<旧民法による相続>


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Update 2019.06.04
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●適用法

 … ここで言う旧民法とは昭和22年改正前の民法旧規定を指し、
           明治23年公布のいわゆる「旧民法」ではない!

  適用する法律は相続開始(死亡等)の時期によって異なってくる
  表中の①~⑥:適用法を判断され、後述の説明を参照ください
  (旧法手続未済の不動産の名義変更は今でも可能で期限はない)
死亡時期適用法
明治31年7月16日より
昭和22年5月2日まで
①家督相続(旧法)②遺産相続(旧法)
③附則25条2項
昭和22年5月3日より
昭和22年12月31日まで
④応急措置法による相続
昭和23年1月1日より
昭和55年12月31日まで
⑤現行法旧持分
昭和56年1月1日以降⑥現行法新持分
 ※家督相続:戸主の死亡・隠居等(生前相続)による
  「戸主権、祭祀財産、戸主財産」の相続
  戸主は60歳に達すると隠居できた。(例外:裁判所の許可
   → 戸主権の喪失(752条)
  女戸主は年齢に関係なく隠居できた。
  戸主の戸籍喪失
    戸主の国籍喪失、戸主が婚姻又は養子縁組の取消によりその家を去った
    とき
  女戸主の入夫婚姻(入夫が戸主となった場合)又はその後の入夫の離婚
   → 財産留保(988条)
    入夫(入り婿):婿養子縁組婚姻の夫は未だ戸主ではなく将来の戸主
 ※遺産相続:家族の死亡による遺産の相続
  遺言・遺留分、欠格・廃除、承認・放棄などは、おおむね現行法どおりだが、
  相続人、相続順位や相続分などは、現行法と大きく異なる(後述)
  ただし、配偶者の一方は離婚により他方の相続権を失うのは同じ
  (離婚の効果:相続権の消滅)
  

家督相続の優先順位:原則は長男単独相続(全部)
  第一順位 第一種の法定家督相続人:被相続人の家族たる直系卑属
       (代襲家督相続ある)
   (970条) 優先:親等の近い者、男子、嫡出子、年長者
       相続開始前に死亡又は相続権を失った場合はその直系卑属がその
       者と同順位
       第一種法定家督相続人は相続を放棄できない
  第二順位 指定家督相続人
       (被相続人が生前または遺言によって指定、
        戸籍上の届出により効力)
   (979条)
  第三順位 第一種の選定家督相続人:被相続人の父/母/親族会が戸主の
       家族の中から選定
   (982条) 優先:家女である配偶者(家附の娘、養女)、兄弟、姉妹、
          配偶者、兄弟姉妹の直系卑属
       正当事由あれば、裁判所の許可を得て選定順序の変更や不選定が
       可能
  第四順位 第二種の法定家督相続人:被相続人の家にある直系尊属
   (984条) 養父母を含み、姻族(義父母、継父母)を含まない
       優先:親等の近い者、(家附)、男子
  第五順位 第二種の選定家督相続人:親族会が被相続人の家族以外の
       親族又は他人の中から選定
   (985条) 優先:親族、分家の戸主又は本家若しくは分家の家族
       正当事由あれば裁判所の許可を得て他人を選定も可能

遺産相続の優先順位:最先順位者が相続(全部、同順位者は共同相続)
  第一順位 直系卑属
       (優先:親等の近い者が優先、
           親等の同じ者が複数あるときは同順位)
   (994条) 相続開始前に死亡又は相続権を失った場合はその直系卑属がその
       者と同順位(代襲権)
  第二順位 配偶者(996条:第二順位~第四順位、現行法と異なり単独相続人
       である)
  第三順位 直系尊属(優先:第一順位の規定を準用)
  第四順位 戸主
 ※兄弟姉妹に相続権はない
 ※非嫡出子は嫡出子の1/2

附則25条2項(応急措置法施行前の相続は旧法を適用の例外)
  [昭和22年12月22日法律第222号]
 ・法定又は指定家督相続人がなく戸主の父又は母あるいは親族会において、
  (相続開始:昭和22年5月2日迄)
  家督相続人を選定すべきところ、その選定をしないうちに
  (選定期限:昭和22年12月31日迄)
  応急措置法が施行された場合の相続であり、
  その相続については新法を適用する
 ・従前の第一種又は第二種の選定家督相続であるが、
  新法による遺産相続とする(⑤現行法旧持分)
  附則26条
   → 家附の継子と相続税法第15条第2項の相続人|国税庁

