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12. 心理学におけるRの普及II (2006/9/20, 2006/9/26追記)
日本心理学会第70回大会において,Rのシンポジウムが催されるらしいです。「Rによる心理統計モデルの最前線」, 「お金をかけない心理データ解析の最初歩」の2件です。主催は,豊田秀樹先生の研究室です。プログラムによると,構造方程式モデル,階層モデル,因子分析,分散分析,データハンドリングなどを取り上げるらしい。 非常に楽しみです。
特に,Rにおける,構造方程式モデルと因子分析は,少なくとも私は,使い物にならないと思っていたため,この2つの分析手法の専門家が,どのように解決するのかを心待ちにしています。豊田先生のシンポジウムは,数度拝聴した経験があるが,基本的に分かりやすく,初心者にとって有益な情報が多いので,非常に楽しみです。
次に,話題を変えて,真剣にRの普及を心理学にする場合に,必要となると思う要件を考察してみます。私は,まだ4年間しか統計学をユーザーの立場でしか勉強していないが,以下の2点は,早急に決定すべき要綱だと思っています。本質的には,Rの普及と言うよりも,心理学を専攻する者にとって必要最低限の統計学の能力についてです。第1に,分析手法の範囲。第2に,分析手法の習得レベルについてです。ここで,「専攻する者」の定義は,「心理学系の大学院修士課程」に所属していることを想定しています。
心理学を専攻しているユーザーが必修するべき分析手法の範囲は,検定・推定 (効果量・検出力),線形モデル,因子分析,構造方程式モデルの4点でしょうか。ここで,わかりにくく線形モデルと表現しているが,t検定,分散分析,重回帰分析のことを表現しています。つまり,具体的に必要となる教科書は,南風原
(2002) と豊田
(1998) の2冊をマスターすることが,必要最低限の学習範囲でしょうか。
次に,心理学を専攻しているユーザーが必修するべき分析手法の習得レベルは,American
Psychological Association (APA) の投稿要綱が定めている規定を満たす程度で十分でしょうか。具体的には,検定力分析と効果量のマスターです。
ご存知の方も多いと思いますが,APAのタスクフォースでは,検定力分析と効果量の信頼区間を報告することを義務付けています
(普及はしていません)。その点で,Cohen
(1988), Kline
(2004) は,APAの投稿要綱を理解して,実践するためには,必要不可欠な気がします。Kline (2004) は一部,難解 (説明が少ない) な箇所 + 誤植があるため,数本の原著論文を当たる必要があります。また,検出力・効果量 (+ 信頼区間) の計算は,欧米の研究でも報告していないケースが多いため,これらの分析手法の必要性を過少視する方もいると思いますが,2値的な判断しかできない (有意か否か) 検定よりも,効果量 + 区間推定を利用する方が,生産的だという考え方は24の学術誌が義務付けているように欧米の心理学研究において標準的だと思います。
このように,習得すべき,分析手法の範囲とレベルを明確にしない限り,「Rを薦めることが,真に妥当なのか」不明瞭な気がします。なぜなら,もしも,習得レベルを「APAの投稿規定が定めている規定を満たす程度」
とするならば,関数を書く能力が必要になるため,必然的に,「Rの利用を薦めるべきである」という判断に落ち着きます
(他のソフトウェアは,自作関数を書くのが大変)。もちろん,他のソフトウェアでも,マクロを使いこなす能力さえ養えていれば,それほど問題ありませんが。。。
このように私が提起している疑問は,心理学者に必要な統計学のCompetency Guidelineが欠如していることにより,生じています。Competency とは高業績者の行動特性のことを意味します。さらに,Competency Based Education といい,必要な能力を同定した上で,教育を行う試みが有用だと,私は思っています (例)。
ちなみに,私が挙げた以外の統計学の学習範囲は,Mixed Model, Item Response Theory, Nonparametric Data Analysis,
Data Mining, Missing Data Analysis, Graphical Modelingなど色々,重要なものがあります。これらの学習範囲を,むげに切り捨てることには激しい抵抗感も感じます。このように,個人内でも葛藤の生じるCompetency Guidline の作成は,激しい抵抗を生むことは間違いないが,教育・学習の指針作りとして,「心理学を専攻する者にとって必要最低限の統計学の能力について」明確な規定を定めて,その教育システム (具体的には,教科書の選定・教授法) について決めていくことが必要不可欠だと思います。
そのようなガイドラインができない内は,「個々人の努力により,個々人が信じている学習範囲とレベルに合わせて,自己責任により統計学の学習をする」という態度を取るという現状に甘んじる (現状を受け入れる) 必要があります。
この態度に固執した場合は,学生側には当然ながら,現状のように,「統計的に有意と実質的に意味がある違いを理解していない」「信頼区間の意味を知らない」「効果量の存在を知らない」「因子分析と主成分分析の違いを知らない」心理学研究者が量産されることは致し方ないと思います。
さらに,この態度に固執した場合は,教員側には当然ながら,現状のように,「学校・教員により教える範囲・レベルが異なる」という現状は,変わらないでしょう。もちろん,Required 以外の授業時間であれば,学校・教員により教える範囲・レベルが異なることは何ら問題ないが,Required の時間であれば,本邦における標準を作成する方が,多くの教員の方が,同一の教科書,プレゼンテーション資料,宿題を共有できて生産的だと思います。
うつ病の研究者のタマゴ (私) の立場から提案をさせて頂くと,(1) 南風原 (2002),(2) 豊田 (1998),(3) Kline (2004),(4) Cohen (1988)
の4冊は,学部生 (遅れて,修士課程1年目) でマスターしていることは,当たり前だと思います。その後,Mixed Model, Item Response Theory, Nonparametric Data
Analysis, Data Mining, Missing Data Analysis, Graphical Modelingなどの,分析手法は,修士課程2年目以降に,学習する必要があると思っている。南風原 (2002),Kline (2004),Cohen (1988) は,検定力分析と効果量,信頼区間を理解するための良質な教科書だと思います。次に,多くの多変量解析を1つの枠組みから理解可能な構造方程式モデルを簡単に説明している豊田 (1998) は,多変量解析の多くの教科書を読むよりも,学習効率が高いと思います。
心理学者に必要な統計学のCompetency Guidelineは現状では作成されていないが,少なくともAPAの投稿要綱が主張している規定を満たすと言う観点から,私は,この能力が修士課程の最低限のラインだと思っています。
私の主張しているCompetencyを満たすためには,Rの習得 (または,他のソフトウェアのマクロ) は必要不可欠であり,1週間当たり20-30時間は,統計学の勉強をする必要があります。このような主張は,広く受け入れられることはないでしょうが,統計学の誤用・乱用を防ぐためには,有益なことだと思っています。
同時に,統計学を1日あたり30分も勉強していない方が多い,心理学と言う学問領域の特徴 (少なくとも私の周囲にいる大学院生の現状) を考えると,私の主張しているCompetencyを満たすことは不可能な気がしてきます。統計学の勉強時間を1週間当たり20-30時間どころか,1週間当たり20時間程度しか総合勉強量を確保していない,実質的に学生というよりもモラトリアム (40hour/week 以下) な方の多い,心理学の大学院生には不可能なCompetencyを主張することは無意味で非生産的なことかもしれないが。。。
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