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がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合〜

第七話:光と聖(前編)

 木立ちの中に、小さいながらも漆喰と木組みの洒落た宮殿が静かにたたずんでいる。町の喧騒も木々に遮られ、ここにはほとんど届かない。
 気候の涼しいシレジアではすでに暖炉に火を入れている。れんがの渋い色は火に照らされてますます赤く、フカフカの絨毯もほんのりとその色に染まっている。
「きょーのおやつはなっにかな〜〜っと」
 従士長が運んできた菓子鉢をのんきそうに覗くのはクレイル。
 この森と湖の王国の王子たる人物である。
「ほら、ラヴェルも食べなよ〜〜」
「あ、はい、いただきます」
 やがて漂うのはさわやかな、それでいて深い香り。
「ああ、お茶がおいしい……」
 目を細めるクレイルを、レヴィンは珍品でも見るような目で眺めた。
 隠居のような言動が似合うクレイルだが、これでも太古の光を受け継ぐ高貴な家系の若君である。
 ……自覚は全くないが。
 香り立つのは帝国から高値で買い入れられる茶葉。
 クレイルが楽しんでいるのは、その中でも帝国の領土である東方でわずかに産出される貴重品である。
 クレイルは少なくなってきたお湯を足すように従士長に命じた。
 しかし、はっきり言って王子であるクレイルよりも従士長のほうがよほど威厳がある。
 久し振りに王城を訪れたラヴェルは、入れてもらった紅茶を飲みながら窓の外を眺めた。
「もうじき冬になりますね」
「そうだね。今年も寒い季節になるねぇ。どこか暖かい所にでも出かけちゃおうか」
 枯葉がはらりと舞い落ちる。
 シレジアの冬は長い。
 帝国の北、フリースラントほどではないが、雪に覆われる期間は世界の中でもかなり長いうちに入る。また、三方を高い山脈に囲まれているため、雪混じりの風が吹き降りてくる。
 加えて、中央高地ほどではないが標高も若干高めである。
「うん、そうだ、帝国にでも出かけようか」
 クレイルは名案でも思い付いたように手を叩くと立ち上がった。思い付いてしまったらもう誰も止められない。さっさと旅支度を始める。
「えーと、ローブはこれでいいや。杖は……一応持ってこう。お金は……う〜〜ん、帝国だから多めに持って行かないとね」
 古びた大きめの水袋を下げ、ずた袋には必要最低限の荷物に加え、愛用のポットとカップを入れる。
 どこへでも持ち歩くお茶セットだ。その袋を杖に結わえる。
「おっけー。いつでも出られるよ」
「えっ! すぐ出るんですか?」
「もちろん」
 ラヴェルが紅茶を飲み終えないうちに、クレイルはさっさと旅装を整えてしまった。この様子では何を言っても今日中には出発する気であろう。
 帝国といえば、確かルキータの故郷のはずだ。彼女は城下町で遊んでいる。
 ラヴェルといれば城内へ入るのは可能であったのだが、どうやら王子様という生き物があまりにも理想とかけ離れていたので、会う必要まったくナシと判断したらしい。
 ラヴェルはそのルキータを案内役に帝国へ向かうことにした。
 賑やかな道中になりそうだ。



「こちらをご覧くださーい!」
「わぁ!」
 シレジアの王都、城下町ブレスラウの四倍以上もありそうな巨大な街。
 小高い丘全体を目一杯使って建てられたその街は、世界で最も広く、最も繁栄している街である。
 世界に名だたる帝国ヴァレリアの帝都だ。
 豪華な彫刻の施されたギルドの建物、天まで届くような塔を持つ教会、神殿。金銀細工や宝石を扱う店、庶民には手の届かない、他国から持ち込まれる布地や食べ物を扱う店、店、店。
 ニコニコしながらルキータがちょっと自慢げに案内をしている。
 そのすぐ脇に堂々とそびえるのは聖シモン廟とその鐘楼である。
「右手にございますのが……」
 聖堂の塔だろうか。白い大理石を積んで作られたらしい尖塔が白く輝いている。
「右手にあるのが?」
 思わず身を乗り出して尋ねたラヴェルに、ルキータは更に愛想よく笑みを浮かべた。
「指紋でございまーす!」

