はじめに
【遺言が必要な事例】
1.子を育て介護で面倒かける妻に全部の場合
2.未成年の子を養育する配偶者に全部の場合
3.子がなく兄弟がいるが配偶者に全部の場合
4.配偶者を扶養・介護する子に多くする場合
5.数人ある子の一人に自社を継がせたい場合
6.特別受益や寄与分の配慮を遺言で紛争防止
7.障害ある子や難病の子に配分を厚くしたい
8.子の認知や未成年後見人の指定をする場合
9.相続人がいないので公益事業に役立てたい
10.重婚外内縁や特別縁故者に遺贈したい場合
11.前婚の子と後婚の妻子に円満に相続させる
12.数人の子の兄弟間で起こる相続争いを予防
(仲が悪い、生活格差、財産は自宅だけ)
┌──────────────────┐
│ 遺言書 │
│ │
│ 私は以下のとおり遺言する。 │
│ 財産は全て妻甲野花子に相続させる。│
│ 遺言執行者として次の者を指定する。│
│ A県B市C町1-2-3 │
│ 甲野 花子 │
│ 以上のとおり遺言した。 │
│ 令和○年○月○日 │
│ A県B市C町1-2-3 │
│ 遺言者 甲野 太郎 ㊞ │
└──────────────────┘
嫁による扶養と寄与 → 相続人以外の親族の特別寄与(民法1050条)
【遺言書の存在≠安心】
1.第三者への遺贈 (相続人が納得する相手か相当な価額か、事情が不明)
2.相続分や分割の指定(不公平、遺留分侵害、相続人の故意、無記載遺産)
3.遺言執行人の指定(指定なし、故人の遺志の尊重に極端な遺言執行人等)
【関連する文書や行為】
1.遺言の附言事項
財産処分の理由、葬祭遺志、遺族や後継者への遺訓、愛と感謝等
2.事前指示書(アドヴァンス・ディレクティヴ):医療判断委任
3.尊厳死の宣言書(リビングウィル)→ 日本公証人連合会(事実実験)
4.献体登録(書面意思表示、遺族の同意)→ 千葉白菊会
5.ドナー登録(臓器提供意思表示カード)→ 日本臓器移植ネットワーク
6.アイバンク登録(献眼登録:角膜提供)
7.任意後見契約と公正証書遺言のセット化→ 成年後見制度
8.在日外国人の遺言 → 遺言の方式の準拠法に関する法律
9.在外日本人の遺言 → 在外日本人の遺言
10.エンディングノート
(医療・介護の希望、物の処分、権利や情報の記録と伝達)
独居老人対策
(遺影写真、葬儀や墓、遺族連絡先、管理費等清算、遺品整理)
→ 遺族や団地管理組合が対処に困らないよう終活ノートを活用
【遺言による相続】 → 相続法の構成
相続開始前 遺言書の作成 → 遺言
自筆遺言の場合 → 自筆証書遺言
包括遺贈・特定遺贈 → 遺贈
相続の開始 遺言の執行 → 遺言執行者の仕事
負担付遺贈の遺言執行 → 負担付遺贈
遺留分 遺留分の計算、減殺請求 → 遺留分
民法の特例 遺留分に関する民法の特例→ 中小企業経営承継円滑化法
遺留分の算定に係る合意の許可 → 裁判所
【遺言による相続以外】 → 相続の開始(遺贈有無 → 相続分、遺産分割)
※遺言能力:遺言書の作成時に意思能力を有する15才以上の者
(法定代理不可)
成年被後見人は事理を弁識する能力を一時回復時
(医師2人以上の立会)
遺言
遺言の対象(遺言の効用:紛争の予防、法定事項:①~⑭)
[指定の委託] → 遺言の執行
身分上・財産上の行為のうち遺言でのみ為し得る事項
①未成年の子の後見人や後見監督人の指定
②遺贈(生前行為として為すには贈与・債務免除等がある)→ 遺贈
③相続分の指定又は指定の委託(実質上、遺贈と同じ意味)
④遺産分割方法の指定又は指定の委託、遺産分割の一時的禁止
⑤共同相続人間の担保責任の指定
(相続分,債務者の資力,無資力者の担保責任)
⑥遺言執行者の指定又は指定の委託
⑦遺贈につき遺留分減殺方法の指定
身分上・財産上の行為のうち生前にも為し得る事項
⑧認知 → 非嫡出子
⑨財団法人設立のための寄付行為
⑩相続人の廃除又はその廃除の取消の請求
(どちらも家裁の審判で効力発生) → 推定相続人
⑪特別受益者の持戻し免除(遺留分に反しない範囲で効力)
持戻し免除は相続分にのみ適用され、遺留分算定の基礎となる財産額
には算入する <相続分> ⇔ <遺留分>
その他の事項
⑫祖先の祭祀を主催すべき者の指定(祭祀主催者:祭祀財産の承継)
⑬信託の設定
委託者から財産の譲渡を受けた受託者が運用利益を受益者に与える
相続争いで執行困難のリスクあり、遺言的生前信託(信託法90条)
が有望
⑭保険金受取人の変更(保険法44条2項の対抗要件や45条に注意)