応急措置法の適用(日本国憲法施行の日に施行~新民法施行の日に失効)
 ・旧民法のうち新憲法のもとで合憲部分を新民法制定までの間暫定的に存続
  させた
  戸主、家族その他「家」に関する規定、家督相続に関する規定は適用しない
 ・応急措置法第8条(相続分)と旧民法遺産相続に関する規定に従う
  配偶者と直系卑属が相続人の場合、配偶者が1/3、直系卑属が2/3
  配偶者と直系尊属が相続人の場合、配偶者が1/2、直系尊属が1/2
  配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者が2/3、兄弟姉妹が1/3
 ※兄弟姉妹の直系卑属には、代襲相続権がなかった
 ※非嫡出子は嫡出子の1/2、兄弟姉妹は全血半血による相続分の相違はない

現行法旧持分(昭和23年1月1日~昭和55年12月31日)
  配偶者と子が相続人の場合、配偶者が1/3、子が2/3
               (昭和37年改正:直系卑属→子)
  配偶者と直系尊属が相続人の場合、配偶者が1/2、直系尊属が1/2
  配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者が2/3、兄弟姉妹が1/3
 ※兄弟姉妹の直系卑属に、代襲相続権あり
  (昭和37年改正:第887条第3項準用)
 ※非嫡出子は嫡出子の1/2、半血兄弟は全血兄弟の1/2

現行法新持分(昭和56年1月1日以降)
  配偶者と子が相続人の場合、配偶者が1/2、子が1/2
  配偶者と直系尊属が相続人の場合、配偶者が2/3、直系尊属が1/3
  配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4
 ※兄弟姉妹の直系卑属は被相続人の甥姪についてのみ代襲相続権あり
  (第887条第3項準用削除)
 ※非嫡出子は嫡出子の1/2→H25.09.04最高裁違憲決定後は平等!
  (翌日以降開始相続に適用)
 ※半血兄弟は全血兄弟の1/2

⑤⑥に共通:【優先順位:遺贈>寄与分>指定相続分>法定相続分】
           (遺贈・指定相続分:遺言)

●民法改正(相続関係)

 現行民法 → 民法

□明治31年制定の民法 → 民法旧規定第四編(親族)第五編(相続)
   明治23年制定旧民法でとられた相続法を財産取得法に含める構成をやめ
   て、第一編総則に一般規定をまとめ、第五編を相続に当て、
   相続は家督相続と遺産相続の二種に分けた
  ・戸主の地位を権利義務を含めて嫡出長男子に単独承継させる家督相続
  ・戸主以外の家族の死亡によって財産法上の地位を直系卑属に平等に共同相
   続させる … 遺産相続
□昭和17年の民法改正
  ・胎児の既生子擬制を相続人たる直系卑属だけでなくその代襲相続人にも認
   める
昭和22年の民法改正(文体が口語体に改まる)
  ・家督相続の廃止、遺産相続への一本化
  ・均分相続制(相続順位・相続分・遺留分)・配偶者相続権の確立
  ・軍人軍属のための特別方式遺言の廃止
  ・相続と祭祀財産承継の分離
□昭和37年の民法改正
  ・特別失踪の失踪期間の短縮(3年→1年)
   死亡擬制時を失踪期間満了時から危難終了時に改めた
  ・同時死亡推定制度の新設
   (死亡者相互間では相続は生じず、相続開始以前の死亡として扱う)
  ・代襲相続関係の整理
   直系卑属は、子のみ(本位)相続、孫以下はすべて代襲相続による相続と
   した
   代襲原因の明確化
   (相続開始前の死亡・相続欠格・廃除に限定し、放棄を除外)
   代襲者を被相続人の直系卑属に限定
   代襲原因発生時期不問(昭和17年改正の既生子擬制は不要となる)
    … 代襲原因発生後相続人の直系卑属になった者の代襲相続を肯定
   兄弟姉妹の直系卑属による代襲相続の肯定→後に子のみに限定
  ・限定承認・放棄の取消の制度の新設(家裁に申述)
  ・放棄の遡及効を明確化(相続開始時に遡って相続人でなくなる)
  ・相続人不存在の場合の公告期間を短縮
   (債権者等には2か月以上、相続人捜索は6か月以上)
  ・特別縁故者への遺産分与制度の新設
   (相続人不存在の場合、その者に財産分与の家裁申立)
昭和55年の民法改正
  ・配偶者の相続分の引上げ(現行法旧持分から新持分へ)
  ・兄弟姉妹の代襲相続人の範囲を子のみに限定(再代襲を認めないとした)
  ・遺産分割基準の明確化(各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況)
  ・寄与分制度の新設(相続人が被相続人の相続財産の維持増加に寄与した分)
  ・配偶者の遺留分の引上げ
平成25年の民法改正
  ・数人ある子の法定相続分の但書「非嫡出子は嫡出子の1/2とする」を削除
□平成30年の民法改正
  → 改正民法関係