 ………………。

「あははははは! こりゃいいや」
「王子……それくらいでウケまくらないでください……」
 笑い転げているクレイルとそれを何とか収めようとめようとするラヴェルの後ろでは、レヴィンが冷め切った視線をこちらに注いでいる。
「はは……アハハ……あ、いいにおい〜〜」
 クレイルの丸い鼻がピクリと動いた。
 どこからともなく香ばしいにおいが漂ってくる。何かのタレのようだ。
「あ、王子、あれかもしれないですね」
 露店から立ち上る煙をラヴェルは指差した。
 耳をすませば雑踏のノイズの中に、微かにジュージューという音と、説明するルキータの声が聞こえる。
「あ、あれはね、串焼き肉。肉の塊を削って、その肉にタレを付けて丸めて串に刺して焼くのね。安いのだと、筋っぽい堅い肉をそのまま切ってさして焼いてるけど」
「ふーん……おいしそうだなぁ」
 指をくわえそうな王子にラヴェルは一応注意を促した。
「……買い食いなんてしないでくださいよ、一応王子様なんだし」
 クレイルはシレジアの王都ブレスラウの街でもお忍びの最中に庶民に紛れて買い食いをしているのだ。しかも、似合い過ぎていて誰も自国の王子だと気付かない。
「そういうわけで、王子……あれ?」
 いつの間にか目の前から消えている。
「おばちゃん、それ一つね」
「はいよ!」
一瞬の間に、すでに愛想の良さそうなおばちゃんからお釣をもらっているクレイルの姿。
「あああああ」
 やはり。
 クレイルに王族らしく振る舞えというのはどうやら無理なようである。


「それで、これからどうするんですか?」
 軽く昼食を取ると、四人は街の東側に作られた公園で食休みにしていた。木々に囲まれたここまでも街の喧騒が届いてくる。
「そうだねぇ……僕は適当にそこら辺をぶらぶらしたいなぁ。国の用事で来ると、そんなこと出来ないしね。やっぱ、街の雰囲気を楽しまなきゃ。ラヴェルはどうする?」
 実はラヴェルには特に用事のようなものはない。
 いや、行きたいところは山ほどあるのだが、懐事情が寂しいのだ。
「僕は……うーん……。じゃあ、町を巡って見て、人に話を聞いて、詩の構想でも練ることにします」
「えー、つまんなーい」
 見るからにつまらなそうにルキータは口をとんがらせている。
「じゃあ、私も好きなところへ行ってくるから、ラヴェル達も適当に遊んでてね。夕方になったらここに戻ってくるっていうのでどうかしら?」
「わかった。ここに夕方、待ち合わせだね」
「うん。じゃね」
「じゃぁ僕も〜」
 ルキータとクレイルがそれぞれの方向に姿を消すと、ラヴェルも街へ繰り出そうとし、その歩みを止めた。
「……あのさ、レヴィン」
「何だ?」
「……迷子になりそうだから、ついてきて」
「………………。」

