10.浅知恵の末路 ――f××kin' drunker――
「あ」
「お?」
「え?」
じゃんけんで最初にアルハイトが勝つ。ただそれだけの事でヘルザ村分隊の全員が呆気に取られていた。
その反応にイロイロと文句を訴えたくなるが、アルハイトは精神衛生の為に敢えて無視。
背伸びをしながら階段に向かい、今日の休みをどう過ごすかと考えていた所で服の裾が引っ張られる。
振り向けばオックスが笑顔でアルハイトを引き止めていた。
「別に嫌だって訳じゃないんですけど」
「うむ?」
「力仕事だったら、ガルスさんに頼んだほうが速いと思うんですよ。今日はガルスさんも休みですし」
医務室の一画に、医療とは無縁の物品が無造作に積まれている。その山を前にアルハイトは服の袖をまくり気合を一つ。
捨てるものと収納するものをオックスが区別出来るように床へ並べていく。
「それは儂もそう思うんじゃけどな。けど、あいつら意地悪じゃから素直にお願い聞いてくれんでのぉ。
なーに、タダ働きさせる気は無いから安心して働いとくれ」
「タダじゃないなら、ガルスさんやヴェノアさんはなおさら飛びつきそうですけど?」
「だーかーら問題なんじゃよ。テキパキ働いてくれても、その後に儂が干上がるまで吸い尽くされるんじゃ叶わんでなぁ」
確かに、と呟いてアルハイトは山を崩していく。オックスはそれを鑑定して不要なモノをえり分けていた。
午前中だけで終わる、とオックスが言っていた通り、多少重い物がある程度でさしたる労働量でもない。
難点と言えばたまに生理的に危険な匂いを漂わせる紙袋や、触れただけで呪われそうな怪しい置物が出てくる程度か。
「ほほぅ、コレはあの時貰った茶葉かな?」
物品の選り分けの最中に、時折オックスが楽しそうに声をあげる。並べられた品々の由来を覚えているようだ。
それを知ったアルハイトの脳裏に、自然と疑問が湧き上がる。
「随分幅広く色んなものが有りますけど、これだけのモノがいったい何処から来たんです?」
「そうじゃのう……大げさに言っちゃって、世界中からとか威張ってみちゃおうかの」
「はい?」
「ほら、儂はお医者さんでヘルザ村は街道上の村じゃろう?
となると、行き交う人々の中にはどこそこで負った怪我の具合が悪い、とか
山中に入ってから腹の調子が悪い、とかやっぱ居るんじゃよ。
そう言った人たちの面倒を見てあげるとな、たまーに感謝の気持ちと言う事で珍しいモノをくれたりしての。
昔はちゃんと整理してたんじゃけど、途中から面倒になってしもうてのう……」
「なるほど…………でも、せめて食品類とかは別にしておきましょうよ」
「そ、それにもれっきとした事情が有るんじゃよと言ったら信じてくれるかな?」
「難しいですね」
あふん、とうなだれるオックスを尻目にアルハイトは整理を再開。
積み上げられていた一画の床が見え始めたころ、品々の影に隠れていて見えなかったある物がアルハイトの目に留まった。
長く細い革の袋。押し上げられた形から、中にはさらに細い円筒形の物体が入っていると知れる。
「え……これ、は…………」
アルハイトの耳に、自分の鼓動が響く。伸ばした手が微かに震えているのを自覚するが抑えられない。
だが震えと裏腹に指先は淀みなく袋を解いていく。
果たして袋の中に納まっていたものを取り出せば、それは誰の目に見ても横笛だった。
人の肩幅よりやや長く、手に余裕で握りこめる太さの木管に金属で要所に部品をあしらえた楽器だ。
その横笛をアディカトレースでは「オスティーニ」と呼ぶ。
「おんや、見当たらないと思ったら隙間に落ちてたかの。どうじゃ、どっか壊れたりしとらんかな?」
「……えぇ、見たところは特に。むしろ、今すぐにでも演奏できますよ」
「と言ってもオスティーニが吹ける者が居る訳でも無し、ホッフルで売りさばいて貰うかのう……」
