬がスタートラインに列ぶ時の順を枠順と云ふ。この順は出馬投票開票の上抽籤
によつて定め、内柵から123……の順に列ぶのである。
かます=規則では禁じられてゐるが、レースに出走する時に興奮剤を馬に与へることを
「かます」と云つてゐる。
かんかん=普通負担重量のことを云つてゐる。「あの馬はかんかん泣きがしてゐる」と
云へばその馬の負担重量がこたへて、よく駈けられないことである。又かんかん場とは負
担重量を計る検量室のことである。
ガニヤン=仏蘭西語で単勝式の意、たゞ単とも云ふ。一着馬に適中した場合のみ払戻さ
れる馬券である。
からを脊負ふ=競馬に出走してその競馬場の開催中に一着になれなかつたことを云ふ。
たたく=馬を強く追ふために鞭でたたくことからきてゐる言葉で、強く馬を追ふつて駈
けされることを云ふのである。「昨日たたいてゐるだけに今日は走る」とか、「昨日たた
いてゐるだけに今日はむづかしい」など用ひられる。
レコード賞=中山京都の二倶楽部だけに贈与されてゐるもので、各レースに於て新にレ
コードを作りたる騎手に対して金弐百円を授与されてゐる。
外枠=スタートラインに各馬が内柵から123……の順で一列にならぶ時に外側の方を
外枠と云ふのである。
つゝまれる=レースに馬数の多い場合、前後左右から囲れて、その馬の実力を発揮出来
なくなつた状態を云ふのである。
内枠=スタートラインに列ぶときに内柵の方を、内枠と呼んでゐる。
能力賞=阪神倶楽部で優秀馬奨励の為に贈与されてゐるもので、左記の標準速度を示し
たる一着馬に対して、優秀能力賞として五百円を授与、又騎手に対しては記念品を授与せ
られてゐる。
種別 距離 標準速度
米 分 秒五分
駈歩競走 一、八〇〇 一、五二、三
二、〇〇〇 二、〇六、〇
二、二〇〇 二、一九、〇
二、四〇〇 二、三四、〇
三、二〇〇 三、三〇、〇
三、四〇〇 三、四三、〇
アラブ系駈歩競走 一、八〇〇 一、五七、〇
二、〇〇〇 二、一二、〇
二、二〇〇 二、二五、〇
二、四〇〇 二、四〇、〇
障碍競走 二、四〇〇 二、四〇、〇
二、七〇〇 三、〇〇、〇
三、六〇〇 四、〇三、〇
アラブ系障競走 二、四〇〇 二、四六、〇
二、七〇〇 三、〇八、〇
三、二〇〇 三、四四、〇
繋駕速歩競走 三、六〇〇 五、三四、〇
四、〇〇〇 六、一二、〇
五、〇〇〇 七、五五、〇
六、〇〇〇 九、四五、〇
減量騎手=若き騎手養成の意味に於て、中山、阪神の両倶楽部に特に設けられてゐるも
ので、年齢二十歳未満の試験に合格したる騎手で、一着賞を得たことのない騎手は規定重
量より五瓩を、又、一着賞五回以下の騎手は三瓩、十回以下の騎手に対しては、二瓩を各々
減じられてゐる。しかし、特殊ハンデキヤツプ競走、優勝レース、その他特殊競走に於て
は、減量されないことになつてゐる。
ふくれる=競走中にコースを有利にとることは勝負に重大な関係のあることで、コーナー
を大きく外に廻つたことをふくれたと云つてゐる。
フケ=春期牝馬に多い発情のことで、「盛り」とも云つてゐる。
プラツセー=仏蘭西語で、複勝式の意、ただ複とも云ふ。馬券の払戻しは出走馬八頭以
上の場合は、三着まで、五頭以上七頭までの場合は二着まで払戻しされるものである。
追込み=馬が最後のコーナーを過ぎて、直線コースにくると各馬一団となつて、最後の
努力をかけて、ゴール目がけて、追ふのであるこれを追込みと云ふ。
エビハラ=競走馬には割に多い前脚の疾患である。前脚の背部に在る腱が熱を持ち膨れ
るのを云ふのである。腱炎とも云ふ。常に走力を望む競走馬には、調教やレースに無理が
多い為にかゝるのである。治癒が甚だ困難である。
出来=馬の状態、馬の調子、速度の良くなつてゐる場合を出来がいゝと云ひ、反対に調
子の悪るいことを出来が悪るいと云ふ。
穴=配当の多いのを穴と云つてゐる。穴馬と云へば人気の薄い勝てば相当配当の付く馬
のことで二百円近くの配当になつた場合を大穴と云つてゐる。
穴場=勝馬投票券を発売してゐる所を穴場と称してゐる。これは人気の穴と云ふ意味で
なく、馬券発売のために小さい穴窓が沢山に並んで居るので穴場と呼ばれてゐるのである。
あがる=競走馬が一勝をすること云ふ。「あの馬は前半にあがるだらう」と云へば、前
半に勝てるだらふと云ふ意味である。
