舌先3分サイズ



01

  キッドを待っている間、ふと口寂しくなってポケットを探ると少し前に貰ったガムがあった。眠気覚ましに良く効くよとパティから貰ったそれは相当ミントのキツいやつで、スーっと広がる爽快感はやがて痛みさえ感じるほどになり、少し息を吸うと口の中が南極かっていうぐらい冷たくなった。確かに効果はバツグンで、パティの後ろでリズがにやにやしていた訳を今更ながら理解した。
 少しばかり涙目になって口から鼻へ抜ける刺激をやり過ごし眉間を抑えていたところで、どうしたんだと頭上からキッドの声がする。これ以上口内体感温度を下げる気にはなれず、俺は無言で机の上のガムのパッケージを指差す。ああ、と納得したようなその声は僅かな同情を含んでいて、即ちこの苦しみを彼も体験済みという事か。
 未だヒリヒリする舌に違和感を覚えながらもやっとまともに呼吸ができるようになった俺に、そういえば、と何かを思い出したようにキッドが呟く。チョコレートとガムを一緒に食べると、ガムが溶けて無くなってしまうのだとか。そんな豆知識を披露しながら、最近お気に入りの銘柄のチョコレートの包みを剥く。
 それは生きていくうえで何の役にも立たない雑学だったが、今俺の口にはガムがあり、キッドの口にはチョコがある。じゃあ折角だから実験してみっか、とキッドの顎に手を掛けて少し唇を開かせ、今しがた放り込まれたばかりのチョコの欠片を舌で探って奪い取った。確かにガムは口の中でチョコと一緒に溶けてなくなって、でもそれを報告するより前にグーで殴られた。
 顔を赤くしてなにやら要領を得ない文句を並べ立てる。怒っているのはチョコを奪われた事かキスを奪われた事か、とりあえず溶けてしまったチョコは返せないので、キスを返してやったらもう一発殴られた。






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