オックスの言葉に、アルハイトが息を詰める。それは迷いの証であり、自問の開始だ。
良いのだろうかと思い、駄目ではないだろうと悩む。
「……どうかしたかの?」
アルハイトが懊悩する間にもオックスは選択を迫る。その印象を被害妄想だと思いながらもアルハイトは決断を口に。
「あ、いや、その、オックスさん」
「ん?」
「……これ、俺が吹いてみても良いですか?」
オスティーニは中音域から高音域にかけて伸びる芯のある柔らかい音が一番の特徴である。
奏でられる旋律は、一音一音を確かめるような調子で優雅と言うには程遠い。
だが稚拙と呼ぶほどにつかえる事もなく、耳に不快かと聞かれればそれもまた違った。
視界の隅でオックスが表情に意外の二文字を浮かべていたが、演奏しているアルハイト自身も少なからず驚きを抱いている。
(……思った以上に、吹けてる)
最後に笛を吹いた日から、既に四年が経過している。それは運指を硬くし譜面を忘れるには充分すぎる時間だ。
しかし今アルハイトが動かす指は見る間にその動きを軽くしなやかにしていく。
それはつまり四年の空白よりも、その向こうに置いてきた七年の積み重ねが勝るという事実。
たどたどしく一曲を終え、一呼吸の間をおけば聞こえてくるのは賞賛の拍手だった。
「いやぁ儂びっくり。まさかアルハイト君にそんな特技が有ったとはのぉ」
「特技……って言うには随分と久しぶりなんですけどね。何せ最後に吹いたのは四年前ですし」
「いやいやそれでも充分驚きじゃよ。ともあれオスティーニは取っておいたほうがよさげじゃな」
「そう言えば、片付けは……」
「おぅそうじゃったそうじゃった。山は崩し終わったんじゃからさっさと終わらせてしまわんと」
片づけを終えた二人は、オックスが礼として淹れた茶と菓子を挟んで向かい合っていた。
「しかしなんじゃのう。前々からもしかしてー、と思っとったんじゃがアルハイト君て割と良い所の育ちだったりするかな?」
「え、まぁ否定はしませんけど何でまた?」
「簡単な話じゃよ。儂の知り合いで楽器が吹けるのは楽団育ちか上流階級だけじゃもん」
アルハイトは特に何も言わず茶を口に。暫しの無言が続いたところで、オックスがそわそわと身を揺らし始めた。
「うーん、あれこれ聞いてみたい好奇心と無闇に詮索しない大人の余裕の間で揺れ動く儂の明日はどうしよう!?」
「俺が一発蹴ってあげたらすっきり出来ますか?」
「今からでも遅くないから、アルハイト君には素直で純真な騎士に成長して貰いたいのぉ……
具体的には儂の事を蹴るとか殴るとか言わない感じ。別に儂以外になら何しても構わんから」
アルハイトは無言で足を少し振り上げる。爪先が正面に座っているオックスの脛に直撃。
狙い通りにオックスがあいたー、と苦悶の声を漏らした。
「ううう……どうしてヘルザ村は微妙に老人虐待傾向なんじゃろうなぁ…………
他に不満点は無いけど、それだけは儂ちょっと後悔気味じゃよ……アルハイト君は、どうかの?」
へ、と漏れた呟きに頷いてオックスが続ける。
「後悔、しとらんかね?」
茶を口にする一瞬の間にアルハイトは返答を探す。だが曖昧な問いには曖昧な答えしか思いつかなかった。
「してない……と思ってます。多分」
「ふむ。それなら良いんじゃが」
それ以上の会話は続かなかった。だがその無言は決して間の悪さを持つものではない。
むしろ、オックスは瞑目してその口に微笑を浮かべてすらいる。
アルハイトの視線が、なんとなしに円卓の隅へ置かれたオスティーニに落ちた。
(……後悔、はしてないと思うんだけどなぁ)
だがそれならオスティーニを売ると言われたときに惜しい、と訴えた感情は何と呼ぶべきなのか。
「……のぅアルハイト君。儂、もう少しアルハイト君の演奏が聞いてみたいなー」
「そうですか? じゃあ、何か一曲……」
