SWEET BABY, Half 01


01

  3月14日。
 ニホンでは「ホワイトデー」っていって、
 男の子から女の子へプレゼントする日なんだって。

 そんなことをマカのやつが言い出したおかげで、今俺はクッキーなんか焼くハメになっているわけだ。この間のティーパーティーで出したお菓子が思いのほか好評だったらしく、また作ってくれと。 マカだけならともかく、リズにパティ、椿まで結託した「お願い」という名の圧力に負けたわけで。
 ああ面倒くせえ。

 てかニホンの風習ならブラック☆スターに言えよ。あいつ日系だろ。
「バッカお前、ブラック☆スターが女子にプレゼントなんて、
 そんな細やかな芸当が出来るわけ無いだろ?」
「おう!俺様はBIGな男だからな、細かいことは気にしないぜ!?」
「会話になってねーよ…」
 じゃあお前らのご主人様に頼めばいんじゃね、と投げやりに話を振ると、リズはやれやれといった風に長いため息をつく。
「…まーた『完璧なプランを』とか言って、図書館に篭もっちまうよ」
 キッドにイベント事の話を振るのは馬鹿のやることだ、と苦い顔をした。


 キッドか。
 急な任務だとかでティーパーティーに不参加だった事を、後日わざわざ謝りに来てたっけ。
 リズとパティに散々怒られたとかで。全く、食い物の恨みは恐ろしいよな。
「…あの時のパティは怖かった…」
 思い出してブルっと肩を震わせるキッド。
 …ご愁傷様としか言いようが無い。
「しかし、ソウルのお菓子はすごく美味しかったと褒めていたぞ」
 あの時余ったお菓子は、結局パティだけが口にすることが出来たらしい。生存競争の勝率高そうだな、あいつ。
「そりゃどーも」
 軽く受け流す俺に、キッドはといえば、からかい半分でもなく社交辞令でもなく、本当に残念そうな顔で言う。
「俺も食べてみたかったな」
「何、お前も甘党なわけ?」
 似合わねー、と、思っただけで口には出さなかったが。
 おそらく顔に出ていたのだろう。
「…悪いか」
 むっとした表情で、幾分照れたように言われて、それがまた妙に可笑しかった。
(そして思い切り笑ってやったら、マカチョップならぬキッドチョップをお見舞いされた)


 シンメトリー以外にも好きなものがあったんだなと、焼きあがったクッキーをオーブンから取り出しながら、そんなことを思い出した。
 キッチン中に甘ったるい香りが広がる。
 まだ温かいクッキーを、1枚齧ってみた。
「…甘、」
 バターと砂糖たっぷりの、いかにも女子が好みそうな味。
 曰く、『乙女には甘さが必要』なんだと。
 クッキーの枚数を数えながら、配る相手を思い浮かべる。
 マカと、椿と、リズ、パティ、あとブレアにも渡すとして。
 まあ、一人分ぐらいなら、余りそうだ。
(…死神にも甘さが必要なのかね?)
 別に余った分だから、キッドにやってもかまわないのだが。
 ホワイトデーのコンセプトから外れてないか、それは。

 それでも、あの怒ったような照れたような、妙に可愛げのある表情を思い出したら、やっぱり笑えたので。
「ま、いいか」
 ただ渡すのも面白くないので、なるべくアシンメトリーなやつを選んでやる俺は我ながら相当なヒマ人だった。