●戸籍の変遷


□明治 5年式戸籍:明治4年戸籍法:壬申戸籍、戸籍様式は不統一
   屋敷番号順、定期の戸口調査的色彩、戸主は戸内居住者の身分を戸長に申告
   親族関係にない者(被養育者等)も同居先世帯員(附籍者)として末尾記載
   差別的記載あるため1970年封印(1968年閲覧禁止通達)
□明治19年式戸籍:明治19年戸籍法令(内務省令)により書式統一、
   除籍簿や族称欄の創設
   本籍を地番で表示、戸主と後継人を定め、血縁以外(附籍者)を締め出し
   除籍簿:全員転籍による閉鎖戸籍や相続による戸主交替時の改写前戸籍
   改写前と改写後の戸籍は官印で割印→屋敷番号と地番の継続性認定可能
□明治31年式戸籍:明治31年戸籍法等、
   戸籍登録地たる本籍の地番表示を法定
   旧民法の家制度による一戸の家の戸主と家族の身分を登録
   身分登記簿の創設:届出事項の全部を身分登記簿に登記し主要事項を戸籍簿
   に転記、用紙は横5寸、縦8寸の美濃紙と定められていた
□大正 4年式戸籍:大正3年戸籍法等、身分登記簿を廃止し戸籍簿に一本化
   身分登記簿に登記し更に戸籍簿に転記する二重の手続きが煩雑で無駄が理由
   戸籍用紙は強靭なる美濃紙と規定。昭和19年には大きさをB4判と規
   定
   昭和32年法務省令第27号改製原戸籍(戸主制度→筆頭者制度)
□昭和23年式戸籍:
   新民法下で一つの夫婦と氏を同じくする未婚子ごとに編製
   戸籍筆頭者の表示は戸主を廃して「筆頭者」と表示
   戸籍用紙はB4判又は美濃判の丈夫な用紙を使用
   平成6年法務省令第51号改製原戸籍
   (縦書き紙戸籍→横書き電算化戸籍)
□平成 6年式戸籍:
   コンピュータ戸籍、横書きとし戸籍謄本は戸籍全部事項証明に変わる。
   戸籍は電子情報処理組織によって取り扱い記録、証明はA4判の用紙を使用

 前戸主のいない戸籍:分家戸籍、就籍戸籍、帰化戸籍、一家創立戸籍、棄児の
   戸籍等
   一家創立戸籍は父母の戸主戸籍にないため父母戸籍からは追跡不能に留意
 ※昭和32年改製中:新法擬制戸籍、簡易改製、任意改製、家督相続による戸籍
   編製
   省略戸籍あり
 ※戸籍記載事項移記:新戸・入籍
          =戸籍法施行規則第39条(重要な身分事項の移記)
   管外転籍   =戸籍法施行規則第37条(管外転籍の場合の記載事項)
    → 戸籍法施行規則

●現行戸籍

 → 戸籍法(昭和22年12月22日法律第224号)

 夫婦親子の共同体を一括記録する制度
 戸籍の編製
   市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに
   これを編製する
   第1:同氏同籍を原則とし、氏の異なる者が同籍することはない
      (同氏同籍の原則)
   第2:夫婦は独立した一つの戸籍を有し、複数の夫婦が同籍することはない
      (一戸籍一夫婦)
   第3:親子は同氏同籍の原則により同籍となる(親子同一戸籍)
      兄弟姉妹や伯叔父母が同籍することはない
   第4:祖父母と孫のような三代の者が同籍することはない(三代戸籍禁止)
      親と同籍する子が結婚すれば子について新戸籍を編製する。
      子が同氏の実子(非嫡出子)又は養子をもった場合はその親子のため
      に新戸籍が編製される
 親子同籍の例外
   分籍:未婚の成年の子が親の戸籍から抜けて筆頭者として新戸籍を編製して
      もらうこと。復籍不可
 最近の動き
   選択的夫婦別氏制度の導入検討