遺言ではできないこと
法定事項以外の内容(その部分につき無効)
例:成年後見人の指定や第三者への特定財産の処分の委託は遺言では
できない
文言の峻別:相続→「相続させる」、遺贈→「遺贈する」
相続させる者が遺言者の死亡以前に死亡した場合、代襲相続させるか
どうかは遺言の内容に「代襲相続させるという特段の意思」が
必要(H23.02.22判例)
登録免許税:[相続]<[遺贈](受遺者が相続人の場合は文言で左右され
ず=)
受遺者や配分の厚い相続人に課す負担についても、あれば書いておく
遺贈の受遺者や相続分の指定で配分の厚い相続人に付す、負担すべき
義務等
執行を要する又は専ら執行する遺言事項は遺言執行者を指定しておく
執行を要する遺言事項:上記⑧⑩ …遺言執行者が不可欠
専ら執行する遺言事項:上記②⑨⑬⑭…遺言執行者がいなければ
相続人が執行
予備的遺言
相続人・受遺者が遺言者より先に又は遺言者と同時に死亡した場合や受
遺者が遺贈を放棄(拒否)した場合に備えて次順位の者を予備的に定めて
おく遺言
(例)配偶者に全部の遺言+先死亡時、
1子に財産A、他子に財産Bとする遺言
上記以外、家業の後継者や道義的訓戒・葬祭遺志・身辺諸事片付方等の言い
置事を書いても、それだけで遺言が無効になる訳ではないが、法律上の
遺言事項ではない
有効条件:法定遺言事項の部分が他の部分から分離独立して把握できる
場合に限る
(例)他の部分は付言事項として遺言書末尾に記す等
記すと良い事項:争いを起こさない配慮
(他の相続人が遺言事項に納得のいく事情)
遺言の方式(疑義あっても死後本人に質せないので厳密に法定された要式行為)
証人欠格…遺言の証人・立会人になれない者
(普通方式・特別方式の全てに共通)
未成年者
推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
普通方式
・公正証書遺言は家裁の検認を要しないので執行が容易な先憂後楽型
長所:家裁の検認不要、内容が公証される
短所:証人が2名必要、戸籍や作成費用が要る
・自筆証書遺言は家裁の検認を要し、執行に時間がかかる先楽後憂型
長所:簡単に作成でき、費用は格別かからない
短所:家裁の検認必要、戸籍や申立手続がある、内容の公証ない
・秘密証書遺言の長所・短所は、上記2種の中間であるが
長所:記述が多く自筆では書ききれない場合、WP可の利点がある
短所:証人が2名必要、家裁の検認必要、内容の公証はない
→ 遺言Q&A(日本公証人連合会)
公正証書遺言(公証役場に文案等持参、証人2名必要)
(相続人以外の)証人2名立会
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授、
公証人が遺言者の口述を筆記して、遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧
させ、遺言者と証人が筆記の正確を確認し署名押印、公証人が方式
付記し署名押印
聴覚・言語機能障害者には[口授]に代えて「手話通訳」や「自書」
[読み聞かせ]に代えて「手話通訳」や「閲覧」によることができる
証書の原本は公証役場、正本は遺言執行者、謄本は遺言者が保管
自筆証書遺言(全文・日付・氏名を自筆、押印) → 自筆証書遺言
自筆であれば、筆記用具や用紙のいかんを問わず、日本語で書く必要
もないが、容易に改ざんできる鉛筆書きは避けたほうが無難
変更の仕方は厳格ゆえ、変更や訂正あれば全文清書し直した方が無難
偽変造・滅失・未発見防止:同文数通作成、信頼できる者に保管依頼
秘密証書遺言(公証役場に遺言書持参、証人2名立会)
全文「代筆」やWP可、本人署名押印・封書封印(証書同一印)
封紙に公証人が提出日と筆者住所氏名の本人申述を記載し各署名押印
言語機能障害者が自己の遺言書である旨と筆者の氏名住所を
通訳人の通訳により申述したとき、または、封紙に自書したときは
公証人がその旨を封紙に記載
不動産や預貯金が多い場合、WPは容易に修正でき正確な記述が可能
成年被後見人の遺言
事理を弁識する能力を一時回復時、医師2人以上の立会
医師は「事理弁識能力を欠く状態でなかった」旨を
・公証方式・自筆方式は、遺言書に付記し、署名押印
・秘密方式は、封紙に記載し、署名押印
特別方式
危急時遺言(一般・難船):本人口授、証人筆記・署名押印
死亡危急者の遺言:証人3人以上立会
証人として医師の立会や診断書(遺言能力明記)があると紛争
