00 不貞腐れていたんだろう、と思う。 どこまでも、荒涼とした大地が広がるだけの車窓はひどく退屈だったから。 黙り込んでいたら、どうしたと気遣われるのが面倒で、目を閉じて寝たふりをしていた。 きっと遊び疲れたんだよと、広い掌が軽く頭を撫でる。 潜めた話声はよく聞き取れない。 難しい子にもみえたけれど――、という会話の切れ端が耳に届き、穏やかな笑いを残して、話声は途切れた。 むつかしい、というのがどんな意味を持っているのかよくわからなかったが、なんとなく、あいつの事だろうなと目は相変わらず閉じたまま考える。 死神様の真似でもしたみたいに、真っ黒な格好で。 なんにも話さないかと思ったら、ヘンに小難しいことばかり言いだして。 そのくせ、どんな子供でも普通に知ってるような事を知らなくて。 なにがそんなに珍しいのか、しきりと髪に触りたがってうっとおしかったから。 おまえの髪の毛は変わってんなと、言ってやったらそれだけで、急にべそべそと泣きだした。 今まで出会ったどんな奴より一番、ヘンな奴。 名前は、……泣いたり怒ったり忙しくて、結局まともに聞けなかったんだっけ。 少しだけ、後悔しているのを、不思議に思う。 今までは、退屈なパーティーを一緒に抜け出す相手と、冒険するための路地裏さえそこにあれば。相手の名前なんて、言葉だって必要なかったのに。 それなのに、なんであいつのことだけが、こんなに気になるんだろう。 屋敷。庭園。秘密の屋根裏。一緒に過ごしたごく僅かな時間。 探検したいところは、本当はもっともっとあったのだけれど。 ごつ、と窓に額をぶつけるみたいに押しつける。 さよならも、まともに言わなかった。だからこんなに、胸がもやもやとするんだろうか。 額に伝わる冷たい硝子の感触に、冷えた小さな手を思い出す。 寄り添ったあたたかさと、ぎこちなく浮かべた笑顔。 すぐに泣くし、怒るけど、笑うのは、ちょっとだけヘタだった。 別れ際、今にも泣きそうな瞳で、袖を掴んだ掌の主に。 たとえ嘘でも、約束してやればよかったんだろうか――? できなかったから。それができもしないことだと、分かっているから。 だからきっと、不貞腐れていたんだろう、と思う。 ちょっと傷ついたような表情を、隠す様にそっぽをむいて、何も言わず別れた。 そうする以外に方法を知らなかった。あいつも。自分も。 客車が小さく揺れて、薄く瞼を上げる。変わらず殺風景な景色は、いつしか夕闇に沈んでいる。 あの街はもう、遠くなった。 異国の車窓を流れる風景と同じ、記憶は否応なく過去へと押し流されていって、その事が何故か哀しくて。 ぎゅっと、固く目を瞑る。 ――瞳から、思い出が零れ落ちてしまわないように。 |