02 「たまにはロシアンティーにしよっかな、っと」 「レモンならそこにあるだろう」 「……英国式じゃねーっての。ジャムか蜂蜜ないの?」 「糖分の過剰摂取だな。太るぞ」 「う、うっさいな! 今日は体育あったしよく動いたから大丈夫、過剰じゃない」 「……運動したうちに入んねェだろ、あんなの」 「気になるなら、きちんとカロリー計算したらどうだ?」 「めんどいからやだ」 そこで『キッドやってくれよ』なんて言ってしまうほど私はバカじゃない。……というか、以前軽ーい気持ちでお願いしてエラい目にあったのだ。自分でやった方がなんぼかマシだとつくづく後悔したから、同じ轍は踏まない。 テーブルにはスライスしたレモンとミルクピッチャー、あとは角砂糖しかない。 わざわざキッチンへ取りに行くのは面倒だったから、諦めて紅茶はキッドに任せる事にした。 キッドは料理はからっきし(っていうか任せてらんないから任せない)なんだけど、茶だけは入れるのが上手い。茶葉の蒸らし時間が十秒違うだけで味が変わってしまうのだというから、全てを正確に測ろうとするキッドにはおあつらえ向きなんだろう。そーゆーのは私ゃ面倒くさくって、とてもじゃないがマネできないわ。 「なぁ」 ソウルの方に身を寄せ、慎重に、慎重にカップに紅茶を注いでいるキッドに聞こえない程度の小声で囁く。 「さっき何か言いかけたよな」 強引なのがどうのっていう。 その答えはきっと、自分の胸を占めるモヤモヤの正体に直結するものだと、なんとなく思う。 「…………ん? んー……」 曖昧な返事の後少し間を置いて、羨ましい、かもな、とソウルが小さく呟き。 そして私は、ああそうかと納得し、なぁんだと拍子抜けした気分になる。 なんだ。 同じだったか、と。 「……そんなモンかね」 それは返答ではなく独り言。 足を止めた相手を振り返り、同じように立ち止まり、そして苦笑交じりに手を差し伸べる彼が。同じ相手を見ている筈なのに、その在り方は自分とは随分遠いものに思えて。 眩しいと言うか、……羨ましかった、のかも、しれない。 (ちょっとだけ、な) パタパタと、パティの元気な足音が聞こえてきたから、自分への言い訳は胸の内にしまっておいた。 「ただいまーっ、……わお。ケーキだ」 「……お前らは、二人揃って落ち着きが無いな」 向日葵のような笑顔を振りまきながら、隣に陣取ったパティに、キッドが軽く溜息を吐く。 「二人おそろいって事は、シンメトリー?」 「む、……そう考えれば、悪くない!」 「いいのかよ、それで……」 いつも通りの日曜の午後は、いつもよりほんのちょっとだけ騒がしい。 キッドが人数分の紅茶を淹れ、ケーキを取り分けている間、見るともなしにソウルの横顔を眺める。ヘンな取り合わせだけど、まぁたまには悪くないな、と。 「…………なんだよ」 思っていた所で、ソウルと目が合う。 問う声は、さっきより幾分和らいでいた。うーん、こうやって少年は『恋人の家族』に馴染んでいくもんなんだな、と思うとそれはそれでなにか、つまらない。……まだまだつついて遊びたいし。 「なーんか。今日のは一段とまた、……あんたのイメージぴったりだと思って?」 何がだよ、と目で聞いてきたから、応えてソウルと、そして彼の目の前に在る皿とを、視線で示す。 「白いし」 「色だけだろ……」 「あと甘い」 誰に、とは言わなくても察したらしい。赤い瞳が、キッドを一瞬だけ視界に映した。 外観はシンプル装って、そのくせ食うと意外にこってり甘くて胃に重たいあたりなんかが実に『らしい』と思ったのだけど。 「…………いーんだよ、それっくらいで」 敢えて甘めにしてんだと、言って紅茶を啜る。 ……はあなるほど。人を甘やかすのも、人に甘えるのもヘタクソなうちのボンボンのための、糖分増量ってワケですかい。 「……ごちそーさま」 皿の上、ブルーベリーソースを添えたレアチーズケーキ。 手をつける前に呟いた一言に、キッドが少しだけ不思議そうな顔をした。 |