競馬場の構成と競走距離

競馬場の構成

 日本の競馬場は大体に於て楕円形状が多く一周の距離も東京、阪神を除いた、他の競馬
場は一周千六百米になつてゐる。楕円形の馬場は原則として二条の直線コースと両端をつ
なぐ二ケ所の稍々半円形の形状に造られてゐるので、従つて四つのコーナーがあるわけで
ある。その二条の直線コースの向ふ正面をバツクスツレツヂと云ひ、観覧席前のコースを
ホームストレツヂと云ふ。このホームストレツヂに決勝点が設けられてゐる。決勝点はそ
の馬場の距離の基点で千六百米の馬場に於ては決勝点であり、又発馬地点でもあるわけで
従つて千八百米競走の発馬点は二百米後方に二千米の場合は四百米後方に於て発馬される
ものである。決勝点前には審判台が設けられ二人以上の審判係がゐる。わが国では総て審
判は合議制に依つて行はれてゐるので必ず二人以上審判員がゐるわけである。この審判台
からレースの方向に例へば府中を除いた他の競馬場は右廻り(右手が内柵になるやうに駈
ける方向)の方向に最初のカーブを第一コーナーと云ひ、次のコーナーを第二コーナー、
それからバツクストレツヂの直線コースで、その次のコーナーは第三コーナーであり、四
つ目のコーナーを即ち第四コーナーと称するのである。第四コーナーから決勝点までの直
線コースを追込と云つてゐる。

 現在の各競馬倶楽部の編成されてゐる、競走距離は殆んど千八百米以上であるから、府
中を除いた他の競馬場では、各レース殆んど一周するやうになつてゐる。

競走距離

 競走距離はわが国競馬法施行規則によつて、最低限度が定められ、駈歩競走の距離は一、
六〇〇米以上、速歩競走に於ては三、二〇〇米を下ることを得ないようになつてゐる。

 最長距離は駈歩、四、〇〇〇米、障碍四、一〇〇米、速歩六、〇〇〇米で、昭和十年秋
季各競馬倶楽部の競走距離回数別は、駈歩に於ては一、八〇〇米が一番多く二百三回、次
が二、〇〇〇で百九十二回、二、二〇〇米七十四回、二、四〇〇米三十三回、三、二〇〇
米六回で、他は全部十回未満となつてをり、現在の馬の馬格及能力に鑑みて、一、八〇〇、
二、〇〇〇米二、二〇〇米を主とした番組が編成され、競走が行はれてゐるものである。

 新抽、新呼は未だ馬が軟きために、古馬に比して競走距離も平均短くなつてゐる。左に
昭和十年東京倶楽部に於ける、競走馬種別に競走距離回数を参考までに記して見る。

1,6001,8002,0002,2003,3001,4002,6003,2003,400
古呼   
新呼   
アラブ古抽
アラブ新抽

 前記表の如く一、六〇〇米競走に於ては新抽の一回だけで、アラブ系古抽も二、〇〇〇
を主として行はれてゐる。昭和八年春季同クラブに於けるアラブ系古抽馬競走は一、八〇
〇米五回、二、〇〇〇三回であつて、二、〇〇〇米以上のレースは編成されてゐなかつた
ものである。

 昭和十年秋季に於ける各倶楽部の、アラブ系、呼馬の特ハン、及優勝競走距離別は、ア
ラブ系特ハンは、新潟、福島の一、八〇〇米で最短であつて、小倉の二、三〇〇が最長で
ある。他の八倶楽部に於ては二、〇〇〇米が行はれてゐる。優勝競走距離は、札幌、函館、
新潟、福島、中山、阪神は共に二、二〇〇米で、日本、小倉、宮崎、京都は二、四〇〇、
東京のみは二、三〇〇米になつてゐる。

 呼馬特ハン距離は、札幌、新潟、福島各々二、〇〇〇米で、小倉、中山、日本、阪神、
京都は二、二〇〇米、東京は二、三〇〇米で行はれ優勝レースの最長距離は阪神の二、七
〇〇米で日本、東京、中山、小倉は共に二、六〇〇米、札幌、函館は二、二〇〇米で最短
距離となつてゐる。

 帝室御賞典は、東京、日本、阪神、小倉、福島、札幌の六倶楽部に特に御下賜になつて
ゐる競走で、距離は各倶楽部二、〇〇〇米で行はれてゐる。

 三、二〇〇米(二哩)競走は、東京、阪神、京都の農林省典、小倉の九州産馬小倉特別、
日本の横浜特別等で、目黒記念、阪神記念は共に三、四〇〇米である。春季のみ行はれて
ゐる中山四千米は、平場競走での最長距離である。