 …………………………。

「……今、心の中で思いっきりバカにしたでしょ?」
「そうだな」
「あうぅ」
 太陽が教会の尖塔の真ん中からわずかに位置をずらしている。逆光に浮かぶ教会のシルエットは、黒く、しかしその縁を日の光に輝かせていた。
 ラヴェルとレヴィンがしばらく歩くと、三階建ての素晴らしい建物の前に出た。
 一度来てみたかった帝国劇場だ。
 入り口には開演を待つ裕福な人々の華やかな姿。建物のファサードには、飾りのためだけの豪華なバルコニー。そこからは誇らしそうに帝国旗が掲げられている。
 ラヴェルの財布では中へ入ることはかなわないが、外から見るだけでも十分にその豪華絢爛な姿は想像できる。
「すっごーい……」
 町を埋め尽くす明るいグレーの石畳はどこまでも続き、両脇に建ち並ぶ建物は、全てが華麗な彫刻付の建物。
 店も、ホールも、ギルドも、何もかも。
「うわー! うわ、わーー」
 あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。
 中央のマルクト広場には、建国の祖が女神から王冠を授かる姿をモチーフにした石像の立つ噴水、透かし彫りの施された大理石のベンチ、鮮やかな花々の植え込み。
「わー、見て見て、あれ、すご……」
「……お前な、」
 初めて見る物ばかりのこの街の様子に感激しきりのラヴェルの背後で、ひたすら冷めた吐息が、さっきから幾度となく吐かれる。
「……さっきから田舎者丸出しだぞ」
「うぐっ!」
 日の光が段々暖かみを帯びた色に変わっていく。町並みも暖かな色に染まり、赤い瓦の屋根はますます赤く、白い教会は淡い鴾色に染まる。石畳には影が長く落ち、空も徐々に色味を変えていく。
「そろそろ戻ろうか。二人を待たせてもいけないし」
「俺は構わないが」
 空の赤みが落ち、段々と光も薄くなっていく。その中をラヴェルは待ち合わせの公園へと急いだ。



「ラヴェル遅ーい!」
「ごめん、ごめん」
 暗くはないものの、黄昏色に、薄墨色に染まる帝都。
 大陸の中央部にあるこの町はシレジアほどではないものの、さすがに気温が下がり始めた。
「さあて、宿を取らないとだね。明るいうちにとっておくの、忘れちゃったよ」
「じゃぁ、ライヒス・アドラーとかどう? 他にも……」
 ルキータが有名どころの名前を挙げるが、財布に余裕がない。
「ンもう、仕方ないわね、大通りから少し外れた宿に当たってみましょ」
 冬に近い季節、日が落ちると暗くなるのは早い。そうこうしているうちに街にはロウソクやかがり火の明かりが点り、揺らめいている。
「城門に続く通りを突っ切った向こうに、ちょっと穴場の宿があるの。そこでいい?」
「うん、任せるから頼むよ」
 歩き始めてすぐ、何故かレヴィンが立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや」
 レヴィンは一瞬立ち止まったが、またすぐに歩き始めた。
「……まぁ、町の中ではないだろうよ」
「??」
 何を言っているのかわからなかったので、ラヴェルはその独り言をすぐに忘れてしまった。
 だが。
「何かしら?」
 しばらくすると今度はルキータが足を止めた。
 今度はラヴェルにもはっきり聞こえた。
 そんなに離れていない位置から、誰かの叫ぶ声。
「ぬおおおおーー! 曲者じゃあ! であえーッ、であえーッ!」
 それに続くのはガチャガチャという鎧の音。衛兵や騎士達の走る音だ。

 カチーン、ギチーン!

 やがて始まるチャンバラの音。
「……曲者って、暗殺者か何かかしら。嫌よね」
 帝国ほど巨大な国となると、よくない噂も絶えない。皇族を狙った事件も多い。
 巻き込まれないうちにと、気付かれないようにその大通りを突っ切ろうとした一行は、歩きながら横目で城門の方を見……思わず立ち止まった。
「何、あれ!」
 黒い影が暴れている。何か巨大な生き物の影だ。
「……やはり怪物か」
「あああ、冷静だし」
 よくもまあ、いつもそんなに落ち着いていられるものだ。
 どうやらレヴィンがかぎつけたのはこの気配だったようだ。
 ラヴェルは半ば呆れながらレヴィンを見、視線を城門に戻した。
 多くの衛兵達が地面にのびている。
「ひるむなー! 戦えーーッ!」
 勇敢な掛け声に目を凝らせば、初老にそろそろ差し掛かる頃の、恐らく隊長であろう。剣をかざして部下をけしかけようとしている……のだが。
「そうは言うがな、残っているのは私と貴殿だけなのだが?」
 隊長の横にいる女魔導士が冷静に突っ込んでいる。突っ込みでもしなければやっていられないのだろう。なにせ部下達は全員がノックアウト。
「ならば! いざ、私が相手だ! やあやあ、我は誉れ高き……」

 ごおおっ!

