競走馬の種類

 日本で現在行はれてゐる競走馬の種類を大別すると、サラブレツド種、アラブ種、中間
種の三つの種類に分けることが出来る。そしてその血種にとつて、馬の性能を画然と明確
にしてゐる。

 しかしわが国では、これ等の世界で有名な各種類の馬を輸入して、内国産の馬に種々複
雑なる血種を交配させた為に、はつきりとその血統を指示することが難かしくなつてきた。
そこで往年馬政局に於て、種々の称呼法が定められ、アングロアラブ、内洋、サラ雑、ア
ア雑、アラ雑等の血統種別を明確にされたわけである。左にこれ等の血統種別について簡
単な説明をして見やう。


駈歩馬

サラブレツド種

 サラブレツドの原産地は英国である。英国では過去三、四世紀に亙って優良馬を選び、
血統を重んじ、国民の熱心なる管理と調教、幾多の力に依つて漸次改良せられて作り上げ
た競走馬種であつて、サラとは完全といふ意味、ブレツドとは育成といふ意味で、理想的
に育成された馬種といふ意味である。その速力の早いのと、遺伝性の確実なるととは競走
馬の代表的なもので、どんな馬を改良するにもサラブレツドを交配することに依つて、馬
種が改良されるものである。例へばアラブを良くするには、矢張りサラブレツドを交配す
れば良くなるし、中間種の馬を良くする為にもサラブレツドを交配すれば良くなるもので、
サラブレツドは云はば馬の中の純金のやうなものである。わが国馬産の改善にはまつたく
サラブレツドに拠る外はないわけである。


アラブ種

 アラブ種は古来から有名なアラビヤ馬の子孫である。サラブレツド種と共に二大系統種
の馬であつて、その改良道程より見れば、サラブレツドはアラブ種を改良されたものであ
る。

 日本のアラブ種は大抵他の血統が混つてゐて、純粋のアラブ種は殆んど競馬に出てゐな
いが、アラブの血の混つたアラブ系の競走が最近特に奨励されてゐる。これは我が陸軍の
方針によるもので、アラブ系の馬を軍馬に用ひやうとする為である。

 このアラブ系の馬はサラブレツドに較ぶれば、馬格も小さく、速力もサラブレツドの比
でないが、風土に適応し軍馬としては持久力に富み、また管理や飼料の点に於ても手数が
掛らない為に、軍馬としてはサラブレツドより適当なのであつて、昭和四年以来軍馬奨励
の主旨のもとにアラブ系抽籤馬を設けられるやうになつたのである。


内サラ

 わが国では早くより馬産改良の目的を以て英国、濠州、米国等より多数の種牡馬、種牝
馬を輸入して、競走馬を作り上げてゐるが、父、母共にサラブレツドの純血種の中に産れ
た、内地産馬を内サラと称している。


アングロアラブ種

 アングロアラブ種の原産地は仏国である。サラブレツド種とアラブ種の交配によつて、
各々の良点を調和されて作られたものであるが、堅実なる乗用種馬としては、仏国の誇り
とするものである。仏国に於て初めはサラブレツド種と同一のものを産出する目的で、幾
多の辛労を費したものであつたが、一八四三年国立ボンパヅール種馬牧場に於て、サラブ
レツドとアラブとの交配によつて作られたのが初めである。

 本種はその交配度数によつて一方に偏する恐れがあるので、サラブレツドの血量を制限
し、その競走に血量条件を設けて、本種奨励の目的を失はないやうにしてゐる。

 わが国に於てもサラブレツドとアラブを配して生れたるものは、仏国産と等しくアング
ロアラブ種で、即ち内国産アングロアラブと称し祖父母二代に亙ってサラブレツドの交配
を禁じられてゐる。