 障碍競走は、二、四〇〇米が最も多く行はれ九十六回、次が二、六〇〇米で四十三回、
二、八〇〇米、十九回、二、五〇〇米及三、二〇〇米は共に十回で他の距離は十回未満で
ある。最短距離は二、二〇〇米で、函館、新潟、福島の倶楽部にて各一回づゝ行はれてを
り、最長は中山の農林省典四千百米である。優勝レース距離は三千二百米が最も多く、札
幌、函館、新潟、小倉、日本、東京の六倶楽部で行はれ、中山、福島は三千三百米で、阪
神、京都は三千六百米である。

 速歩競走距離も、平均近年著しく増加せられ、昭和八年春季に於て最短距離の三千二百
米競走十七回のものが、昭和十年秋季には、僅に函館、福島、新潟、小倉の四倶楽部に於
て各一回づゝ行はれてゐるのみである。

 現在最も多く行はれてゐる競走距離は、四千米であつて四十二回、(昭和八年春季二十
七回)千六百米(昭和八年春季四十二回)三千八百米は各々二十二回で、四千二百米は十三
回で他の距離は十回未満である。最長距離は阪神、小倉の二倶楽部で行はれてゐる、六千
米である。

枠順

 枠順とは発馬の時に整列する順位のことで内柵から若き番号順に並ぶものである。

 枠順については騎手及フアンに相当重要視されてゐるが、出馬頭数、馬場のコンデイシ
ヨンに依つて、内枠の有利の時と又、外枠の有利の場合とあるわけである。出足の速い馬
にとつては、スタートの失策のない限り内枠でも外枠でも余り関係ないと思ふが、内枠は
競走距離の関係から云へば有利なわけで、これを統計上の数字から見ても、外枠の馬より
内枠の馬の方が勝率が多い。しかしこの数字だけによつて内枠の馬の方が何時も有利であ
るとは云へないのである。例へば出場馬数の多い十四五頭以上の競走では、内枠の馬は出
遅れなくとも、出足のにぶい馬は忽ち進路を遮られ、包まれる恐れがあり、不良馬場の場
合内側のコースは、殊に路が悪るくなつてゐる為に不利なわけである。不良馬場の場合は
大体に於て中間より外枠のコースの方が馬場が良い為に少し位のコースの損は速度によつ
て補へるわけである。

 出馬数の五六頭位の少数の場合、前記のやうな関係は殆んどなく、実力さへあれば多少
の出遅れをしても追込みの作戦等によつて勝敗を有利に導くことも出来るわけで、勝馬判
断上には考慮を払ふ必要もないことである。

スタート

 騎手にとつてスタートは実に大事なことである。殊に近年、一レースの出走馬が多くな
つた為、勝敗は既にスタートの巧拙によつて半ば決せられると云つてもよいのである。

 スタートは真に一瞬間で、騎手は全く、角力の仕切同様一瞬の油断も出来ないわけであ
つて、多数の馬の気合を合せる、発馬係の職責も亦、重大なわけである。

 スタートすると発馬係は、発馬線の前方約百五十米位の所に立つてゐる白旗振りに、発
馬の完全か否かを合図するものであつて、白旗はこれを駈けて来た各馬に知らせるもので、
白旗が振り下ろされて初めて発馬が完了されるわけである。

 我が国の発馬法は従来、駐立発馬式と、前進発馬式の二様であつたが、近年駐立発馬式
に改められ、発馬線に整然と駐立して一斉に発馬するものになつてゐる。

 発馬に対する、競馬施行規程が左の通り定めてある。
 一、馬を廻転し又は横若くは後向きにすること。
 一、馬を後に控へ又は発馬合図前発馬機に突進せしむこと。
 一、音声又は動作を以つて他の騎手又は馬を妨害すること。
 一、其の他発馬の公正を害する行為をなすこと。
等発馬に際し騎手は右の行為を禁ぜられてゐる。

レコード

 競馬界の専門家はタイムのことを時計と云ふ。これは長い間の習慣語である。陸上競技
にしても、水上競技にしてもレコードホルダーの名誉は実に輝しいもので、競走馬に於て
も亦同様である。

 日本の競走馬の速度も二十数年前に比較すると、実に進歩したもので、明治四十年、即
ち前期競馬黄金時代とも云ふべき頃のレコードは
 一  哩 (約一、六〇〇米) 一分四十四秒 ヒダチ  (濠抽)
 一哩 1/8 (約一、八〇〇米) 二分  五秒 メルボルン(同)
 一哩 1/4 (約二、〇〇〇米) 二分 二〇秒 同    (同)
 一哩 1/2 (約二、四〇〇米) 二分四十七秒 ヒダチ  (同)
 以上の如きものであつた。
 これを現在の日本レコードに比較して見ると、
 一、六〇〇米 一分四十二秒四 アサザクラ
 一、八〇〇米 一分五十二秒四 キングセカンド
 二、〇〇〇米 二分  六秒一 ユレカ
 二、四〇〇米 二分三十二秒  バンリユウ
であつて、約三十年間に於て実に驚異的の躍進振りを示してゐる。それだけわが国の馬産
も改良進歩されたと云ふべきであるが、これを世界のレコードに比較して見ると未だ格段
の相違があるのである。
 一、六〇〇米 一分三十四秒二 イクイボイス  (米)
 一、八〇〇米 一分四十八秒一 デイスクカヴリー(米)
 二、〇〇〇米 二分フラット  フイスクブルーム(米)
 同      同       トツプギヤラント(英)
 二、四〇〇米 二分二十五秒  ヒー      (英)
でそれぞれ尚七、八秒も違つてゐる。馬の速力で、七、八秒も違ふと、これは随分の違ひ
で、一秒で四馬身違ふとしても、二三十馬身離されることになる。さすがに外国での記録
は馬の価格が高いだけあつて素晴しい記録を出してゐる。

