■■
Stray Cat ■■
01
クラシックな黒電話はそういえばマカのアパートにあったのと似た感じかもしれない、などとパティがぼんやり思い出したのは、彼女の主がその電話に視線を留めたまま、難しい顔をしてその場に立ち尽くしていたからに他ならない。
「キッドくん。かけんの? 電話」
「………………ん、……いや」
言われて初めて自分がその通信端末を凝視していたことに気付いたようで、我に返ったキッドはほんの一瞬、狼狽したように視線を彷徨わせた後、やがて軽く首を横に振った。
「同じ型式のものだな、と思っただけだ」
「マカん家の、と?」
「……ああ」
敢えて強調された名前を否定するでなく頷いて、キッドは既に照明が落とされ薄暗いホールのソファに腰を下ろし、手にしていたオイルランプをテーブルに置いた。暖炉の火は消されていたが、室内の空気はまだ仄かに温かさを残していた。
[next*]
[←works]