予防上有効
証人の1人又は利害関係人から遺言の日から20日以内に家裁の
確認を受ける
船舶遭難者の遺言:証人2人以上立会
証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家裁の確認を受ける
隔絶地遺言(隔離・在船):遺言者・筆者・立会人及び証人の署名押印
伝染病隔離者の遺言:警察官1人、証人1人以上立会
遺言書作成
在船者の遺言:船長又は事務員1人、証人2人以上立会
遺言書作成
遺言の取消
取消の自由:取消権の放棄は無効
取消の方法:取消の遺言によるか、以下の法定取消による
前の遺言と後の遺言と抵触する場合:抵触部分につき
前の遺言の取消みなし
遺言に抵触する遺言後の生前処分等:同上
遺言者が故意に遺言書を破棄した時:破棄部分につき
遺言の取消みなし
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した時:同上
負担付遺贈遺言の取消 → 負担付遺贈
取消の取消:前の遺言は復活せずが原則(取消時の行為無能力等)
例外:詐欺・強迫←遺言者の死亡後でも相続人が取消可
遺言の効力
遺言者の死亡の時から効力
死亡後条件が成就する停止条件付遺言は条件成就時から
特別方式遺言の場合
普通方式可能以後6箇月間生存で危急時遺言の失効
遺言無効確認の調停申立(家裁):遺言者の生存中は不許
民法総則抵触
意思無能力、満15才未満
錯誤、詐欺・強迫、公序良俗違反、代理遺言
方式違反
公正証書遺言:証人欠格、証人確認不足、
口授・読み聞かせ・署名・押印を欠く
自筆証書遺言:日付・氏名の自書を欠く、押印なし、
変更・訂正の附記・署名・押印なし
成年被後見人:事理弁識能力を欠く又は医師2人以上の立会がない
共同遺言(2人以上の者が同一の証書で遺言)
利益相反(遺言者の後見人等が利益を受ける遺言)
文意不明
自筆かどうか(WP、添え手補助が正位置補導や筆記支えを超え他意思介入)
個別遺言事項(受遺者死亡、目的物不存在、認知父子関係不存在、その他)
複数遺言の効力
前の遺言と後の遺言が抵触する部分については取り消したとみなされる
が、抵触しない部分については前の遺言も後の遺言も有効
(民法1023条)
遺言書の検認・開封 → 自筆遺言の検認
公正証書以外の遺言書の検認(家裁)
封印のある遺言書の相続人立会のもとでの開封(家裁)
遺言の執行 → 遺言の執行
遺言執行者
遺言に遺言執行者の指定等がなければ、遺言内容の実現は相続人がする
※特定不動産を特定相続人へ相続させる登記は遺言執行者からはできない
遺言者の死亡により特定の相続人に確定的に帰属し、執行の余地はない
認知・廃除・廃除の取消は遺言執行者が必要、いなければ家裁に選任申立
具体的な執行を要しない場合でも、遺言実現の困難な事情や公正な処理の
ために遺言による遺言執行者の指定又は家裁に選任申立
相続人や受遺者でもなれるが第三者が適格な遺言事項が多い
相続人の代理人みなし→相続人の処分権喪失
遺贈と相続人 → 遺贈
財産・遺贈物の表示
遺言者の有する財産全部
不動産
遺言者の有する不動産全部
土地(登記簿どおりに)所在・地番・地目・地積
建物(登記簿どおりに)所在・家屋番号・種類・構造・床面積
マンション(登記簿どおりに)
一棟の建物の表示・専有部分の建物の表示・敷地権の表示
預貯金
遺言者が何銀行何支店貸金庫第何号内に保管中の預金通帳記載の
預金債権全額(または、残高の何分の何)
遺言者名義の何銀行何支店の定期預金債権全額
遺言者名義の何銀行何支店の下記定期預金債権
額面何万円(証書番号何)
遺言者名義の何郵便局取扱ゆうちょ銀行総合口座の貯金債権全額
記号何 番号何
動産
(上記家屋内の)家財道具一式、事業用動産一切、農業動産一切
遺言者所有の自動車 車名・型式・車台番号
株式
遺言者名義の何株式会社の株式全部または株式何株
貴金属・宝石類
包括文言(時価何万円相当の)「貴金属・宝石」
特定文言 金地金/銀地金何㎏、5ポンド金貨何枚、宝石何個
債務
遺言者が負う次の住宅ローン債務
何銀行何支店からの平成何年何月何日借入金何万円
(年月日現在、元利金残高 金何円)
遺言者が負う次の金銭消費貸借債務
年月日契約、債権者何某に対する金銭債務金何万円
弁済期平成何年何月何日、利息年何%(弁済期に元利一括弁済)
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