あげる=競走馬が賞金を稼いで重量が重くなつて、競走馬としての生活を切り上げるこ
とで、「あの馬も愈々この春中山限りであげる」等と用ひる。
脚がない=脚とは脚力のこと、更に言ひ換へれば速力のことである。「脚がある」と云
へば馬が速力を持つてゐて強いことを意味する。「末の脚がない」と云へば最後の追込に
きて速力が衰へたことを意味する。
三分三厘=従来日本の競馬場は一周一哩(千六百米)が標準馬場であつた関係、かふ云ふ
語が生れたものであつて、馬場の一地点のことである。千八百米のレースを一哩一分、二
千米のレースを一哩二分と云はれてゐるが、一分は二百米であつて、一哩を八分した一分
のことである。三分は六百米、三厘は六十米で、決勝点手前、六百六十米の地点のところ
を称して三分三厘と云ふのである。レースにはこの地点まで馬の力を押へて来て、こゝか
ら一様にゴール目掛けて追ふのであつて、一つの目標の地点である。
さし込む=レースに於て半哩辺から三分三厘あたりで先行馬の中にスピードを出して、
追つて行くことである。
差馬=よく新抽や新呼のレースに初日二日目あたりの強敵を避けて出走しないで、三日
目とか四日目あたりに合手馬を見て始めて出走することを差馬と云つてゐる。
キヤンター=極めて緩やかな駈歩のことで、調教用語であるが、速歩競走で歩調を乱し
て駈歩の状態になることを「キヤンターした」とも云つてゐる。
斤量不足=競走後検査場にて入賞馬の負担重量を検量をするものであるが、規定重量よ
り半瓩以上不足してゐた場合、その馬は失格となるばかりでなく、騎手はある期間中騎乗
停止の処分になるものである。
白旗=スタートラインより約二百米位前方に白旗を掲げてゐる係りで、発馬が完全であ
るか否かをスターターの合図によつて、スタートした各馬に知らせる係りで、スターター
の助手のやうなものである。
平場=障碍競走に対して駈歩競走のことを平場とも云つてゐるが、駈歩競走で特殊競走
以外の普通のレースを平場と称してゐる。
控へる=レース中に不利のコースをとり、外側の馬の為に押えられた場合等に一旦馬を
下げることで、控へると云つてゐる。
曳馬所=レース前に馬を曳いて見せる所。下見所とも云ふし、馬見所とも云ふ。
ゆるむ=競走馬の絶好のコンデイシヨンである時は、馬の出来が良いと云つてゐるが長
距離レースや、何回もレースに出走させると自然馬が疲労して、馬のコンデイシヨンが悪
るくなつてくる。この場合「馬がゆるんだ」と云ふ。
黄旗=発馬して最初の馬が黄旗振りの前に出た時に審判台の時計係りに合図する役であ
る。発馬機はどこの競馬場でも実測距離より幾分後方にあるのが通例であるため、従つて
この黄旗振りも必要なわけで、一名時計旗とも呼んでゐる。
騎乗停止=騎手が斤量不足や、レースの公正を害した場合とか、その他競馬施行規程に
違反したる場合当事者の決議に依つてある期間中騎乗停止の制裁を受ける。騎乗停止にな
つた騎手は、レースは勿論のこと平常の調教にも騎乗出来ないので営業停止の処分を受け
たのと同様の過酷の制裁のわけである。
失格=レースは絶対に公正に行はれべきものであるが、騎手が左の行為を為したる場合
入着しても、審判係の判定に依つて失格されるもので、自然馬券も払戻を受けられないの
である。
一、他の馬を押圧又は妨害すること。
一、他の馬の前路へ侵出すること、(但し二馬身以上の距離ある場合は此の限りに在ら
ず)
一、その他競走の公正を害する行為をなすこと。
一、速歩競走に於て駈歩に依り速度に利益を得たるもの、若は駈歩の儘決勝線に到達し
たる場合。
もちこみ馬=外国で妊娠した牝馬を日本へ連れてきて、日本で生れた馬のことをもちこ
み馬と称してゐる。父母は外国産でも仔は内国産であるから、競馬に出られるわけでクレ
オパトラトマス、パプステツド、ベンジヤミン等もちこみ馬のわけである。
競合ひ=レース中に互に先頭に並列して競ふことであつて、競走馬は非常に競争心に富
んでゐるので互に負けぬ気で先頭にならうとするのであつて、単に競とも云つている。
ステークス=ステークスとは出馬登録料、又は申込金を、馬主の醵出せる金額を附加賞
とする競走で、その総額を一、二、三着馬に、七、二、一、とか六、三、一の割合にて授
与するものである。
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