03 「うーす」 「ちゅーっす」 翌日。死武専の課外授業受付前で、登校してきたばかりのリズ達に会った。 「おはよう、リズ、パティ、キッド君」 …キッドも来ている。目が合うと、おはよう、といつもと変わりない朝の挨拶。 「…ぅはよ」 力なく挨拶を返し、くあ、とソウルは大きく欠伸をした。 「だらしないぞソウル。しゃきっとせんか」 「寝不足なんだよ…」 誰かさんのおかげでな、と内心で付け加える。当のキッドはといえば、別段変わった様子も無く、マカとどの課外授業を受けようか相談している。 なんだこれは。自分だけが悪い夢でも見てるんだろうか、とソウルは眠い目を擦った。 ノリでキスして、勢いで告白して、挙句あんなふうに逃げ帰られて。 昨日の様子からして、朝一番に怒鳴られるか、はたまた登校してこないかもしれないと思ったのだが、まるで何事もなかったかのようなこの態度は何だ。 (キス1回より前髪ひと房のほうが重大事項とか…?) 笑えない冗談だ、と思った。 なんだかもう色々面倒になって、午前中の授業ほとんどを寝て過ごしたら、盛大にマカチョップを連発されたうえにシュタイン博士のメスが飛んできた。 さすがにマズイとは思うものの、昨日ほとんど寝ていないこともあって午後からの授業でも起きていられる自信はまるで無い。 (サボるか) そう決めて、第弐校庭へやってきた。 木々に囲まれ人気の少ないここはサボるのにはもってこいの場所だ。 天気も良いし昼寝日和だな。 木陰の芝生に横になり、瞼を閉じたところで、ザ、と芝を踏む音が聞こえた。 「――ソウル」 呼ばれて薄く目を開けると、傍らに立ち自分を見下ろしているキッドが視界に入る。 逆光になって表情は良く見えない。今何時だろうか、と半ば寝ぼけた頭で考えた時、遠くで昼休みの終了を告げる鐘の音が聞こえた。 「…午後の授業に遅れるぞ」 「だりーからパス」 ソウルはキッドを追い払うように、ひらひらと手を振った。今からなら、ダッシュすればぎりぎり間に合うはずだ。 しかしキッドは立ち去る気配を見せず、そうか、と呟くと、ソウルの隣に腰を下ろした。 「お前もサボる気かよ」 「………」 沈黙で肯定を示す。 常日頃の彼ならば、授業のエスケープなどするはずがないのに、だ。どうやら、昨日のことは夢ではなかったらしい。それはそれで、良かったと言っていいのかどうか、判断しかねるが。 もう一度目を閉じてみるが、睡魔は訪れそうになかった。 昨日の話を切り出すなら今だな、と思う。というか、キッドもそのつもりで来たに違いないのに、さっきから俯いたままでこっちを見ようともしない。 さて なんと切り出したものか。 しばらくもやもやと考えた挙句、ソウルは身体を起こした。 「キッド、」「ソウル、」 声が被って、一瞬無言で見詰め合う。どうやら相手もタイミングを計っていたらしい。 「…なんだよ」 「お前が先に言え」 照れ隠しのためか不機嫌にそう返され、それじゃ、とソウルは軽く息を吸い、気持ちを落ち着かせた。 あんな中途半端なまま終わらせたら、どこまでが嘘だか本当だか冗談だか分からないまま、うやむやになってしまう。 だから、伝えておきたかった。 「――お前のことが、好きだ」 |