「ぬおおおおーっ!?」
 怪物の吐いた炎のブレスに、隊長らしき男は一瞬で黒焦げになった。
「ふ、不意打ちとは卑怯なり〜〜ぃ……」
「……貴殿が不用心なだけだと思うが」
 無用心も何も、怪物相手に人間の言葉が通じるとは思えない。
 ましてや正面から突っ込むなど、普通なら躊躇するところだ。
(王子、どうします?)
(うーん、どうしようかねぇ)
 怪物はなかなかの強さらしい。暗くて姿はよく見えないが、動物の仲間のようだ。
(あ、私パスね。先に宿へ行ってとっておくから、じゃあねっ!)
 ルキータはそそくさとその場を離れていく。ラヴェルもそうしたいがピンチの人間を放っておくのも気が引ける。
(助けます?)
(うーん、怪物もなかなかの強さみたいだけどねぇ)
(倒せます?)
(さぁねぇ?)
 黒こげになった隊長やノックダウンした衛兵達を怪物がげしげし踏み付けている。
 それはかなりの巨体で、口からは相変わらず炎を吐き出している。
 一人残った魔導士はその炎を防ぐことで精一杯のようだ。



 仕方ない、助太刀すべくラヴェルとクレイルは怪物のすぐ後ろまで走った。気が進まなそうなレヴィンも取りあえずついてくる。
 荒れ狂う吹雪の魔法で炎を防ぐ女魔導士に気を取られている怪物の後ろから、ラヴェルはレイピアをかざしながら刺突を試み……。

 ぶんっ!

「うわわわわーー!?」
 なぎ払うように襲ってくる尻尾をよけるのに精一杯。
 それを防ごうとレイピアで切り付けると、巨大な尻尾から堅い金属を叩くような音が響いた。どうやら硬いカラで覆われているらしい。
「え……さそり??」
 その怪物は動物のくせして何故かサソリの尻尾を持っていた。
 巨大な刺が先にはえ、黒光りしている。
 クヤンやフィン、ホリンなどと比べればラヴェルは明らかに弱いように思えてしまうが、レイピアに関していえばそこそこの腕前は持っている。
 ラヴェルはうねうね動く尻尾をよく観察した。
 殻は堅いが、動く関節部分の内側はそうでもなさそうだ。
 殻と殻の隙間、ごく僅かなその部位に慎重に狙いを定めるとラヴェルは一気に間合いを詰め……。

 ぶん!

「っきゃあああああ!?」
 怪物はレイピアが刺さったままの尻尾を無造作に振り回した。つられてラヴェルも空中を勢いよく旋回するハメに。
「う〜ん、作戦としてはよかったんだろうけどねぇ……」
 他人事のようにつぶやくクレイルの目の前を、振り飛ばされたラヴェルが放物線を描いて飛んで行く。
 その飛行物体からクレイルは視線を戻し……怪物と目が合った。

 ぎろ〜り。

「へあっ!?」
 怪物が身構えた。いつでも飛びかかれるだろう。
「えーと、えーと……うわああああ!?」
 突進してきたそれを避け、慌てたクレイルは自分のローブの裾を踏みつけて転んだ。
 立ち上がるのも間に合わず、クレイルはそのまま全速力で這って逃げた。
 向こうからはラヴェルがやはり這って逃げてくる。
「お、お王子、こここここ、このか怪物って……ああああのの……」
 ぶら下がった顎がカコカコと震えている。
 その怪物に近づいて良く見れば、体躯は予想よりも遥かに大きい。尻尾はサソリ、背にはドラゴンの翼、頭は何と三つもあり、獅子の頭に蛇の頭に山羊の頭。体も獅子。
「ゆ有名ななな……きききキマイラってややつなんじゃや……」
「うん、多分ね……ラヴェル大丈夫?」
「だだだ……だっ……大丈夫でっ……です」
 言葉に全く信憑性が感じられない。
 キマイラというのは幾つもの獣の融合したような姿の魔獣で、現在ディアスポラと呼ばれている地域に出没したといわれる、昔の伝説に名を残す怪物である。
 どのような獣の姿が含まれているかは伝えられている歌によって全く異なり、共通しているのは口から炎を吐くということくらいである。



