がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合2〜   目次   Novel   Illust   MIDI   HOME       <BEFORE   NEXT>

がんばれ吟遊詩人! 〜ラヴェル君の場合〜

第4話:離散(前編)

 丘を埋め尽くす巨大な町を眼下に、頂上にある宮殿はこの世の春を謳歌している。
 視界を大量の色鮮やかな花びらが塞いだ。
「うむ、出迎えご苦労」
 皇太子が手を軽く上げると、花かごを持った従者が無表情でササッと姿を消した。
 楽隊の勇壮なトランペットが響く中、彼らはヴァレリア皇帝城の門をくぐった。
「いや、実に楽しい旅であった!」
 花と香木の匂いがむせ返るほどに充満している。
 豪華絢爛も度が過ぎると不気味にすら見えるが、この精緻な彫刻で埋め尽くされた家具や内装は見ていて妖気すら感じる。
 栄華を誇るヴァレリア帝国の宮殿は、これでもかというほどに煌びやかだった。
「麗しの帝都よ、この皇太子シベリウス、栄えある使命を成し遂げ、ただいま帰城つかまつった!」
 おおげさに名乗りを上げるシベリウスに、彼を待ち構えていた従者達がこれでもかと薔薇の花びらを撒き、皇太子の偉業を褒め称えている。
 シベリウスを城まで送り届ければ、時間は既に夕刻だった。
 皇太子の計らいで一晩この巨大な城に泊まることになり、ラヴェルはあてがわれた部屋に荷物を放り込むと、レヴィンをつれてクレイルの部屋を訪れてみた。
「あら、ラヴェルさんにレヴィンさん」
「えっ」
 クレイルの部屋には見覚えのある少女が入り浸っていた。
 シベリウスの未来のお妃に内定している、つまりいいなずけであるシレジア王女マリアだ。
 そう、クレイルの妹である。
「マリア姫? どうしてここに?」
 ラヴェルが尋ねるとマリアはつまらなそうに頬を膨らませた。
「何ヶ月かごとに呼び出されるのよね。別に一緒にいなくたっていいじゃないの」
 マリアはまだ子供であるがシベリウスは彼女を非常に気に入っていて、結婚など遥か先のことだというのに、お妃教育や環境に慣れることなどを口実に時折呼び出しては滞在させているらしい。
「こんな早く連れ帰ってこないであちこち引きずり回すか、なんなら港に沈めてきてくれればよかったのに」
「いや、それはちょっとねぇ……」
 クレイルが苦笑しながらお茶を飲んでいる。
 どうやらマリアはシベリウスが気に入らないらしい。
 突然、部屋をノックする音が響いた。
「はい?」
 クレイルが答えれば、廊下から響いたのはシベリウス本人の声だった。
「お休みのところ申し訳ない。夕食の準備を整えさせましたゆえ」
 クレイルがドアを開ければそこにはやはりシベリウスがいた。
 その薄青の瞳が、室内であらぬ方向を向いているマリアに吸い寄せられる。
「おお、マリア姫! こちらにおいででしたか!」
 たった数歩の距離を猛牛のごとき勢いで駆け寄ると皇太子は膝をついてしっかと幼姫の手を握り締めた。
「ああ、我が麗しの姫君よ、この輝かしき未来の夫たるシベリウス、ただいま帰城致しました! 姫の美しさに比べたら、旅で見た花も景色も芥に同じ、価値なきに等しいもの。姫にお会いしたい一心でこのシベリウス、旅の途上も上の空。片時も愛しき姫のことを忘れたことはございませんでしたあぁぁぁっッ!」
「……あーそうですか。お疲れ様でしたわね」
 黒子が振り撒く花びらの中でのろけている皇太子を尻目に、クレイルはラヴェル達に立つように促した。
「ご飯だってさ」
 その言葉にはっとしたようにシベリウスは立ち上がった。
 殺気を隠しもしないマリアの手を大切そうに取ると城の中を案内する。
 皇太子について行けば、最上級にセッティングされた大広間に辿り着いた。
