06 …恋人というのは、想いが通じ合った者同士がなるものではなかっただろうか。 しかし、友情以上の好意を持っている以上、ただの友人というカテゴリには属せないし、なんとか以上なんとか未満という中途半端なくくり方も虫唾が走る。 しばらく考え込んで、キッドは一つ頷いた。 「…わかった。恋人でいい」 ソウルにそう告げると、は?と一言発したっきり絶句してしまった。 赤い瞳に、明らかに驚愕と困惑の色を浮かべて。 「何か問題があるのか」 「…え、いや、問題っていうか」 分からないんじゃなかったか、と、首を傾げながら問われる。 「これから分かればいいだけの話だ」 お互いに好意を持っているのは、確かだ。 その想いのベクトルが重なっているのかどうか、確かめたいとも思う。 「…中途半端は性に合わない」 そう決めてしまえば、心の底のよくわからない澱みが少しだけ晴れたような気がした。 一人納得するキッドとは対照的に、ソウルは未だ疑問顔だったが。 「今日は4月2日だったな」 「そうだな」 「エイプリルフールは昨日だったよな」 「…くどいぞ」 今度は冗談ではないと確かめて、安堵だか諦めだか分からないため息をつく。 「…まあ、お前がいいなら」 言ってから、昨日も同じ事言ったな、と、ばつが悪そうな顔をした。 「では、そういう事で、よろしく頼む」 「…ああ、まあ、今後ともヨロシク」 自分で振っておいてなんだが、恋愛って、こんなんでいいんだろうか。 なんとなく釈然としないものを感じながら、キッドの差し出した右手を握り返す。 …ていうかまず握手はないだろ。やっぱりこいつは恋人同士というものが、どういうものだか分かってないんじゃないのか。 考えても仕方がない。ソウルは掴んでいた手を強く引き寄せ、バランスを崩したキッドの身体を抱き寄せた。 「!…ソ、ウル」 「恋人なんだから、いいだろ」 抱きしめると、若干の緊張とともに、キッドの体温が伝わってくる。ただそれだけで、胸の奥が温かくなるのを感じた。 キッドも同じように感じてくれたらな、と思いながら、彼の黒髪に頬を寄せる。 「キス、していいか?」 「……調子に乗るな」 「ケチ」 そう言って、ソウルが小さく笑う。いつもの皮肉っぽい笑みではない、優しい声。 (そんな笑い方も、できるのか) 同じ時間を共有してきた仲間でも、知らない事は多いのだと気付いて、キッドは胸がざわつくのを感じた。 ソウルのことを、もっと知りたいと思った。この想いは、彼の言う『好き』と同じモノだろうか。 問いかけようとした時、ふいにソウルの体を重く感じる。体重を掛けられて、折り重なるように芝生に倒れた。 「ソウル、…おいソウル」 「………んぁ」 寝ぼけた声が返ってくる。 「重いぞ」 「……」 限界、と小さく呟くのが聞こえて、後は寝息に変わった。どうやら、緊張の糸が完全に切れたらしい。 担いで行ってやっても良かったが、今日は幸い天気が良い。このまま寝かせていても、風邪はひかないだろう。 日はまだ高く、穏やかな風が気持ちいい。 (昼寝日和だな) 頬を撫でる銀髪を少しくすぐったく思いながら、キッドもまた瞼を閉じる。 彼が目覚めた時、最初に視界に入るのが、自分ならいい。 何故かは分からないが、そう、思った。 |