<私的扶養と公的扶助>


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Update 2019.05.12

はじめに


私的扶養(民法に定める親族扶養)… 扶養:生活の面倒
公的扶助(生活保護法による扶助)… 扶助:生計の援助

民法に定める扶養義務者
  夫婦の同居、相互協力・扶助義務:752条、760条、761条
  親の未成熟の子に対する扶養義務:820条(監護教育義務)、877条
  親族間の扶養義務者
    877条第1項:当然の扶養義務者(直系血族・兄弟姉妹)
    877条第2項:審判による扶養義務者(3親等内の親族)
    878条:扶養の順位(数人の扶養義務者・扶養権利者の順序)
    880条:扶養関係の変更又は取消(扶養の順位、程度・方法)
         協議又は審判後の事情変更による
         協議又は審判の変更又は取消

  義務によらない扶養:親族扶養(立替給付)、他人扶養
    730条   :親族間の互助の義務…内容不明、実効性なし
            (道徳規範)

私的扶養


扶養義務
  当然の扶養義務  :扶養必要→扶養可能→直ちに義務発生
  審判による扶養義務:扶養権利者の扶養請求+家裁の選任審判→義務発生

当然の扶養義務者
  … 憲法施行後も残る旧法規定、欧米では家族間限定の国が多い
  家族間の扶養義務(共同生活すべき者の義務)
    夫婦の同居義務+夫婦間の扶養義務
    親の未成熟の子に対する扶養義務(他に比べ加重、親権の有無に関せず)
      父母の資力に応じた養育費分担 ⇒ 離婚した父母、
                       非嫡出子の父母も同様
      婚姻中の夫婦の一方の未成熟の連れ子も他方の継子であるが同様に
                       分担する
      離婚する父母は離婚後の子の扶養の分担を協議で決めるが、
      再婚後の継父又は継母は親の扶養の程度が十分でない場合に
                       補充的に分担する
      養子の場合、実親は養親より後順位で子を扶養する義務
                       (ただし同程度)
  親族間の扶養義務(生活を異にしている親族)
    直系血族:父母、祖父母、子、孫、・・・
    傍系血族:兄弟姉妹(義務者に過重にならないよう配慮必要)
         半血より全血間が先順位は参考程度(権利も同じ)
    実子と継子は法律上の兄弟姉妹でなく、審判による扶養義務者
  中間的な扶養義務(家族間>中間的>親族間)
    老親扶養:成熟子が老親の兄弟姉妹に先行(国民感情)、
         高齢化の進展により民法上の扶養だけでは解決は困難
         (社会保障制度の充実が必要)
    養子の実親及び実方親族扶養:養親及び養方親族扶養義務に支障の
         生じない配慮
  以上は内縁夫婦間、事実上の養親子間においても同様
  扶養義務者全員の協議が整わない場合 … 調停/審判による
    家裁に申立、調停・審判による扶養義務者の決定
    (遺言による指定はできない)

審判による扶養義務者 → 裁判所|家事事件(扶養請求調停・審判)
  当然の扶養義務者が存在しないか、
    無資力等の事情によって十分に扶養できない場合
  申立により審判で指定された扶養義務者(三親等内の親族)
    3親等内の親族(伯叔父母、義父母、義兄弟姉妹、甥姪、嫁・婿、継子)
           (兄弟姉妹の配偶者、おじ・おばの配偶者)
           …直系姻族に劣後
  扶養の程度と密接に関連して一切の事情が考慮される
   …親族関係の遠近、権利者の需要、義務者の資力、特別な事情、
    生活状態や過去の交際範囲、権利者の生活困窮の原因等
  特別な事情:扶養義務者の家産承継事情、
    扶養義務者による過去の長期扶養事情等
  継子の老継親に対する扶養義務は姻族関係終了届があると前提の消滅により
    当然消滅
  死亡配偶者の他方配偶者の父母(義父母)に対する扶養義務も同様
    (扶養義務の免脱
    1親等の直系姻族である嫁の舅姑扶養義務にも特別な事情が必要
    (相続権ない由)

※参考:扶養の程度の一応の原則(下記)→例外:別居夫婦、子を養わない親
生活保持の義務
   …自己の生活の一部として保持する義務(自己と均しい生活の全面的保持)
    配偶者間、親が未成熟子を、(成熟子が老親を:生活保持の義務に近い)
生活扶助の義務
   …余れるものを分かつべき義務(自己の犠牲なしに給与し得る生活必要費)
    兄弟姉妹間、叔父叔母と甥姪、配偶者と他方配偶者の父母(義父母)