聞いてみたい、といわれた事に嬉しさを思う。それは後悔とは違うはずだとも。
笛を手に持ち、唇をあてがい、脳裏から譜面を引き出し、吹き込む息を音として奏でる。
思い悩むよりも演奏に没頭する事を選べば、時間は曲と共に足早に過ぎていく。
不意に医務室の窓を叩く音が鳴る。アルハイトが演奏を止めずに振り向いた先で
「きゅお?」
トルマグのつぶらな瞳が医務室の窓を覗き込んでいる。その絵には流石にアルハイトも笛を吹く手を止めた。
「おんや、またクレイドさんのが逃げ出したかの」
「……って言うか、コイツこの前のトルマグじゃないですか?」
窓を乗り越えて外に出る。
その体の模様には見覚えがあるし、撫でれば擦り寄ってくる慣れ具合から言っても間違いない。
「また逃げ出してきたのか……しかたないヤツだなぁ」
「きゅおー」
散々逃げ回られた前回と違い、今のトルマグはアルハイトの誘導に大人しく従う。
その事に思い至るとアルハイトは二歩目で足を止めた。
「……まぁ、無理に連れ戻さなくても後で良いですよね」
「じゃのう。どうも見た感じ、散歩に来たついでにアルハイト君に会いに来たって感じじゃしな」
「きゅーお」
その時だった。オックスの脳裏に電撃にも似た閃きが舞い降りる。
「ふむ。しかし散歩するだけとはいえ一匹が高価なトルマグの事じゃ。目を離すのも躊躇われるのぉ」
「いきなり目を輝かせて前言撤回ですか。殴って良いですね?」
「まぁまぁ落ち着かんかねアルハイト君。しかし優しい儂はトルマグの楽しい散歩を邪魔しようと言う気も無いんじゃなコレが。
そこでじゃね――」
「……きゅお?」
ヘルザ村を音楽が歩いていく。曲目は「春の野」。弾みのある拍子と暖かい旋律は今の季節にとても相応しい曲だ。
そしてなによりもこの曲はオスティーニの音と非常に相性が良い。
演奏者はアルハイト・コーネア。トルマグの背に乗り、その足の向くままに任せて笛を吹いている。
オックスから提案されたときはどうかとも思ったが、背に乗られるトルマグの方が嫌がらないならば悪くないとも思えた。
かくして即席旅芸人の誕生である。
トルマグの歩くままに合わせて村を回る。
村人の殆どは農業の為に城壁の外へ働きに出ているが、それでもたまに村人の顔が見えた。
「おやまぁ騎士さん。お上手だねぇ〜」
民家の窓からスティエラ婆さんがアルハイトに笑顔と共に手を振っている。
手と口が塞がっているアルハイトは頭の動きと目だけで返礼。演奏は止まる事無く続いていく。
演奏と言う行為に体が慣れてきたのか、オスティーニを吹き続けるアルハイトの脳裏に様々な思いが単語単位で浮かんでは消える。
――笛を気ままに吹いていた幼年時代。
――志叶う事無く地に還った兄。
――自分の決意と選択。
――学舎時代。
――騎士団への採用と赴任。
――オスティーニとの再開。
それは思考と言うよりも記憶の羅列と呼ぶほうが正しい。
そして要素を整理した後にこそ、それらを材料に思考は始まる。
だが
「――――!」
「…………うん?」
遠くから聞こえる叫び声に、意識が途切れる。視線を上げれば声が聞こえた方向、その遠くにホッフルが見えた。
そして聞こえた叫びの主には心当たりがある。この村で若い女性の声と言えばティアナ以外に該当者はいない。
「……走って!」
「きゅお!」
トルマグに一声をかけてしがみつけば、愛らしい獣はその意思に答える。その俊足が、ホッフルの門前までを一瞬で駆け抜けた。
減速するトルマグの慣性に逆らわず跳躍に近い走りでホッフルに飛び込む。
見えたのは明らかに品の悪い男と、男に腕を掴まれて抵抗しているティアナだ。
「金が欲しけりゃ後から幾らでも積んでやるって言ってんじゃねぇか。
ガキじゃあるまいし、旅商人の一人や二人くらい相手にしてんだろ!?」
「そう言って支払い踏み倒そうとする人が何人居ると思ってるんですか!