 思わず棒立ちになったラヴェルに、シベリウスは極上の笑みを浮かべて手招きをした。
「我が友よ、このシベリウス、友情と感謝を込めて馳走を用意させて頂きましたぞ! ふ、我が最良の友と過ごす晩餐ゆえに、ふさわしく贅をつくさせて頂いた! ささ、ご堪能あれ」
 花びらを全身に受けながら、ラヴェルは頭の中が真っ白になった。
 一目見ただけで、口に入れる前にもう満腹になってしまうほどの豪勢な料理がこれでもかと食卓に乗せられている。
 しかも奥にいるのは皇帝夫妻ではないか。
 無言で踵を返したレヴィンの腕をラヴェルは必死で引き戻した。
 大広間には皇族の他にも、見知らぬ貴族が大勢集まって談笑している。
 こんな世界が違うような晩餐会に、ラヴェルはめまいを覚えて自分の頬をつねった。
「うーん、これはきっと夢だ、うん、悪い夢に決まってる」
「お前な……現実逃避したいのはわかるが、普通は逆だろう」
 どうやらラヴェルには贅沢は合わないらしい。
「まぁ、おいしそう」
 にこにこと嬉しそうに眺めているのは女官に呼ばれてやってきたディドルーだ。
 彼女は意外と適応力があるらしい。
「諦めるしかなさそうだな」
「あう」
 ラヴェルは渋々と席に着いた。



 極上のシャンパンで乾杯を済ませると、次々と運ばれてくる皿に半ばうんざりしながら、ただひたすら時間が過ぎるのを待つ。
 エビのムースのオレンジ添え、ワインソースをかけた子羊のロースト、ハーブとグリーンのサラダにイチジクのコンポート……この辺りまではラヴェルもわかったが、他の大量の皿の料理は全く未知の物ばかりだった。
 チラッと目をやればレヴィンはほとんど手を付けず、逆にディドルーは嬉しそうに腹に収めている。
「まぁお二人とも、召し上がりませんの? おいしいですわよ」
 緑色のハーブバターを詰められた巻貝をディドルーは嬉しそうにつついていた。
 レヴィンが彼女を半眼で見やる。
「お前、それ……食うのか? カタツムリじゃないか」
「これはエスカルゴですわ。はごたえがあっておいしいですわよ」
 ディドルーの言葉にラヴェルもそれに手をつけた。
 エスカルゴなら何度も食べたことがある。
「レヴィンは食べたことないの?」
 ラヴェルが器用に中身を取り出して見せると、レヴィンの顔はあからさまに引き攣った。
「中身だけ出すな! それじゃナメクジじゃないか」
「結構おいしいよ? 食べてみれば?」
「誰がでんでんむしなんぞ食うか!」
「いや、虫じゃないから! 貝だから!」
 レヴィンがこんなに嫌そうな顔をするのをラヴェルは初めて見た。
 思わず笑いかけたが、真正面から返される凄まじい殺気に慌てて首を振る。
「諸君!」
 突然のトランペットの音に続いて響いたのはシベリウスの声だった。
「今宵は非常に良き夜である! このシベリウス、使命を果たして無事に長き旅路より帰還して参った。我が旅にご同行頂いた勇敢なる友に、皆からも賛美の拍手を!」
 突然ラヴェルは頭の上から花びらをまかれた。
 シベリウス配下の花かごの従者達だ。
 万雷の拍手と、貴族達の視線がクレイルはおろかラヴェルと仲間にまで惜しみなく注がれている。
 カタツムリを手にしたままラヴェルは硬直したが、それで助かるわけでもない。
「ささ、ラヴェル殿」
 突然肩をがっしりとつかまれ、ラヴェルはぎょっとして顔を上げた。
 いつの間にか花吹雪の中にシベリウスが近づいてきていたのだ。
「ここはぜひ何か一曲お披露目を」
「はえ!?」
 一斉にトランペットが鳴り響いた。
 大貴族達が期待の目でラヴェルを注視している。
 気の毒そうにクレイルが呟いた。
「ああ、ラヴェルは歌は上手いんだけど竪琴がちょっと……ねぇ……」
 さぁ恥をかけといわんばかりの状況に、ラヴェルは完全に顔が青ざめた。
