概要
適正な使用法から外れている可能性のある抗精神病薬の処方は,現実場面で頻繁にみられることが,レセプト情報・特定健診等データベース (ナショナルデータベース) を活用した研究により示された。論文は,2013年7月29日付けの臨床精神薬理誌第16巻8号に掲載された。日本語での解説資料 も用意している。
書誌情報
奥村泰之,野田寿恵,伊藤弘人: 日本全国の統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターン: ナショナルデータベースの活用. 臨床精神薬理 16(8): 1201-1215, 2013. (優秀論文賞受賞)
目的
平成25年度以降,精神疾患が都道府県の医療計画で策定されるようになり,抗精神病薬の単剤処方割合などの現状を把握するよう求められている。日本の統合失調症患者への単剤処方割合は,年々向上しているが,依然として東アジアの平均よりも低い状況である。これまで,統合失調症患者への抗精神病薬の処方パターンを検討した大規模研究は限られており,調査参加施設の選択的サンプリングの問題や外来患者の情報不足などの課題が残されていた。
方法
データセットとして,レセプト情報・特定健診等データベースのサンプリングデータセット (2011年10月診療分の全電子レセプトから層別抽出) を用いた。第1に,精神科包括病棟と精神科出来高病棟ごとに,抗精神病薬の処方数が2剤以下の割合を求めた。適格基準は,主傷病として統合失調症診断を有すること,精神病床において1剤以上の非定型抗精神病薬が処方されている患者とした。第2に,精神科出来高病棟と精神科外来ごとに,処方パターンを比較した。適格基準は,主傷病として統合失調症診断を有すること,1剤以上の抗精神病薬が処方されている患者とした。
結果
第1の分析では,10,776患者が適格基準に該当した。抗精神病薬が2剤以下の割合は,精神科包括病棟では76%,精神科出来高病棟では56%であった (割合の差, 19% [95% CI, 18%-21%])。第2の分析では,13,101患者が適格基準に該当した。入院患者において,抗精神病薬の単剤処方の割合は27%,抗精神病薬の4剤以上処方の割合は20%であった。クロルプロマジン配合剤 (ベゲタミン錠) の処方割合は,入院では15%,外来では8%であった。入院と外来ともに上位20位の向精神薬の処方パターンの集積割合は,50%を下回った。
結論
我々の研究の結果,適正な使用法から外れている可能性のある抗精神病薬の処方は,現実場面で頻繁にみられることが示された。最新のエビデンスと通常診療の差を埋めるための,全国規模の努力が求められる。
関連論文
Okumura Y, Ito H, Kobayashi M, Mayahara
K, Matsumoto Y, Hirakawa J: Prevalence of diabetes and antipsychotic
prescription patterns in patients with Schizophrenia: a nationwide
retrospective cohort study. Schizophrenia Research 119 (1-3):
145-152, 2010.
奥村泰之, 三澤史斉, 中林哲夫, 伊藤弘人: 統合失調症患者への非定型抗精神病薬治療と糖尿病のリスク:
メタ分析. 臨床精神薬理 13 (2): 317-325, 2010.
Cited by
山之内芳雄 他: 抗精神病薬多剤大量処方からの安全で現実的な減量法: SCAP法. 精神神経学雑誌 117 (4): 305-311, 2015.
八木剛平 他: 精神科薬物療法における“Natural Resilience Theory”の提唱: 抗精神病薬の多剤大量処方の是正に向けて. 精神神経学雑誌 117 (1): 10-17, 2015.
渡邉博幸: 統合失調症薬物療法の適正化に関する3つの提言. 臨床精神薬理 17: 1343-1352, 2014
落合英伸 他: 統合失調症外来患者における抗精神病薬大量処方の関連因子: 広域レセプトデータの活用. 日本医療・病院管理学会誌 51: 183-191, 2014
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