競馬場の地理とコースの特徴

 主務官庁たる農林省直接の監督の下に施行されてゐる、所謂公認競馬場は、東京、中山
日本(根岸)、京都(淀)、阪神(鳴尾)、小倉、宮崎、福島、新潟、札幌、函館の十一
ケ所である。左に各倶楽部の位置、馬場のコース、特徴等について説明して見よう。

東京競馬倶楽部

 東京競馬場は東京府下府中町にある。総面積二十二万余坪、スタンドその他の設備も、
外国の競馬場に較べて少しも劣らない位な立派なものである。秩父の連山を遥かに見渡し
晴れた日には富士が見えるし、風光明媚な壮大な競馬場である。

 本馬場の一周は二千百米、幅員は三十米で全部芝生が植付してあり、土質もよく、又排
水も良好である。バツクストレツヂに昇り降り各四十分の一の勾配の坂路があり、又ホー
ムストレツヂは、長さ百六十米の六十分の一の坂路となつてゐる。追込直線コースは四百
七十米、追込みの長きことも日本随一である。レースは他の競馬場と異り、左廻りのコー
スで行はれてゐる。スタートは千六百米はバツクストレヂを直線に、千八百米は第二コー
ナーを直線に、二千米は第一コーナーを直線に、切られるやうになつてをり、二千二百米
以上のレースに於て完全に一週するものである。

 障碍馬場は、専用コースで延長三千百四米あり、X字コース、S字コースになつてをり、
障碍物は大小水濠二、生籬七、竹柵一つで、他にバンケツト一つが設けられ、コースに変
化の多い理想的な馬場である。

 練習馬場は全国に誇るべきもので、本馬場の内側に二条設けられてゐて、外側は速歩馬
の調教に使用せられ、一周千九百九十二米、又内側は駈歩馬専用の練習馬場で、一周一千
八百九十一米である。

 入場料は一等五円、二等二円である。

日本レースクラブ

 横浜市根岸にあるので、一般に横浜競馬、又は根岸競馬と称せられてゐる。日本で最も
古い歴史をもつ競馬場で、現在の馬場は慶応三年に出来たものである。府中に較べると、
構内は稍々狭いが、しかし競馬場の彼方に三方海を見渡して、競馬を見ながら白帆の去来
するのが見えるなど、なかなか美しい景色である。こゝのスタンドは度々改築され、現在
のスタンドは昭和五年に出来たもので競馬場のスタンドとしては本格的な大スタンドであ
る。

 本馬場の延長一千六百三十二米、大体円形をなした競馬場である。決勝点より第一コー
ナーまでに長さ二百六十米の降り平均二十九分の一の勾配の可成りの急坂になつてゐる。
第一コーナーは急曲角カーブで、これより二百米の間は昇り二十七分の一の急勾配の坂路になつ
てゐる。その他実に起伏に富んだコースで、追込線は僅に二百二三十米位しかなく、レー
スには逃げ馬に有利な競馬場である。

 障碍は特設されたコースなく、本馬場に於て、置障碍を使用、レースを行つてゐる。

 入場料は東京と同様一等五円、二等二円である。

中山競馬倶楽部

 千葉県東葛飾郡葛飾町に在る。

 中山競馬場もスタンドが稍々狭隘の感であつたが昨年改築増築せられて、場内の設備も
小さい公園のやうで、殊に子供を伴ふことが出来るので、何んとなくのびのびした遊楽気
分を味ふことが出来る。又場内の食堂では酒類も飲ませるし、入場料も府中、根岸より安
く一等三円、二等一円で競馬場としては特に大衆的なものである。

 本馬場の一周は千六百米で、円形をなしてゐる。追込直線コースは約三百八十米で、
決勝点に入る前、長さ百三十米の相当の昇り坂になつてゐるので、持久力のある追込馬に
有利の馬場である。

 障碍馬場は、昭和九年に新設されたもので延長約二千二百七十米、バツクストレツヂは
本馬場の外に出てゐるので、本馬場との形状は丁度凸型をなしてゐる。コースの中には、
三ケ所に約八分の一の阪路があり、降り昇りは相当の急勾配で、レースにはスタンドより
見てまつたく馬の姿が没する時がある程である。

 障碍物には、高さ一米六〇もあり大障碍があり、わが国最高のものである。その他水濠
障碍等コースとしては、他倶楽部に較べて一番変化のある馬場である。

京都競馬倶楽部

 京都の競馬場は京都府下淀町にある。淀川の堤を正面に見る極く平坦な円形をなした
一周千六百米のコースである。ホームストレツヂ、及バツクストレツヂは共に約五百米の
直線コースになつてゐて、ゴールに向つて各馬一斉にラストスパートする追込直線は約四
百米になつてゐる。

 障碍馬場は本馬場の内側になつてゐて、一周千三百九十七米、東方に長さ三十米、中央
高さ三米のバンケツトが設けられ、固定障碍物の障碍専用コースである。馬場の中央は大
きな池になつてゐて、時には鴨などが群をなして沢山遊んでゐる。この辺ちよつと東京附
近の競馬場では見ることの出来ない京都らしい長閑なものである。