 近年わが国アラブ系競走に相当な産駒を出してゐる、バラツケー、サンチユリオンドー、
アブラール等の種牡馬は、何れも仏国より輸入されたものである。


ギドラン種

 ギドラン種は、ハンガリー、メソヘギヱス国立牧場産のアングロアラブ種とも云ふべき
ものである。

 一八二〇年メソヘギヱス牧場の牝馬数頭にこゝに飼育されてゐた、初代ギドランと称す
るアラブ種牡馬を交配して出来た仔にギドラン第一世としたのが、今日のギドランの祖先
である。アングロアラブに比して稍品位に乏しきも強靭な実用的体型をなしてゐるが、わ
が国にも相当多数の種牝馬と、種牡馬が輸入されてゐる。ギドランは多くは馬名を用ひず、
番号に依つて呼称されてゐるが、カラスコギドラン、トレアドールギドランなどと名前の
付いてゐるのは、父がサラブレツドであるから、可なり血量が進んでゐることを示してゐ
る。わが国に於ては総てアングロアラブと同一に取扱ふことになつてゐる。


内洋種

 わが国の過去に於ける輸入馬中には血統証のないやうな濠州産馬や、また馬種に名称の
ないやうな外国種の馬も少くなかつた為に、それ等の血統の不明のものは総て洋種と称し
てゐたものである。これ等の馬にサラブレツド、又はアラブ、中間種等の交配によつて、
日本内地に産したもの、即ち内国産の馬を総て内国産洋種と云ひ、内洋と略称されてゐる
わけである。従つて単に内洋種と称しても、その馬によつて、アラブ系に属するもの、サ
ラ系に属するもの、又は中間種に属するもの等種々あるわけである。その能力に於ても一
向駄目なものもあれば、相当優秀なものもあつて、例へば単に濠洋となつている馬の中に
も、その体系能力から推して明らかに濠州産サラブレツド種に相違ないと思はれる馬もあ
つたわけである。


雑種

 純内国産で外国種の血液を混ぜざるものを和種と云ふ。この和種に、種類名の明瞭なる
外国産種の交配によつて出来た馬でその血量が五十%に達せざる馬は単に雑種と称してゐ
る。例へばサラブレツド雑種に和種のかゝつたもの等である。

サラ雑

 サラブレツドの血量五十%以上雑種にかゝつた馬をサラ雑と云ふ。例へばゴリユウカツ
プの如きアア雑アラフジにサラ、ルフエーブルがかゝつてゐるものをサラ雑と云ふのであ
る。


アア雑

 和種にアングロアラブを交配して、アングロアラブの血量五〇%以上を含む馬をアング
ロアラブ雑種と云ひ、アア雑と略称されてゐる。


ギド雑

 アア雑同様に、和種にギドラン種を交配したもので血量五十以上有するものは、その名
を冠してギド雑種と称してゐる。


速歩馬

アングロノルマン種

 フランス産馬で、ノルマンデー地方の在来のノルマン種の馬にサラブレツド種と交配し
て改良せる中間種の軽輓馬であつて、わが国に速歩競走馬の種馬として一番多数輸入され
てゐる種馬であるが、わが国に於ても仏国と同様に二代以上連続サラブレツドの交配なき
ことを条件とされてゐる。


ハクニー種

 ハクニーの原語は貨車馬で、英国のノールフオーク、サツフオーク、ヨーク地方に生産
するもので、元はその地方の土産馬を基礎にして、これにアラシセトルコ馬又はオランダ
馬を交配して、これに又サラブレツドの血を交配して作られた改良中間種馬である。歩法
軽輓用種馬で、条件は総てアングロノルマン種と同様に、二代以上連続サラブレツドの交
配なきこととされてゐる。


トロツター種

 北米合衆国に於て約九十年前、米人によつてサラブレツドを種として作られたものであ
る。その祖先はジヤスチン、ブラツクホーク、モルガンの三頭のサラブレツドであつてノ
ルマン、スペイン馬に交配改良された中間種馬である。中間種馬としてはその速力に於て
本種の右に出る馬はなく、わが国競馬会にては、本種の純血種の馬は優勝レース以外は種
別されてゐる。トロツター種の名はトロツチング(速歩)から引用したものである。


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