親族間の扶養の方法
  金銭給与扶養/現物給与扶養/引取扶養、老親扶養の際の身上配慮
  金銭扶養(一括でなく定期の支払が良い)が原則、
    同居義務や介護労働の義務はない
  同居者全員の意向を尊重した扶養義務者の一人の引取扶養と
    他の者の金銭扶養の分担

扶養料の内容
  必要経費:衣食住、医療費、教育費
  最小限度:趣味娯楽費、交際費
  葬式費用は相続財産や香典を優先、被扶養者の事業債務の支払義務はない

扶養料額の算定方式
  生活保護基準方式(厚生労働省が定め、毎年更新)
   → 生活保護制度
   → 生活保護基準の体系等について.PDF
  標準家計費方式(総理府や地方自治体の家計調査)
   → 標準家計費

立替扶養料の請求(民事求償でなく家裁で扱うべき家庭事件)
  立替給付:現実に扶養してきた親族からの求償
    扶養義務者間で求償できる(本来の扶養義務者:先順位又は同順位)
    扶養義務者の協議を拒んだ者:求償できる
    扶養義務者の一部の者の除外:求償できない
  他人扶養:扶養義務のない第三者からの求償

扶養請求権の処分の禁止
  扶養請求権は処分することができないし、
    4分の3(限度額あり)は差押禁止である
  受働債権にならない(扶養義務者の債権と相殺不可)、相続されない
  扶養義務者の生命財産への不法行為は、要扶養者の扶養請求権侵害で
    損害賠償対象

家庭裁判所への調停・審判申立(調停事件)
  → 裁判所|家事事件(扶養請求調停)
  扶養請求申立、扶養義務者の指定、扶養順位の確定申立、
  扶養料の増額請求申立、扶養義務者の負担すべき費用額の確定申立

扶養義務の準拠法:扶養権利者の常居所地法が原則
  → 扶養義務の準拠法に関する法律
  常居所地法/本国法の決定
    国/人で扱いが異なる国に常居所又は国籍を有する者の場合
    その国の規則、なければ当事者に最も密接に関係する法を適用する
  扶養を受けられる?
   …扶養権利者の常居所地法→当事者の共通本国法→日本法
               No         No
  傍系親族間及び姻族間の扶養義務の準拠法の特例
    傍系親族(兄弟姉妹等)や配偶者の血族(姻族)に対する扶養義務
    下記に拠れば上記の扶養義務を負わないと扶養義務者が異議を述べた法
      当事者の共通本国法、ない場合は扶養義務者の常居所地法
  公序(良俗)による外国法の適用の排除:上記特例等の排除→日本法に拠る
  子に対する:条約優先、離婚当事者間:離婚を適用した法に拠る

関連する社会保障(公的扶助以外で)
  里親制度、養子制度
  社会福祉(母子及び寡婦、児童、老人、障害者)
  社会保険(医療・年金、労災・雇用、介護)、公衆衛生

健康保険の被扶養者の範囲
  主として被保険者の収入で生計維持
    (直系尊属、事実上含む配偶者、子、孫、弟妹)
  同上+同一世帯
    (上記除く三親等内の親族、事実上の配偶者(亡後含む)の父母と子)

所得税の扶養控除
  生計を一にする配偶者以外の同居又は別居親族
    (6親等内の血族・3親等内の姻族)
  控除対象扶養親族:16才以上の人
   → No.1180 扶養控除|所得税|国税庁

公的扶助


貧困者対策生活保護制度(目的:生活困窮者の一定の生活の維持、無拠出制)
  生活に困窮している国民に対して、
    健康で文化的な最低限度の生活を保障すること
  社会的自立を促進する相談援助・支援活動を行うこと
  基本原理:無差別平等の原理、最低生活保障の原理、補足性の原理
  運用原則:申請保護の原則、基準及び程度の原則、必要即応の原則、
    世帯単位の原則
  急迫保護:急迫した事情がある場合は原理原則の例外→法第4条3項、
                           法第7条但書
  被保護者の権利:不利益変更の禁止、公課禁止、差押禁止
  被保護者の義務:譲渡禁止、生活上の義務、届出の義務、指示等に従う義務

対象者
  資産、能力等あらゆるものを活用してもなお生活に困窮する者を対象
  扶養義務者による扶養は保護との関係調整的対応が必要
  利用し得る→現実に扶養義務が履行される可能性があるときにのみ
        扶養請求権の行使

