03 “ジャスティン君のこと、気に掛けてあげて欲しいんだよねェ” 『最年少デスサイズ』、『爆音と共に現れる処刑人』。そのような二つ名で呼ばれる彼、ジャスティン=ロウ。四年前、彼をデスサイズスに“した”のは、他でもない、死神様だ。 職人のパートナーも付けずただ一人、九十九個の魂を集めた彼は、自らの力でデスサイズスに“なった”のではない。それが、梓達他の七人のデスサイズスと、唯一異なる点であり、そしてその事実を知る者は、この死武専でもごく一握りの者だけだった。 当時の事を思い出して、梓は眼鏡の奥の瞳を細める。 当然、大きな反発があった。 どれだけの希有な才能があろうと、篤い信仰心、強い忠誠心があろうと。そのような前例のない扱いを、するべきではないのではないか。これまで魔女に挑み、そして命を落とした多くの同胞を思えば、尚更。 『何故、なんです? それほどまでに、ただ一人の生徒を、気に掛けられる理由は』 『梓ちゃん』 純粋な疑問から、主張する梓に、死神様は静かに告げた。 『魔女との戦いがどれだけ熾烈なものかは、梓ちゃんも十二分に知ってるよね』 『…………ええ。私達は、“自らの手で”、時間をかけ綿密な計画のもと、その魂を狩り取りましたから』 殊更強調するように言う梓に、死神様はふうっと溜息のような息を吐く。 そのまま、しばしの沈黙があった。話すべきか否かを、迷うかのような死神様に代わり、傍らに控えていたデスサイズが、その言葉を継ぐ。 『ヨーロッパ支部のデスサイズスが、先月引退した。梓も知ってるだろ』 『……はい』 『人出不足なんだよ、ハッキリ言ってな。優秀な人材の確保、これが今の死武専の最優先懸案事項だ。……確かに、ジャスティンの能力は高い。パートナーを付けずともいずれ、一人で魔女の魂を狩ることができるようになるだろう』 『だったら、』 『悠長にジャスティンが魔女を狩るだけの力をつけるのを待つだけの時間も、…………まかり間違って、あいつが死んじまった場合の代わりになる人材も。今の死武専には、無い』 そんな状態で、世の規律など保てるものかと。 最後の一言に、会議の場は水を打ったように静まり返った。 法と秩序の維持。新たな鬼神の誕生の阻止。死武専の創立目的である、それすら遂行が危ういのが現状であるのだと、突きつけられれば誰も、反対はできよう筈が無かった。 『一度放たれた矢はね、引き戻される事がないんだよ』 『死神様……』 『損失の最初化、と言えば聞こえは悪いかもしれないが、私は世の秩序、世の規律を司る神として最善と思われる決断を、下すことしかできない』 常になく、重い口調で言った死神様は、それにサ、と続けた。 『確かにジャスティン君は優秀だ。“優秀すぎた”んだよ。……一人の力には限界がある。けれど、類まれな力を持つが故に、彼はその力から自由にはなれない』 『……』 時に互いを高め、時に抑制するための職人を持たない、持つ事ができない魔武器。それは設置型という特殊性故ではなく、その優れた能力故であろうと述べる死神様に、梓が黙ったのは、消極的な肯定の意味でもある。 『体のいい言い訳に、聞こえるかもしれないけれど。デスサイズスに加われば、スピリットくんをはじめとした先輩がいる。そうして周囲と触れあう事、責任ある地位に就き信頼を集めることは、ジャスティン君の中の何かを、変えるかもしれない』 組織の都合で人を動かすのが必然であるというのなら。 せめて彼が“世界”と触れ合う為に、できる自身の『慈愛』はこの程度であるのだと。 『……私があの子にしてあげられるのは、そのぐらいかなァって思うんだよ』 神サマって無力だよねェ、と自嘲気味に笑った死神様は、いつもと同じ表情の読めない面であったが。 梓には確かに、その横顔が、寂寞の影を落として見えた。 『だからさ、梓ちゃん。ジャスティン君のこと――――』 |