我が馬券哲学（私的現代語訳）

　・馬券はやはり禅のようなもので容易には悟りがたい。ただ大損しないことでよかった
　　と思った方がよい。

　・なるべく大きい配当を取ろうとする穴買い主義と、配当はともかく勝馬を当てようと
　　する本命主義がいる。

　・堅い本命を取り、不確かな本命を避けて、確かな穴を取る。これが名人の域なのだが
　　容易に達するのは難しい。

　・オッズの数字が低いと、もう買うのが嫌になる穴買い主義者がいるが、これもまた馬
　　券買いの邪道である。

　・馬券の発売が始まるとすぐに、他馬を気にせずマークカードの本命の組合せを塗りつ
　　ぶしその馬券を買う群衆がいる。本命主義の邪道である。他馬の票数が少ないのに高
　　い配当はどこにあるのかと尋ねてみたくなる。Ａ馬・Ｂ馬がある程度人気があるので、
　　別のＣ馬を買いその馬券を取ろうとすることこそが、馬券買いの本意ではないだろう
　　か。

　・単勝1.2〜1.3倍以下の配当の馬を買うくらいなら、見送るにこしたことはない。なぜ
　　ならば決して絶対の本命というものはないからである。

　・しかしながら、実力の無い馬が穴を開けたことは決してない。

　・Ａ馬とＢ馬の実力が匹敵し、しかもＡ馬の人気の度合いは90点、Ｂ馬は60点ならば、
　　絶対にＢ馬を買った方がよい。

　・“実力と人気が相当する場合”、“実力より人気が上回る場合”、“実力より人気が
　　下回る場合”のうち３番目の場合は絶対に買うべきである。

　・その場の人気の沸騰に囚われず、頭を冷静に保ち、ひそかに馬の実力を考えること。
　　その場の人気ほど軽はずみなものはない。

　・「○○が良いと１人が言えば10人がこれを口にする。本当は１人の人気である。しか
　　もそれが10となり100 となっている、これが競馬場の人気である。

　・「○○は脚が悪い」と言われた馬がずばぬけて勝つこともあり、また本当に脚が悪かっ
　　たなとうなずかせる場合もある。情報は信頼した方がよいが、その上で信頼してもい
　　けない。

　・Ａ馬とＢ馬の人気が匹敵し、しかも実力も匹敵し、どちらが勝つか分らないこのよう
　　な場合には逆に３番人気の大穴を狙うにこしたことはない。

　・大穴は御注文通りには開かないものである。天の一方に突如として開いて、ファンを
　　あっけに取らせるものである。○○が穴になるだろうと多くのファンが考えている間
　　は、絶対にならないようなものである。それはもう穴人気といって人気の一種である。

　・剣を手に取って立っているかのように、常に頭を自由に保ち、固定観念にとらわれて
　　はいけない。記録にとらわれてはいけない。とどこおることなく、しかも確固たる信
　　念を失ってはいけない。馬券の奥深くを極めるのは、やはり剣術や将棋・囲碁の奥深
　　いところを修めようとするくらい非常に難しい。

　・１日に１〜２レースほど堅い馬券を取り、他はことごとく馬券を休む人がいる。消極
　　的だが一つの悟りであり、見失ってはいない。大損をすることのない唯一の方法であ
　　る。

　・損をおそれて本命ばかり買う人がいるが、損することがそれほど怖いなら馬券など買
　　わないほうがよい。

　・１日に2〜3000円の損になっても、いい予想をして単勝７倍ほどの中穴を１つ当てた
　　快感があれば、十分に埋め合わせされている。

　・単勝６倍ほどの穴でも手柄の上では10倍以上に相当するものがあり、10倍以上の配当
　　でも手柄の上ではくだらないものもある。新馬の10倍以上の馬券をまぐれ当たりで取っ
　　たことは、ただ金を拾ったこととあまり違いはない。

　・良い予想の結果である配当は、払戻金の多少に関係なくその満足は大きいものである。
　　まぐれ当りの配当はたとえ単勝で10倍以上だったとしても投機的であり、正道な馬券
　　ファンは手柄にするべきものではない。

　・人から予想を聞いて取った単勝10倍以上の馬券は、自分の予想で取った 2.5倍の馬券
　　にも劣っている（というように考えてもらいたいものである。）

　・サラブレッドとは、どういうものかも知らないで馬券を買う人がいることはあわれに
　　思わなければならない。馬の血統、記録などをちっとも研究せずに馬券を買うのはば
　　くち打ちである。

　・開催済みの競馬の成績を丹念に調べよ。そのおかげで大穴を１つや２つは取れるもの
　　である。

　・必ず３着以内に来そうな強い馬が２〜３頭いるときに決して複勝やワイドの穴を狙っ
　　てはいけない。たとえ的中しても配当は非常に低い。

　・複勝やワイドの配当の多い少ないは、どのように他の人気馬が入線するかによる。そ
　　の点においてより偶然的である。むしろ単勝の大穴を狙ったほうがよい。

　・厩舎からの情報は船頭の天気予報のようなものである。関係する馬については詳しい
　　のだが、全体については非常に行き届かないものがある。厩舎によって強がりの所や
　　弱気の所があり、身びいきの所や謙遜する所もあり、取捨選択の際に自分の予想の役
　　に立たないのであれば、厩舎の情報など聞かないほうがよい。

　・自分の研究を基礎として、人の言葉を聞かず自分自身の力で勝馬を予想し、迷わずそ
　　の馬券を買い自信をもってレースを見る。最後の直線に入りずばぬけて他馬を圧倒し
　　て、鼻・頭ほどの僅差で１着になる。人生の快感、これに及ぶものが他にあるだろう
　　か。それから逆に鼻・頭差で破れることも馬券買いとして「業在り」である、満足は
　　その裏にある。ただ人気に追随して、漫然と本命を買うようなことは勝敗にこだわっ
　　ておらず、競馬の妙味を知っている者ではない。

　・馬券買いにおいて勝つことは非常に難しい。ただ自分の無理をしない程度の支出で馬
　　券を楽しむこと。競馬ファンが建てた蔵はないどころか「２〜３年続けて競馬場に出
　　入りする人は、よほど資力のある人である」と言われるから、勝とう勝とうとして無
　　理に金を賭けるようなことは慎んでもなお慎んだ方がよい。馬券買いは道楽である。
　　散財である。本当に金を儲けようとするならば正道の家業を励むにこしたことはない。

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