調査事項(所得調査、資力調査)
  低所得者対策各種の社会保障施策による支援(目的:貧困への転落の防止)
    社会手当、公営住宅、生活福祉資金貸付制度の活用(他法他施策の活用)
  不動産等の資産の処分(預貯金や保険の払戻し、不動産の売却)
    による収入消費後
  稼働能力等の活用(就労の可能性の調査、可能性のある方への就労指導)

保護の適用
  厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して
    収入が最低生活費
  に満たない場合に保護を適用→就労するも最低生活を構造的に脱せない方の
    救済の問題
  保護の空白を生じさせない情報収集手段
    個別事情を勘案した公平な正基準設定が必要
  多種多様な不正受給を防止する網羅的な負基準設定が必要

生活支援の観点からの提言(賛同部分限定要約)
 → 「生活保護制度を見直し生活支援を確立する研究会」報告
  公平で妥当な必要性による資産保有条件緩和
    申請・開始時の現金・預貯金等について
      生活再建のため最低生活費3か月分程度まで保有上限額の引き上げ
    早期の生活再建に役立つ、節約による保護費原資の合目的預貯金等保有
      の容認
    生業や、公共交通機関利用困難(傷病・障害・高齢、僻地)な場合の
      必要的手段として低価自動車保有容認条件緩和
    単身者の葬儀代に資する生命保険保有の容認
  相続時まで猶予すれば保護費の返還を受けられる場合の制度化
  生業扶助の積極的活用(貧困の再生産の防止)
    技能習得、資格取得、就労に結びつく各種支援参加費用の支給
  被保護者等の問題
    生活支援:精神障害等による日常生活困難者、ホームレス、多重債務者、
         その他
    自立支援:若年無業者(ニート)、就労困難者、その他
  扶養義務者の問題:DV、虐待、その他
  基準設定等の問題:老齢世帯・母子世帯・単身世帯

保護の種類と内容(8種類、その他各種加算)
  生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、
  生業扶助、葬祭扶助
  医療扶助・介護扶助は医療機関等に委託して行う現物給付を原則、
    他は金銭給付が原則
  各自治体で実施するその他の保護施策:法外援護、救護施設、
    税等の減免措置等

生活保護の手続
  事前相談(受付)→保護申請→申請調査→要否判定・決定→保護費支給
  →訪問調査→変更/停止・廃止/保護費の返還と徴収

保護の実施機関と費用負担
  都道府県知事及び市区町村長により設置される福祉事務所において実施
    被保護世帯に対して配置される福祉事務所の現業員(ケースワーカー)
    が担当
  費用負担:国が3/4、地方自治体が1/4
  民生委員:住民の生活状態把握、生活相談・助言等の援助・情報提供、
       住民福祉の増進、社会福祉事業者の活動支援、福祉事務所
       その他の関係行政機関の業務に協力

不服申立(審査請求)
  処分を知った日の翌日から60日以内、福祉事務所経由知事宛に申立、
    知事は50日以内
  に裁決(結果は書類通知)、知事の裁決に不服ある場合は厚生労働大臣宛
    に申立

社会手当
  児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当、
  特別障害者手当、障害児福祉手当等

公営住宅
  住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃で賃貸他、
  改善事業:耐震改修、バリアフリー化

生活福祉資金貸付制度(平成21年10月見直し)
  総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金

非自発的失業者への国保保険料軽減措置の創設(平成22年04月から実施)
  → 市町村国保課
  倒産などで職を失った失業者に対する国民健康保険料(税)の軽減措置

保護施設
  (都道府県、市町村、地方独立行政法人、社会福祉法人、日赤が設置できる)
  生活保護は居宅保護が原則、困難な場合は施設保護(保護施設:5種類)
  救護施設、更生施設、医療保護施設、授産施設、宿所提供施設

福祉事務所や相談センターの相談員
  総合相談員
    社会福祉士(ソーシャルワーカー)
  保健相談員、精神保健福祉相談員
    保健師、精神保健福祉士
  医療支援専門員
    社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)、精神保健福祉士
  就労支援専門員
    ハローワークOB等

リンク集
  生活保護法
  生活保護法施行細則
  生活保護制度 |厚生労働省
  国立社会保障・人口問題研究所(生活保護に関する公的統計一覧)

HP作成者:

中村三郎

,船橋市咲が丘