だいたいこの狭いヘルザ村でそんな事してたら次の日には村八分ですよ!!」
性質が悪い、と一瞥した段階でアルハイトは男を最低基準に認定。容赦なく男に一喝を浴びせる。
「何をしている。その子を離せ」
「…………あぁ?」
呼び止められた男は不快を隠そうともせずにアルハイトを睨み付けた。
正面切って向き合う顔は目に見えて赤く、品のない顔は酒の勢いで不自然に生気を発している。
「ガキに用はねぇ。すっこんでろよ、あぁ?」
「ガキじゃ無いさ。騎士だ」
「はぁ?」
「アディカトレース騎士団ヘルザ村分隊、アルハイト・コーネア。
俺には国から三級治安権限が与えられている。それ以上無闇に騒いでると、牢屋に送るぞ」
アルハイトの警告に男が押し黙る。だがそれは恭順の表れではなく、怒気の自制でしかない。
抜き放たれた短刀に、アルハイトの頭は冷えた加速を始める。
「騎士がどうした。俺は王都に行って国王から大量の褒美を貰う男だぞ。
それが何で手前みてえなヒョロい騎士なんぞの言う事に従わなきゃならねぇんだ?」
「あぁ、それなら心配ない」
「あん?」
「アンタは王都まで行けないって事さ。俺が牢屋にブチ込んでやれば、どうした所で王都には行けないだろ?」
それ以上の会話は必要なかった。そしてそれを男も良く分かっていたのだろう。
奇声と共に踏み込む足は一直線。握りこんだ手の中の温く光る刃を、アルハイトの腹部につき立てる。
それ以外の意思をそぎ落とした純然たる突進だ。
だが、
「遅いよ」
男の動きはあまりにも見えすぎていた。呟きと共に無拍子で振り上げた足は的確に男の手元をかち上げる。
酒に溺れすぎたのだろう。傍から見えるよりも手の握りは弱く、短刀が蹴りの勢いのままに宙を舞う。
急な出来事に脳の理解が遅れているのか、男に踏みとどまる気配は無い。
ならば後は、その勢いに合わせて胸中の冷えた怒りをぶつけるだけだ。
「著しく品性に欠け、民に害を為す者は――」
接近した男の胸倉を掴み、軸足で体を反転させつつ振り上げた足を下ろす勢いで体を屈め、
「国の治安維持と向上の為に是を罰する!!」
そして一切の容赦なく投げ飛ばす。
男の体が勢い良く綺麗な放物線を描き、スウィングドアを超えて店外に投げ出されると派手な地摺りの音と盛大な土煙があがる。
その様子を見てざまあみろ、と気分良く呟くアルハイト。だがその耳に苦悶の声が聞こえた。
「く……うぅっ…………」
「……ティア!?」
振り返り視線を落とした先、ティアナが左の二の腕を抑えてうずくまっている。
その指の隙間に、先程蹴り飛ばした短刀が突き刺さっていた。
ティアナの服に滲んでいく赤い色彩に引きずられて、アルハイトの頭が白一色に塗りつぶされていく。
だが停滞は一瞬、弾けるような覚醒を得てアルハイトは自分に出来る最善は何かと頭を回す。
「ナイフを抜かないでそのまま待ってて!今、オックスさんを――」
しかし外に向いた視線の先、投げ飛ばされた男が悶の声と共に立ち上がろうとしていた。
即座にアルハイトは脳裏で行動の優先順位を入れ替えていく。
店の外で起き上がろうとしている男を最速で取り押さえて、しかる後に宿舎に直行するしかない。
「……くそっ!」
焦りに背を押されアルハイトが強く一歩を踏み出したとき――
「ぐぼふっ!?」
横合いから、妙に見覚えのある太い足が男を踏みつける。
「さて、取り合えずホッフルから文字通りに飛び出した変人をオレ直感に従って思わず踏みつけてみたのだが」
「……ん、多分問題ないんじゃないかの?」