「おいラヴェル、どうする」
 溜息交じりにレヴィンが視線を投げてきた。
「う、う……」
 頭に大量の花びらを積もらせ、ラヴェルは酸欠の魚のように口をパクパクさせていたが、やがてがっしりとシベリウスの手を握り返した。
「殿下! 申し訳ないんですけど、僕、喉がちょっと……魚の骨が刺さったみたいなので、どうかご容赦頂きたく!」
「な、なんと! それではいたしかたない」
 シベリウスがいかにも無念そうに去っていくと、ラヴェルは安心して深く息を吐いた。
 マリアの視線が冷たい。
「……骨のある魚料理なんてあったかしら?」
「……えーと」
 冷や汗を拭きつつも、ふと、ラヴェルは傍らに差した影に気付いて振り向いた。
 可愛らしく着飾った貴族の少女がテーブルに近づいてくる。
 漂う香りに気付き、クレイルも振り向いた。
「お茶をお入れしました」
「ああ、ありがと……う?」
 クレイルが手を出すと、なぜか白磁のティーカップはその前を素通りした。
 レヴィンの前にそれを置くと娘は去っていく。
 どうやら一人前しかないらしい。
 しばらくすると今度は別の娘が訪れ……またもレヴィンの前に珍しい菓子を置いて行く。
「…………」
 無言の後、レヴィンは茶菓子をラヴェルに押し付けた。
「なんか、あからさまにレヴィン目当てなんだけど」
 ラヴェルの呟きに、マリアが冷たく溜息をついた。
「誰も兄様は相手にしないわけね」
「ああ、お茶がおいしい……」
 クレイルは全く何も気にとめない様子で、己の手酌で紅茶を楽しんでいる。
「一応王様なのに……にーさまじゃ、玉の輿を狙うのもためらわれちゃうわけね」
「ああ、お茶がおいしい……」
「…………」
 何かを諦めたかのようにマリアが押し黙る。
 何とか晩餐会をやり過ごして部屋に戻ると、ラヴェルはベッドにどっと倒れこんだ。
 非常に疲れた、としかいいようがない。
「ラヴェル様」
 ぐったりと横になっていると、部屋にディドルーが入ってきた。
 薬草の匂いがする。
「お疲れでしょう? 薬湯を煎じましたからお飲みくださいな。疲労にはとても効きますわ」
「あ、ああ、ありがとう……」
 薄茶色の液体をありがたく口に含み……ラヴェルはそのまま動きを止めた。
 全身を突き抜けるほどの渋みに感覚が麻痺する。
「くうぅっ……」
 涙すらこぼしながらラヴェルはかろうじてそれを飲み干した。
 老人のように口をすぼめ、硬直した顎を何とか動かそうと試みるが、声すら出ない。
「き、き、き……効くうぅ〜〜」
 渋みとえぐみに慣れてくると、今度は全身がかっかと熱くなる。
 なんだか元気になったような気がする。
「う、うん、ありがとう、なんだか元気が出てきた」
「まぁ、よかったですわ」
 ディドルーは安心したように微笑を浮かべた。
「ではおやすみなさい」
「うん、おやすみ」
 彼女が出て行くとラヴェルは頭から毛布をかぶった。
 だが……薬で興奮したのか結局朝まで一睡も出来ず、翌朝ラヴェルは目の下にクマを作ったまま城を出立する破目になった。



 帝国の中西部は広々とした平原が続いている。
 帝都から各地へ延びる軍用道路は商人達にも使われる街道となっており、比較的安全なはずだ。
 幾つかの町を過ぎて人のいない原野に達すればポプラ並木は途切れ、やがて足元は丸い石畳だけになった。
 彼方に崩壊した遺跡のようなシルエットが見える。
「少し足を伸ばしてみるかい?」
 クレイルの提案にラヴェルは街道を外れ、丘の上に見える石造りの建築物に近寄ってみた。
「意外と大きいなぁ……」
 先端が欠け落ちたオベリスクを見上げながらラヴェルは感嘆の声を漏らした。
 遠くから見えた以上にその遺跡は規模も大きく、風化した石材の大部分は土に埋もれているようだった。
