舌先3分サイズ



02

  ああ分かった分かった返せばいんだろ、と煩そうに言ったソウルに、何を返すつもりなのかと一瞬でも考えた自分が馬鹿だった。一度ならず二度までも不埒な行為を仕掛けた彼に、再び手が出てしまった俺を誰も責められないと思う。何も分かってないだろうが!
 帰り道、何をそんなに怒ってんだよとのんびりした調子で問われて、逆に何故判らないのかと問い返したくなる。誰も居なかったとはいえ教室でするような事かとか、いつだって場所を弁えず好き勝手に振舞うなとか、言いたいことは色々あるのだが結局いつもそんなソウルを許してしまう自分にも腹が立つ。所謂惚れた弱みと言うやつなのか、何よりそれを十二分に理解しての所業だという事も判っているからさらに腹が立つのだ。
 大体付き合いだしてからと言うもの俺ばかりが常に思考を占領されているようでそれも納得が、なぁキッド、って 何なんだ煩い。名を呼ぶ声で思考から引き戻され、目線だけをそちらへ向ける。奢ってやるから機嫌直せよとソウルが指差したのは、最近よく立ち寄るようになったアイスクリームショップで。そんな判り易い手に乗るものかと思いながらも一瞬視線を泳がせた俺に、買ってくるから待ってなと背を向け、ソウルはひらりと手を振った。
 結局のところこうやって、許してやるための理由を作ってしまう自分は相当甘いと言わざるを得ない。…別にアイスに釣られた訳ではないのだ、断じて。お待たせ、と戻ってきたソウルの手にあるカップは一つだけで、お前はいいのかと尋ねると、冷たいのはもう十分だと言って肩を竦めた。先程のガムがよっぽど堪えたらしい。俺も一度パティにしてやられ、あの強烈な刺激を味わったのでその気持ちは十分に理解できた。
 そんなに怒るほど辛かったのかよ、とアイスを差し出しながらソウルが言う。唐突なその問いが何に対する事なのか判らず一瞬戸惑った俺に、軽く舌を出し悪戯な笑みを浮かべてみせる。手渡されたカップにはチョコレートミントアイス、そこでやっと彼が何を言わんとしているのかを理解した。交じり合った舌の熱さと清冽なミントの香りが蘇り、知らず頬に血が上る。そしてそんな俺の様子にソウルは楽しそうに喉の奥で笑った。ああ成程、また俺をからかったのか。アイスは受け取って、もう一発だけその銀髪をはたいてやった。






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