「ガルスさん、オックスさん!」
飛び出した店先で、ガルスとオックスが物珍しそうに男を捕らえていた。
魔術に長けようと願うならば、己と相手を理解しなければならない。それはすなわち世界を識ると言う事だ。
世界と自己の境界を際限まで希薄にすることで、自身の思うままに世界に干渉する行為。
その感覚は自分の中に世界を取り込むとも、世界と自分を同一化するとも言える。
故に、魔術に熟練している者が魔術を暴発させる事はない。彼らは魔術の成否を身を持って知覚出来るのだから。
『慈悲の形、慰撫の在りかた、心のままに』
意思と音声の二因子干渉が世界の根底を描き換え、淡い光と共にティアナの傷が見る間に埋まっていく。
「……よし。暫くは違和感を感じるかもしれんが、それもじきに消えるでな。
もしいつまでも妙な感じがするようじゃったら、その時は儂に言うんじゃよ?」
「はい、大丈夫みたいです。ありがとうございました」
ティアナはオックスの診察に頷きながら、左腕を一回し。その顔が一瞬だけ痛みを訴えるが、すぐにその表情は明るいものに。
じゃあお昼ご飯用意しますね、と軽い足取りで厨房に入っていく。
むしろそれを見送ったアルハイトの方が暗い顔をしていた。
「……隊長に助けられるわティアに怪我させるわ……流石にちょっとヘコみますね…………」
「大丈夫じゃよアルハイト君。人間、自発的に役に立てなくても受動的に利用価値がきっとあるでな」
「…………それを地で行ってる人に言われると説得力あって嫌だなぁ」
「うっそ儂役立ってるんじゃなくて利用されとる!? でも儂――」
「お待たせしましたー」
昼食を持ってきたティアナが、絶妙な割り込みでオックスの反論を黙らせる。その笑顔にオックスが抵抗する余地は無かった。
「……いーもんいーもん。それでも儂は健気に生きていくもん……」
「やですねぇオックスさん。年頃の娘のちょっとしたイタズラですよ?
そんなに気を落とさないでくださいって♪」
昼食を終えて、手持ち無沙汰なアルハイトはホッフルに居座っていた。
その隣ではティアナも同じように暇そうな様子で座っている。
来客が無ければ看板娘にも出番は無く、用事で店を空けているマスターが戻るまでは外出も出来ないらしい。
食事と気だるさを消化するためにのんびりと時間を浪費していくと、不意にティアナが左手を押さえながら切り出した。
「アルハイトさん……」
「……ん?」
物憂げに呟いた横顔は、少しだけ俯いていた。
「<<発声魔術>>で怪我を治しても、痛みは消えないものなんですね」
「……そういうものなのかな。俺は<<発声魔術>>の世話になった事無いから分からないけど」
ティアナの左手に視線を向ける。短刀の刺さり方は決して浅くなかったはずだが、
先程から動かしている手の様子を見る限りでは特に問題なく治療された様に見える。
「気になるようだったら、もう一回オックスさんに診て貰えば?」
「そう……ですね。オックスさん、腕は確かですし」
「と言うか、あの人しか医者が居ないんだから確かじゃないと困るよ。
特に俺たちなんかはいつ怪我するか分からないんだからさ。
…………の割に、扱いがついついぞんざいになっちゃうんだけどね」
なんでだろ、と苦笑するアルハイトにつられてティアナも小さく笑う。
気が付けば、窓から差し込む日差しは傾き始めていた。
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