 クレイルはしゃがみこんで石材に手を触れている。
「街道から近い割には発掘とかはなされてないみたいだねぇ」
 石の表面は雨風に削られているが、それほど古いわけではなさそうだ。
「滅んだというより捨てられた感じだね」
 辺りを見回しながらクレイルは立ち上がった。
 が、バランスを崩して地面で腰を打つ。
「あたたたた!」
 人間一人が転んだにしては大きな音が響いた。
「んんっ?」
 耳に残る音にクレイルが辺りを見渡す。
 ラヴェルも異変を感じて動きを止めた。
「今、揺れませんでした?」
「揺れたねぇ」
 花を摘んでいたディドルーはそれを地面に返すとラヴェルに駆け寄った。
「ラヴェル様、大地の精霊が怯えています」
「え?」
 何かが地中に住み着いているらしい。
 また地面が小刻みに揺れた。
 近くの石材が妙に傾き、地面にめり込んでいく。
「……王子、これだけ街道に近いのに手付けずって言うのは……」
「んー、この近辺ではかなり知られてるんだろうねぇ、何か住んでるって」
 空気を貫くような咆哮が辺りを震わせた。
 怪物が住むとなれば住人は逃げていくが冒険者は寄ってくる。
 だが、それすらもなく放置されているということは……手に余るということだ。
 地中に大きく崩れた階段の下に、何かの暗く青い目が光った。
 石材を爪でえぐり、それは地上に飛び出してきた。
 鋭い鍵爪が宙を薙ぐ。
「キマイラ!?」
「違う、どけ」
 レイピアを構えるラヴェルの襟首をレヴィンが掴んだ。
 怪物は老人のような顔に獅子のたてがみを生やし、幾重にも重なった牙を剥いている。
「なるほど、こいつは冒険者程度では手が余る」
 青いマントが激しく揺れた。
 その手から放たれた衝撃波が、飛来したものとぶつかり叩き落す。
 毒矢だ。
 怪物の赤金色の身体は獅子のもので、小さな皮膜翼を持ち、蛇のような尾が生えていた。
 その尾の先の突起から、毒液に濡れた針が四方に撃ち出される。
「……マンティコアだな」
 知恵に長け、老人の顔からは想像できぬ素早さで駆け巡る怪物は強敵以外の何者でもない。
 襲い掛かる毒針をラヴェルはかろうじてレイピアで弾き返した。
 その背後でディドルーが祈るように手を組んだ。
「夢に見る幻よ、憧れを惑わす蜃気楼」
 魔力とも精気ともつかぬ物が薄く霧のように漂った。
 霧に浮かんだ幻影に向けて怪物の撃った毒針が飛んでいく。
 怪物は飛ぶことは出来ないようだが、背中の翼のはばたきが疾駆を助けているのか、体の大きさに似合わぬ速さで襲い掛かってくる。
 クレイルが指を折って輪を作り、互いを組ませた。
「ベ・シルメン!」
 増幅された魔力がドームのように彼を覆う。
 普通なら薄い膜となって対象を覆うだけの防御魔法だが、クレイルが放ったのは完全な結界だ。
 激突音と共に怪物を弾き返してびくともしない。
 ラヴェルやディドルーを背後に庇い、クレイルは頑強な結界を維持することだけに専念した。
 開いていなそうな目がちらりとレヴィンを見る。
 彼だけが結界に庇われていない。
「ああ、任せておけ」
 レヴィンは自分だけが結界の外に置かれた意図を酌むと、すっと前に出た。
 微かに不敵な笑みを浮かべている。
「こいつは俺がやる」
 言うなりその手元が光った。



 事前詠唱無しに炎が炸裂する。
「ブリザント!」
 轟音と共に石材が砕け散り、爆炎が撒き散らされる。
 魔力を放ったと同時に飛び退いて怪物の鉤爪を避け、毒針を雷撃で叩き落す。
 マンティコアが吠えた。
 血に飢えた赤い口から放たれた魔力の塊とレヴィンが新たに放った衝撃波がぶつかり合う。
 撒き散らされた魔力に青いマントが揺れる。
 爆発から逃れ、レヴィンは軽い足音を立てて着地した。
 そのまま身を捻って毒矢をかわすと身を反転しざまに魔法を放つ。