 この倶楽部の馬券売上げ高は毎年全国倶楽部中の第一位で、昭和十年春秋二季に於ける
合計売上げ高は二千百三十七万余円で、全国倶楽部総売上高の二割強をしめてゐる。

 入場料一等三円、二等一円である。

阪神競馬倶楽部

 兵庫県鳴尾村に在る。

 現在のスタンド及トラツクは昭和九年秋季に改築されたものである。こゝのスタンドは
一、二等館を一体としたもので、全長約三百数十米あり、長さに於ては日本随一であろう。

 本馬場の一周は千八百五十米、府中の東京競馬場に次ぐ大型競馬場である。コースの全
型は大体円型をなした三角形の競馬場で、従前平坦であつたこゝの馬場も改築後は、バツ
クストレツヂに三百米の昇り降り四十五分の一の相当急勾配の坂路を設け、第四コーナー
には四十米の昇り降りの坂になつてゐる。追込直線コースは約四百米、可成り長きもので
ある。馬場は土砂馬場としてわが国で代表的なものである。

 入場料一等三円、二等一円である。

福島競馬倶楽部

 所在地=福島市大字小山荒井字道下三

 こゝの本馬場一周は千六百米で円形をなした平坦な馬場である。ホームストレヂ及バ
ツクストレヂは約四百五十米の直線コースで、追込は約三百米である。

 障碍専用コースは、本馬場の中にX字形のコースを作つたもので、一等館スタンド前方
に長さ三十五米、中央の高さ三米のバンケツトを一ケ所設けられてゐる。

 こゝの競馬会開催日は、例年春季は六月下旬、秋季は九月下旬より行はれ、春はこの地
の名産、桜桃が葉蔭に赤く実を結んでゐるのも美事なものである。

 福島競馬場の近郊には、東北随一と称せられる飯坂温泉を控へてゐるので、関東、関西
の遠征客は、多くこゝに泊るやうである。

 入場料は一等一円、二等五十銭である。

新潟競馬倶楽部

 新潟市関屋に在る。楕円形をなした競馬場で、本馬場一周千六百米の、極平坦な馬場で
ある。ホームストレツヂ、及バツクストレツヂは約五百米の直線コースで、追込は約三百
米である。

 障碍競走は本馬場に置障碍を以つてレースを行つてゐる。

 こゝの競走馬は、中央の檜舞台で着も拾へなかつた二、三流馬の活躍舞台で、競馬フア
ンも騎手も遊ぶ気分の気安さをもつてゐるやうだ。それだけに又、地方競馬特有の面白さ
もあるわけである。

 馬券は、特に単複十円券と、複二十円券の二種を発売してゐる。

函館競馬倶楽部

 函館市外柏野に在る。現在の馬場は昭和五年春季に改造されたもので、スタンドもなか
なか立派なものである。

 馬場の形状は楕円形で、本馬場の一周は千六百米、大体に於て平坦な馬場である。ホー
ムストレツヂ及バツクストレツヂは約四百五十米の直線コースで、追込は約二百五十米位
ある。馬場は本格的な土砂馬場で排水は非常に良好である。

 障碍馬場は本年新しく造築されたもので、8字形の延長三千三百九十五米のコースで、
東南方のコースは、本馬場より張り出しになつてゐる。馬場の中央に長さ三〇米、中央の
高さ三米のバンケツトを設け、障碍馬場として理想的なものである。昭和十一年春季競馬
より使用される予定である。

札幌競馬倶楽部

 所在地=札幌市北十六条西十九丁目

 わが国最北端の競馬場である。本馬場は、円形をなした一周千六百米の平坦な馬場でホー
ムストレツヂ、及バツクストレツヂは約三百五十米の直線コースで、追込は約二百米他は
殆んどカーブになつてゐる。

 この倶楽部に於ては早くより左廻りのレースを特に設けてゐる。

 障碍競走は本馬場に置障碍を以て行はれてゐて、障碍専用コースはない。

 馬券は単十円、複二十円券の二種を発売してゐる。

小倉競馬倶楽部

 所在地=福岡県企救郡企救町

 九州都会地を控へてゐるだけに、馬券の売上げ高も関東、関西の五倶楽部に次ぐ数字を
示して昭和十年一ケ年の総売上げ高は八百三十二万余円に達してゐる。

 スタンドも鉄骨鉄筋コンクリート造りでなかなか立派なものである。

 本馬場は楕円形を成した競馬場で、一周千六百米、幅員三十六米で、全国競馬場での随
一の広さである。審判台より約三百米南方のコースは約七〇分の一の勾配の坂路があり、
第三コーナーに又同様の勾配二ケ所の坂路になつてゐる。

 障碍馬場は延長二千百六十米、本馬場の内側に8字形のコースが設けられてゐる。コー
スの北方に長さ三〇米、中央の高三米のバンケツト一ケ所あり、固定障碍十ケ所設置され
てゐる。

 入場料一等二円、二等一円である。

宮崎競馬倶楽部

 宮崎市花ケ島町に在る。敷地総面積六万三百余坪、全国競馬場での最も少面積な競馬場
である。本馬場の一周は千六百米、楕円形の平坦なコースである。

 障碍馬場は延長七百十米、X字形の平坦なコースである。

 入場料一等二円、二等一円である。

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