競走の種類

 競走種類を大別すると、速歩、駈歩、障碍の三種別にすることが出来るが、駈歩には抽
籤馬と呼馬の別があり、又新馬と古馬とは競走番組によつて種別されている。


新抽

 各競馬倶楽部が馬事思想普及と国内の馬産の奨励の目的によつて、毎年春秋二季の競馬
開催毎に二十頭乃至三十頭の馬を倶楽部所属の会員に一定の金額を以て抽籤に依つて分配
する馬であつて(サラ系の新抽は昭和十年春季限り廃止さる)アラブ系抽籤馬は七百円乃
至八百円で、倶楽部に於て一頭平均二百円位の補助金を出して購買した馬であるが、この
中には一頭四千円位出して買つた馬もあり、四、五百円の馬もあるわけで、良い馬を引当
れば僅か七八百円の代金で、二三万円も賞金を稼ぐこともできるわけである。抽籤馬は最
初その二十頭なり三十頭なりの新馬だけで、所定の競馬をする。その時これをアラブ系抽
籤新馬競走と呼んでゐる。


古抽

 新抽が所定の競馬会を終へると、次の競馬会からは他の倶楽部の抽籤古馬と混つて競走
するものであつて、この競走を抽籤古馬競走と云ふ。これは現在サラ系と、アラブ系の二
種に分類されてゐるが、二三年後にはサラ系古抽は漸次廃止されて、抽籤馬と云へばアラ
ブ系に限られるわけである。


新呼

 各競馬倶楽部の会員が、日本全国の馬産地から随意に自分の気に入つた馬を金にあかし
て購入した馬、又自から作つた馬で、馬の価格は五六千円くらいから三万円以上のものも
あるわけで、これ等の馬を呼馬と称してゐる。内国産馬で明ケ四歳以上明ケ七歳以下のも
のでないと新呼として出走する資格がない。公認競馬会に最初に出走する時を新呼といつ
て、内国産新馬競走を簡単に新呼競走と云ふのである。


古呼

 新呼として一度競馬会に出走すると、次の競馬会からは古馬の仲間に入つてレースをす
るのであつて、古呼馬とは新呼馬に対する名称で単にこれを呼馬競走と云つてゐる。この
古呼馬は競走馬界の駿足馬を網羅してゐるので、何処の競馬会でも特殊レースが設けられ
メインエヴントとなつてゐる。公認競馬出走年齢は、駈歩競走は明ケ八歳で障碍は明ケ十
歳までを規定年齢とされてゐる。


障碍

 障碍競走は出走馬の種類に依つて、呼馬、抽籤古馬、アラブ系抽籤古馬の三種に区別さ
れてゐる。これは二千四百米以上走る間に障碍物八つ乃至十二、三を飛び越えなければな
らない事になつている。この障碍競走は、速力の勝負であると同時に、又障碍飛越の巧拙、
力量の勝負であつて、騎手の技術の巧拙等レースの興味は一曾深いわけである。


駈歩馬の負担重量

 負担重量の基準は駈歩障碍とも春季四歳の牡馬は五十五瓩、秋季は五十六瓩、五歳馬は
春秋とも五十八瓩で、六歳以上は五十九瓩が定量である。牝馬はこの基準から各々二瓩を
減じられてゐる。

 そして収得賞金額が、呼馬三千円、抽籤馬は二千円に達するごとに一瓩づゝの重量を附
加されることになつてゐる。(但し登録附加賞金及レコード賞、帝室御賞典に対する賞金
は加算されない)例へば春季四歳新呼として出走以来五千円を得た牝馬は、秋季の最初の
競馬会に出走する場合は、負担重量の三千円に対する一瓩と、秋季負担重量一瓩、都合二
瓩を加増されるので五十六瓩になるのである。更に千余円を稼げば、収得賞金額は六千余
円になるので五十七瓩となるわけである。

 この制度の外に呼馬は千五百円ごとに、抽籤馬は千円ごとに一瓩づゝ加増される、二号
標準があるが、現在わが国に於て採用してゐるのは、札幌、函館の二倶楽部に過ぎない。

 駈歩競走の二千四百米以上のレース、及障碍は三千二百米以上の長距離レースになると
各馬ともその定量から二瓩を減じられる。但しハンデキヤツプ競走、その他特殊レースに
於てはこの定量に従はない場合がある。

 競馬の目的は、優良馬を発見して、早くそれを種馬なり、繁殖馬なりにするのが目的で
あるから、強い馬は早く賞金を稼いで隠退するやうな組織になつてゐる。そしてその最高
負担重量は七十瓩が限度であつて、これ以上超えることは許されない。これを満量とか、
背負切りと云つてゐる。


速歩

 速歩競走は、騎乗又は繋駕競走の二種で、文字通り駈足でなく速足で歩く競走である。
騎乗競走は現在では札幌、函館に二倶楽部に行はれてゐるのみで、他の倶楽部は全部繋駕
競走である。矢張り会員の購買したる中間種の、ハクニー、アングロ・ノルマン、トロツ
ター種等の競走馬であつて、総て一種の呼馬のわけである。繋駕競走は軽快なゴムタイヤ
の二輪車を胸曳きにして騎手の手綱捌き一つで競走する極めてスマートなもので、競走中
馬が速歩の歩法を破つて、駈歩になり速度に利益を得たるものや、駈歩のまゝゴールに入
つたものは失格を宣せられるのである。


速歩馬の負担重量とハンデ

 速歩競走の馬の負担重量は、年齢に依つて規定されてゐる。四歳牡馬は七十三瓩を、五
歳以上の牡馬は七十七瓩で、牝馬は駈歩馬と同様にこれより二瓩を減じられてゐる。しか
し速歩競走の負担重量は速力には殆んど関係ないものである。

 競走に際してのハンデキヤツプは、総て距離ハンデに依つて行はれてゐる。最初はノー
ハンデキヤツプで、正確の競走距離の発馬線からスタートするのであるが、収得賞金額が
一千五百円に達すると、レースには三十米のハンデを附けられる。更に千五百円を稼ぐご
とに三十米づゝの距離を加増される。但しこれは四千米までのレースの場合であつて、四
千米以上のレースには三十米が四十米に延長される。例へば三千円稼いだ馬は四千米以下
のレースでは、六十米、四千米以上のレースには八十米の距離ハンデがつくわけである。
賞金収得金額がかさんだ場合、加増距離限度は四千米までのレースは四百五十米、四千米
以上のレースに於ては六百米を限度とされてゐる。従つて速歩距離は収得本賞金二万四千
円に達すると出場出来ないのである。

 速歩距離は競馬施行規則に依つて種々の条項が定められてゐるが、関東三倶楽部に於て
は左の条項の一つに該当される馬は、歩法の試験を俟たずして、一定の期間中出走を拒否
されるものである。

 発馬点に正しく静止し得ざるもの。速度充分ならざるもの。立ち止り、又は横に切れる
もの。一季間に二回以上失格となりたるもの。其の他調教不足なるもの。
等である。


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