「シュピラール!」
 物を吹き飛ばし空気の刃を撒き散らし、その中心には逆に真空に物を吸い込みながら、つむじ風が踊った。
 跳び退った怪物が炎を吐く。
「我つむぐは言霊の壁」
 見えぬ壁でそれを防ぎ、散った炎に目をやると逆にその炎に力を与えて自らの指先に招きよせる。
「……イグニス・ストリーム」
 流れるような幾筋もの炎が四方八方からマンティコアに襲い掛かりまとわりつく。
「フロスト!」
 炎から逃れ、獣の四肢が地に着く瞬間を見計らってレヴィンはそれを唱えた。
 冷気が氷となって大地を覆い、先の炎の残りの熱に溶け、マンティコアの鋭い爪ですら濡れる地面を掴めずに激しく滑る。
 炎に冷気、風に雷撃……数多の術をレヴィンは流れるように紡いでいく。
 襲い掛かる獣から身を捌き、間合いを取り、詰め、魔力を叩きつける。
 レヴィンの赤い瞳は強い輝きを隠しもせず、怪物だけを映し込んでいた。
 それは明らかに戦うことを楽しんでいる。
「自由自在ですわね……何て人」
 ぽつりとこぼしたディドルーの声音には感嘆だけでなく、あまりの能力の高さに賞賛を通り越して呆れているような雰囲気すら感じ取れた。
「あー、レヴィンはね……」
 ディドルーの横でラヴェルはうなずいた。
「本業は吟遊詩人だけど、並みの魔道士よりもずっと上だよ……人には知られていないし、これからも表に出ることはないだろうけどね」
 後半は口の中で呟くにとどめ、ラヴェルは視線を青い影に戻した。
 レヴィンの青い袖が宙を水平に薙ぐ。
「ヴィント!」
 一枚の真空の刃が体勢を崩した怪物に襲い掛かった。
 鈍い音をたて、獣に絶叫を上げさせ、それは怪物の尾を切り落とした。
 トゲのついた蛇の尾が地面で奇妙に痙攣している。
 もう毒針は飛んでこない。
 結界を解くとクレイルは別の印を結んだ。
「バンネンっ!」
 魔力が見えぬ網となって獣を捕らえ、縛り上げる。
 動きを完全に封じられた怪物に、レヴィンは唱え上げた呪文を解放した。
 空気が一気に帯電する。
「ツェーバオト!!」
 雷撃の嵐が吹き荒れた。
 雷光と火花が渦巻いて乱れ飛び、放電音が空気を焦がす。
 光の明滅の中に怪物のしわがれた断末魔が響いた。
 四肢を引き攣らせ、干からびたように炭化すると放電の中に倒れ果てる。
「ふん……まぁ、こんなものか」
 誰も倒そうとしない、うかつに近寄れぬ怪物をいとも簡単に屠ってのけるとレヴィンは視線で遺跡を示した。
「どうする、地中にもまだ何かいるかも知れんぞ」
「うーん」
 ラヴェルは地下へ続く階段を恐る恐る覗き込んだが、先は崩れていてそれ以上見えない。
「王子、どうします?」
「何がいるかわからないけど弱体化させちゃおうか」
 クレイルは懐から紙を取り出すと何か書き付けた。
 呪文を唱えながらそれを燃やし、その灰を溶かした水を遺跡にまく。
「ラングザーム」
 クレイルが宣告すると地中に染み込んだ水が魔力を発した。
「うん、これでいいや。後は通りがかりの冒険者に任せよう」
「何をしたんですか?」
 ラヴェルの問いにクレイルはのんびりと答えた。
「魔法を掛けた水をまいたんだよ。地中に届くはずだ。ラングザームっていう、動きを遅くする魔法がかかっている。もし怪物が地上に出てきても機敏には動けないはずさ。そうすれば普通の冒険者にも倒せるだろうし」
 呪文は一瞬か、もしくは術者が意識を集中している間しか効かない。
 だが物に掛けておけば込めた魔力の分だけ持続する。
 クレイルが掛けた魔法は簡単なものなので永久に続くことは無いが、ある程度の期間は持つはずだ。
 処理を済ませると一行は遺跡を後にして街道へ戻った。

つづく

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