 全く役に立たない助太刀に愛想を尽かしたのか、一人残っていた魔術師はかなり高位の魔法を連続して叩き込んだ。
「シュネーラヴィーネ! ……フェルス・シュトゥルツ! ……ブリザント……!」
 突如がけ崩れのように雪の塊がなだれ落ちた。それを巻き込むかのように巨大な竜巻が沸き起こり、それらが弾き飛ばされるのと同時、夜空を焦がすような爆発が辺りに炎と熱風を撒き散らす。
 凛とした声が夜の城門に響き渡るも、怪物に傷一つつけることが出来ない。
 どうやら魔法の効きが悪いようだ。
 とはいえ、剣や槍を持つ衛兵達はすでに皆が失神している。
 仲間内で剣を持っているのはただ一人。
「……と、ゆーわけでラヴェル、がんばって。応援してるから」
「どーやって倒すんですかぁぁぁっ!?」
 無責任全開のクレイルの指名に、ラヴェルは半分泣きながらレイピアを握り締めた。
 猛毒の尻尾は襲ってくる、近付けば空に舞い上がって避ける、獅子頭は炎を吐き、蛇頭は吹雪を、山羊頭は稲妻を吐いてくる。
「うう、逃げたい……」
 攻撃されているというよりもむしろ、キマイラにじゃれつかれながらラヴェルはレイピア片手にべそをかいている。
 そんな情けない吟遊詩人を少し離れたところから見ていたレヴィンがいい加減飽きたように声を投げかけてきた。
「で、いつまで遊んでいるんだ」
「ひどいよー。レヴィン、君って何もしてないじゃないかー!!」
「いや、見物をしているぞ」
「……もう、いいです……」
 キマイラがラヴェルに気を取られている間に、女魔導士は黒コゲの隊長を叩き起こし、強力な呪文の詠唱を終えた。
「ウィンツプラオト!」
 黒魔法の風系では最強に位置する魔法だ。
 辺りの瓦礫を巻き込み、大旋風がキマイラに襲いかかる。
 叩きつける瓦礫にキマイラは足を痛めたようであったが、致命傷には至らなかったようだ。
 これだけの大魔法を受けながらも、魔法そのものによるダメージも微々たる物だ。
 魔法を放ち、一瞬だが間のあいた魔導士に向かい、キマイラは数メートル舞い上がると滑空突撃をかけようとした。
 そこを狙って別の魔道士の声が響く。
「ヴィント!」
 クレイルの放った真空の刃がキマイラの翼すれすれに飛び消えていく。
 魔法によるダメージはなかったようだが、気流を乱されてキマイラは一度地面に落下した。
 その間に魔導士は体勢を立て直し、叩き起こされた黒こげ隊長に加速魔法をかる。
 その魔法に隊長は威勢よく答えた。
「よおっし! 見ておれ!」
 隊長は手に唾をプッと吐きかけると剣を掲げて突進する。
 ……が、いくら加速をかけてもすでにそれ相応のお歳、あまり早くない。またも炎の直撃を受ける。
「おおおおおおーー……」
「ルフトドルック!!」
 どうやら隊長は捨て駒だったらしい。
 キマイラが隊長に突進した瞬間、魔導士は次の魔法を発動させた。
 それ自体はキマイラに傷を与えられないが、乱気流と衝撃波で地面に叩き落されたキマイラは翼の付け根を傷めたようであった。
 それでもまだ強敵であることに変わりはない。飛べなくても、走るのが遅くなっても、三種類の凶悪なブレスがある。
 ブスブス煙を吐いている隊長は放っておき、女魔導士は顔をしかめてつぶやいた。
「ふむ……通常の魔法では無理だな……これを魔法のみで倒すとなると 神魔、相反融合魔法でなければ……」
つづく

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