●壬申戸籍以降でよく現れる元号


(現行暦:明治5年11月9日改暦)
元号・和暦月日西暦年
享和元年2月5日~4年2月11日1801-1804
文化元年2月11日~15年4月22日1804-1818
文政元年4月22日~13年12月10日1818-1831
天保元年12月10日~15年12月2日1831-1845
弘化元年12月2日~5年2月28日1845-1848
嘉永元年2月28日~7年11月27日1848-1855
安政元年11月27日~7年3月18日1855-1860
万延元年3月18日~2年2月19日1860-1861
文久元年2月19日~4年2月20日1861-1864
元治元年2月20日~2年4月7日1864-1865
慶応元年4月7日~4年9月8日1865-1868
明治元年9月8日~45年7月30日1868-1912
大正元年7月30日~15年12月25日1912-1926
昭和元年12月25日~64年1月7日1926-1989
平成元年1月8日~31年4月30日1989-2019
令和元年5月1日~      2019-
明治元年9月8日は西暦1868年10月23日にあたる。
旧暦月日は西暦月日に前ズレ、月序も閏月が存在。
 → <暦の知識> 第7節及び第26節を参照
 → 明治五年太政官布告第三百三十七号(改暦ノ布告)

●大正4年式戸籍

 → 戸籍法(大正3年法律第26号)

(旧)戸籍法抄(大正3年法律第26号):新かな表記
第2章 戸籍簿
第9条 戸籍は市町村の区域内に本籍を定めたる者に付き戸主を本として一戸毎
    に之を編製す
     ← 大家族1戸籍:家父長的「家」制度の残る戸主戸籍
第10条 戸籍は地番号の順序に従い之を編綴して帳簿と為す
第3章 戸籍の記載手続
第18条 戸籍は左の事項を記載することを要す
 1 戸主、前戸主及び家族の氏名
    ← 明治8年「平民苗字必称令」:国民皆姓
 2 戸主の本籍
 3 戸主が華族又は士族なるときは其族称
    → 昭和13年「族称文字削除の通牒」:明治31年戸籍法を改正
 4 家族が戸主と族称を異にするときは其族称
 5 戸主及び家族の出生の年月日
 6 戸主又は家族と為りたる原因及び年月日
 7 戸主並に家族の実父母の氏名及び戸主並び家族と実父母との続柄
 8 戸主又は家族が養子なるときは其養親並に実父母の氏名及び養子と養親
   並に実父母との続柄
 9 戸主と前戸主及び家族との続柄
 10 家族の配偶者又は家族を経て戸主と親族関係を有する者に付ては其家族
   との続柄
 11 他家より入りて家族と為りたる者が他の家族とのみ親族関係を有するとき
   は其続柄
 12 他家より入りて戸主又は家族と為りたる者に付ては其原籍、原籍の戸主の
   氏名及び
   其戸主と戸主又は家族と為りたる者との続柄
 13 後見人又は保佐人ある者に付ては後見人又は保佐人の氏名、本籍及び
   其就職並に任務終了の年月日
 14 其他戸主又は家族の身分に関する事項
第19条 戸主及び家族の氏名の記載は左の順序に依る
    → 同戸列次の順:尊卑・男女・長幼の序

 第1 戸主
 第2 戸主の直系尊属
 第3 戸主の配偶者
 第4 戸主の直系卑属及び其配偶者
 第5 戸主の傍系親及び其配偶者
 第6 戸主の親族に非ざる者
2 直系尊属の間に在りては親等の遠き者を先にし直系卑属又は傍系親の間に在
  りては親等の近き者を先にす。
3 戸籍を編製したる後家族と為りたる者に付ては戸籍の末尾に記載することを
  要す

●関連資料(旧民法による相続関係)


 → これまでの改正の経緯(PDF)- 法務省
 → 包 摂 基 準 書 - 総務省
 → 戸籍用紙「族称欄」族称文字の削除(PDF)
 → 旧樺太の戸籍に関する証明|外務省
 → 山梨県身延町誌 第十二編 家と生活 第三節 新戸籍法と家族制度

HP作成者:

中村三郎

,船橋市咲が丘