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Sugar sweet nightmare ■■
02
「……オイ! どーなってんだよ、アレは!」
声のボリュームを落とし小鬼に詰問しながらソウルは恐々と背後を降り返る。ソウルと小鬼、二つの視線の先にいる『アレ』は、今はソファの上で丸くなって目を閉じ、ゆらゆらと尻尾を揺らめかせている。
「お気に召さない?」
「召すわけねーだろ!」
「huh? そりゃーおかしいなァ。此処はお前の脳内会議、お前の深層心理、お前の無意識の海、そうだろ?」
「……ぐ、」
調度品から服装に至るまで、此処にある全ての物は自らのイメージの産物であり心象の投影であるのだという小鬼の指摘に、ソウルは言葉を詰まらせる。ならば、あの奇妙な物体もまた、自分の無意識に沈んでいたものに違いないのだ。
「そういやァ、昨日寝る前に」
「! ……、」
「……風呂上がりの猫がタオル一枚で家ん中ウロウロしてたっけなァ」
追い打ちのように掛けられた言葉に、ハッとソウルが何かに気付いたような顔をした。
またそんな恰好で、と嫌な顔をするマカをものともせず。ご機嫌なバスタイムを過ごしたブレアが、上気した肌を厚手のタオルで隠しただけのあられもない姿で、部屋を歩き回っていたのを覚えている。
すらりと伸びた脚と、豊満なヒップを何とはなしに目で追いながら、猫の耳は頭の上に変わらず存在するのに、あの尻尾は一体どこへ消えてしまうのだろうか、なんて事を、……ぼんやりとではあるが確かに、考えたのだ。
「『やーらしい目で見てる』って言われてチョップくらってたのは、さて誰だったかね」
「…………うるせェよ」
「で、その知的好奇心の顕れが、アレってワケか?」
「うるせェっての」
「単純」
「黙ってろ!」
反論らしい反論もできず声を荒げたソウルはやがて、はーっと疲れたような溜息をつき肩を落とした。つまるところ、キッドからの思念と自らの雑念が、何らかの形で融合した挙句この有様、ということだけは十分に理解できた。
「……待つしかねェか。醒めんのを」
この『夢』が、と苦い顔をするソウルに、「何言ってんだ」と小鬼がにやついた笑みを浮かべる。
「欲望ってのはな、満たすためにあるんだぜ?」
「何?」
「そんな怖い顔すんなよ、兄弟。満たしてやりゃあいいだろ、お前のその、……探究心ってやつをさ」
小鬼の骨ばった人差し指が、ソウルの胸あたりを軽く突く。さしたる力も込めていない筈だのに、ソウルの足元がぐらりとよろめいたのは、その言葉の持つ引力の所為であったのだろうか。
嘲るような笑いを残して、「お邪魔虫は引っ込んどいてやるよ」と部屋の奥へと消えた小鬼を、しばし呆然とした表情で見送ったソウルは、相変わらずソファの上で安らかな寝息を立てる闖入者を見遣って、再び小さく息をついた。
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