Happy Birthday


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 Reservedのプレートが下がったデス・バックスカフェの扉の前で、佇む少女が見知ったクラスメイトであることを遠目に確認したソウルは、そちらへ歩みを進めながら「よう」と声を掛ける。
 肩のあたりで切り揃えられた金髪を、揺らし振り返った彼女は視線の先にソウルの姿を認め、「オッス」と彼に向かって揃えて立てた人差し指と中指を、ぴっと振ってみせた。

「一人?」
「マカなら図書館。今日は俺の当番」
 周囲をきょろきょろと見渡し自分のパートナーの姿を探すパティに、ソウルは右手に提げていたスーパーのビニール袋を、軽くかかげて見せる。
「ふーん。ごくろーさん」
「そっちは?」
「んー。……おねーちゃんはなんか、朝からちょーめかしこんで出てったし」
「……はァ。デートか」
 日曜だもんなァ、とソウルは空を仰ぎ見る。よく晴れた、ややもすると暑いほどの陽気に、時折吹き抜ける風が心地良い。冬の終わりを感じ取り、街を行く人々の表情も心なしか緩んで見える今日は確かに、外出日和だ。
「天気いいしな」
「そうだよぅ。だってのに、キッド君も死神様んトコだしさ、――仕方ねーからちょっと雑用を」
 済ませに来たんだけどなぁ、と再び扉を覗きこむパティの、肩越しにソウルも何気なく店内の様子を窺う。
 曇りなく磨き上げられた硝子を透かして見える、多くの人影はみな笑顔に彩られ、締め切られた扉から時折、楽しげなざわめきが通りに零れてくる。
「ああ、貸切? 販売の方は……一応、やってんのか」
「ん〜〜。でもマスター忙しそうだしなぁ」
 気乗りしない声で呟いた後、まぁ今度でいいやー、とくるりと背を向けたパティに、つられるようにして店の前から離れかけたソウルの耳に届いた、手拍子に合わせた歌声。店内から漏れ聞こえてきたそれは誰もが知る有名な、バースデー・ソングだった。