 米国のレコードの良くなつて来たのは、競走馬の本家とも云ふべき英国から、金に飽し
て優良の種牡馬を購入して、繁殖されて来たものであつて、わが国に於ても近年、アスフ
オード、レイモンド、ダイオライト、プリメロ、価格二十万円と称せられるステーツマン
等の優良なる新種牡馬を英国より輸入して、それに幾多の輝しいレコードを生んだ名馬に
繁殖されて近い将来に於て、その産駒がぞくぞくと競走に現はれて来るので、サラブレツ
ドの生産の定義からしても、一段とレコードも向上されることと思ふ。

 しかしこの競馬の記録といふのは絶対的のものでない。各倶楽部の馬場の地形にもよる
し平坦な馬場もあれば坂道の多い馬場もあり、砂地もあれば芝生もあり、地質の相違もあ
るし、コーナーの緩急もみな一様と云ふわけでないので、一概にタイムばかりで決められ
ないのである。つまり甲の競馬場で何分何秒の優秀な記録を出したからと云つて、乙の競
馬場でもその通りのタイムで駈けるか、と云ふとさうはいかないのである。

 例へば、日本の競馬場でも、新潟、福島とか阪神、京都などは良いタイムが出る。これ
は馬場が平坦で傾斜が少しもないからで、これに比して府中とか根岸の馬場は坂がある関
係で、タイムも幾分永くかゝるわけである。

 陸上競技や水泳のやうに、何時も同じコンデイシヨンとして、タイムばかり比較は出来
ないのである。

 わが国競走馬のレコードを競走種別に記して見やう。

  アラブ系
 一、六〇〇米 一分四十五秒三 ヒノマル   (日本七年春)
 一、八〇〇米 一分五十七秒二 カンロ    (阪神九年秋)
 二、〇〇〇米 二分  九秒三 同      (京都十年秋)
 二、二〇〇米 二分二十四秒一 同      (阪神十年春)
 二、四〇〇米 二分三十八秒  同      (京都九年秋)

  呼馬
 一、六〇〇米 一分四十二秒四 アサザクラ  (中山七年春)
 一、八〇〇米 一分五十二秒四 キングセカンド(福島七年秋)
 二、〇〇〇米 二分  六秒一 ユレカ    (福島八年秋)
 二、二〇〇米 二分二十 秒一 クラミン   (京都十年春)
 二、四〇〇米 二分三十二秒  バンリユウ  (福島九年春)
 二、六〇〇米 二分四十六秒二 フレーモア  (東京九年秋)
 三、二〇〇米 三分二十六秒  ハクコウ   (中山八年秋)

  サラ系抽籤古馬
 一、八〇〇米 一分五十五秒  ヒロイツク  (福島五年秋)
 〃      〃       メイオン   (同 九年秋)
 二、〇〇〇米 二分  九秒  マイクロホン (東京六年秋)
 二、二〇〇米 二分二十四秒二 カツタークイン(小倉九年秋)
 〃      〃       ヨコヅナ   (日本十年春)
 二、四〇〇米 二分三十六秒三 プレスト   (福島八年春)

  障碍
 二、四〇〇米 二分三十八秒  シヤダイノボル(九年春阪神旧馬場)
 二、六〇〇米 二分五十二秒二 ヤマミチ   (九年春阪神旧馬場)
 二、八〇〇米 三分  六秒一 同      (八年春新潟)
 三、二〇〇米 三分三十五秒  アスベル   (八年春札幌)
 四、一〇〇米 五分  一秒四 ジユビターユートピア(十一年春中山)

  速歩
 三、四〇〇米 五分三十八秒三 レートフアスター(九年春福島)
 三、六〇〇米 五分五十 秒三 同       (九年秋阪神)
 三、八〇〇米 五分五十八秒  キングスポート (九年春中山)
 四、〇〇〇米 六分 十九秒一 クリンヒツト  (九年秋京都)
 四、二〇〇米 六分三十八秒三 同       (十年春阪神)
 五、〇〇〇米 七分四十四秒  ベストニツク  (十年春阪神)

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